サボテンとか食べる(•ㅂ•)

 半月がすぎた。

 ガーゴイルたちと出くわした以降はトラブルもない。

 背の低い青草が残る街道を進み、関所を越える。


 関所を抜けると砂漠であった。

 一面に広がる青々とした空に、薄茶色の砂漠が広がる。

 流れる風で砂がさらさらと動く音が、波音のように心地よく響く。


 予定では、砂船という船がでているはずである。

 探すとすぐに見つかった。

 モーターボートぐらいの大きさをした、八人乗りの船である。

 それを引くのは――。


「イルカ?!」

「なにあれ、かわいい!」

『『『キュー!』』』


 オレとローラが同時に叫ぶと、ヒゲもじゃの船長が話しかけてくる。


「砂イルカを見るのは初めてかい」

「はい」

「うん!」

「砂漠を歩くのは困難だからな。イルカに引っ張ってもらうのが一番早い」


 船に乗った。

 砂が特別なのだろう。

 乗った瞬間にずしりと沈む触感は、普通のボートに乗った時と似ていた。


「ほらっ、行けぇ!」

『『『きゅー!!』』』


 イルカたちは声をあげ、砂の中にざぶりと潜った。

 船は進んだ。

 ヒュオンヒュオンと風の音が聞こえるほどの、快適なスピードだ。


 サボテン、ラクダ、小さな砂丘。

 あらゆる景色を横に流して、ぐんぐん、ぐんぐん進んでく。


「とってもすごくて、気持ちいいですうぅ……」

「生まれて初めて馬に乗った時のことを思いだすな……」


 フェミルとロロナが、目を閉じて風を感じる。

 逆にローラは、船頭ではしゃいでいた。


「ふえぇんっ、すごいすごいすごいぃ! ぴゅーぴゅー吹いている風が、とっても、すっごく気持ちいいぃぃ! お昼にお風呂に入ったあとに、裸でうろうろしている時のような気持ちよさ!! 夏草や、つわものどもが露出狂!!!」


 相も変わらず、最低の言語センスだった。

 ひどいだろ。ほめてるんだぜ? コイツ。


  ◆


 そんなこんなで街につく。

 石造りの建物に、白いホロと木の棒で作られた粗末な屋台が立ち並んでいる。

 青や赤、緑にオレンジと色とりどりのカラーサボテンの果肉などが売られていた。

 あとはちょっぴり、変わったところじゃ……。


「魚の丸焼き……?」

「このあたりはなぁ、魚も砂を泳ぐんだよ」

「砂とかすごそうだな」

「そう思うだろ?」

 屋台のおっさんは、丸焼きを突き出してきた。

「まずいと思ったらカネは要らんぜ?」

 食べて見た。

 ふんわりとした触感に、サクッと感じる香ばしさ。密かに入った小さな粒からは、噛めば噛むほどうま味が染み出す。

 おっさんは、得意げに言った。

「ここの砂海は――砂も食うことができるのさ」

 そういうことらしい。

 栄養はないが、食感よくするには最高らしい。

 実際うまい。

「払わないわけにはいかないな」

 オレはカネを払った。

 そんなやり取りをしていると、リシアが言った。


「それでは、わたくしはこれで……」

「もう行くのか」

「重々感謝はしておりますが、わたくしは白銀砂丘の人間であり、あなたがたは黄金平原の方々ですので……」

「そうか」

「はい……」


 思うところがあるのだろう。リシアは静かにうつむいた。

 しかしすぐさま、顔をあげて言ってきた。


「ししっ、しかし、もしもなにかございましたら、遠慮せずに連絡をください!

 白銀砂丘のリシア=ベルクライスとしては無理でも、わたくし個人としては支援させていただきますわ!」

「さんきゅな」

「はにゃっ……」


 オレが頭をぽんぽん叩くと、リシアは頬を赤くした。


  ◆


 リシアと別れたオレたちは、せっかくなので食べることにした。

 色鮮やかなサボテンを指差す。


「このサボテンは食べ物ですか?」

「ああ、そうだよ」


 おっさんはサボテンを無造作に掴んだ。

 手袋をはめた手で、トゲを荒々しく取り去る。

 

 ざぐり。

 包丁で縦に切ってオレに渡した。


「ほれ、サービスだ」

「無料ってことですか?」

「ああ、そうだ」

「ありがとうございます」


 ありがたく受け取った。

 サファイアのような輝きを放つブルーサボテン断面が、たぷりとゆれた。

 あふれんばかりの果汁があふれる。


「ととっ」


 オレは慌てて吸いついた。

 ちゅるっと軽やかな音が鳴り、果汁が口に入り込む。

 濃厚な甘みが口にきた。


 噛みついた。

 オレの歯が食い込むと同時に、果汁が弾けた。

 そしてこの果肉、弾力がある。

 ぐにゅうぅ、ぐにゅうぅっとほどよい抵抗がくる。

 しかしオレが強く噛むたびおいしい果汁が染みでてくるので苦にならない。

 たっぷり楽しみ、ごくっと飲んだ。


「うまい」


 てれれ、てってってー。

 レベルもあがった。


 レベル    1656→1659(↑3)

 HP      22143/22143(↑22)

 MP     21874/21874(↑20)

 筋力      22399(↑24)

 耐久      24555(↑20)

 敏捷      22404(↑15)

 魔力      21162(↑30)


 習得スキル。

 しゃきーん(`・ω・´)



 例によって、わけのわからないスキルだ。

 説明を見る。


 【スキル・しゃきーん(`・ω・´)】

 髪の毛とか腕の毛が、サボテンのトゲみたいにしゃきーん(`・ω・´)となる。

 レベルがあがると針を飛ばせるようにもなる。



 それはちょっぴり、面白いかもしれない。

 ゲゲゲのなんとかっていう妖怪アニメの主人公も使ってた。

 が――。



 ※飛ばしすぎると禿げます。



 ファック!

 オレはスキルに罵声を浴びせ、永久に封印することを決めた。

 サボテンはおいしいが、習得スキルは最低だ。

 いや本当に、サボテンはおいしいが。


「ケーマあぁ……」

「ケーマどの……」

「ケーマさま……」


 ローラにフェミルとロロナとリシアが、物干しそうにオレを見ていた。

 特にローラは、捨てられた子猫のように瞳をうるませている。

 虐待でもされたかのように憐れだ。

 店主のおっちゃんが言う。


「自分だけ楽しむってのは、どうなのかなぁ、兄ちゃん」


 オレは思わず苦笑する。


「商売上手ですね」

「ハハハハッ」


 おっさんは、とても気のいい笑みを浮かべた。

 うまくやられた形だが、悪い気はしない。

 なにせこの戦略は、サボテンが美味でなければ成立しない。

 それが価値あるものならば、対価を払うのは当然だ。


「ふたつください」

「あいよっ」


 おっさんは手袋をはめた手で、おにぎりを握るかのようにサボテンを握った。

 トゲがざらざらと落ちる。


「…………」

「どうした? フェミル」

「取ったトゲはどうしてしまうのかと思いまして……」

「それは普通に、捨てるんじゃないか?」

「しかし油で揚げれば、食べれるというお話も……」


 フェミルが言うと、おっさんは言った。


「聞いたことはなくもないが、やっているやつは見たことがねぇなぁ……」


 ロロナが言う。


「というか、フェミルどのはどうして知っているのだ?」

「わたし……。おカネがなかったころは、図書館にある食べ物の絵をお昼ごはんにしていた時期がありましたので……」

「絵を食べていたのかっ?!」

「ああっ、いえっ、見ているだけです!

 じいぃっと見つめて食べた気になってみると、なんとなく満足できるんです!!」


「フェミルどの……」

「それに昼に見ておけば、夜には昼に見たのを思いだしながらパンを食べることができます! ひとつの石で、二匹の鳥を落とすがごとしです!」

「フェミルどのおぉ!!!」


 ロロナはフェミルに抱きついた。


「きゃっ、ちょっ、どうしたんですかっ?!」

「ケーマどの! 早く! 早くフェミルどのに食べものをぉ!!」

「わかった!」


 オレはサボテンを縦に切り、フェミルとロロナに手渡した。

 ローラにも食わす。


「ほら、口あけろ」

「うんっ♥」


 ローラは口を、あーんとあけた。

 オレはサボテンを食べさせる。


「ふえぇん、おいしいっ! 噛むとお汁がギュウッてでて、噛むとお汁がギュウッてでてくる! なんていうのか……」


 ローラはグッと拳を握り、力いっぱいに叫んだ。

 


「チンポのいい味ッ!!!」



((ブフゥッ!))


 フェミルとロロナが、衝撃で噴出した。


「いったいオマエは何言っとるんじゃ!!」


 パシィンッ!

 オレはローラの頭をはたいた。


「叩かなくてもいいじゃない!」

「今の発言叩かなかったら、オレがこの世に存在している意味もねぇよ!」


「テンポのいい味って言おうとしたの! ギュッって噛んだら汁がでて、ギュッって噛んだら汁がでる、テンポのいい味って!! ちょっとした間違いじゃない! 大目に見てよ!」


「今の発言はどう考えても、一〇〇回死ねる致命傷じゃねぇか!」

「確かにレーセイに言われると、ちょっとアレ……だったかも知れないけど…………」

「ちょっとじゃねぇよ! アウトだよ! 一〇〇人に聞けば一〇〇人がアウトって言い切るハンドレッドアウトだよ!!」


「そんなことないわよっ! ひとりかふたりならともかく、一〇〇人に聞けばひとりかふたりは仕方ないねって言ってくるわよ!!」

「……根拠は?」

「アタシの勘よっ!」

「サイコロ振るより当てにならんわっ!」

「ふえぇ~~~~~~~~~~んっ」


 ローラは、ほっぺたをつねられて喘いだ。

 もう本当に、そばにいてやらないとダメすぎるクソ駄女神だぜ。

 なんて風に思っていると、遠くのほうから声が響いた。


「いったいなにをしていらっしゃるのですのっ?!」


 それはリシアの声だった。

 どうしてトラブル引き起こしてるの?!

 さっき別れたばっかりなのに!

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