砂漠へ向かおう
「わたくしは――白銀砂丘の聖神官。リシア=フォー=ベルクライスですわ。
女神ベルクライス様の名をいただいた、誇り高きわたくしですわっ!」
「その地位を、具体的に言うとどうなんだ?」
「わたくしたち白銀教団は、ベルクライス様の元に平等! 地位などはございませんわ!」
そういう系か。
オレは聞き方を変えた。
「聖神官って呼ばれるのは、教団の中で何人ぐらいだ?」
「10万人いるベルクライス教団のうち、神官聖女が500人。
わたくしたる聖神官は、ちょうど5人ですわ!」
「神官聖女ってことは、人の傷を癒したりするのか?」
「おっしゃる通りですわ!」
「……はう?」
「どうした? フェミル」
「人の傷を癒せるのなら、どうして先ほどはケガをしたまま歩いていたのかと思いまして……」
「力とは、他者のためにある者ですわ! よって自分自身には、使うことができないですの!」
「なるほどです……」
フェミルがうなずくとローラが言った。
「ゴミのような不便さね!」
「気高いと言っていただきたいですわぁ!!」
「気高いゴミのように……不便?」
「おまえはちょっと黙ってろ」
オレはローラのほっぺたをつねった。
「ふええぇ~~~~~~~~~~」
「聖神官って称号は、ベルクライスからもらったりするのか?」
「いいえ! 司教さまからですわ!」
「司教から?」
「女神さまのお姿を見ることができるのは、選ばれしお方のみですので……」
オレはローラの背中に手を当て、部屋の隅に移動した。
小声で尋ねる。
(どうなの?)
(そーいう設定を使ってるところは、けっこうあるわよ)
(そうなのか)
(アタシたちって、いろいろとできるじゃない? だから危険も多いのよ。
なのに単独で戦おうとしたら、『信仰の力』を消費しないといけないから……)
(表にでるのは、別の誰かに任せることもあるってことか)
(自分で前にでる子も、いないわけじゃないんだけどね)
(なるほど)
(まぁそれを利用して、テキトーなことを言う団体もあるけど。
聞いたことないもん。ベルクラントって子)
しかし新たな疑問が浮かんだ。
(つーかそもそも、『女神』ってなんなんだ?)
(それはもちろん! 気高くって神々しくって賢くって、国士無双に――ふみゅえぇ~~~~~~~~~~)
(気高くって神々しくって賢くってふみゅえぇか。なかなか複雑な存在だな)
(最後のは、ケーマがほっぺたつねったからじゃない!)
(ふざけるからだろ)
(ふざけてないのに……)
ローラは、ほっぺたを押さえて涙目だった。
(で、『女神』ってのはなんなんだ?)
(一言で言うと……アタシにもわからないわ。気がついたらそこにいて、力を使って人を導いて高めよって『神様』から言われていた感じ?)
(本当にわからないな)
(それでもそういうわけだから、アタシは気高くって神々しくって賢くって、国士無双に――ふみゅえぇ~~~~~~~~~~)
女神というのは、気高くって神々しくって賢くって、国士無双にふみゅえぇ。覚えた。
オレはリシアのところに戻った。
「話を聞く限りだとけっこう重要な役割っぽいんだが、どうして命を狙われたんだ?」
「覚えと言えば……救済を求める人に
「その聖騎士ってのは、司教サマの名前をだしたりしてなかったか?」
「パウペルさま直属の――とはおっしゃってましたわね」
「それどう考えても、不正をするのに邪魔になったから消そうとしてるパターンじゃね?」
「やはり……、そうですか……」
「行く当てはあるのか?」
「西方の聖騎士リーベルさまを――とは考えておりましたわ……」
「知り合い? それとも肉親?」
「どちらでもございません。そもそもわたくしには、肉親と呼べる方はおりませんし……」
オレはロロナのほうを見た。
「弱きを助け強きに屈さぬ、清廉な騎士とは聞いていたな」
「砂漠である西方におもむいたのも、そこには困っている人がたくさんいるからなのですわよ! わたくしご対面したことはございませんが、そのお話だけで信用に値すると思いましたわ!」
「ふーむ……」
しかしロロナは渋面だった。
気持ちはわかる。
「純粋な善人は善人だけど、ただの詐欺師も評判だけなら『善人』ってなるもんな」
部屋の隅に移動した。
意味もなくロロナの尻をさわって尋ねる。
(どう思う?)
(はぐっ……!)
ロロナはビクッと身をすくめ、下唇を噛んだ。
所在なげに目を伏せて、視線を左右に泳がせる。
(この場面で、尻をさわる意味は……?)
(別にないけど)
(クウゥン……)
オレはぐにゅうぅっ♥と握り揉みつつ尋ねた。
(質問に答えてくれよ)
(正直に言うと……わからぬ)
(そうなのか)
(わたしたち黄金平原では、『信用とは宝石である』と言われている。煌びやかで美しい反面、ニセモノも多い。『あすの恩義はあすに返せ』ということわざもある)
(どういう意味?)
(受けた恩は返すべきだが、受けていない恩は返す必要がない。信頼や信用とは実績の有無で考えるべきであり、ひとつの恩もない相手を信頼することなどはできん――という意味だ)
(実際に会ってみないとわかるはずがない――ってことか)
(うむ)
とても現実的である。
まぁしかし、オレの考えとも近い。
(そっ……そういう意味で、ケーマどののことは信用してるぞ?
隙あらばいやらしいところは、少々困るが……♥)
ベタ甘モードになってるロロナは、オレにぺたりとくっついた。
かわいい。
そして話を、まとめた結論としては――。
「西の砂漠地方まで、オレたちも行くか」
「ええっ?!」
リシアが素っ頓狂な声をあげた。
「さすがはケーマどのだ……♥」
「ケーマさんです……♥」
脇腹にくっついていたロロナが顔をうずめてすりすりとこすらせ、フェミルも逆サイドからくっついてきた。
「まっ、まぁケーマって、アタシ以外には国士無双にやさしいもんね!
アタシ以外の、オンナノコには!」
ローラひとりは、腕を組んでそっぽを向いてる。
明らかにすねていた。
リシアは戸惑う。
「えっえっ、いや……、しかし……」
「言わなかったか? 面倒だったらスルーするけど、そうでもなかったら助けるって」
「西方の砂漠地方まで行くのが、面倒ではないと……?」
「ちょっと暗殺者がついてくるかもしれない旅行だと思えば軽い」
「暗殺者がついてきている時点で、軽いとは言えないと思うのですわっ?!」
「細かいことは気にすんな」
「細かいのですのっ?!」
「オレにとってはな」
「なんという…………」
ちょっと感動したらしい。リシアの瞳がわずかにうるんだ。
しかしすぐさまハッと気づいて目元をごしごしとこすった。
胸に手を当てて言う。
「それでもわたくしは、白銀砂丘の聖神官! あなた個人がよくっとも、黄金平原に所属するほかの方々が許さないはずですわ!」
「そうなのか? ロロナ」
「そのようなことは、まったくないが……」
「はわっ?!」
「特定の神を信仰していないわたしたち黄金平原の者は、物質主義者の側面が強い。
逆に言うと、相手の考えはどうでもよいのだ。
極端に過激派が多いとなると考え物だがな」
「神官に暗殺者だしてもか?」
「利権が絡めば血が流れるのは、どこの組織でも変わらん」
「確かにな」
「でっ……ですからこそ、わたくしたちは、
「いつ出発する? 早いほうがいいよな?」
「わたくしの話を聞きやがれぇ、ですわぁ!!」
「言いたいことはよくわかったから、質問には答えろよ。いつごろ出発するのがいい?」
「早いほうが、よろしいですわ……」
「それなら準備したらすぐ出発だな」
「みいぃ……」
リシアは、胸元を握りしめてうめいた。
「どうした?」
「いろいろと……、強引すぎますわ……!」
リシアの胸元を握り締める力が強まった。衣服にシワができている。
その顔は、憎からず思ってる相手に無理やり唇を奪われた乙女のように真っ赤であった。
聖神官とか言うだけあって、強引なのには免疫がないらしかった。
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