ケーマさん。息をするようにセクハラをする。

「なっ……」


 ミイラになった山賊のモレウスを、ロロナは驚愕のまなこで見つめた。


「白銀砂丘の邪術式――か?」

「知っているのか? ロロナ」

「一言で言えば、数ある女神信仰団体のひとつだ」

「女神信仰団体?」

「名前の通り、『女神』と呼ばれる存在を信仰している団体のことだ」

「女神を信仰ねぇ……」


 どうもその概念には、胡散臭さしか感じない。

 原因の十割はローラだ。

 こいつがあまりに駄女神なせいで、信仰って言われると胡散臭い。

 しかしロロナは沈黙を、違う意味に受け取ったらしい。

 訂正を入れてくる。


「ケーマどのが信じられないのは、無理がないことかもしれない。わたしも正直、『女神』の存在は半信半疑だ。しかし『特殊な力を持っている者が、女神に力をもらったと自称していること』は、紛れもない事実なのだ」

「ああ、いや、信じてるよ。女神の存在も、女神が力をくれることも信じてる」


 くいくいくいっ!

 ローラがすごい勢いで、オレの服の裾を引っ張る。


「ケーマ! ケーマ! ケーマ! そろそろアタシを、正式に紹介しても構わないわよっ?!」

「確かに話をするんなら、それが一番手っ取り早いな」


 オレはローラを前にだす。


「アホのローラに見えるこいつだが、実は女神の一体なんだ」

「えへん」


 ローラは腰に手を当てて、誇らしげに胸を張った。


「そうなのか……?」

「いったいなんの女神なんです……?」


「恥の駄女神、ローラ=ギネ=アマラだ」


「いったいなに言ってるの?!」

「オマエの名前と女神の種類だ」

「名前しかあってないじゃない! アタシはローラ! 知の女神のローラ=ギネ=アマラよ!!」


「簡単に言えば、そういう感じの設定だな」

「設定じゃないもーーーんっ! ケーマのばかっ!」

「わかったわかった」


 と言いつつオレは、ローラのお尻をぺろっと撫でた。


「きゃあっ!」


 ついでに背後から抱きしめた。

 服の隙間に手を差し入れて、揉む必要のないおっぱいも揉んだ。


「とにかくそういうわけなんだ。こいつは女神で、オレは力をもらってる」

「なるほど……」

「なるほどです……」


 ロロナとフェミルはうなずいた。


「信じるのか?」

「ローラどのは、わたしのような凡人にはない、すばらしい哲学を持っていた。知の女神というのなら、それも納得だ!」

「以前に、魔法袋をだしていらっしゃったので……」


 共に信じるふたりだが、表情は真逆だ。

 ロロナが目を輝かせていたが、フェミルは目を伏せている。


 ロロナは完全に信じているが、フェミルのほうは半信半疑だ。

 『ローラが女神』は信じているが、『知の』と言われると……という感じだ。


 正しい。


「っていうか、こんな話をしている場合じゃないな」


 オレは先ほど助けた少女――リシアを探した。


「ハアッ、ハアッ、ハアッ……」


 右の足を引きずりながら、どこかへ立ち去ろうとしていた。

 オレはリシアに歩み寄り、その肩に手をかける。


「なにやってんだよ」

「けっこうですわっ!」


 リシアは、オレの手を跳ねのけた。


「あなたがたが旅のかたなら、純に頼りもしたでしょう。しかしわたくしは、白銀砂丘の聖神官です。異信仰のかた――増して黄金平原の幹部のかたには、助けられるわけにはいきません!」


「敵対とかしてるのか? ロロナ」

「黄金平原は特定の女神を持たず、鍛冶工業で発展している。それゆえに物質主義の傾向が高い。対する白銀砂丘は、精神概念アストラルを高みに置いている。反するところが多いのは確かだ」

「なるほど」

「お聞きになられたでしょう?! ベルクラント様に仕える聖神官として、物質主義の黄金平原に助けていただくわけにはございませんのっ!」

「わかった」


 オレはリシアにヒールを使った。

 リシアについてた無数のすり傷が消える。

 そして戸惑うリシアに向かって――。 


 腹パン。


「げふっ……」


 リシアは意識を失った。


「なにやってんのっ?!」

「コイツは事情がありそうだった。捨てておいたらなにかありそう。なにかあったら寝覚めが悪い。でも素の状態じゃうるさそう。だから気絶させてみた。おかしいところあるか?」

「整然とした論理から作りだされた最悪の結論ねっ!!」

「自分で言うけど、なかなかできることじゃないな」


 オレはリシアを、背負って帰った。


  ◆


 宿につく。


「そういうことなら、必要なのはお酒ですわねっ!」


 と言っていたアーシャを華麗にスルーし、自分の部屋へと入る。

 ベッドに寝かせた。

 ところどころに金色の糸が使われた純白のドレスが、あちこち破けてしまってる。

 しかし傷は治っているため、痛々しいというより色っぽい。


「パンツの色は……白か」

「なに当たり前にスカートめくってるのよっ! ケーマのえっち!」


 スパァンッ!

 ローラがどこからともなく出したハリセンでオレをはたいた。


「ケーマさま……」

「ケーマどの……」

「いわゆる下着を、見たいのでしたら……」

「わたしは……、はいていないが…………」


 フェミルとロロナが、ふたり並んでスカートをたくしあげた。

 フェミルはパンツを見せてくれたが、ロロナは見えそうで見えない。

 はいてないなら、仕方ないけど。


 ふたりそろって、とてもかわいい。


「んっ、んんっ……」


 なんてことをやってると、リシアのまぶたがピクピクと動いた。

 目が開く。


「よっ」


 オレが軽く声をかけると、自身の衣服と居場所を見回して――。


「わたくしに、いったいなにをなさったのですかっ?!」

「別になんもしてねぇよ。スカートめくってパンツを覗き見したぐらいだ」

「十分すぎではございませんことっ?!」

「文句があるなら、オレのパンツでお相子にしてもいいが……」


 オレはズボンに手をかけた。


「いやああああああああああああああああああっ!!!」


 リシアは両手で目をおおった。

 見せる直前だったのに、耳まで真っ赤になっている。


「なにやってるのよ! ケーマのばかっ!」

「今回ばかりはオマエが正しいな」

「もうほんと、ばかっ! ばかあぁ!」


 ローラも、リシアとおんなじように、真っ赤な顔になってオレのズボンを元に戻した。

 意外とウブだ。

 オレはリシアに言った。


「細かいセクハラについては、オレに助けられた時点で諦めろ」

「はにゃあッ……」


 リシアは、静かに下唇を噛んだ。


「まぁ、そんなことはどうでもいい。事情について話せよ」

「話させて、どうしようとおっしゃるのですの……?」

「気分が向いたら協力するし、乗らなかったらサヨナラだ」

「出会ったばかり……ですのよ?」


「それはその通りだけど、ここで無視して何日かしたあと腐乱死体で見つかった――みたいになったら話ぐらいは聞いとけばよかったってなるだろ。逆に話が面倒だったら、なんかあっても『面倒な話だったし』って諦めもつく」


「とか言いながら、面倒があっても見捨てないでくださったのがケーマさまですけどね……♥」

「とか言いながら、守ってくれたのもケーマどのだ……♥」


 ロロナとフェミルが、頬を染めてつぶやいた。

 めろめろスイッチが入ったのか、ふたりそろってオレの脇腹に抱き着いてくる。


「まっ、まぁ、いいやつなのは確かよね! セクハラはひどいけど!」


 ローラも腕を組んでそっぽを向きつつ、顔を赤らめ言っていた。


「まぁそんな感じだよ。パンツも見せ合った仲だし、気にしないで話せよ」

「おパンツのほうは、あなたが無断で見た上に見せたのではなくって?!」


 もっともな突っ込みであった。

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