追われた聖女と女神教団編

新章突入 謎の少女と盗賊のモレアス

「GAAAAAAAAAAAA!!」


 森の中。

 体長二メートルのオーガが吼えた。

 丸太のような棍棒を振りおろしてくる。


「ハッ!」


 ロロナは、バックステップで回避した。

 虚空を叩いた棍棒は、そのまま地面にぶつかった。


 どごぉんっ!


 土が舞う。小型の隕石でも落ちたかのような衝撃。

 けれども、ロロナは怯まない。

 タンと地を蹴り、三メートルを越える鮮やかな飛翔。

 オーガの頭を飛び越えた。

 そしてロロナの通過際、オーガの頭部にツウッと縦に切れ目が入り――。

 

 真っ二つ。


 右方向。棍棒が落ちてくる。ロロナが切った個体とは別のオーガだ。

 ロロナは鋭く剣を振る。

 スパッ。

 丸太のごとき棍棒は、キュウリよりも容易く切れた。


「GAAAAAAA!」


 オーガが真正面からパンチを放った。

 ロロナは体を伏せてかわした。

 背後の大木がへし折れる。


「フッ!」


 ロロナは鋭く地を蹴って、巨大なオーガと交差する。

 バシュン。

 オーガの脇腹から鮮血が跳ねた。


「燃えてください! ファイアーボール!」


 フェミルの勇ましい声が響いた。

 直径三〇センチほどの火球が、放物線を描いて飛んだ。

 一見すると、失敗にも見える火球。

 が――。


 ドォンッ!


 オーガに着弾した途端、巨大な火柱となった!!

 中心地にいたオーガは、為すすべもない。完全な黒焦げだ。


「みんなやるなぁ」


 と言いつつオレは、オーガの頭をデコピンで吹き飛ばした。

 ふたりが叫ぶ。


「「ケーマ殿(様)には、言われたくございません!!」」


 もっともであった。


「ケーマ! フェミルちゃん! ロロナちゃん!

 おいしいごはんができたわよっ!」


 後ろから、駄女神ローラの声が響いた。


「オマエ、料理なんてできたのか」

「もちろんよ! アタシは知の女神だものっ!」


 ローラは胸に手を当て、胸を張る。

 が――。


「どこが料理だっ!」


 突っ込まずにはいられなかった。


「もうなんつーか、草やキノコをそのまま並べてるだけじゃねーか!

 子どものママゴトだって、もっとちゃんと気を使うぞ?!」

「だだだっ、大丈夫よ! 鑑定のスキルを使って、『国士無双に食べれる』ってでてきたやつしか取ってないから! ケーマはもっと、アタシを信じて! それから褒めて! 褒められて伸びる子なんだから!!」


「そんならまずは、オマエが自分で食ってみろよ!」

「わかったわ!」


 ローラは素手で、野菜を掴んだ。

 自称とはいえ、知の女神とは思えない不作法でほおばる。 

 ぐしゅっ。ぐしゅっ。ぐしゅっ。

 既にまずそうな音が響き――。


「げほがはごへえぇ!!」


 女神とは思えない声を発した。


「なにこれっ?! 苦い!!! 食べれるってあったのに!!」

「この手の野菜の食べれるってのは、調理した場合に限るって条件つきだろうが!」

「そんな高度なトリックがあるなら、食べる前に言ってよ!

 ケーマのいじわる! 国士無双のサディストマジシャン!」


 ほめているのか貶しているのか、わけのわからない罵倒がでてきた。

 まぁしかし、なにかやろうとした心意気は偉い。

 調理しないと食べれない食べ物は、調理すれば食べれるってことでもあるし。

 ほめてやろうと手を伸ばす。

 が――。


「ケッ、ケーマどのっ!」

「どうした? ロロナ」

「焦げ茶色のカサにトゲトゲ。これはバクレツダケではないのか……?」

「バクレツダケ?」

「端的に説明すると……」


 ロロナはきょろりとあたりを見回す。

 手近な大木を見つけた。

 キノコを投げる。

 

 ちゅどおぉんっ!!


 爆発した。

 威力はかなりのものであり、大木はへし折れた。


「食用のイガグリダケと似ているが衝撃に弱く、迂闊に噛むと大惨事を引き起こす」


 オレはジト目でローラを見やった。


「……言い訳は?」

「え、ええっと、あったでしょ?! ケーマが住んでいた国にも、すごい人でも間違えることがあるって意味で、コーなんとかも、筆……ええっと……」


 弘法こうぼうも筆の誤りか。

 知の女神を自称しているだけあって、知識だけは変なものまでカバーしている。

 わたふたとしているローラは、わたふたのままに叫んだ。



「コーモンに筆入れて謝る!!」 



 日本の伝統的なことわざが、すさまじい謝罪表明になっていた。

 というかそれで謝罪されても、すさまじく反応に困る。

 ただの怒涛のヘンタイが、自分の趣味を満たそうとしているだけと疑われても文句は言えない。


「だけどオマエがそこまで言うなら、オレはあえて協力しよう」

「ふえ……?」


 オレはローラの頭を掴み、腹部がオレの膝に乗るような形でうつ伏せにさせた。

 お尻がツンとだされるような、お尻ぺんぺんの格好だ。

 ワンピース風のスカートをめくる。


「ふええぇんっ!」


 ローラの悲鳴が響き渡った。

 ドエスにとっては心地よい、竪琴のようなしらべだ。


「っていうかオマエ、今日は珍しくパンツ履いてるんだな」


 それも以前に買ってやった、白と水色のしましまパンツだ。


「きょっ……今日は、ちゃんと履かないとダメな気がしたのよぉ……」

「そうか」


 むにゅっ♡

 オレはローラのかわいいお尻を、鷲掴みにした。


「きゃあああああああああああああああっっ!!!」


 先のそれより、大きな声が響き渡った。

 ドエスなるオレにとっては、カナリアのごときしらべだ。


「そしてこれからお尻の穴に、筆を入れるわけか……」

「ふえぇんっ! やだやだやめてえぇ! 謝るからっ! 謝るからあぁ!!」

「いやだから、肛門に筆入れて謝るんだろ?」

「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんっ!!!」

「ケーマさま……」

「ケーマどの……」

「どうした?」

「「お尻がお好きでしたら、こちらにも……」」


 フェミルとロロナが四つん這いになって、お尻をこちらに向けてきた。

 恥ずかしくはあるらしい。頬は赤く染まってる。

 すばらしい。


 つんっ。

 つんっ。

 オレはふたりのお尻を突っついた。


「きゃんっ!」

「はぐぅ!」


 つぷ……と指を沈ませたあとは、五本の指でもみしだく。

 フェミルのお尻は、小ぶりながらやわらかい。まるで熟した桃のようだ。

 対するロロナは、鍛えているだけあって質量と弾力がすごい。

 ぐにゅっ、ぐにゅっと揉みしだいても、強い力で押し返してくる。


「はうぅぅん……、あっ、はあぁーんっ……♥」

「クウゥっ、うっ、はぐうぅ……♥」


 オレの指が動くたび、ふたりは甘い声を発した。

 お尻の尻尾も、ふり……♥、ふり……♥とゆられてる。

 まさに至福を楽しんでると、大砲のような音が響いた。


「なんだ?」

「きっ……奇妙な物音であったな」

「はい……」


 仕方ない。


「ローラの尻に筆を挿れるのはあとにするか」

「あとでもやらないでよおぉ!」


  ◆


 音のところに辿りつく。

 斧を持った山賊風の男と、ドレスを着込んだ美少女がいた。


「わっ……わたくしが、白銀砂丘の聖女。リシア=アルテミシアだと知ってのご狼藉ですかっ?!」

「もちろんですとも! このモルネス。聖女様を合法的に汚せると聞いたから、あっしは依頼を受けたんでさぁ」

「なんと卑劣な……」

「気高き聖女様を無理やりにする。たまりませんなぁ。デュヒヒヒヒ」

「クッ……」


 オレは山賊風の男――モルネスに声をかけた。


「おい」

「なんだテメェは……?」

「一言で言えば、バランスに優れたケーマさんだ」

「ハァ?」

「バランスに優れているから、相手の話はちゃんと聞く。

 オマエが悪党面に見えても、悪党だとは決めつけない。

 事情があることを考えて、ギルドに行こうと提案してやる」

「グハハハハ、なるほど……」


 モルネスは背中に手を回した。

 次の瞬間――。


 斧が飛んでくるっ!!


「投斧術のモルネス様に、隙を与えたのが貴様の終わりよ!

 岩をも砕く斧を受け、後悔のままに死ねえぇ!!」


 言うだけあって、斧の圧力はなかなかだ。

 岩のひとつは砕けるだろう。

 が――。

 オレは素手でピトッと止めた。


「オレにダメージ与えたいなら、鋼鉄を切り裂ける程度はないとね」

「なっ……?!」

「ケーマどの、ここはわたしが!

 未遂とはいえケーマどのを傷つけようとした輩、許してはおけませぬ!」

「そういうことなら、任せようかな」

「ありがたき幸せ!」

「なんだぁ? オンナかぁ?」

「わたしの名前はロロナ=ハイロード! 好きなタイプはケーマどの! 愛しのタイプもケーマどの! 将来の夢は、ケーマどのの、およめっ、めっ…………なんでもないッッ!!」


 自分で言い始めたロロナだが、最後は真っ赤になっていた。


「とにかくわたしは、ロロナ=ハイロード! 以上でなければ以下でもない!!」

「ロロナ…………ハイロード?! 黄金平原のハイロードかっ?!」

「肩書きで言えばそうなる」

「ででで、デタラメだ! このようなところに、黄金平原の幹部がいるはずがないっ!! ペテンなら、もっとうまくやりやがるんだなっ!」

「どう思うかは好きにしたまえ。わたしは剣を振るだけだ」

「ぐっ……うおおおおおおおおおお!!!」


 モルネスは、斧を振りあげ突撃してきた。

 根拠があってロロナを偽物と思っているのではない。

 偽物でなければ自分が終わってしまうから、偽物と思うしかない。

 そんな感じの突撃だった。


 ゴゥンッ!

 斧が地面にぶつかった。

 激しいクレーターが生まれ、瓦礫と化した土が舞う。

 パワーの話をするならば、『言うだけはある』といったところだ。

 が――。


「当たらなければそよ風だな」


 華麗な回避を決めたロロナは、モルネスの背後に立っていた。

 剣を鞘に入れたまま、裂帛の気合い。


「ハアッ!」


 目にも止まらぬ打撃六閃。

 ドガガガガッ。

 打撃音が響き渡った。


「ゴハッ、アッ……」

「見ての通り、鞘打ちだ。打撲と多少の骨折はあるだろうが、命に別状はない」


 しかしモレアスが白目をむいた瞬間、ロロナですら予想していないことが起こった。


「ゴハアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 醜い悲鳴をあげたモレアスが天を仰ぎ、大量の血を吐いたのだ。

 赤黒い血が、噴水のように吐きだされる。

 激しい吐血が終わるころには、枯れ木のようなミイラが横たわっていた。


「なにっ……?!」


 ロロナは、驚愕に目を見開いていた。

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