アホの子女神とエンジェルドエス~実食ハンバーガー編~
ローラは変わらずアホであったが、料理は無事に完成した。
「ケーマ殿、これはいったい、なんなのだ……?」
「形としては、サンドイッチが近いような気がしますが……」
「アタシも、初めて見るような食べ物ね!」
オレは言った。
「ハンバーガーだ」
パンの部分は完全再現とは言わなかったが、丸っこいフォルムに隙間からはみ出るレタスやマヨネーズ。
そして独自に作ったソースは、まさにハンバーガーの色合いであった。
「ケーマどの、スプーンもフォークも、ついていないのだが……」
「使わないで食べる料理だからな」
「つまり、こうか……」
「そこはかとなくワクワクするわね!」
ロロナとローラが、ハンバーガーを手に取った。
「ふわっ、わっわっ」
「きゃうっ?!」
中のレタスが落ちかけた。
ふたりは慌てて口に咥える。
はむっ、はむっ、はむっ。
(><)な顔で、レタスだけを食べる。
油断をするとこうなってしまうのも、ハンバーガーのお約束だ。
オレも和やかな気分で口を開いた。上下の前歯がパンに食い込む。
シャキッとしたレタスの触感に、舌に絡むマヨネーズ。肉汁を吸ったパン。
ほどよく焼かれた肉には、カリッとした歯応えもあった。
咀嚼する。
濃厚なソースとマヨネーズが絡んだレタスと肉とパンが、三位一体となってとろける。
そして味に慣れたところに、ピクルスの酸味。
じわっと広がってきたそれは、最高のアクセントだ。
てれれ、てってってー。
レベルがあがった。
てれれ、てってってっー。
レベルがあがる。
レベル 1495→1498
HP 20857/20857(↑24)
MP 20664/20664(↑20)
筋力 20886(↑25)
耐久 23612(↑22)
敏捷 21099(↑20)
魔力 20730(↑18)
上昇スキル
ハイチャージLV1 32/50(↑2)
習得スキル
生命力増強LV1 1/50
単純なレベルに加えて、ハイチャージの熟練度があがった。
これは体当たり系の攻撃の威力を1.5倍にしてくれる強力なスキルだ。
材料の肉が、それ系であったと思われる。
習得スキルの生命力増強は、こんな感じだ。
◆生命力増強
瀕死の際になんらかの回復手段を使用した場合、回復量が1.2倍になる。
地味だが有効そうなスキルだ。
スキルレベルがアップすれば、倍率もあがるだろうし。
さすがのハンバーガーである。
そして意味のわからないスキルもあがった。
HAHAHA@LV1 1/50
意味がわからない。
解説を読む。
◆
HAHAHAとは、ハンバーガーを頻繁に食べる人間の魂である。
このスキルを身に着けている時の人間は、ジョークを言われたらHAHAHAと笑う。
スキルなのっ?!
確かにハンバーガーをよく食べる人間――アメリカ人の笑い方のイメージだけど、スキルっていうあつかいだったの?!
知らなかったわ……。
今後のハンバーガーとの付き合いを考えさせられる結果だ。
唖然とするオレの横で、ハンバーガーを食べてもそんなスキルが身につかないローラたちが感想を叫ぶ。
「ふえぇんっ! おいしい!!
レタスについてる白くてすごいのがとっても濃くって、お口の中がとろとろしてくりゅうぅ!!」
「確かに、今まで食べたことのない美味だな……」
「おいしいです! ケーマさま!」
「「こんな美味いもの、生まれて初めて食べやした!」」
ローラはもちろん、ロロナにフェミルに、助けた冒険者ふたりからの好評だった。
さすがはアメリカのソウルフード。魂ソウルにシャッキリポンだ。
しかし地球に住んでいる神は、たった七日で世界を作った。
あまりに酷い突貫工事は、当然のごとくツケを作った。
そのツケは、ハンバーガーにやってきている。
即ち――。
「ふえぇん……、ケーマぁ。アタシの手、べたべたするうぅ……」
手が汚れる。
「まったく、仕方ない駄女神だな」
オレはローラの手を取り舐めた。
白くて綺麗な手のひらについたソースを、チロリ、ぺろりと舐め取った。
「ひやあんっ、あんっ! ななななっ、なにするのよっ! ばかっ!!」
「取ってやったんだろ。手にソースがついていたから」
「舐める必要ないじゃない!」
「仕方ないだろ。舐め取れば、オマエが嫌がると思ったんだから」
「それが理由はおかしくないっ?!?!?!」
「男には、おかしいと思ってもやらないといけないコトがあるっ!」
「カッコつけて言わないでえぇ!」
怒鳴られてはしまったが、ローラの発言であるのでスルーした。
ふとロロナたちを見る。
(はぐっ)
(あうぅ……)
ふたりとも、手にソースをつけてしまっていた。
「へへへへっ、平気です!」
「わたしもわたしも、平然だっ!!」
ふたり揃って手を隠し、そんな風に言っていた。
◆
街についた。
依頼は別口で受けているので、ロロナとは別れて報告に行く。
「えへへぇ。お給料、楽しみねっ♪ ケーマ♪」
ローラはルンルン笑顔だが、そんなにもらえないだろうとは思ってた。
冒険者を襲っていたホワイトクラウドの話はしたけど、討伐の証明になるものを持ってこないと認められないってお話だったし。
だからもらえるのは、事前のお話にあった日当だけだ。
受付のおねーさんが、報酬をおぼんに入れて持ってきた。
「こちらが、今回の報酬になります」
それは金貨が三枚だった。
「これだけえぇ?!?!?!」
「えっ、あっ、はい……」
「どうして?! ナンデ?! すごく長い日がんばったのに、どうして金貨三枚なの?!」
「オマエについては、一秒たりとも働いていないだろうが」
「ふえぇ~~~~~ん」
アホな女神は、ほっぺたをつねられて黙った。
「というか実際、こんなもんだろ」
「給金では六〇万バルシーになりますが、一着三〇万バルシーの、ミスリル糸で編まれた服を二着ご購入なされたということですので……」
「金貨三枚もらえるのは、むしろサービスってことか」
「二ヶ月の護衛任務でミスリル糸の服と金貨三枚と言えば、ギルドにいる冒険者の九割がこぞって引き受けるかと存じます」
「なるほどね」
納得したオレは、金貨を摘まんで袋に入れた。
「キャンセルしよう! ケーマ!」
「は……?」
「依頼はまだ達成していないことにして、街の外をブラブラするの!
十日も外をぶらぶらすれば、一万が十日だから、ええっと、ええっと…………」
駄女神のローラは、とても単純なかけ算にも両手を使った。
「十五万バルシーよ!!」
しかも間違えた。
カネがほしいという欲望が、現実を捻じ曲げている。
「ちょっとぶらぶらしてくるだけで十五万バルシーよ!
これはもう、外をぶらってくるしかないと思わない?!」
なんという駄女神。
いろんな意味ですごすぎる。
言ってることがメチャクチャならば、言ってる場所もメチャクチャだ。
ギルドの前で不正のお話をするとか、交番の前で爆破テロの計画を練るようなものじゃないか。
受付けのおねーさんはもちろんのこと、奥にいる職員さんも唖然としている。
ある意味テロには成功している。
自爆的な意味で。
オレは駄女神の後頭部を掴んだ。
「ふえへぇー」
撫でてもらえると思ったのだろう。
駄女神は、ほっこりとした笑顔を見せる。
八重歯も見えるその笑みは、100点の答案を大好きな祖父に見せる子どものように愛らしい。
守りたい、この笑顔。
前の流れを無視すれば、そんな風にも言いたくなるほどである。
だがオレは、前の流れを知っている。
ごしゃっ!
ローラの顔を、受付のカウンターに叩きつけた。
「ご安心ください! オレがコイツの案を受けいれることは、絶対にございませんので!」
オレが見せたダイナミック誠意に、受付の人たちはドン引きしていた。
しかしこういう謝罪は、やりすぎなぐらいが信じてもらえる。
ローラの笑顔は守れなかった。
◆
「ふえぇん、ケーマ、ひどいぃ……」
街の中。
アホのローラは、おでこを押さえてうめいていた。
オレは言う。
「ひどいのは、オマエの腐った頭だろ」
「ほんとにひどいぃ!」
アホが抗議してきたが、オレにはなにも聞こえなかった。
なにも聞こえていないのだから、抗議なんてないのと同じだ。
「ケーマどのっ!」
アホな会話をしてると、ロロナが追いかけてきた。
「どうした? ロロナ」
「ケーマどのの、報奨金ですっ!」
金貨の詰まった小さな袋だ。
ザッと見て、三〇枚はありそうだ。
「どうしたんだ? これ」
「ケーマどのが受け取るべき報奨金です!」
「???」
ロロナは、懐から小ビンをだした。
「先の戦いにおいて、わたしは竜薬とも称されるエリクサーを使用しました!
その事実が、それほどのモンスターを相手にしたことの証明となりました!」
「そんなんでいいの?」
「それがわたくし――黄金平原の幹部への信頼です」
すごいな。
「とにかくとにかく、そういうことです!
討伐分は、ケーマどのがお受け取りください!」
「そういうことならもらっておくか」
オレは金貨を受け取った。
しかしロロナは、オレをじっと熱っぽく見てくる。
「まだなにか?」
「ごごっ、ご用事はございませんかっ?!
恩義あるケーマどののために、なにか仕事をしたいのですっ!」
「そう言われてもな……」
カネがあるから、特にすることはないし……。
「オマエはなんかあるか? ローラ」
「ゴロゴロねっ!」
即答だった。
「宿屋でゆったりなにもせず、ゴロゴロとした生活を送りたいわっ!」
「馬車の旅であれだけゴロゴロ怠けまくって、いまだゴロゴロしたい……だと?」
クズっ……! ゴミっ……!
この駄女神、クズっ……! ゴミっ……!
オレはローラの襟首を掴み、猫の子を渡すかのように言った。
「それならコイツを、川に放流してきてくれ」
「ナンデ?! 放流ナンデ?! アタシなんにもしてなくないっ?!」
「なんにもしていないから捨てるわけだが」
「なんでなんでなんで?! アタシって、えーっと……マスコットでしょ?! 愛され系のマスコット!
もしくは金庫! 大切な宝物が中に詰まってる金庫!!
金庫がなにもしていないからって捨てるのって、おかしいって思わない?!?!?!」
働きたくない駄女神は、女神どころか人間としての尊厳も捨てるのであった。
もう本当に、スーパー駄女神。
「でも金庫って言うよりは、出荷を待っている豚のような……」
「なんてこと言うのっ?!」
ショックを受けるローラの腹に、オレはズムッと拳を入れた。
「ぎゃふっ……!」
ローラはガクリと気絶する。
「やれやれだ」
オレはローラを、ガシりと担いだ。
「ローラが気絶してしまった。悪いが宿に帰らせてもらう」
「したというより、『させた』に見せたがっ?!」
「それは見解の相違です」
「なんとっ?!」
オレはローラを担いで帰った。
こんな駄女神でも見捨てないで面倒を見ているあたり、なんだかんだでいいオレだ。
エンジェルドエスと称したローラは、地味に正しい。
愉快な気分になったせいだろう。早速スキルが発動した。
「HAHAHA」
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