戦い終わればのんびりとした旅で。

 モンスターをやっつけた。

 オレは眠っている女の子を背負い、ロロナを引き連れ道へと戻る。

 遠くから、ローラとフェミルの声がした。


(ケーマ?!)

(えっ?)

(悪魔的なニオイする! だからケーマがきてると思う!!)

(それでわかるのはどうなのですかっ?!)


 突っ込みどころの楽市楽座が開店していた。


「ケーマぁ~~~~~~~~~~~~~!」


 駄女神が駆け寄ってくる。

 オレが人を背負っているのに、力強く飛びついてきた。


「体はへいき?! 悪魔的に無傷?! 冒涜的に無事?!」

「お前の語彙に、普通の形容詞はないのか?!」

「とにかくとにかく、無事でへいきで大丈夫?!」


 ほっぺたをつねろうと思ったが、今は少女を背負ってる。

 だから両手がふさがっている。

 だから代わりに、ローラの足を踏んづけた。


「あいたたたたた!!」


 ローラは両手をパタパタ動かし、尻餅をついた。

 さらに仰向けにさせて、胸元を踏んづけた。


「見ての通り、悪魔的に元気だ」

「ふえぇ~~~んっ! 足痛いぃ! 足重いぃ! どけてよぉ、ばかあぁ」


 ローラは足をどかそうと、オレの足に手を当てていた。

 しかし駄女神の力では、オレをどかせるはずもない。

 オレはドエスの笑みを浮かべて、ローラをぐりぐりと踏みにじった。


「ふえぇ~~~~~~~~~~~~~~~んっ!」


 涙ぐむ駄女神は、最高に愛らしかった。

 まったく――オレはドエスだぜ。


 ◆


「ふえぇん……。ケーマのばかあぁ……」


 オレは背負ってきた少女を馬車に寝かせた。

 アホのローラは、踏まれた胸元を握りしめて涙ぐんでる。

 ほんのりとかわいい。


「ところで、ロロナちゃんは?」

「そういやいないな」

「あの木の陰から、気配はしますが……」


 会話してると、フェミルが言った。

 ウサギの耳が、ぴくぴくと動いてる。

 行ってみる。

 いた。


「くうぅ……」


 体育座りでうずくまり、膝に顔をうずめてた。


「なにしてんだ?」

「ふあっ?!」


 ロロナはオレやローラたちを見つめると、顔をあうあうとゆがませた。

 瞳に涙をうるませて、長いまつ毛を震わせて――。


「~~~~~~~~~~っ!」



 土下座した。



 深さはひたいが埋まるほど。広さは肘がつくほどの、本格的な土下座だ。

 体と声を震わせてつぶやく。


「わたしはわたしは、キミたちに、あわせられる顔がない……。

 無礼なことを言った上、狼藉も働いた……」


 心からの懺悔であった。

 土下座するほどではないと思うが、謝りたくなる気持ちはわかる。

 オレもフェミルも、なんて言って許そうか考えた。

 が――。


「…………?」


 ローラは理解していなかった。

 眉根をじとっと寄せたまま、オレとロロナを交互に見つめて首をかしげる。


「ロロナちゃん、悪いことしたっけ……?」

「蹴り飛ばしたではないか……!」

「それは確かに、されたような気もしたけど……」


 ローラはオレをチラと見た。

 蹴り飛ばした上に踏んづけるオレを基準に鑑みれば、大したことではないという顔だ。


「蹴り飛ばしたあと、ひどいことを言ったりも……」

「言ったっけ……?」


 ローラは本気で首をかしげた。


「蹴られたあとに、『あなたはなにもせずとも人に愛される、偉大なる女神だ。仕事はすべて、わたしが引き受けさせていただく』って言ってもらったことは、ちゃんと覚えてるけど……」



 覚えてねえぇーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!



 さすが駄女神。ニワトリ以下の知力の女だ。


「えっ、あれっ、違った?!

 でもニュアンスで言うと、だいたいそんな感じじゃなかった?!」

「わたしの無礼を忘れてしまったということにして、水に流してくれるというわけか……」


「忘れてないし流しもしないわよっ?!

 だって大事な思い出だもん!

 アタシに『別に働かなくていい。ずっとゴロゴロしてればいい』って言ってくれたの、ロロナちゃんだけだもんっ!!」

「なんという器……!」


 ローラがアホなだけなのに、ロロナは感じ入ってしまった。

 とは言うものの、でてくる結果が同じなら、それでよかろうとも思う。

 オレは拾った冒険者たちを後方の馬車に乗せ、先頭の馬車に乗り込んだ。

 敵が襲ってきたらすぐに移動ができる、幌のないむき出しの馬車だ。

 大物は現れなかったものの、雑魚であれば普通にでてくる。


「オークが一〇……二〇か」

「我にお任せを!」


 ロロナが剣を構えて言った。


「いや、いいよ。休んどけ」

「しかし……」


 言い淀んでしまったロロナを尻目に、オレは地面に着地した。

 ゆるやかに歩みでる。


「一応警告しておくが、棍棒を向ければ命はないぞ?」

「「「ブヒイィ!!!」」」


 警告を入れてやったのに、オークたちは飛びかかってきた。

 しかしオレの半径二メートルに入った時点で、首が吹き飛ぶ。

 オレはゆるりと踵を返した。

 オークらは、二瞬、三瞬と静止していたが――。


「「「フヒイィ……」」」


 バラバラになった。


「それじゃあ行こうか」


 先頭の馬車に乗り込んだ。

 フェミルがうっとり頬を染めてオレを称える。


「さすがです……♥」


 お尻の尻尾も、パタパタと振られてた。

 かわいい。


「まっ、まぁ、アタシの信者だもんね!」


 ローラも腕を組んでそっぽを向きつつ、ほほは赤く染めている。

 かわいい。

 そしてふたりが、そんな反応をしてる中、ロロナは――。



 土下座。


 

 本日二度目の土下座をしていた。


「なにやってんの……?」

「わたしは、自分が恥ずかしいぃ……!」

「?」

「先といい今回といい、ケーマどのの力量は、わたしを遥かに凌駕しているっ……!」

「確かにロロちゃん、ケーマにあれこれ言ってたものねぇ」

「どうしてわたしは、かように自信が持てていたのか……」

「ま、身のほどを知るってのは大切なことよね!」


 本日の、オマエが言うなが、飛びだした。

 心の俳句。


 オレはローラのツインテールを、芸術的に結った。


「ふえぇ~~~んっ、やあぁ~~~~んっ、ふえぇ~~~~~~~~んっ!」


 ローラは(>△<)にわめいていたが、オレは手を止めなかった。

 ローラの頭を、巻き貝にする。


「ケーマ、ひどいぃ……」

「仕方ないだろ、楽しいんだから」

「どこに仕方ない要素があるのっ?!」

「オレの……心にさ」

「そんな最低なこと、かっこつけて言わないでよおぉ!!」

「ははは」


 オレは爽やかに笑い、ローラの巻き貝をほどいた。

 ウェーブのかかったロングヘアーに変えて、クシでとかす。

 ローラの髪はなめらかで、触っていると心地いい。


「っていうかオマエ、けっこういい匂いするよな」


 オレはローラを抱きしめた。


「ああああっ、あったり前じゃない! 女神よ! アタシは!」


 言葉は傲慢なローラだが、顔は真っ赤になっている。

 心臓もドキドキバクバク高鳴っていることが、密着しているがゆえにわかる。

 愛でる分にはかわいい。

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