おかしいローラとまともなお話。

 リリナが案内した先は、ファンタジーらしい喫茶店であった。

 人が住める作りになってる、特別な大樹だ。

 中に入って、魔法の板で上昇していく。


 普通の建物であれば三階に該当する位置の、窓際の席につく。

 森を一望することができた。

 すばらしい光景だ。


「ホワイトベリィのケーキです」


 メイドさんが、小皿に乗ったケーキを置いた。

 ケアチーズケーキのように白くて、おいしそうだ。


 そなえつけのスプーンを差し込む。

 白いケーキがくにゅりと曲がって、ぷつりと切れた。

 ピンク色のクリィムがでてきた。

 見ているだけで腹が減る。


 スプーンに乗せた。

 クリィムと混ざった白いケーキは、ぷるぷるとゆれていた。


 食べる。

 なめらかな触感だ。

 舌の上で軽く転がしてみるだけで、とろりととろける。

 おいしい。


「ふえぇ~~~~~ん、おいしいぃ~~~~~~~~!!」


 ローラもほっぺに手を当てて、幸せそうな顔をしていた。


「舌の上でとろける、ケーキのクリィムの触感!

 ふわとろな味が口いっぱいに広がって、ほっぺに体に骨までとろけて、スライムになっちゃいそおぉ~~~~~♥♥♥」


 もはやお約束とも言える、反応に困る評価。

 オレはすでに慣れてたが、リリナはカチンと固まった。


「キッ……キミのパートナーであるローラ嬢は、なかなかにユニークで、前衛的な頭脳を持っているようだね……」


 リリナは、芸術のために片耳を切り落としたゴッホのごとき、苦悩に満ちた顔をしていた。

 オレは言う。


「話ってなんですか?」

「まずひとつ目が、帰路についてだ」

「?」

「キミたちも使っていた街道で、冒険者のパーティが行方不明になる事件が起きた。

 調査団は派遣されたが、詳細は不明だ。

 未確認のモンスターと出会ったら、積み荷は捨てても構わないから逃げてくれると助かる。

 わずかに残された装備などから、帰路についてから七日目前後が危ないと思われる」


「捨てちゃっていいんですか?」

「キミが死んだら、わたしの履歴に傷がつく」

「あなたがだした依頼を受けて死んだ人は、今のところゼロですものね」

「実績は、どんな言葉よりも雄弁だからね」


 リリナは静かに紅茶をすすった。


「それで話のふたつ目が……これだ」


 リリナは、平たい箱をだしてきた。

 中には銀色の糸。

 リリナ、油を垂らして火をつける。

 油はめらめらと燃えるものの、糸には焦げ目のひとつもつかない。


「見ての通りのミスリル糸だ。キミが望むというのなら、これで服を作ろうと思う」

「おいくらですか……?」

「二着で60万バルシーだね」

「お高いですね……」

「だが、品質は保証する」


 リリナはさらにナイフをだした。

 糸の束の上にぶらりと垂らして、手を離す。


 ストン。

 ナイフが、束の上に落ちた。

 しかしまるでオモチャのように、軽く弾かれて終わった。

 糸の束は切れるかどころか、傷のひとつもついたりしない。


 オレはナイフを手に取った。手持ちのスプーンで切れ味を試す。

 スパッ。

 銀色のスプーンは、キュウリのようにあっさり切れた。

 ナイフの中でも、かなり切れ味がよい品だ。


「本当に、キミはほどよく疑り深いね」

「疑いは、信用に必要なプロセスですからね。

 そこで文句を言う人は、こちらと信用を結ぶつもりがないんだなって判断します」

「フフフ、そうか」


 リリナは楽しげに笑い、紅茶をすすってケーキを食べた。


「どうだい? 今のキミなら、払えない額ではないはずだ」

およそ三〇日かかる・・・・・・・・・、|日給二万円というお仕事をしているところですしね《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》」

「そして防具をきっかけに、武器も買ってくれるお得意さまになってもらえれば最高だね」


 リリナは、まったく悪びれないで言った。

 実際、お互いにメリットのあるお話だ。


「まぁとりあえず、前向きに検討する所存って方向でお願いします」

「フフ、そうか」


 リリナは、改めて紅茶をすすった。


「今ので、商人としてのお話はおしまいだ」

「では次は、人間としてのお話ですか」

「……そうなるね」


 リリーナさんの表情に、重くて暗い影が差す。


「キミたちは…………ロロナのことをどう思った?」

「えっ……?」

「思ったことを、そのままに言ってほしい」

「とってもいい子ね!!」


 隣のローラが即答した。

 口の横に白いクリームをつけたまま、朗々と語る。


「依頼に入ったらね、『なにもしなくていい』って言ってくれたの!

 アタシのことを、全力で甘やかしてくれたの!!

 あんなにいい子をアタシは知らない!!!」


 ローラはケーキをパクリと食べると、心から叫んだ。



「国を滅ぼす大天使よっ!!」



「国を滅ぼすのは、あまりよくないと思うが…………」


 リリナは、小さな声でつぶやいた。

 ローラの声や表情などから、本気で褒めていることはわかる。

 しかし例えがとてもよくない。

 本当にひどい。

 つくづくローラは駄女神なんだなって思う。


「まっ、まぁ、好いてくれているなら、わたしとしてはうれしいね」


 リリナは、そんな風にまとめてくれた。

 とても大人だ。

 オレはリリナの代わりに、ローラのほっぺたをつねっておいた。


「いたいぃ~~~~~~~~~~~~~~~!!!」


 リリナは語る。


「ロロナはむかしに、いろいろあってね。

 よい子であるのに、それを表にだせない子になってしまったんだ」

「今の時点でも、歴史に名前を残せそうないい子なのに……?!」

「だからそう言ってもらえるのは、とてもうれしいね、フフ」


 リリナは、静かに紅茶をすすった。


「だからどうしろということはないが、帰りも仲良くしてくれるとうれしい」

「わかりました」


 オレは軽くうなずいた。

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