フェミルの覚悟と。
食べて魔法や炎熱耐性もつけたオレは、ほうっとひとつ息を吐く。
「うぎゃああああああああああああああああ!!!」
洞窟の奥から声がした。
「目がっ、目があぁ~~~~~~~~」
「腕があぁ! 耳があぁ!!」
壁の陰から、冒険者たちが飛びだしてきた。
数はふたり。
しかしひとりが炎の槍で、胸元を貫かれた。
そしてひとりが休憩所でもある、結界石に四隅を囲まれた空間に入った。
「はあっ、はあっ、はあぁ…………」
「なにがあったんだ?」
「フレイムエレメントの変異種だ!!」
「変異種?」
ローラがこめかみに指を当て、知の泉にアクセスをして答えた。
「三〇年か四〇年に一回ぐらいで現れる、すごいモンスター……って感じらしいわね」
「この区域で前回現れたのは五年前! 五年前なんだ!!」
「つまり今回の変異種は、イレギュラー中のイレギュラーってことか」
会話をしてると、モンスターが現れた。
アクマのツノのようなツノを生やした、炎の巨人のようなモンスター。
目や口がある部位には、ぽっかりとした空洞がある。
〈コオオォ…………〉
フレイムエレメントの口から、枯れた古井戸のような風音が漏れた。
炎が吐かれる。
うなる豪火は、結界によって防がれた。
だがしかし、フレイムエレメントは諦めない。
両の手を、ムチのようにしならせる。
ガオンッ! ガオンッ! ガオオンッ!
結界が撃たれるたびに、地響きが起こった。
「ひいいっ! ひいいぃ!」
逃げてきた冒険者が、頭を抱えてうずくまる。
「だだだっ、大丈夫です!
アカデミーの先生たちは、本当にすごいかたたちでした!
そのかたたちの張った結界が、簡単に壊されるはずがありませんっ!!」
フェミルは杖を構えつつ、そんな風に言った。
が――。
結界石に亀裂が入る。
フェミルの顔が、えっ……? と引きつる。
全員の視線が、フレイムエレメントへと集まった。
ただオレは、危険察知のスキルを習得している。
その鋭敏な感覚は、上方からの気配を察した。
前方のフレイムエレメントがムチをしならせ、結界石が破壊されるのと同時に、バックステップで距離を取る。
ドゴォンッ!
つい先刻までオレが立っていた位置に、炎の柱がそびえ立つ。
〈コオォ……〉
フレイムエレメントが天井に張りついて、からっぽの瞳でこちらを見ていた。
「変異種が、二体……?」
フェミルが、絶望の声をもらした。
杖を握りしめて叫ぶ。
「逃げてくださいっ!!」
「えっ?」
「結界石を破壊できるモンスター!
それも二体!
ケーマさんでも、命の保証がありませんっ!!」
フェミルはアイスニードルを放つ。
平均的な魔法使いからすれば抜群の才能を持つフェミルによる、相性のよい魔法。
常識で言えば、かなりのダメージを与える一撃。
が――。
届く手前で蒸発し、湯気となって消え去った。
常識を消し去る、驚異的な熱。
「あううっ、うぅ……」
フェミルは歯をカチカチと鳴らし、それでもオレたちに叫ぶ。
「ケーマさんはすごい人です! やさしい人です!
もっともっと、生きていないといけない人です!
ですからですから、ここは全力で逃げてくださいっ!!」
フレイムエレメントの攻撃がきた。
今度のフェミルは、ファイアーボールを放つ。
炎は炎をかき消さない。
真正面から衝突し、爆発を起こす。
「あううっ……!」
吹き飛ばされたフェミルは、尻餅をつく。
レベル3の炎熱耐性を持っているのに、無数のヤケドができていた。
「逃げて……ください…………。ケーマ……さん…………」
「フェミル……」
「はい……」
「非常に、言いにくいんだが……」
「はい……」
話していると、フレイムエレメントが火を吐いてきた。
オレはスパリと剣を抜き打ち、斬撃を入れた。
飛んできた炎が、まっぶつに切れる。
そしてオレが、剣を鞘に納めると――。
フレイムエレメントも真っ二つになった。
「えっ……?」
戸惑うフェミルに、ヒールをかける。
倒れていた冒険者とか、目や腕をやられていた冒険者にもヒールをかける。
「非常に、言いにくいんだがな……」
それは本当に言いにくかったが、あえて言った。
「今ぐらいの敵なら、オレにとっては雑魚なんだよ……」
ちなみに上方の敵は、
フェミルが、敵の炎をファイアーボールで相殺しているのを見る
証拠を示すかのように、ドデカい穴があいている。
「あうっ……」
フェミルが固まる。
そして震える。
テレパシーとかは持っていないはずなのに、フェミルの考えが鮮明にわかった。
杖を構えて必死な顔で言った。
『逃げてください!』
死を覚悟して、シリアスな顔で言った。
『ケーマさんはすごい人です! やさしい人です!
もっともっと、生きていないといけない人です!』
それらひとつひとつが、走馬灯のようにリピートしている。
フェミルは本気で真剣だった。
ゆえにダメージが大きい。
「あうっ、はうぅ……」
丸い瞳に、涙を溜めて――。
「はうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
うずくまって悶えた。
「殺してくださあぁいっ!
もういっそ、殺してくださあぁぁぁぁいっ!!」
涙ながらに叫ぶ気持ちも、痛いほどにわかった。
ちなみにローラの話だと、さっきの変異種には魔吸収LV1がついていた。
オレと同じ、食べるだけでレベルアップの力だ。
数十年に一度現れるという変異種も、正体の多くは特殊能力持ちであると思われる。
食っておけばよかったな。
なにはともあれ。
ギルドに戻って報告を入れたオレは、またひとつ名声をあげた。
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