食べるだけで魔法習得!

「これが『熱い小石』か」

「そうみたいね!」


 熱い小石は、名前の通りに熱い小石であった。

 石炭のように真っ黒でありながら、摘まんでみるとほのかに熱い。

 焚きたてのお風呂ぐらいだ。


「長いことマナを浴びていた石が、熱を持つようになった形らしいわ!」

「なるほどね」


 オレは小石を、魔法袋へと入れた。

 小石はぽとりと袋に入る。

 中を覗くと、小石があった。

 魔法な感じは、まったくしない。

 新しい小石を入れてくと、それの中も普通に増える。

 が――。


「増えなくなったな」


 十個を超えたあたりから、中に入れても増えなくなった。

 ぽとりと入れればカチャリと鳴って、なのに増えない。

 しかし逆さにしてみると、じゃらじゃらじゃらっと落ちてくる。


「すごいな、この袋」

「だから魔法ってことなのね!!」


 オレが感嘆してつぶやくと、ローラはとっても感動していた。


「ところでローラ」

「ん? なに?」

「出せたりするか? 魔法袋って」

「ええっと……」


 ローラは、こめかみに指を当てて考え込んだ。


「今の女神ポイントで出せるのを検索したら、なんでも入るけど容量一〇キロのやつと、食べもの限定だけど一〇〇キロ入るのがあったんだけど……」

「一〇〇キロで頼む」

「わかったわ」


 ローラは静かに、両手をかざした。


「世界よ! 我がめいに従って奇跡を起こせ!

 我の名前は、ローラ=ギネス=アマラ!」


 白い光が現れて、赤い袋がでてきた。


「はい、ケーマ」

「サンキュな」

「褒めてもいいのよ? アタシのこと! えへん!」


 今回のコイツは、素直に偉くてかわいらしいな。

 オレは頭を撫でてやる。


「えへぇー」


 オレの女神は、マヌケ面で微笑んだ。

 なごむ。


「あうっ、はっ、あうぅ……」

「どうした? フェミル」

「見てはいけないすごい力を、見てしまった気がするのですが……」

「まぁ、内緒にしておいてくれ」

「そんなあっさり済ませても、よろしいのですか……?」

「出会って日は浅いけど、内緒にしてくれって言われたことを、ぺらぺら話すような子ではないとは思うから」

「どうもです…………」


 フェミルは杖を抱きしめて、ほっぺたを赤くした。


「とにかく行くぞ」

「はっ、はいっ!」


 オレたちは進んだ。

 ちょこちょこと落ちている依頼のアイテム――『燃える小石』を拾い集めて、丁字路や十字路を進む。

 フレイムバット炎コウモリやフレイムウルフ。マグマスライムとエンカウントする。


「アイスニードル!」

「アイスニードル!」

「アァァァイスニードル!」


 しかしどのモンスターも、フェミルが一撃で倒してる。


「やりましたあぁ!!」


 そのたびにフェミルは、満面の笑顔をオレに向けた。


「うれしそうだな」

「はいっ! はいっ! わたしもう、ずっと、ずうぅぅっと、ファイアーボールしか使えない落ちこぼれでしたから!!」

「でもそのファイアーボールは、学年ではトップクラスの威力だったりしてなかったか?」

「どうして、わかるんですか……?」

「そういう力を持ってるからだよ」

「すごいです……♥」


 フェミルはうっとり、ほっぺたを赤くした。


「でも耐久は紙だからな? オレから離れたりはするなよ」

「くくくっ、くっついていても、よろしい……ということですか……?」

「魔法を唱えるのに支障をきたさない範囲でな」

「はうぅ…………」


 どういう意味に受け取ったのか。フェミルは顔を真っ赤に火照らす。

 もうほんと、湯気がでてきそうなほどに真っ赤だ。

 健気で素直で純情な上、ウブな子でもあるらしい。

 ちょっと心配になる。

 ちゃんと守ってやらないとな。


「ケーマ、ケーマ。アタシもアタシも、丈夫なほうじゃないからね?」

「そうなのか?」

「女神だけど、知の女神だもん。戦闘用の基礎能力値は、低く設定されてるのよ」

「戦闘面を犠牲にした上で、その知力なのっ?!」

「その言い方はおかしくない?!

 『だからそれほどの知恵を持っているのか』って納得する場面でしょ?!」


 いまだに自分に自信を持っているこの駄女神が、オレはすこし羨ましくなった。

 酒と自分に酔っている時ほど幸せな時間は、そうそうない。


「とにかくそういうわけだから、アタシのことも守ってよ!

 危なくなったらフェミちゃんが優先でいいけど、大丈夫そうな時にはアタシもしっかり守ってよ!!」

「本当にヤバくなったら、フェミル優先でいいのか」

「戦いが苦手といっても、フェミちゃんよりはなんとかなるし……」


 基本ダメだが、たまにはいいところもあるローラであった。


  ◆


 進むことしばらく。

 フェミルの疲労が濃くなってきた。


「あうぅ、あううぅ……」


 息はあがって背中は丸まり、嫌な汗をかいている。


「地図を見る範囲だと、そろそろ休憩所があるな」

「そう、ですか……」

「そこまで行って休んだら、今日の探索はここまでにしよう」

「はい……!」


 休憩所についた。

 ギルドの人が置いたらしい結界石が、四隅にある空間だ。

 乳白色をベースに虹色めいた輝きを放つそれは、単純に美しい。


 そしてすこし奥に進むと、マグマの川が流れてる。

 オレンジ色の輝きを放つそれは、危険だけれどなかなか綺麗だ。


「ギルドの人が作ったらしい休憩所らしいわね!

 魔物が嫌がる臭いの砂をバラまいた上に、結界石での結界っていう二重構造らしいわ!!」


 知の女神という設定らしいローラさんは、ガイドブックを見ながら言った。


「私の通ってたアカデミーで、ギルドさんと協力して始めたんですよね」


 しかも一般人であるフェミルに補足されてた。

 オレはローラを鼻で笑った。


「ななななっ、なによっ! 仕方ないじゃない!

 砂や結界が使われるようになったの、最近のことらしいんだから!!」


 安定の辞書女神であった。

 まぁいいや。

 オレは魔法袋から、獲物たちを取りだした。

 フレイムバットやフレイムウルフ。マグマスライムのカタマリだ。


 フレイムバットとウルフをさばく。

 マグマの川でうまく焼いてお皿に乗せる。

 フレイムバットは細切れの肉。フレイムウルフはステーキみたいな感じになった。

 肉は全体的に赤い。トウガラシに漬け込んだかのようである。


「見た感じだと、おいしそうね……」


 ローラの腹が、きゅるるるる、くうぅ~~~っと鳴った。

 オレはまず、フレイムウルフのステーキをかじる。


(ふおっ?!)


 辛かった。

 スパイシーな辛みが、口に入って広く広がる。

 しかし噛むたび肉汁があふれ、うま味と混ざりあっていく。

 辛いのにうまい。

 やめられなくって、止まらない。


「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」


 犬みたいな息がでる。

 水がほしい。冷たい水が。


「ええっと、はいっ!」


 察したローラが水筒を手渡す。

 オレはガブリと飲み込んだ。


 辛みの残滓が染みてくる。

 それなのに――――うまい。


 てれれ、てってってっー。

 レベルもあがった。



 レベル     1369→1391

 HP      11833/11833(↑170)

 MP     10954/10954(↑167)

 筋力      10650(↑168)

 耐久      10642(↑152)

 敏捷      10577(↑155)

 魔力      10102(↑167)


 習得スキル

 炎熱耐性LV2 11/150

 上昇スキル

 火炎放射LV6 1021/3000(↑8)



 炎熱耐性をゲットしたぞ!!

 しかもレベル2って大きいな。

 いきなりレベル2ってことば、ちょっと食べればすぐに3っていうことだ。

 3あれば一流を名乗れることを思うと、本当に大きい。


「ケーマ! ケーマ! ケーマあぁ!!」


 ローラがオレの膝に手をかけ、口を、あーんとあけてきた。

 キスできそうな至近距離は、ほんのりとヤバい。

 オレは顔を逸らしつつ、ステーキの切れ端を食わせた。

 もぎゅもぎゅもぎゅ。

 ローラは静かに肉を噛み――。


「っ?!」


 両目をクワッと見開いた。


「なにこれっ、あつい、あつい、あついぃ~~~~~。

 ひりってくる。ひりってくるうぅ~~~!

 口からぶわって炎でるうぅ~~~~~~!」


 ローラはハフハフしながらも、肉をごくっと飲み込んだ。


「ふあああぁんっ、あんっ、あんっ、あんっ。あついっ、あついいぃ……!

 お肉で体がじんじんしてきて、ハあッ、ハッ♥

 ハあぁ~~~~~んッ!♥!!♥♥!!」


 辛みとうま味に悶えるローラは、そこはかとなくエロかった。

 声が普通にエロいなら、汗の滲む肢体もエロい。


「ケーマあぁ♥ ちょうだあぁい。

 あついのっ、もっといっぱいちょうだあぁいっ!

 ほしいのぉ、ほしいのおぉ!!」

「わかった! わかったから落ち着け!!」


 オレは女神にぶち込んだ。


「はふっ! はふっ! はふうううぅんっ!

 げきからおいしい! げきからおいしいいぃぃぃ!!」


 女神は、喘ぎに喘ぎまくった。


「『くる』食べ物では、ありますね……」


 フェミルも肉を皿に乗せ、顔をぼうっと熱くしている。

 実際、スパイシーである。

 その後もオレは、はふはふしつつも食べまくった。


 てれれ、てってってー。

 てれれ、てってってー。

 てれれ、てってってー。


 たくさんレベルをあげていき、炎熱耐性を3にする。

 フェミルとローラに譲渡してやり、オレ自身の耐性を改めてあげる。

 何度か与えて試してみたが、分割譲渡はできなかった。

 レベル3を渡そうと思ったら、レベル3が丸ごとだ。

 1と2にわけて、オレが2をもらってローラが1で……みたいなことはできない。


「むぅ」


 そして最後に、マグマスライムのスープをすする。

 まさにマグマと言える辛みが、口から全身に広がった。

 体温があがって汗がにじむ。


 てれれ、てってってっー。

 レベルもあがる。

 まとめるとこんな感じだ。



 レベル     1391→1462

 HP      12361/12361(↑528)

 MP     11480/11480(↑526)

 筋力      11140(↑490)

 耐久      11120(↑478)

 敏捷      11032(↑455)

 魔力      10532(↑430)


 習得スキル

 火炎魔法LV1 41/50

 炎熱耐性LV3 8/500

 上昇スキル

 火炎放射LV6 1074/3000(↑53)



 ただしこの火炎魔法は、フェミルに譲渡でくれてやる。


「あうっ、んっ、んんぅっ……」


 ほかのスキルよりも密度が濃いせいだろう。フェミルは軽くうめいてた。


「どんな感じになった?」

「えっ、ええっと……」


 フェミルは、杖を構えた。

 マグマの川へと向ける。


「んんうぅ…………!」


 力といっしょに魔力を込める。

 スカートが、魔力の波動でたなびいた。

 そして放つは――。

 

 

「ファイアーボール!!」



 けっきょくそれかい!!

 オレは思ってしまったが、威力は格段に増していた。

 まっすぐに飛んだ紅球は川を突っ切り、対岸の壁にぶち当たる。


 ズゴォンッ!!


 轟音と共にできるのは、直径二メートルのクレーター。

 そして放ったフェミル自身は、ふらりとよろけた。

 オレはガシッと支えて尋ねた。


「大丈夫か?」

「はいぃ…………」


 そうは言ったフェミルだが、目玉をぐるぐる回してる。

 ファイアーボールしか使えないフェミルだが、ファイアーボールの威力が高い。


『今のは、フレアではありません……』

『っ?!』

『ファイアーボール……です』


 みたいな会話ができる日もくるかもしれない。


 オレはマグマスライムのスープを飲んで、火炎魔法を覚え直した。

 火炎放射は持ってるが、消費するものが違う。

 魔法はMPを消費するが、火炎放射はHPだ。

 なので局面によっては、魔法のほうが便利である。


 あとはロマンだ。

 フレイムランスとか、もうそれだけでカッコいい。

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