vsコウモリ
一仕事終えたオレは、軽い食事でレベルをあげた。
幸福感を覚えつつ、ギルドへと向かった。
受付の前に行くと、いつものおねーさんが言った。
「ケーマさま……」
おねーさんは、ちょっと驚いたような顔でオレを見つめた。
「実は、ですね……」
「ララナさんからの指名依頼ですか?」
「っ!!!」
「薪割りのあと、そういうお話になったんで」
「登録三日目で指名依頼まで取ってくるとは、すさまじいですね……」
「そんなに珍しいことなんですか?」
「少なくとも、このギルドでは例がありません」
「なるほど」
「そしてララナさまのご依頼ですが、受ける方向でよろしいですか?」
おねーさんが、依頼書だしてきた。
依頼。
熱い小石の収穫。
難易度
Dぐらいかのぅ。
報酬。
三〇〇〇バルシーと考えておる。
詳細
ババレル火山の入り口付近で取れる、『熱い小石』を集めてほしい。
容量五キロの魔法袋を貸しだすでの。それいっぱいに詰めてくれれば充分じゃ。
「魔法袋?」
「これです」
おねーさんは、袋を見せた。
一見すると薄茶色の袋だが、紐が虹色である。
「袋に備わっている容量の分だけは、アイテムが入ります」
「はい」
「とても高価な品ですので、ご気をつけください」
「あるんですか? 弁償とかは」
「ございませんが、信頼は失うかと」
「なるほど」
オレはうなずき袋を受け取る。
「それとご依頼を受けるのでしたら、ギルドカードをお貸しください」
「はい?」
オレは首をかしげつつ、おねーさんにカードを渡した。
おねーさんは奥へ行き、ギルドになにか加工する。
戻ってきた。
カードには、Dの文字があった。
「ケーマさんのことは、特例的に昇格――とさせていただきます」
「ええっ?!」
「わたくしたちが見たところ、ケーマさんは、ババレル火山を無傷で突破する可能性が高いので……」
おねーさんがつぶやくと、ローラが言った。
「そーいうことなら、帰ってきてからアップさせればいいんじゃないの? 国士無双的に」
「それでは、手遅れになってしまうので……」
「???」
「ま、その通りですね」
「……?」
「えっ、ちょっ、どういうことっ?!」
フェミルとローラは、理解できなかったらしい。
フェミルはぼんやりオレを見上げて、ローラは露骨に聞いてきた。
特にフェミルは、オレの話をキチンと聞くべくウサギの耳が立っていてかわいい。
「Gランクのオレが無傷で突破したら、ほかのGランクの冒険者がどう思うかって話だよ」
「あっ……!」
フェミルは理解したらしい。
表情が、明るいものに変化する。
お尻の尻尾も、ふりふりゆれた。
しかしローラは、唇に人差し指を当てて首をかしげた。
「アタシのケーマを、すごいって…………思う???」
「その結果、自分も行けるとカンチガイするやつが増えるかもしれないって話だよ」
「それって危険が大変じゃないっ!」
「だから山に行く前に、オレのランクをあげといたんだよ」
「冒険者ランクは、ちゃんと仕事ができるかどうか見る意味もあります。
ですから、急なランクアップはあまりさせたくないのですが……」
「アタシのケーマは、そこを引いてもすごすぎるってことね!」
「はい……」
「えへへへぇ~~~」
自分が褒められたわけでもないというのに、ローラは顔をほころばす。
まったく、この駄女神め。
そうは思うが、気持ちはうれしい。
オレはふたりを引き連れて、ババレル火山へと向かった。
◆
ギルドで受けた案内によると、ババレル火山は、緑の森を抜けた先にあるらしい。
オレは、森に入る前に言った。
「フェミル」
「ははははっ、はいっ!」
「ちょっと頭貸してくれ」
「どどどどっ、どうぞっ! お好きにっ!」
フェミルは頭を差しだした。オレは右手を乗せてやる。
(スキル譲渡!)
「はううっ……!」
フェミルはぽうっと頬を染め、ぷるぷると震える。
「どうだ?」
「えっ、ええっと……」
「アイスニードルが、使えるようにはなってはいないか?」
「わたしの魔法適正は、炎にしかないはずですが……」
「そう思うなら、あの木に向かって撃ってみろ」
「はい……」
フェミルは、木の幹に目を向けた。
「あっ……。あれっ?! あうっ?!」
目を白黒とさせるものの、魔力を高めて声をだす。
「冷厳なる氷の杭よ。我が敵を刺せ! アイスニードル!!」
ドシュンドシュンドシュン!
三本でてきた大きなツララが、木の幹に突き刺さった。
「杖を構えて見た瞬間、詠唱が、頭の中に浮かんできた…………です」
「言ったろ? 覚えさせることができるって」
「ケーマさん、すごいです……。あううぅ…………」
フェミルは、尊敬の眼差しでオレを見つめ――。
尻餅をついた。
「どうした?」
「すごすぎるケーマさんに感動しすぎて、腰が抜けてしまいました……」
「大げさだなぁ」
「大げさじゃねぇですよぅ……あうぅ」
「とにかく、火山のモンスターと戦うんなら、アイスニードルはあったほうがいいだろ?」
「ケーマさんは……?」
「オレはまぁ、大丈夫だろ」
オレはしゅるりと剣を抜く。
抜き打ち際にシュシュンと振った。
二メートル以上あった樹木は、バラバラになった。
「すごいですうぅ…………♪」
フェミルの尊敬の眼差しが、先刻以上に強まった。
◆
そんなこんなで森の中。
明るいゾーンを軽く通って、ちょっと暗い樹海を抜けると、火山の入り口である洞窟だ。
「あううぅ…………」
「どうした? フェミル。縮こまった上に、ぶるぶると震えたりして」
「ケケケッ、ケーマさんとローラさんと違って、わわわわっ、わたしにとって、Dランクのかたが入るような、ととととっ、ところは……」
「援護はするから」
「はいっ!」
フェミルはなんとかうなずいた。
素直なのは、よいことである。
洞窟に入る。
意外と明るい。
「火山にうずまく炎のマナが、単なる石を紅く光らせているらしいわ!」
駄女神ローラが、まともな解説を入れた。
オレは試しに、壁を削った。
夕陽のように紅く輝いていた壁の岩は、ただの石ころになった。
「なるほど」
「あうぅ……」
「熱いのか? フェミル」
「だだだ、大丈夫です…………あううぅ」
などと言っているが、早くもダウンしそうであった。
「水は小まめに飲んどけよ?」
「はっ、はいっ!」
オレは水筒を渡し、フェミルに水を飲ませてやった。
すると――。
「きたわよっ!」
モンスターが現れた。
「キキキキィー!!」
炎のように赤い、直径三〇センチほどのフレイム
数は三体。
オレが斬撃を放てば、一瞬で倒せそうな気もするが――。
「ががががっ、がんばりますっ!!」
フェミルがズイッと前にでた。
「アイスニードル!!」
ドシュンドシュンドシュンッ!
三本のツララが、コウモリに向かうっ!!
「ピギィ!」
「ギャアア!」
「キキイィーー!」
ツララは二匹を仕留めるが、一匹には当たり損ねた。
「詠唱なしで大丈夫なのか?」
「一回使ったので、なんとなく覚えました!!」
なかなかすごいな。
やっぱり魔法に関しては、いいポテンシャルを持っている。
なんて話しているうちに、生き残ったコウモリが飛んでくる。
フェミルは杖で殴りかかった。
「えいっ! やあっ…………あうう~~~~~~~~!」
だが攻撃は、一向に当たらない。
スカッ、スカッとよけられる。
羽ばたいていたコウモリが、口をあけて火を吐いた。
ここまでだな。
オレはフェミルを後ろに下げた。
剣を抜く。
炎を切った。
その余波で、コウモリも真っ二つになった。
「……よし」
「本当に、魔法がいらないのでございますね……」
「まぁな」
オレはフフッと笑みを浮かべた。
あげてよかった剣術レベル!
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