鍛冶師からの依頼達成
ララナが置いていった斧を手に取った。
直径一四〇センチ級の斧だが、オレの場合は片手で持てる。
ほいっと降ろす。
素材の性質だろう。板は斧の割れ目に沿って、バキンと割れた。
しかし斧術を持っていないと、『持って振り下ろしているだけ』といった感じだ。
ララナほど、器用にはあつかえない。
「ローラ」
「うっ、うん」
オレはローラに目配せし、カタログウインドウを開いてもらった。
信者ポイント5で取れる、斧術レベル1を獲得した。
その瞬間、オレは斧を『理解』する。
重心の位置や正しい持ち方。力の伝え方などを、感覚的に理解する。
振り上げて――打ち下ろす。
スカアァン――。
澄んだ音が、響き渡った。
「悪くはないな」
「でっしょお?」
ローラがえへんと巨乳を張った。
今回は、オレも素直に頭を撫でる。
「えへぇ~~~~~♥」
「いっいっ、いったいなにをしたんですかっ?! ケーマさんっ!」
「まぁちょっとした、特殊スキルみたいなもんだよ」
オレはフェミルの頭に手を置いた。
心の中で念じる。
(スキル譲渡!)
ブウゥン――と、力がフェミルに渡った気がした。
「これでちょっと、薪割りやってみてくれ」
「はっ……。はい……」
フェミルのかわいいウサギの耳は、しおっと垂れてた。
もう明らかに、
「無理でもいいからやってくれ。実験だから」
「はいっ……!」
フェミルは斧を握りしめる。
「んんっ……!」
と強く力を込めた。
斧がグオッと持ちあがる。
が――。
「あううっ、あうぅ~~~~~~~~!!」
後ろによろけた。
オレはがしっと抱きとめる。
「大丈夫か?」
「申し訳ないです……ぴょん」
「いやいいよ、実験だし」
「あうぅ……」
「じゃあ次は、こっちの小さな斧を使ってくれるか?」
「はい……」
オレは、子どもでも片手で持てるサイズの斧を渡した。
「あっ……あれっ?」
フェミルは持った斧を前後に動かし、戸惑いの声を発する。
「どうした?」
「うまく言えないんですが、その……」
「うん」
「斧を、使えるような気がするです……」
「使ったから。そういう力」
「はいっ……?!」
「複雑なやつは無理だけど、軽いやつならいける」
「すごいです……!」
フェミルはキラキラとした、尊敬の眼差しでオレを見つめた。
「そう思うなら、試しに薪を割ってみてくれ」
「はいっ!!」
フェミルは薪割りを始めた。
スカァンッ! スカァンッ! スカァンッ!
単純な振りおろしによって、黒曜石のような板はじわじわと切断されていく。
が――。
「あうぅ……」
残り半分といったあたりで、フェミルの力が尽きてしまった。
本人はがんばろうとしていたが、体がよろけて倒れてしまう。
オレは抱き支える。
手の皮が破れて、血が滲んでいた。
「ヒール」
手の傷はふさがった。
「立てそうか?」
「難しいです……ぴょん」
ヒールで傷は塞がっても、体力は回復しないのか。
「休んでていいぞ」
「申し訳ありません……」
「でもいいよ、大体わかったから」
「お役に立てたと、いうことですか……?」
「うん」
「うれしいです……。えへへ……」
フェミルはほっこり微笑んだ。
素直で健気で愛らしい。
(ちなみにケーマ、いったいなにがわかったの?)
ローラが小声で聞いてきた。
(高いスキルを持ってても、基礎体力や筋力がないと使いこなせないってことがわかった)
(なるほどね……)
(オマエが腹を壊したり酔っ払ったりしやすいのも、たぶんそういうことだ。
元が弱すぎるから、耐性LV1で補正しても弱いんだ)
(ふえぇ……)
駄女神ローラは、ショックを受けてた。
さて。
わかっておきたいことはわかった。
「すいまーん! 仕事、終わりまーす!」
「早すぎるじゃろっ?!」
「それでも、だいたい終わったんで!!」
「ナヌゥ?!」
ララナが飛んでやってきた。
四つ残っている山と、半分残っているカタマリを見て叫ぶ。
「まったく終わっていないではないかっ!!
ワシに喧嘩を売ることは、黄金平原への宣戦じゃぞっ?!」
「ですから、今終わらせます」
腰の剣に手をかける。
シャキンと抜いてズザザザザ。
銀閃を煌めかせ、目の前にあった黒い塊を細切れにした。
「なっ……なかなかできるのぅ」
ララナは、斧をオレに向けて構えた。
「しかしその程度なら、このワシにも――」
ララナはなにか言いかけていたが、オレは剣を鞘に納める。
パチリ。
音が鳴ったその刹那。
四つあった黒い岩も、すべて細切れになった。
「ホアーーーーーーーーーーーーーーツッ?!?!?!?!」
「なにか問題がありましたか?」
ララナは、細切れになった薪を手に取って見つめる。
「問題がないというか、問題がないのが問題というか……という感じじゃの…………」
それでも納得はしてくれたらしい。
ララナは口に指を当て、口笛を吹いた。
ちっこいやつらが、三人でてくる。
「呼んだのじゃっ?!」
「呼んだのじゃー?!」
「ご主人さまっー、呼んだのじゃー?!」
丸パン焼きを売っていた子たちだ。
種族が同じなだけなのか、本当に同一人物なのかは不明だが、三人そろってそっくりである。
「薪ができあがったのじゃ。すこし大量にあるが、工房に運んでくれ」
「たくさんあるのじゃー!」
「お茶してたところだったのじゃー!」
「おやつが、ちゅうだんになったのじゃー!」
「「「せかいに、みすてられたのじゃー…………」」」
のじゃーたち三人は、地面に手をつきうなだれた。
よくよく見ると、口にクリームがついてる。
「おやつを取っていたのなら、食べ終わってからでもよいのじゃが……」
「天使なのじゃー!」
「神なのじゃー!!」
「せかいを作った神さまは、ご主人さまにちがいないのじゃー!!」
のじゃーたち三人は、ローラのような語彙を見せると店に戻った。
「まったく……。やれやれな使用人じゃのぅ」
と言いつつも、ララナは満更でもなさそうだった。
「ところで、ちょっと質問いいですか?」
「なんじゃ?」
「このへんに、火炎魔法を使うモンスターっていませんかね?」
「近辺じゃと、緑の森を抜けた先にある、ババレル火山のマグマスライムなどが該当するが……」
「レベルのことなら、心配はないと思いますよ?」
そのために、わざわざ力を誇示したわけだし。
「まぁただ、即死技を使うモンスターがいるのかどうかだけは教えてください」
「ババレル火山にいるという話は、聞いたことがないのぅ……」
「そうですか」
「火山にゆくつもりなら、鉱石を取ってきてほしいのじゃが」
「あんまり奥まで行くつもりはないんですけど」
「では、初層部でも取れる鉱石にしておこう」
「ありがとうございます」
「ギルドに指名依頼をだしておくでな。ヌシの名はなんじゃ?」
「ケーマです。コサカイ・ケーマ」
「覚えておこう」
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