鍛冶師からの依頼

 朝がきた。

 オレはアーシャの朝食で、レベルを簡単にあげる。

 昨日の晩酌と合わせるとこうだ。



 レベル     1339→1369

 HP     11663/11663(↑240)

 MP     10787/10787(↑260)

 筋力      10482(↑250)

 耐久      10490(↑231)

 敏捷      10422(↑242)

 魔力       9933(↑246)


 習得スキル

 なし

 上昇スキル

 解毒体質LV1   4/50 (↑2)

 毒物耐性LV2   1/150(↑1)

 毒体質LV2   140/150(↑24)

 ハイジャンプLV1 8/50 (↑5) 



 まぁなんの変哲もない、ただの日常的なレベルアップだ。

 もっとも周囲の冒険者と比較すると、こんな感じだ。



 名前 マック=ガーデン

 職業 戦士

 レベル      22

 HP     144/144

 MP      0/0

 筋力       115

 耐久       145

 敏捷      60

 魔力         0


 名前 デビット=サムス

 職業 剣士

 レベル      24

 HP      124/124

 MP      0/0

 筋力       151

 耐久        88

 敏捷       133

 魔力         0


 名前 モーガン=メイビス

 職業 格闘家

 レベル      30

 HP      178/178

 MP      0/0

 筋力       143

 耐久       142

 敏捷       144

 魔力         0



 レベルが30も違うって、普通だったらけっこうな差だっていう話だね!

 なにはともあれ、オレは朝食をたいらげた。

 残った分を、ローラに『あーん』させて食わせる。

 日々の食事で餌付けをされる、安定の駄女神である。


「これ食い終わったら行くからな?」

「(んぐんぐ)、りょこへ?」

「ちょっといろいろ、実験したい。つーか、食いながらしゃべるな」

「んぐ」


 ローラは口を閉じた。もぐもぐもぐっと噛んでいく。


「実験とは、なにをするのです……?」

「フェミルに関することだよ」

「わたしに関することですか……」

「まぁそのへんは、おいおい説明するってことで」


 食事を終えたオレたちは、ギルドへと向かった。

 適当に依頼を探す。



 依頼。

 ダイナミック薪割りじゃ!


 難易度

 BかCはほしいところじゃ!

 しかしパワーに自信があるのなら、Gであろうと構わぬ!!


 報酬。

 基本給で四〇〇〇じゃ!

 がんばり次第では、二万や三万もありえるぞ!



 ただの薪割りではない。

 ダイナミック薪割りだ。

 その名前と報酬から、ダイナミックであることが予想される。


「ちょうどよさそうな依頼だな」

「えええっ?!」

「どうした? フェミル」

「ひょひょひょ、表記を見ていないんですか?! 推奨ランクはBかCですよっ?!」

「Gでもいいって書いてるじゃん」

「それはおっしゃる通りですけど……」

「そこはアタシのケーマだもん! 国士無双に大丈夫よ!」

「信頼、なさってるんですね…………」

「ままままっ、まぁ、実力はね!」


 フェミルが憧憬の眼差しでつぶやくと、ローラは顔を真っ赤にしてきょどった。

 なんというのか、調子が狂う。


  ◆


 依頼の場所についた。

 そこは小さな武器屋であった。

 小さいと言っても店内は明るく、値段も高い。

 ショートソードが一本二〇万とかしている。


「黄金草原さんからの依頼だったんですね……」

「知っているのか? フェミル」

「いくつかある商業グループのひとつです。

 『質のいいものは高くて当然』をモットーに、質はとてもよい代わり、相応の値段を取る方たちです」

「なるほどなぁ」


 オレは剣の一本を手に取った。

 ギラリと光る刀身は、確かに切れ味がよさそうだ。

 試しに髪を一本むしり、はらりと落とす。

 髪は刃に触れた瞬間、スパりと裂けた。


 ショートソードでこの切れ味だ。

 実力は、相当とみていいだろう。


 オレは店の奥に行き、カウンターへ向かった。

 短い金色の髪に、ゴスロリ風の衣服。

 そして人間の耳があるところから、ぴょこんと生えてるケモミミを持った少女に声をかける。


「薪割りの依頼できたものですが」

「おヌシが、今回の依頼を受けた者か!」

「はい、そうです」

「ほっそいのおぉ~~~。肉を食っとるのかっ?!」

「そういうあなたも、人のことは言えないと思いますが」

「黄金であるワシ――ララナ=ハイロードを愚弄することは、黄金草原への宣戦布告にも等しいのじゃが?」

「そんなこと言うんなら、ケーマをバカにすることは、アタシへの宣戦布告よっ!」

「つまり戦争ということじゃなっ!」


 いったいどこからだしたのか。少女――ララナは斧を突きつけてきた。


「ふえええええええええええっっ!!!」


 ダメな女神は、一発でビビッた。

 マジで泣きだす三秒前な顔をして、オレの体にぺたりとくっつく。


「おまえなぁ……」


 オレは呆れてしまったが、咄嗟にかばってくれたのはうれしい。

 守るように抱きしめて、ララナへと言ってやる。


「あんまりいじめないでやってくれ。

 オレにとって、コイツはかけがえのない大切な存在なんだ」

「ケーマ……♥」


 ローラがうっとり、ほっぺたを染めた。

 オレは、強く抱きしめささやいた。


「かっこつけてでてきたクセに、すぐに泣きだすクソ雑魚ローラは、オレの所有物なんだ……。

 このエロい体をしたゴミのようなクズは、オレ専用の、いじめられ肉奴隷なんだっ……!」

「ひどくないっ?! ちょっとを越えてひどくないっ?!」

「かわいいよ……。

 ローラ、かわいいよ……。

 オレにいじめられている時のオマエは、まさに天使だ……!」


「いやああああああああああああああああ!!

 ドエスいやっ! ドエスいやあああああああ!!!」


 ローラはじたじた暴れていたが、オレはあえて離さない。ほおずりをして愛でた。

 ひとしきり愛でてから、真顔に戻る。


「とまぁ、冗談はおいといて……」

「ジョーダン?! ほんとのほんとーに、ジョーダン?!」

「当たり前だろ(キラッ)」

「とっても綺麗で爽やかなのに、すごくイヤな顔に見えるんだけどっ?!」

「とにかく薪を割りまくるから、案内してくれ」

「うっ、うむ……」


 ララナはドン引きしつつうなずいた。

 オレたちを、裏庭へと案内する。


「ワシが薪にしてほしいのは、これじゃ」

「これ……?」

「うむ、これじゃ」

「どう見ても、黒い岩の塊が五つ並んでるようにしか見えないんですが……」

「ワシらの業界で薪と言えば、これを意味するのじゃから仕方ないのぅ」


 ララナは、柄の長さも含めれば自分の身長ほどもある――一四〇センチ級の片刃斧を振りあげた。


「せいっ!!」

「とりゃあっ!!」

「うりゃああっ!!」


 振りおろしては横薙ぎに払い、岩の塊を正方形に形作った。

 それでも縦横高さで、一メートルはある。

 ララナは端の一部を、ヨウカンのように切り落とす。


 それを鋼鉄の切り株の上に乗せ、「せりゃあっ!」、「せりゃああっ!」とぶっ叩く。

 そして一辺五センチほどの、四角いカタマリにした。


「とまぁ、このような感じじゃ」

「綺麗な薪ねっ!」

「うっとりしますね……」


「これって薪なのっ?!」

「どう見ても薪じゃろ?」

「どう見ても薪よ」

「どう見ても、薪であると思います……ぴょん」


 この世界では、これが『どう見ても薪』であるらしかった。


「日が暮れるまでに、一山分を薪にしてくれればよい。

 それで四〇〇〇バルシーじゃ。

 余裕があれば、残りの山をやっとくれ。一山四〇〇〇バルシーじゃ」


「一山四〇〇〇バルシーじゃ、五つ全部やっても二万ですよね?

 依頼の紙には、三万までだすってあった気がしたんですけど」

「すべての山を薪にできたら、ボーナスとして払おう」


 淡々と答えたララナは、からからと笑った。


「ま、できるとは思えんがの」

「そうなんですか?」

「黄金平原の幹部である、ワシにもできないのじゃぞ?

 そこらの冒険者にできるはずがあるまい」


 自信たっぷりに言うララナ。オレはそっと、ローラに目配せをした。

 ローラは鑑定を使用して、オレの手に触れる。

 感覚共有の力で、ステータス見せてくる。



 名前 ララナ=ハイロード

 種族 ドワルフ


 レベル   220

 HP   2220/2220

 MP     0/0

 筋力   2420

 耐久   2530

 敏捷   1300

 魔力    0


 スキル

 斧術LV3 120/300

 体術LV2  10/150

 鍛冶LV4  80/500


 ◆種族説明・ドワルフ

 始祖たるドワーフと、始祖たるエルフのあいだに生まれたと言われる種族の末裔。

 どちらの性質を強く継ぐかは、完全にランダム。

 金色の髪の持ち主と、優秀な人材が多いことをかけて、彼ら、彼女らが束ねる組織は、『黄金平原』と呼ばれている。



 言うだけあって強い。

 オレと魔の森のモンスターを除けば、初のレベル三桁だ。

 斧が上級クラスなら、鍛冶は達人級である。


 まぁオレには敵わないけど。

 というかこのぐらいあれば、この世界だと一角の人物ってことになるんだな。


 ライオンやイノシシが強すきる気はするが、地球のパワーバランスもそんなものだ。

 この世界でも、『武器も使わずモンスターを倒せるようなやつは人外』ってことなんだろう。

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