フェミルちゃんは、わんこでウサミミ

 戦利品を受け取ったオレは、公園らしきベンチの上に袋を置いた。

 一枚一枚、手のひらに乗せて行く。


「あはははは。大量だなぁ」

「でもちょっと、やりすぎ国士無双な気がしないでもないわね」

「そのへんは、加減したから大丈夫だよ」

「アレで?!」

「六万は痛いだろうけど、破産するほどの額じゃないからな」

「けっこう、鬼畜ね…………」

「まぁでも相手が悪いだろ?」

「それは確かに、そうだけど……」


 オレは流れでついてきていた、フェミルに言った。


「手ぇだせ」

「ははははっ、はいっ!」


 なにをされると思ったのか、フェミルはブルブル震えてた。

 オレはそんなフェミルの両手に、金貨をじゃらりと乗っけてやった。


「ひややややっ?!」

「なんだよ。クモでも乗っけられたみたいな顔して」

「いややや、あのっ、あのっ、どうして……?!」

「フェミルがいないと、手に入らなかった稼ぎなわけだし?」

「はうぅ…………」


 フェミルは金貨を握りしめ、ためらいがちにオレと金貨を交互に見やる。


「っていうかこれを受けとれないなら、冒険者はやめたほうがいいんじゃないか? 

 さっきだって、先に七体分だけ焼却したあと、『依頼にあった分は燃やした。だからその分のおカネだけくれ』って交渉すればよかっただろ?」

「あっ……」

「口先でうまく回せなければ、理不尽を壊す力もない。

 誰かを小ずるく利用することもできない。

 それでどうやってやっていくつもりなんだ?」


「厳しいけど……。人間界は、国士無双だもんね……」


 わりと前から思っていたが、ローラの使う『国士無双』は範囲が広い。

 一度頭をかち割って、中を覗いてみたい気分だ。

 そんな会話をしていると、ちょっぴり小腹が空いてきた。

 オレは公園を見渡す。


「丸パン焼きなのじゃー」

「おいしいのじゃー」

「おいしいのじゃー」


 ちっこいやつらが屋台をやってた。

 愛らしい犬耳と尻尾がついた、一二〇センチぐらいのやつらだ。

 店名を見れば、丸パン焼きと書いてある。

 興味がそそられる店名である


「暗い話をするんなら、食べものぐらいは明るくしたいな」

「それはいい考えね!」

「わたしも、おなかはすいてるです……ぴょん」


 満場一致だ。

 オレは屋台へと向かう。

 パンを焼いている鉄板は、タコ焼きのそれとそっくりだった。


「丸パン焼きってなんなんだ?」

「丸いパンをこんがり焼いて、ソースとかをかけるのじゃー」


 屋台の店主をやっている、ちっこいのが言うと、左右からも現れた。


「おいしいのじゃー」

「おいしいのじゃー」


 合わせてふたりの小さな『のじゃー』が、箱に入った丸パン焼きを見せてくる。


「おひとつさんなら、お無料さんで食べていいのじゃー」

「ぬすっと食べてけキャンペーンなのじゃー」

「それではひとつもらおうか」


 オレはつまようじで刺した。


「焼き立てさんは、うまうまの代わりにあつあつなのじゃー」

「油断をすると、ヤケドが熱くて、お注意なのじゃー」


「よっしゃローラ、口あけろ」


「どうして今の説明聞いて、アタシに食べさせようとするのっ?!」

「オマエが熱くて痛い思いをしても、オレはまったくしないからな」

「ケーマのばかあぁ!!!」


 ローラが大きな口をあけた隙を狙って、丸パン焼きをねじ込んだ。


「吐きださず食えよ?」

「○×△$■!! ○×△$■ーーーーーー!!!」


 ローラはじたじた暴れるが、オレは口を押さえてる。

 飲み込むまでは、なにもできない。

 ごくりと飲み込んだのを見計らってから、手を離してやる。


「ああああっ、熱かったぁ! 口の中、ほんとのほんとに熱かったあぁ!!」

「それはすまなかったな。ヒール」

「ケーマの、ばかあぁ……」


 ローラは、涙目でうめいた。

 が――。


「でもおいしかったから、もう一個……」


 オレの上着をキュッ……と握って、口をあーんとあけてきた。


「どんな風においしかったんだ?」

「外はすっごいカリカリトーストな感じなのに、噛むとトロッとおいしいソースがでてくるの!

 走れるぐらいにスパイシーで辛いんだけど、クセになって中毒になって、廃人になりそうなおいしさ!!!」


「廃人はダメだろっ?!」

「悪いうわさを流されたのじゃー!」

「のじゃーたちの『しんせつ』が、ふぁっくされてしまったのじゃー!」

「とととっ、とにかく国士無双ってことよ!!」

「いったいどんなとにかくなんだ?!」

「いいからちょうだい! ほしいのっ! ほしいのおぉ!」


 ローラはオレにぺたりとくっつき、口をあんあんあけてくる。

 ぴょんぴょんぴょんって跳ねてくる。

 ローラの巨乳がオレで潰れて、ずりゅずりゅとこすれるっ!


「ほほほっ、ほしがる前に、自分の巨乳がどうなってるのか確認しろっ!!」

「えっ……?」


 ローラは無言で目線をおろす。

 オレの胸板で潰れ、むにゅ……♥とすばらしい谷間を作りだしてる巨乳を見やった。


「ケケケケッ、ケーマのえっち! ホントにえっち! ばかあぁ!!」


 胸を隠して必死に叫んだ。

 顔はもう、耳まで真っ赤で紅だ。


「でも……、ちょうだい……」


 それでもローラは、胸を隠したままの姿勢で、口を、あーんとあけてくる。

 かわいい。


「値段はいくらだ?」

「六個ひと箱で三〇〇バルシー。ふた箱だったら五〇〇バルシーなのじゃー」

「ふた箱もらおう」


 オレは銀貨を親指で弾き、のじゃーに渡した。


「ひと箱目はオレ。ふた箱目はこっちのウサギの女の子に渡してくれ」

「わかったのじゃー」


 箱を受け取り、丸パン焼きにつまようじを刺す。


「冷ましてよ?! 今度はしっかり冷ましてよ?!」

「わかったわかった」


 オレは丁寧に冷ましてから、ローラの口に入れてやる。

 ローラはパクンと口に含んで、もぐりと噛んだ。

 が――。


「?!?!?!?!!!!」


 クワッと目を見開いた。

 吐きだしそうな気配もあった。

 そんなもったいないことはさせない。

 オレはローラの口をふさいだ。


「んふぅ! んふぅ! んふうぅ~~~~~~~~~~!!」


 ローラはじたばた暴れていたが、オレはまったく痛くない。

 よってなんの問題もない。


「ごっくんしろよ」

「んふうぅっ…………!」


 ローラはなんとか、ごっくんと飲み干した。

 オレは手を離す。


「ふええっ、えっ、ふええぇ~~~~~~~~」


 ローラは、けほけほセキをした。


「ツーンってきたあぁ、なんかすっごい、ツウゥンってきたあぁ」

「それは緑の、わさわさソースなのじゃー」

「うっかり食べると、鼻がツーンとするのじゃー」


 のじゃーふたりは、ほくほく笑顔で得意げだった。


「どうしてそんなの入れてるのっ?!」

「作ってる時は、とっても楽しかったのじゃあぁ……」

「食べてる時は、ありんこほども楽しくないからあぁ!!」

「「「のじゃあぁ……」」」


 嘆くローラはさておいて。

 丸焼きパンを食べてみた。

 サクッとした触感が歯に伝わって、次にとろりとソースがこぼれる。

 しかしこれ、ソースというより…………。


(カレー?!)


 カレーとしか言いようのない、とろみと風味が口に広がる。

 さらにポテトが内部にあった。

 奥歯で噛んだ瞬間に、ほろりと崩れて舌の上をすべる。

 ごくりと飲むと、汗がにじんだ。

 うまい。


 てれれ、てってってー。

 レベルもあがった。



 レベル     1335→1338

 HP     11415/11415(↑25)

 MP     10520/10520(↑23)

 筋力      10224(↑24)

 耐久      10253(↑20)

 敏捷      10172(↑22)

 魔力       9680(↑23)


 習得スキル

 なし

 上昇スキル

 なし



 レベルのあがりはまぁまぁで、スキルについてはなにもなし。

 よくも悪くも、普通の食事といったところだ。

 しかしメシ食ってるだけでレベルがあがるって、本当にチートだな。

 ローラの力でフェミルを見ると、こんな感じだったりするし。



 名前 フェミル=クロケット

 職業 赤魔術士


 レベル    17

 HP      68/68

 MP     170/228

 筋力     28

 耐久     25

 敏捷     68

 魔力      244


 スキル

 火炎魔法LV1 11/50  杖術LV1 2/50


 ◆赤魔術士

 火炎系の魔法を得意とする魔法使い。

 


 フェミルのレベルは17だ。

 一方のオレは、丸パン一個で3あがる。

 六個セットを食べるだけで、フェミルの一生分に匹敵するのだ。

 チートだな! ホント!!


 しかしオレは別格にしても、フェミルもわりと強いような気はする。

 近接戦は論外だけど、魔法系のステータスは高い。


(同じレベルでの平均とか、見れないものかな)


 そんな風に思っていると、細かい説明がでてくれた。



 名前  平均赤魔術士レベル17

 職業  赤魔術士


 レベル    17

 HP      70/70

 MP     119/119

 筋力     32

 耐久     31

 敏捷     70

 魔力      120



 こうして見ると、フェミルのステータスはかなり高い。

 魔法については、けっこうな才能があると思う。

 オレは尋ねた。


「なんでさ、冒険者なんてやってるの?」

「わたしは初歩限定とはいえ、魔法を使うことができました……」

「うん」

「アタシが知ってる範囲だと……魔法を使える子っていうのは二〇〇人にひとりぐらいだから、『使える』ってだけで貴重なのよね」


 アホの子すぎる駄女神であるが、肩書きは『知の女神』である。

 知の泉的なものにアクセスをかけて、情報を取得できるのだ。

 なので載っていないことにはまったくの無知だが、載っていることについてなら詳しい。

 巨乳を除いた、ローラ唯一の長所と言えるかもしれない。

 が――。


「むかしは、そのぐらいの割り合いだったみたいですね……」

「ふみゃあぁ!」


 情報が古いこともある。

 よくも悪くも辞書なのだ。


「あっ……でもでも、五〇人にひとりぐらいしかいないのも、だから貴重なのも変わってはいないです!!」


 レベル17の初心者に気を使われる、恥の駄女神ローラ=ギネ=アマラさんであった。

 オレは慰める意味で、丸パン焼きにつまようじを刺した。


「ほら、口あけろ」

「うん……」


 あーん、したローラに、丸パン焼きを食べさせる。


「しかし五〇人にひとりなら、やっぱり優遇されるものなんじゃないか?」

「国立魔法アカデミーには無条件で入れます。

 よほどの落ちこぼれでもなければ卒業もできますし、魔術士ギルドを通して就職もできます……」


 それでいて、向かない冒険者をやろうとしてたってことは……。


「よほどの落ちこぼれであったってことか……」

「ファイアーボールは、得意であったんですが……」

「うん」


「丸一年で、ファイアーボールしか覚えれませんでした……」


「それはキツイな……」

「それだけであれば、まだよかったのですが……」

「が……?」

「フレイムニードルを使えれば合格の試験で、魔法を暴発させてしまって……」

「て……?」



「学長先生の、カツラを…………!」



 それはやっちゃいけないことだ。

 ガンジーだろうと助走をつけて殴りかかって、お地蔵さまでも手足を生やし、胴回し回転蹴りを叩き込んでくる。

 退学も仕方ない。


「でもでも! 冒険者には、卒業したらなろうとは思ってたんです!」

「そうなのか」

「死んだお父さんが、世界のいろんな遺跡を旅する冒険者でしたので……」


 フェミルは、ブローチを胸元から取りだした。

 真っ赤なルビーが、太陽の光りに当たってまぶしい。


「でも向いてないよな」

「あぐぅ……」


 フェミルは、しょんぼりうなだれた。頭のウサミミも垂れる。

 慰める意味合いを込めて、箱の中の丸パン焼きにつまようじをさせた。


「ほら」

「あぅ……」


 あーん、させて食べさせる。

 もこもこもこ、こくん。

 フェミルは小さく飲み込んだ。

 小さくゆれるお尻の尻尾が、とてもかわいい。

 耳はウサギなフェミルだが、お尻の尻尾は犬っ子だ。


「まぁとりあえず、しばらくはオレが面倒みてやるよ」

「えっ?!」

「ここで別れて、野垂れ死にされても後味悪いし」

「ですが……、その……」

「身の危険を感じるって言うなら、スルーでもいいけど」

「それはないです! 変なことはされましたけど、悪い人ではないってことはわかりますから!!」

「そうか」

「ですけど……、その……」


 フェミルはしばしもじもじとしたのち、上目使いで言ってきた。


「よろしいのですか……? ごいっしょしても……」

「だからいいって言ってるじゃん」

「しかし……」


 フェミルはローラをチラと見た。


「さっきコイツが、人間界は厳しいとかって言ったことについてか?」

「そういうことなら問題ないわよ!」


 ローラはえへんと、胸に手を当て言い切った。


「アタシは女神!

 人間界が厳しいというなら、そのことわりをデストロイする存在っ!!」

「それだと邪悪な破壊神だろっ!」


 オレは頭をぶっ叩く。


「ふえぇん……」


 駄女神は頭を両手で押さえ、涙目でうめいた。

 ちょっと可哀そうな気もしたが、突っ込んでおかないと誤解を受ける。


「ええっと……」

「まだなにか?」

「ケーマさんとローラさんは、男女のご関係では、なかったのですか……?」

「そそそそっ、そんなわけないじゃない!!」


 ローラが真っ赤になって叫んだ。


「だってケーマよっ?! ありえないでしょ?!

 頼りになるしフツーに強いし、頭もよかったりもしてるけど……」


 褒めてることに気づいたのだろう。

 ローラの顔が、ゆでられたみたいに赤くなってく。


「それでもドエスよっ?! アナタも見たでしょ?!

 熱がるアタシや悶えるアタシを、楽しそうにいじめてた姿!!」

「………………はい」

「すまんなローラ。オレがサディスティックだったばっかりに……」

「謝ってるの?! それって謝ってるのっ?!」

「いやホント、サディスティックで悪かったな」


 オレはローラの両頬をつまみ、お約束のように引っ張り伸ばした。


「ふみいぃ~~~~~~~~~~」


 楽しい!!

 と思ったオレは、フェミルに爽やかな笑みを浮かべた。


「こんなオレだが、コイツ以外には紳士で行くつもりだから安心してくれ」

「確かにケーマは、言ったことはやってくれるわ……」


 ほっぺたをつねられたローラは、両のほっぺに手を当ててつぶやいた。

 フェミルは、ぺこりと頭をさげた。


「よろしく、お願いします……ぴょん」

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