力仕事なら一瞬です。
部屋をでて階段をおりる。
アーシャが、テーブルで叫んでた。
「ケーマさまも、わたくしの運命のおかたではございませんでしたわあぁ!!」
その右手には酒。
ごきゅごきゅと飲んで、息をついて声を荒げる。
「それでもお酒は最高ですわあぁ!!!」
強すぎるだろ、あの人。
誰かもらってあげてください。
◆
そんなこんなでギルドについた。
Gランク用の依頼が並ぶ、緑の掲示板の前に立つ。
「どの依頼にしようかな……」
「おカネがいっぱい稼げるやつ!!」
「一日の稼ぎが一日の宿泊費で吹っ飛ぶのは困るよな」
「でしょでしょでしょ?! 幸せの99パーセントは、おカネでなんとかなることでしょ?!」
「99なら、そうかもな」
「今日のケーマ。ものわかりよすぎいぃ~~~~~♡♡♡」
女神はオレの腕にくっつき、顔をすりすりこすらせてきた。
「くっつかれると、おっぱいが腕に当たってしまうんだが……」
「ケケケッ、ケーマのえっち!」
駄女神は、顔を赤くしてオレから離れた。
ちょっと今朝から、この駄女神をかわいいと思うオレがいて困る。
それはさておき。
「受けるとしたら、この依頼かな」
依頼。
荷物の運搬。
難易度
G
報酬。
三〇〇バルシー。
詳細
不要になってしまった金庫を倉庫に入れたい。
とても重いので、三人以上で受けてほしい。
「なにそれ?!」
「荷物の運搬。不要になってしまった金庫を、倉庫に入れてくれってさ」
「報酬は?! タマゴゲットの二倍?! 十倍?! 五十倍?!」
「三分の一だよ」
「ハアアッ?! なにそれっ! 意味わかんない!
バカなの?! ケーマはバカなのっ?!」
オレはローラにデコピンを入れた。
「あいたぁ!」
つかホント、学習しないなコイツ。
「ランクの低い依頼は、安いのが多い。
稼ぎたいなら、ランクをあげる必要がある。
だけどランクをあげるには、たくさん仕事をする必要がある。
ここまで言えば、なにをするべきかはわかるだろ?」
涙目のローラは、自身のおでこを両手で押さえてつぶやいた。
「女装……?」
「なにその解答?! 意味わからないんだが?!
今日の天気どうですかって尋ねたら、『六天魔王の信長なり』って答えられたような気分だよ!!」
「ちちち、ちがうのよ!
おカネがないなら、ケーマが体を売るべきじゃ……? って思っただけ!
でもそのままだと難しいから、まずは女装? って思ったの!!」
そういうことか!
論理的には理解できたが、倫理的には論外だ!!
「つーか体を売るんだったら、自分の売れよ!!
オマエだったら、けっこう高く売れるだろっ?!」
「いやよそんなの!! アタシ女神よっ?!
っていうかいくら高く…………って、えっ? えっ?」
なぜか女神は、うれしそうにほっぺたを赤くした。
「ケーマは、アタシは高く売れそうって感じるんだ……」
「まっ、まぁ…………な」
「そっかぁ。えへへ。そっかあぁ」
アホのローラは、うれしそうにはにかんだ。
「もぉ~~~。素直じゃないわねぇ、ケーマってばぁ~~~。
アタシのことを偉大なる美の女神って思ってるなら、そう言ってくれればいいのにいぃ~~~~~」
オレはクソッとムカついた。
お約束のように、ほっぺたをつねる。
「ふみいぃ~~~~~~~~~~~~~!」
依頼を、窓口に持って行く。
「これ、お願いします」
「金庫の運搬ですか……」
「はい」
「この用紙には、重いので三人以上、とありますが……」
「力には自信があるので大丈夫です」
「失敗をくり返した場合、規制と制限が入るので気をつけてくださいね」
「はい」
「それでは、こちらのカードをお受け取りください。
あなたが、この依頼を受けたという証拠になります」
G-22のカードをもらい、オレは依頼主のところへと出向いた。
◆
目的の家は、そこそこ大きな三階建ての家であった。
オレはドアをノックする。
ドアの奥から声がした。
『何者かね?』
「ギルドの依頼を受けた者です」
ドアが開いた。
長くつややかな髪が印象的な、美人なおねーさんがでてくる。
「私はリリナ=ハイロードだ。キミが、今回の依頼を受けてくれた冒険者か」
「はい、その通りです」
「私が頼んだ依頼書には、『三人以上』とあったはずだが?」
「オレひとりでも、三人以上の働きはできます」
「キミは、BランクかCランクであったりするのかね?」
「Gランクですが、そのぐらいの力はありますよ」
リリナは、にっこりとした笑みを浮かべる。
「大言を吐く若者のことは、けして嫌いではないよ」
しかしすぐさま、鋭く瞳を細めて言った。
「実力が伴っていることが前提だがね」
オレはニヤリと笑って答える。
「オレはそれの逆ですね」
「ん?」
「大言を吐くのが、とても苦手なんですよ」
リリナは、からからと笑った。
「これはもう、実力を見せてもらうしかないようだねぇ」
「金庫運びでよかったら、いくらでも見せますよ」
オレは家へと案内された。
居間を抜け、薄暗い書斎へと案内される。
金庫は、その奥にあった。
「見ての通り、カギのところが壊れていてね。金庫としては心もとない」
リリナは、形よいアゴに手を当てた。
「しかし使われている金属は、グラビテリアス重合金という特別な金属でね。
とても重いが、それなりに高価だ。
武器や防具の素材になることもある」
「だから金庫は新しいのを買って、これは庭の倉庫に入れておくっていうことですね」
「理解が早くて助かるよ」
オレは金庫に近寄った。軽く抱える。
「待ちたまえ。封印陣は、まだ……」
リリナがなにか言っていたが、遅かった。
ゴアッと高く持ちあげてしまう。
「なっ……?!」
「なんか問題ありました?」
「金庫は容易に持ち運びができんよう、金庫の底部と床に、封印術式をかけていた。
その重量は、本来の重さの五倍近くにはなっているはずだが……」
「ですから、言ったでしょう? オレは大言を吐いていたわけじゃないんですよ」
「えへへへへ、すごいでしょ! アタシのケーマなのよっ!」
「誰がオマエのだ。誰が」
「きゃあんっ!」
オレに足を踏まれたローラは、涙目で叫んだ。
「ギュッて踏んだぁ! とっても痛めに、ギュウッって踏んだあぁ!!」
「もっとデカくて硬いのがほしいのか?」
オレは金庫を傾けた。
「ふえぇぇぇぇぇぇん! やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!
謝るからっ! 謝るからやめてえぇぇぇぇぇぇぇ!!!
そんなすごいのがきたら、死んじゃうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」
「よろしい」
オレは金庫を傾けるのをやめた。
「キミは、本当にGランクなのかね……?」
「言いませんでした? BランクやCランク程度の力はありますって」
「大言壮語ではなかったということか……」
オレはそのまま金庫を運び、庭にある蔵へと向かった。
指定された場所に置く。
「これで依頼は完了ですか?」
「うむ……」
「それでは、カードにサインをお願いします」
リリナは、素直にサインを記してくれた。
「確かに、受け取りました」
「ところでキミは、金銭には不自由しているかな?」
「えっ?」
「そのままの意味だ。不自由しているかどうか、答えてくれればそれでいい」
いったいどういう意味なのか。オレは質問の意図をはかった。
相手の意図を当てることが目的ではない。
色んな考えを事前に想定しておくことで、動じないようにしておく心の構えを作っておくのが目的だ。
が――。
「しているわっ!!」
アホの子は即答しやがった。
「今の宿屋が一泊1000バルシーもかかるのに、一日の仕事もそのぐらい!!
オマケに借金もあるの! アタシはアタシは…………」
「オマエはどうして初対面の相手に、自分の生活を赤裸々に語ってるんだよ!!」
「ふみいぃ~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
しかしここまで言われたら、隠すことは無理だろう。
オレはローラを背中から抱きかかえ、手で口をふさいだ。
「大体そんな感じです。
しかし借金もそう多いわけではありませんので、大丈夫です」
「多くないとは、どのくらいかね?」
「ギルドに登録する際にかかった、三万バルシーだけですよ」
「確かにキミの実力から言えば、時間の問題でどうにでもなりそうな金額だね」
リリナは、ポケットに手を入れた。
手のひらサイズの、皮の袋をだしてくる。
「受け取るといい」
オレは受け取り、中を見た。
銀貨と金貨が詰まってる。
「全部合わせて、二万バルシーといったところかな」
「どうして……?」
「私は、商人だからね。
有望そうな冒険者と繋がりを持っておくことは、後々の益になる」
「なるほど……」
理屈としてはよくわかる。
しかしこの人の言葉が、真実だとは限らない。
オレはおカネをリリナに返した。
「ちょっと待ってもらえますか? 調べたいことがあります」
「いいだろう」
「えっ、ちょっ、返しちゃうの?!」
「うん」
「ふみいぃ……」
ローラは露骨にしょんぼりとした。
でも今の段階で、このカネを受け取るわけにはいかない。
オレはローラを引きつれて、ギルドへと向かった。
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