おいしいお団子を食べる。

 タマゴを取って街に戻った。

 依頼主さんのところへと出向く。

 ダックのダンゴ屋とあった。


「ここでいいのかな……」


 オレがぽつりとつぶやくと、おっさんがでてきた。


「やぁ、やぁ、やぁ。キミが今回、依頼を受けてくれた冒険者さんですな?」

「はい、そうです」

「私がこの店の店主、ダック=ホワルドですぞ」

「よろしくお願いします」


 オレは店の中に入った。

 カウンターの上に、依頼されたタマゴを置く。

 店主のダックは、片眼鏡のようなアイテムでタマゴを見やった。


「イチ、ニィ、サン…………確かに五つ。

 壊れてもいないようですな」

「ありがとうございます」

「それではカードをだしてくれますかな?」


「カード?」

「依頼を受けた時にもらった、Gのナントカって数字が書かれているカードですぞ」

「これですか」


 オレはG-47と書かれたカードをだした。


「そうそう、これですな」


 ダックはカードに、ダックと自分の名前を書いた。


「これをギルドに提出すれば、依頼は終わりですぞ。

 なくしたらおしまいだから、なくさないようにですな」

「はい」

「うん、うんですぞ」


 ダックは、にこにこと笑った。


「ところでウチは、ギルドと契約のようなものを結んでいるんですな」

「契約?」

「ウチは毎月一回以上、Gランクぐらいの依頼をギルドにだすですな。

 その代わり、手数料なんかをすこし安くしてもらっているですぞ」


「あなたはタマゴをすこし安く入荷できる。

 冒険者は経験を積むことができる。

 ギルドは一定の収入を確保しつつ、冒険者を育成できる――ってわけですか」

「それに加えて、もうひとつあるのですな」


 ダックは、笹の葉に乗ったそれをだした。

 若葉色のまんじゅうだ。


「いつもは一個一〇〇バルシーですが、今回は初回サービスで無料ですぞ」


 ローラが言った。


「無料ってこと?!」

「そうなるですな」

「なにそれ、すごい!! 実は神さま?! ゴッド?! 太っ腹のデブ?!」

「オマエなに失礼なこと言ってんの?!」

「ふみゃあ!!」


 オレはローラの頭を殴り、ヘッドロックもかけた。

 ダックさんに謝罪する。


「いやもうホント、すいません! ウチのアホが!」

「大変ですな……」


 ダックさんは、苦笑いをしていた。


「とにかくタダでいただけるなら、ひとついただかせてもらいます」


 オレは団子を手に取った。

 ふんわりとした手触りでありながら、ずっしりとした重量感がある。


 匂いをかいだ。

 五月に萌ゆる若葉のような、緑の香りが鼻孔をくすぐる。


 かじった。

 若葉色のまんじゅうに、オレの前歯が食い込む。

 あんこめいたとろける甘みがオレの唾液と混ざってとろけ、口いっぱいに広がってくる。


 うまい。

 レベルもひとつアップする。


「ケーマ! ケーマ! ケーマあぁ!」


 ローラが両手をギュッと握って、その場でじたじた足踏みをした。

 あーん! と口もあけてくる。

 かぽっと入れた。


 もきゅもきゅもきゅ。 

 ローラは咀嚼し飲み込むと、両のほっぺたに手を当てて――。


「おいしいぃ~~~~~~~~~~~~~!!!」


 (><)な顔で感激した。


「なにこれ! おいしい! すごい!

 爽やかすぎる若葉の騎士が、アタシの舌とこの街を、緑の香りの爽やかさで滅ぼす甘み!!」


「「滅ぼすの?!」」


 オレとダックさんがハモった。

 相も変わらず、コイツの言語は時々妙だ。


「材料なにっ?! なにで作ってるの?!」

「ついてくるですぞ」


 ダックはオレが持ってきたタマゴを持って、店の裏へと向かった。

 オレとローラはついていく。

 とても広い裏庭では――――。

 

(もしゅもしゅもしゅもしゅ)

(もしゅもしゅもしゅもしゅ)

(もしゅもしゅもしゅもしゅ)

(もしゅもしゅもしゅもしゅ)



 グリーンキャタピラー。



 大きな双葉をもしゅもしゅ食べている。

 オレがタマゴを取ってきたところにいた個体と同じく、一枚につき一体である。


「えっ……? えっ……?」


 ローラの顔が青ざめた。

 ただオレは、既にタマゴを飲んでいる。

 だから意外と平気であった。


「グリーンキャタピラーを、材料に使っているわけですか」

「そう思うでしょうな」

「違うんですか?」

「違わないと言えば違わないですが、違うと言えば違うんですぞ」


 ダックさんは、得意げにドヤ顔でニヤニヤとしていた。


「使っているのは、グリーンキャタピラーじゃないですぞ。

 グレート・ラビッシュを食べて育った、グリーンキャタピラーですな」


「なるほど……」

「えっ、ちょっ、どういうことっ?!」


「例えば魚がいたとするよな?」

「うん!」

「毒のある虫を食べた直後の魚を丸焼きにして、丸ごと食べたらどうなると思う?」

「おいしい!!」


 オレはローラのほっぺたをつねった。


「ふみいぃ~~~~~~~~~~~。

 なんでっ?! なんでっ?! なんでえぇ~~~~~~~~~~~~~?!

 焼いた魚は、おいしいでしょおぉ~~~~~~~~?!」


「毒を持ってる虫を食った直後の魚だったら、毒を持ってるに決まってるだろうが!!」

「そういうことなら、普通に言ってよおぉ~~~!

 ふみいぃ、ふみいいぃ~~~~~~~~」


 アホの子ローラは、ほっぺたをつねられたまま喘いだ。


「ウチのグリーンキャタピラーは、その逆ですな。

 いろんな葉っぱを食べさせて、一番おいしくなるやつを選んだですぞ」


 ダックさんは、しみじみとうなずいた。


「五〇種類は試したですぞ……」


 確かに、その苦労に見合う味ではあった。

 カネに余裕がでてきたら、お得意様になりたいところだ。

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