はじめてのクエスト

「ええっと……」


 チンピラにやさしくされたオレは、ガイドメモを眺めた。


「キャタピラーは、街の南からでてまっすぐに行けば見つかる、『始まりの森』にいる…………か」


 なんてことのない一文である。

 しかしガイドメモには、続きがあった。


「北方に位置するデスペランドの森には、絶対に入らないでください。

 ダブルAランクのキメラライオンや、Bシックスのマッドうりぼうなどがいます。

 仮に入って遭難しても、救助隊はでません」


「ダブルAとかBシックスってどういう意味なの? ケーマ」

「ダブルAはAランク冒険者がふたり。

 Bシックスは、Bランク冒険者が六人がかりでようやく安全に討伐できるって意味らしいね」

「なるほどね……」


 駄女神はうなずいた。

 だがオレは、冷や汗をかいていた。


 オレたちがいた森って、そんな危険なところだったのかよ!!


 ただ逆に言うと、だから安全にすごせたんだろうな。

 高レベルのモンスターがひしめいてるから、ナワバリを逸脱するモンスターも少ない。

 相手のナワバリを把握できてさえいれば、事故が起きる確率は最小限で済む。


 歩くことしばらく。

 緑の森が見えてきた。

 かなりの冒険者が日常的に入っているのだろう。森には道ができてた。

 それでも一応、警戒して入る。


「ギャギャギャギャ」

「キー、キー」

「ホー、ホー」


 鳥や虫の鳴き声は聞こえるが、オレやローラが襲われることはない。

 森にいる生き物からして、この道を通る生き物(つまり冒険者)を襲うのは危ないと理解している感じだ。


 さらに進むと、道が途切れた。

 目の前に広がるは、何十枚もの葉っぱ・・・

 それはもう、本当に葉っぱだ。


 ただしデカい。

 オレの腰ぐらいの高さに、子どもが楽に乗れそうな広さを持ってる。


 そんな葉っぱがフキノトウのように、地面から生えていた。

 体長三〇センチぐらいの芋虫が、葉っぱをもしゅもしゅ食べている。

 葉っぱに乗っているのは、一枚につき一匹だ。


「これがグリーンキャタピラーかな?」

「そんな感じね!」


 オレはタマゴを探すべく、葉っぱたちに近づいた。


「キャタッ?!」


 一番近くの芋虫が、オレの存在に気付く。


「キャタピィーーーーーーーーー!!」


 その芋虫は体を起こし、超音波めいた音を発した。


「キャタッ?!」

「キャピ!」

「キャタピイィーーーーーーーーー!!」


 声を聞いた芋虫たちは、一斉に丸まった。

 ころりと葉っぱから落ちる。

 半分が死んだふりをして、もう半分はダッシュで逃げた。

 知っていることは知っている辞書女神ローラが、解説を入れた。


「それぞれ違う行動を取ることで、逃げたほうがいい相手でも、死んだふりのほうがいい相手でも、群れが全滅しないようにする本能ね」

「なるほど」


 オレが納得していると、叫んだキャタピラーが糸を吐く。

 自分が死んでも群れが助かればいいという、本能的な行動だ。


 群れ全体をひとつの個体として考える虫は、地球にもいた。

 例えばアブラムシである。


 アブラムシは、植物の汁を吸う虫だ。

 しかしコロニーの個体が増えすぎてくると、全員が共倒れになる。

 ゆえにコロニーの数が一定の値に達すると、天敵を誘き寄せるフェロモンをだす。

 そして自分たちを・・・・・間引き、共倒れを防ぐのだ。


 種として洗練されている姿に、オレは思わず感動してしまった。

 糸をするりと回避して、接敵して叫ぶ。


「ワッ!!」

(キュタピッ?!)


 叫ばれたキャタピラーは、ビクッと震えて気絶した。

 ころんと丸まり、地面に落ちる。

 抵抗をしないなら、殺す理由もないだろう。

 ローラといっしょにタマゴを探した。


「あったわ!」

「こっちにもあったな」


 タマゴの大きさや形は、ココナッツと似ている。

 それでいて、色は淡い白黄色はくおうしょくだ。

 焼く前のホットケーキの生地っぽいと言えば、伝わるだろうか?


(ココナッツジュースって、一回飲んでみたかったんだよな……)


 というかほんと、こうやって見るとおいしいジュースのカタマリにしか見えない。

 オレはチラリと周囲を見やり、笹の葉のような草をむしった。

 茎をストロー代わりに使い、中の液を吸ってみる。

 プリンをジュースにしたかのような、とろみと甘みが舌の上に広がった。


 うまい。


 てれれ、てってってー。

 レベルもあがった。



 レベル     1279→1280

 HP     10955/10955(↑7)

 MP     10094/10094(↑8)

 筋力      9946(↑6)

 耐久      9871(↑7)

 敏捷      9852(↑6)

 魔力      9301(↑7)


 習得スキル

 なし

 上昇スキル

 まろやかLV2 30/150(↑10)



 謎のスキルが上昇してたが、納得である。

 これは確かに、まろやかだ。

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