「女はオマエらにくれてやる! 好きにしろ!」 by主人公
オレは掲示板を見つめ、端のほうからGランク用の依頼を探す。
落書きの消去。 二〇〇バルシー。
街のドブさらい。三〇〇バルシー。
商人の荷物運び。五〇〇バルシー。
さすがGランク。安全そうな依頼ばかりだ。
(でもどうせやるんなら、モンスターと戦える依頼だよなぁ)
モンスターを食えば、スキルも経験値もアップするし。
考えながら見ていると、気になる依頼を見つけた。
依頼。
キャタピラーエッグの採取。
難易度
G+
報酬。
一〇〇〇バルシー。
詳細。
キャタピラーエッグのタマゴを求む。
数は五つ。
壊れていた場合、買い取りは不可。
「なぁローラ。キャタピラーエッグって聞いてわかるか?」
「ええっと……」
ローラは、自身のこめかみをトントンと叩いた。
一応知の女神らしいコイツは、知の泉とかいう知識が溜まってるところにアクセスすることができるらしい。
大層っぽい機能だが、要するに辞書だ。
定期的にアップデートしないと、情報が古くなるとも聞いた。
「名前の通り……
「本当にそのままだな」
オレはほかの依頼も見てみた。
しかしこれ以外だと、ゴブリン討伐ぐらいしかモンスター系の依頼はなかった。
芋虫とゴブリンなら、芋虫のほうがいいよね。
キャタピラーエッグ採取の依頼の紙を持って、受付けに行った。
「これは……G+の依頼ですね」
「いけませんか?」
「規約的には問題ありませんが、初めての依頼で――となると、おすすめはいたしません」
「大丈夫ですよ。ふたりいますし」
「そうですね……」
受付けのおねーさんは、一枚のカードをだした。
「こちらのカードをお受け取りください。
この依頼を受けたという証拠になります」
カードには、G-47とあった。
「ありがとうございます」
オレは礼をして、ローラといっしょにギルドをでた。
お約束なクエストだけど、『きたぜ、異世界!』って感じでいい気分だ。
しかしそんなオレの背後に、不穏な影が近づいていた。
強い悪意だ。
オレは気づかない振りをして、人気のないところまで行った。
「えっ、あれっ、ケーマ。この道ちょっと違わない?」
「気にするなよ」
「気にするわよ!
狭い上に人もほとんどいないじゃない!
まさか、アタシを……?」
駄女神ローラは、気配にまったく気づいてなかった。
「ダダダダ、ダメよぉ、そんな!
アタシを襲いたくなるってのは仕方ないかもだけど、物事には、時と場所と順序と順番ってのが……!」
「いいから黙れよ」
「ふみぃ!」
オレはほっぺたをつねり、駄女神を黙らせた。
「おいおいおいおい、おーいおいおい!」
「見せつけてくれるネエェ!」
「あれこれヤッちゃうつもりだったんだろうが、そんなことはさせねぇってなぁ!」
スキンヘッドの三人組が、肩をいからせやってきた。
「「「このセルビルは、青少年も暮らせる健全な街だ!!」」」
「本音は……?」
「「「女連れとかふざけんな!!!」」」
実にわかりやすい三人であった。
正直、嫌いではない。
この三人なら、ローラを幸せにできるかもしれない。
むしろそうだな、幸せにできるな。
オレは言った。
「この女はお前らにくれてやるっ! 好きにしろっ!!」
「「「ファッ?!」」」
三人の男は、ハトが機関銃を浴びたみたいに目を丸くした。
「ちょちょちょちょ、なに考えてるのよっ! ケーマぁ!」
「オレではオマエを、幸せにできない……」
「そうね……。確かにアタシとケーマでは、釣り合いが取れていない感じはあるわね……」
ローラはしんみりつぶやくと、慈愛に満ちた顔で言った。
「だけどアタシは、女神なのよ!!
いくらケーマがなっていない子でも、その成長を温かく見守ってあげてもいいと――!!!」
「なんで上から目線なんだよ!!」
「みいぃ~~~~~~~~~~!」
オレがほっぺたをつねると、駄女神はあえいだ。
オレたちを囲んでいたスキンヘッドたちが、なんとも微妙な顔をする。
(コイツって、別に羨ましくないんじゃないかな……)って表情だ。
ため息をついて、オレは言った。
「で……。要件はなんでしたっけ?」
「俺様たちはこう見えて、『ご親切な三人組』でネェ」
「オマエみたいな新米を見つけては、パシリ……じゃなくって、荷物持ちにしてやってるのサアァ!」
「俺様たちの、レベルの高いバトルを危険ナシで見ることができるんダゼェ?」
「「「と、言おうと思ってたんだが……」」」
男たち三人は、憐みの目でオレを見た。
飢えに喘ぐ民衆が反乱を決意して、貴族の屋敷へと突入。
しかし貴族の家にも、カネと食料はない。
豪華だったのは住家だけ。
彼もまた、被害者だったのだ……と理解した農民。
三人は、まさにそんな顔をしていた。
「はぁ……」
オレはため息をついた。
ローラを引き取ってもらおうと思っていたけど、完全に無理だ。
コイツらが気の毒すぎる。
相手がチンピラだからと言って、やっていいことと悪いことがある。
「レベルの高いバトルなら、間に合ってますんで……」
それだけ言って、チンピラの横を抜けようとした。
が――。
「ちょっと待って!」
よりにもよって、ローラが止めた。
「そんなレベルの高い冒険者さんたちのバトルだったら、一見してもいいんじゃない?!」
超絶アホの子な駄女神は、疑うことなく信じてた。
『健康になるツボ』って名前のツボが売られていたら、『健康になるなんてすごい!!』って買ってきそうだ。
「使ってみろよ、鑑定」
「え……?」
ローラは、冒険者たちに鑑定を使用した。
整った顔立ちが、世にもすさまじく眉をひそめた。
怒りとか失望とかより、困惑の色が強い。
真面目だと思っていた生徒会長の兄が、セーラー服を着て踊っているのを見た妹のような顔をしている。
(低いだろ?)
鑑定は取っていないオレだけど、強いか弱いかは感覚でわかるようになってる。
ローラは小さくうなずいた。
(60ぐらいあるから、ギルドの中にいた冒険者の中では、高いほうだと思うんだけど……)
(オレは1000を越えてるもんな)
(そういうことね……)
オレとローラは、改めて立ち去ろうとした。
すると三人が、おずおずと声をかけてくる。
「がんばれよ……坊主」
「ほんと……がんばれよ」
「強く……、生きろよ……」
女神ローラは、チンピラすらもやさしい人間に変える。
事実を書いているだけなのに、詐欺とまったく変わらない文章になった。
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