主人公、街につく

「それじゃあ行くわよ!」


 ローラがギュッと拳を握り、高々とあげた。

 意気揚々と歩きだす。

 オレは黙って見送った。

 そして五分後。


「ケーマまあぁ~~~~~~~~~~~~~」


 駄女神ローラは、泣きながら戻ってきた。


「道わかんないぃ~~~~~~~~~~~~~。

 いったいどっちに進めばいいのおぉ~~~~~~~~~~???」


「道わかんないクセに、あんな堂々としてたのかっ?!」

「だって仕方ないじゃない!

 気分が高揚していたんだから!!」


 気分が高揚していたんなら仕方ないな。


「待ってろ」


 オレは一言そう言って、タンと地を蹴り高く跳ぶ。

 背の高い木々をグオンと抜けて、空の中に浮きあがる。

 高い景色は、とてつもなく見晴らしがよかった。

 風もほっぺたを撫でる。


 すこし遠目に街を見てから、ふと空を見る。

 雲の合間に、シーサーベントのような生き物が見えた。


 虹色のたてがみに、乳白色の輝く体。

 その大きさは、人を七、八人は乗せれそうなほどに大きい。

 ただただ感動してしまうスケールだ。


(空のサーペントだから、スカイサーベントって呼ぶべきかな?)

(っていうか広いな、この世界)


 そんなことも考えながら、ゆるやかに落下して――着地する


「よし、行くぞ」

「うっ……、うん……」


 ローラは、オレの後ろについてくると、オレの右手をそっと握った。

 その手は意外とやわらかく、オレの心臓はちょっぴり跳ねた。


「なっ、なんだよ。いきなり」

「なんていうか……その。ありがとね…………」

「いっ……今さらか」

「うん……」


 変な気分になったまま、オレと駄女神は森を抜けるために歩いた。

 二、三日ほどかかったので、道中でいろいろと食べてレベルアップした。

 


 レベル    1226→1256

 HP     10844/10844(↑244)

 MP    9996/9996(↑210)

 筋力     9849(↑181)

 耐久     9781(↑200)

 敏捷     9751(↑201)

 魔力     9207(↑240)

 

 取得スキル

 なし

 上昇スキル

 なし



 そんなこんなで森をでる。

 幅広い草原にでた。

 ゆるやかな勾配をくだると、城壁に囲まれた街がある。


 オレはローラといっしょに進んだ。

 草原のモンスターは、おおむね小さい。


 ウサギにしてもイノシシにしても、地球にいてもおかしくないようなサイズだ。

 しかしウサギにツノがあったり、イノシシの体毛が草にまぎれる緑であったりしているあたり、異世界であると思う。


 あとは魚が、ふよふよ浮いてる。

 すこし大きいグッピーのような魚が、群れで固まって漂っている。

 本当に、異世界である。


「スキルとかってある? このへんのモンスターに」

「見た感じだと…………ないわね」

「ステータスとかは?」

「魚がレベル2。角ウサギがレベル7。草原イノシシでやっと20って感じね」

「イノシシですら、かけだしの冒険者と同じくらいってことか」

「街の近くにいる草原のモンスターってことね」


 オレは普通に歩き進んだ。


「「「○×△$■っ!!!」」」


 モンスターたちは鋭敏に反応し、脱兎の勢いで逃げていった。

 弱いけど賢い。


  ◆


 そんなこんなで街に行く。

 だがしかし、門の手前で衛兵さんに呼びとめられた。


「通るなら、身分証明書をだしてくんな、兄ちゃん」

「必要なんですか?」

「そりゃあそうだろう」

「弱ったな……」

「アタシに任せて」


 オレが困ると、ローラがズイッと前にでた。

 この自信、あてがあるとみていいのだろうか?

 街の中に知り合いがいるとか、そんな感じで。


「嬢ちゃんは持っているのかい? 身分証明書」

「もちろんよっ!」


 ローラは巨乳に手を当て、謎のポーズをビシッと決めた。


「アタシは知の女神、ローラ=ギネ=アマラ!

 アマラ教団が信望する神そのものよ!

 立ち姿からもわかる偉大なる神々しさが、身分を証明してるでしょっ?!」


 その表情たるや。

 ドヤアァ……という効果音が、オーケストラで流れていそうに壮大だった。


 もっともオレには、津波のごときアホにしか見えない。

 ただオレは、この世界にきて日が浅い。

 生まれた時からこの世界にいる人が見たら、また違う反応をしている可能性も…………。



 なかった。



 衛兵さんは、史上最大級に頭のおかしいアホの人を見つめる目つきをローラに向けてた。

 そしてオレのほうを見て、肩をポンと叩いて言った。


「がんばれよ……」


 いい人である。


「とにかく……証明書がないんなら、とりあえず街に入って、冒険者ギルドで登録を済ませてきな」

「それでいいんですか?」

「乱暴に追い返して、盗賊になられても困るんでね」


 衛兵さんはビンを取りだす。

 イチゴミルクみたいなピンク色の液体が入ってた。


「なにこれ?! おいしそう!!」


 ローラがビンをオレから奪い、こくこくと飲み始めた。


「なんなんですか? これ」

「ポイズンストロベリィを入れたミルクさ」

「ブフォウッ!」←ローラ


 噴きだしたローラは、涙目でむせながら叫んだ。


「えっ、ちょっ、ポイズンってなに?! 毒ってこと?!」

「飲んでからしばらく経つと腹痛がして、一晩で死に至るぜ?」

「死ぬのおぉ?! アタシ死ぬのおぉ?!」


「また随分と、物騒な毒を飲ませるんですね」

「身分がわからないやつってのは、それだけ危険でもあるからな」

「なるほど」

「どーして冷静にしてるのよおぉ!! ケーマのばかあぁ! おにいぃ!!」


 オレはローラを完全無視して、衛兵さんに問いかけた。


「だけどギルドで登録を済ませてくれば、解毒剤とかもらえるんですよね?」


 衛兵さんは、驚いたように目を見開いた。


「察しがいいなぁ、坊主」

「遅行性の毒で殺すつもりなら、それが毒であることなんて言いませんから」


 そういう意味だと、本当に死ぬのかどうかも怪しい。

 『はい、お釣りは三〇〇万だよ』とかいう、大阪のおっちゃんみたいな気もする。


「それにしたって、仲間が死んじまうかもしれない毒を飲まされて冷静でいわれるのは、大したもんだ。

 冒険者ってのは、いつも冷静でないといけねぇ」

「とにかく飲むのが必要でしたら、オレの分もください」

「おぅよ」


 オレはビンを受け取り飲んだ。

 味はそのままイチゴミルクだ。

 まろやかで甘く、喉越しも爽やかである。

 

 てれれ、てってってー。

 レベルがあがった。

 新たなスキルも身についたような気がする。


(このへんの感覚は、レベルアップしているうちにわかった)


 ローラに頼んで、見せてもらう。


 

 レベル     1266→1276

 HP      10924/10924(↑80)

 MP      10066/10066(↑70)

 筋力     9920(↑71)

 耐久     9846(↑65)

 敏捷     9825(↑74)

 魔力     9275(↑68)

 

 取得スキル

 まろやかLV1 2/50←←←←←←←←←←←←


 上昇スキル

 毒体質LV2 83/150(↑3)



 まろやかってスキルなのっ?!

 つかオレがまろやかになって、いったいどんな意味があるのっ?!

 心密かに突っ込んでみたが、答えが返ってくるはずもない。



 オレはまろやかになった。

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