慣れ親しんだ森をでる決意

 また一週間がすぎて、オレのレベルはこうなった。


 レベル    993→1226

 HP     10600/10600(↑1864)

 MP    9786/9786(↑1605)

 筋力     9668(↑1608)

 耐久     9581(↑1544)

 敏捷     9550(↑1588)

 魔力     8767(↑1300)


 習得スキル

 光学迷彩LV2 1/150

 マッドショットLV1 22/50



 光学迷彩LV2は、ホワイトカメレオンとかいう、白くて大きなカメレオンを食べたら獲得できた。


 マッドショットは、ドロメーバとかいう泥のカタマリのモンスターだ。

 泥の組織を取り込んだ粘菌(アメーバみたいなやつ)が集まって、どろどろとした形を作ったモンスターだ。


 どうやって食ったんだ?! と言うと、汁物にした。

 一度ゆでたあと布を使って泥を濾過して、残った汁を飲んだのだ。

 シジミのみそ汁みたいな感じで、けっこういけた。


 ローラは腹を壊していたが、オレのほうは無事だった。

 ローラの持っている毒物耐性はLV1だが、オレのはLV2だ。

 その差が大きかったと思われる。

 腹を押さえたローラは、涙目で叫んでいた。


『女神はトイレしないもん! しないもぉん!!』


 役に立たない系のスキルもあった。

 これだ。



 ぷるぷるLV4



 ドロメーバを食べたあと、マッドショットといっしょに獲得したスキルだ。

 どういう効果であるかと言うと――。


 ◆ぷるぷるLV1

 ぷるぷる。

 

 ◆ぷるぷるLV2

 そこそこぷるぷる。

 

 ◆ぷるぷるLV3

 すごくぷるぷる。


 ◆ぷるぷるLV4

 veryぷるぷる。

 

 

 意味がわからないよ!!

 スキル?! これスキルなのっ?!


 しかもどうして、レベル4から英語なのっ?!

 まったく意味がわからないよ!!


 そんなことはあったりしたが、レベル自体は順調にあがってる。

 既存スキルも、剣術レベルを4にした。

 マッドうりぼうと白虎を倒して獲得したポイントを、全部振った格好である。


 ちょっとあげてわかったのだが、スキルのレベルはひとつあがるだけでも大きい。

 特に剣術を3から4にアップさせた時は、素振りで剣圧を飛ばせるようになった。


 岩石を破壊するのは無理だったけど、樹木程度はスパッといけた。

 三メートルなら真っ二つにできて、五メートルでも傷をつけることはできた。

 細い枝なら、七メートルの距離があってもいけた。


 七メートルと言えば、けっこうな距離である。

 なにより見た目がかっこいい。

 余は満足じゃ。


 そんな感じで、それなりに充実した日々をすごしていたが――。


「ううぅ……」


 またもローラが腹を壊した。

 青ざめた顔をして、腹部を押さえている。

 毒物耐性LV1は獲得しているローラだが、この森には1じゃ足りないやつも多い。


 巨乳でツインテールで顔も愛らしいのに、台無しである。


「ケーマ! ケーマ! ケーマあぁ!」

「なんだよ」

「アタシもう、この森でたいっ!!

 このままじゃ、アタシのイメージが壊れちゃう!!」


「壊れるどころか、むしろ日に日に強まってるぞ?」

「えっ、そっ、そうなの?

 おなかの調子が壊れても壊れないぐらい、アタシのイメージは偉大で国士無双?」


 ローラはうれしそうだった。


「ちなみにぃ、具体的にぃ、どんなイメージがあったりするぅ?

 美の女神とか言われているアロマぐらいぃ?

 それともその強さから、讃える人も多いディーティぐらいぃ?」


「一言で言えば――」

「うん! うん!」



「王じゃなくなったベルゼブブだな」



「それってただのハエじゃない!!

 あんたいったい、アタシをなんだと思ってるの?!」

「王じゃなくなったベルゼブブだな」

「そういうことを聞いてるんじゃなーい!!」


 ローラは(>△<)○な顔で叫んだ。


「おかしくないっ?! アタシ女神よっ?! ゴッドよ?!

 確かにドジは多いけど、それでも女神! 即ちゴッドよ?!

 溢れでている気品さで、無事にカバーできているでしょ?!」


「いやまぁ、オレもベルゼブブはどうかと思ったんだけど……」

「でしょ?! でしょ?! 今なら許してあげるから、前言を撤回して称えなさい!!」



「下ネタ系で有名な神様って、ベルゼブブ以外に知らないから……」



「どうして下ネタで例えるのっ?!?!?!」



 駄女神ローラは涙目だった。

 さすがにちょっと、かわいそうになってくる。

 しかし本気の同情は、侮辱でもある。

 ローラもそれを感じ取り、ひっくり返ってじたばた暴れた。


「やだやだやだぁ! もうやだあぁ! 称えられたいぃ!

 認められたいぃ! もっともっと、チヤホヤされたいぃ!!」


 能力がダメなら、性格までも駄女神だった。

 しかし暴れる駄女神は、あまりにも無防備だ。


一言で言うと、踏んでみたくなる姿をしている。

それなので――。


踏んだ。


「げぶうぅ!!」


 軽く踏んだだけなのに、女神がだしちゃいけないような声がでてきた。


「泣いている女の子踏んづけるとか、鬼畜?!

 っていうかアタシは神なんだけど?!

 信者だったら、相手が絵でも踏めないものでしょ?!

 それがダイレクトアタックって、敬わないにもほどがあるわよっ?!」


「常識的にはそうなんだけど、オマエだったらまぁいいかなって……」

「ケーマのばかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 ローラはダッシュで逃げだした。

 オレは洞窟に干していた、トレントの葉っぱをむしった。

 お湯に浸すと、ほどよい感じのお茶になるのだ。


「フー……」


 のんびりと、息をつくこと三〇分。


「ケーマあぁ! ケーマ、ケーマ、ケーマあぁ~~~~~~~~~~~~~」


 駄女神が戻ってきた。


「たすけてっ! たすけてっ! たすけてえぇ~~~~~~~~~~!!!」


 その背後には、ニワトリの群れ。


「ファイア!」


 オレは火炎放射レベル6を使い、ニワトリの群れを一掃した。

 何度か使ってわかったが、レベル6は恐ろしく強い。

 なにせレベル4の剣術ですら、剣圧を飛ばせるようになるのだ。

 レベル6は、それをふたつ上回る。


 ニワトリ四天王。

 なんともマヌケな響きだが、実力自体は本物だ。

 しかしそんな炎を裂いて、一条の光がやってきた。


「っ?!」


 オレは咄嗟に、剣で弾いた。

 剣圧を飛ばせる達人の技量で弾いたのに、腕が、じぃん……と痺れてる。


 腕を痺れさせた光の正体は、細い細い針だった。

 針は無数に飛んでくる。


「ハアアッ!」


 オレは乱撃を放ち、それらすべてを撃ち落とした。


〈さすがは……、朱雀と白虎を倒した男……〉


 森の奥から、ひとつの影が現れた。

 そいつは――――。



 ニワトリ。



 黒に近い灰色のトサカを持った、偉そうなニワトリであった。


〈ワシの名は玄武。ニワトリ四天王・最賢のニワトリ……〉


 声はやはりおごそかなのだが、姿がどう見てもニワトリで台無しにしている。


〈本日の用件は、あいさつのようなものじゃ〉

「あいさつ……?」

〈貴公とワシらで、雌雄を決する戦いがしたい〉


 語る玄武は、そこはかとなく不敵な笑みを浮かべていた。


「……断ったら?」



〈夜がくるたびこの洞窟の前で、コケッコッコーと鳴くことになるだろう……〉



 なんて地味な嫌がらせだ。

 それでいてコクがあり、まったりとした破壊力がある。


〈それでは待っているぞ……。コケケケ、コケーケッケ!〉


 四天王最賢のニワトリは、高笑いをあげて飛んで行った。

 オレは残されたローラに、回復魔法を使ってやった。


「大丈夫か? ローラ」

「この森もういや。この森もういやあぁ~~~」


 駄女神ローラは、オレにすがりついて泣きじゃくった。

 仕方ない。


「そろそろでるか。この森」

「え……?」

「この森も悪くないけど、ふかふかのベッドで眠りたい感あったし」

「決闘は……?」


 オレは言った。


「すっぽかす!!」


「え…………?」

「わざわざ呼んだってことは、相応の準備はしてるってことじゃん?

 四天王のスキルと経験値は魅力的だけど、リスクがちょっと大きすぎるよ」


 ローラは、しばし唖然としていたが――。


「天才……?」


 とつぶやいた。


「すごいすごいすごい、ケーマ、すごい!

 決闘って、受けたら参加しないといけないものだと思ってた!

 それをすっぽかすなんて、ケーマすごい! 天才! コーメイ!!」


 ローラは、キラキラした目でオレを褒めた。

 これで天才になるとか、マジでコイツの知能を疑う。


 しかしローラはアホの子だ。

 オレの沈黙を、違う意味に受け取った。


「あっ、あれっ、コーメイって、褒め言葉じゃなかった?

 むかしこの世界に召喚されてた人が、そんな意味で使ってたって聞いたことあるんだけど」

「褒め言葉であってるよ……」

「そうよね! アタシの言っていることに、間違いなんてあるはずないもんね!」


 この女神、どうして自信がゆるがないのっ?!

 震度八の地震がきても、タップダンスを踊ってそうだ!


 なにはともあれ。

 オレとローラは、慣れ親しんだこの森をでることにしたのであった。

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