水の確保とモンスター vsクリオネ
(この森で水と言えば、この川で取るのが一番安全ね)
ローラが藪の中にひそんで、ひっそりと言った。
(それはわかったが……)
オレも藪にひそんで、ローラに尋ねた。
(あれはなんだ……?)
(見てわからない?)
(わかったら聞いてない)
(クリオネよ)
(…………)
オレはなにも言えなかった。
確かにアレは、クリオネだ。
ヴェールのように白く半透明の体も、うっすらとある赤い頭や内臓。
天使の羽のようなひらひらが、体の左右についているのもクリオネの姿だ。
が――。
デカくて浮いてる。
バスケットボールぐらいの頭部と、それに見合った体を持っているほどにデカい。
そして、川の上を漂っている。
蛍みたいに集団で、ふかふかぷわぷわ漂っている。
その中の一匹が、川の中に飛び込んだ。
クラゲらしき生き物を捕まえ、丸呑みにしていく。
(あいつらのステータスとか見たいんだが……)
(わかったわ)
ローラが、オレの首筋に手を当てた。
感覚共有の力で、やつらの頭上にウインドウが浮かぶ。
個体によって微妙に違うが、真ん中ぐらいのやつでこれだ。
名前 なし
種族 クリオネ
レベル 10
HP 44/44
MP 22/22
筋力 32
耐久 88
敏捷 30
魔力 20
ちなみにオレがこれである。
レベル 7
HP 56/56
MP 28/28
筋力 52
耐久 48
敏捷 58
魔力 44
全体的なステータスはオレのほうが高いものの、耐久に大きな差がある。
(スキルとかは見れないのか?)
(眷属じゃないと無理ね)
(なるほど)
オレは改めて、クリオネのステータスを見る。
貝の仲間なだけあって、防御力は高い。
耐久以外はオレより低く、一対一ならオレは負けない。
ただ問題は、数である。
パッと見た限りでも、二、三〇体はいる。
MPがあるところから、魔法も使えると見ておくべきだろう。
さて、どうするか。
考えていると、ローラのほうから音がした。
「ハアッくちゅんっっ!!」
ファッキンな駄女神による、二回目のくしゃみであった。
『Kigi……』
クリオネたちが、オレたちに気付いた。
胸のあたりがパカッと割れて、アイスニードルが飛びだしてくる!!
「うおおっ!!」
オレはローラを押し倒し、アイスニードルを回避した。
冷たく大きく太いのが、オレの背中をかすめていった。
「このクソ駄女神があぁ!!!」
「ごめえぇ~~~~~~~~~~~~~んっ」
「とにかくオマエは、地面に刺さってるあのアイスニードル持って逃げろ!
オレは時間を稼いでやるから!!」
「うっ、うんっ!」
クソ駄女神のアホローラは、アイスニードルを抱えて逃げた。
オレは落ちていた木の棒を持った。
七〇センチほどはある、ちょっとした武器である。
クリオネたちの頭が、パカリと割れた。
割れた頭部を触手に変えて、オレに向かって飛んでくる!!
◆
激闘が終わった。
クリオネの攻撃はなかなかだったが、ライオンほどの速度はない。
アイスニードルを食らわないようにすれば、距離を取るのは簡単だった。
レベルアップしていなければ死んでいたような気はするが、レベルアップしていたしね。
突出してきた二匹を仕留め、戦闘域を離脱した。
クリオネたちも、深追いはしてこなかった。
「ケーマ!」
駄女神ローラが、晴れやかな笑顔でオレを出迎えてきた。
「ケーマあぁーーーーーーーーーー!!」
飛びついてきた駄女神の頭に、オレはげんこつを入れてやる。
「ふえぇん…………」
駄女神ローラは、頭を押さえてうめいた。
「アタシが、なにしたって言うのよおぉ…………」
「くしゃみだよ! く・しゃ・み!!」
「仕方ないじゃない! 国士無双に鼻がムズムズしちゃったんだから!!」
「このアホの子があぁ!!」
「ふみいぃ~~~~~~~~~~~~~~!!!」
ほっぺをつねって黙らせた。
「はぁ……」
オレは、ため息をついて言った。
「拾ったアイスニードルはどうなった?」
「こうなったわ!」
駄女神は、満面の笑みでバケツをだした。
中には水が、もりもりと入ってる。
いい感じである。
「けっこうな量だな」
「そうみたいね!」
「ところで、こいつらって食えるか?」
オレはクリオネ二体を掴み、ローラの前に差しだした。
「赤いところは生臭いけど、透明なところはそこそこって聞いたことあるわね」
「ナイフとかって持ってる?」
「女神ポイント、使っちゃうけど……」
「いいから頼む」
「……わかったわ」
うなずいたローラは、空に向かって手をかざす。
「世界よ! 我が
我の名前は、ローラ=ギネス=アマラ!」
白い光の球が生まれて、一本のナイフが現れた。
神秘的な登場に、オレの心は思わず弾んだ。
ワクワクとして問いかける。
「このナイフって、どのくらいの強さなんだ?」
「雑貨屋で買えるナイフと同じくらいよ」
「そうか……」
弾んだ気持ちが、風船のように弾けた。
ひゅるるると、木枯らしに乗って去っていく。
「しししっ、仕方ないじゃない!
ポイントに余裕がなかったんだから!!」
「余裕があれば、もっと強いのが手に入るのか?」
「市販の武器より強いもの……ってなると、特殊条件を満たす必要があるわね」
「特殊条件?」
「フレイムソードを作ろうと思ったら、炎鉱石とかサラマンダーのウロコとかが必要になったりするわ」
「なるほどねぇ」
「とにかくとにかく、ありがたく使いなさい!
なけなしのポイントなんだから!!」
「よし」
オレは早速、クリオネをさばいた。
赤い部分を取りだして脇におき、透明な部分にナイフを通す。
切った部分は笹の葉みたいな葉っぱに乗せて、綺麗に盛りつけていく。
刺身の完成である。
「みゃああっ……!」
駄女神ローラが、感嘆の声をもらした。
「なんか……すごい。
キラキラしてて、おいしそう…………!」
「実際、よくできたと思う」
オレは木の枝で作った箸をつかって、刺し身を掴んだ。
半透明の刺身は煌びやかであり、太陽に透かしても美しい。
ちゅるっと吸い取るようにして食べる。
刺身は口の中でつるんっと踊った。
噛めばくにゅりとやわらかく、ほんのりとした甘みを口内に広げる。
「ケーマ! ケーマ! ケーマあぁ!」
駄女神ローラがオレの服の裾を引っ張り、口をあーんとあけてきた。
仕方ない。
あまりやりたくはないが、くれてやらないとポイントが稼げない。
ナイフの分は、返さないといけないしな。
オレは刺身を箸で摘まんで、ローラの口の中に入れた。
もにゅもにゅもにゅ。
ローラは静かに咀嚼する。
「おいしいぃ~~~~~~~~~~~~~~~~!!」
ローラは拳を握りしめ、しみじみと叫んだ。
「艶めかしい触感がお口の中でくにゅくにゅ動いて、ほんのり甘い!
幸せのヴェールに触手プレイされてるみたい!!」
「それってプラスの評価なのっ?!」
オレは思わず突っ込むが、ローラの耳には届いていない。
「おいしいぃ~~~~~~~~~~!!!」と食べている。
てれれ、てってってー。
そしてオレのレベルがあがった。
ローラの力で、詳細を見る。
名前 コサカイ=ケーマ
種族 人間
レベル 7→10
HP 65/80(↑24)
MP 46/46(↑18)
筋力 75(↑23)
耐久 70(↑22)
敏捷 82(↑24)
魔力 60(↑16)
習得スキル
アイスニードルLV1 8/50
上昇スキル
なし
レベルの上昇は木の実以下だが、新しいスキルが手に入った。
「アイスニードル!」
使ってみると、氷の矢が木の幹に刺さった。
引っこ抜いてかじってみたが、普通の氷な感じであった。
とても地味だが、これで水には困りそうにない。
そしてパラメーターを見たオレは、ちょっと思うところがあった。
二匹目のクリオネをさばき、口の中に含む。
もぐもぐもぐ、ごくん。
何切れか咀嚼する。
てれれ、てってってー。
レベルアップを確認し、ローラの力でステータスを見る。
レベル 10→13
HP 85/105(↑25)
MP 62/68(↑22)
筋力 107(↑22)
耐久 93(↑23)
敏捷 106(↑24)
魔力 80(↑20)
習得スキル
なし
上昇スキル
アイスニードルLV1 15/50(↑7)
やっぱりだ!
アイスニードルが上昇してる!
最初に習得した時は、レベル1で8だった。
習得したてで8というのは、ちょっと多い。
そして二匹目を食べたら、レベルは据え置きで7の上昇。
最初の個体はアイスニードルLV1 8/50を持っていて、二匹目はLV1 7/50を持っていた。
オレは二匹を食べたから、レベル1 15/50になった。
これは恐らく、そういうことだ。
なんの苦労もしていないのに、食べるだけでレベルアップ。
それだけでもすごいのに、スキルまでアップする。
最高だぜっ!
さぁ、次はニワトリだ。
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