初めてのレベルアップ

「ケーマ~~~~~~~~~~~~~~~」


 オレが洞窟に戻ると、駄女神が駆け寄ってきた。


「よかったねえぇ。生きてて、生きててよかったねえぇ」

「ずいぶん、泣いてくれるんだな……」


 オレはちょっぴり、ジンときた。

 オレは異世界に呼ばれたが、わりと平然としていた。


 どうしてかと言うと、地球での暮らしがあまりよくなかったからだ。

 特に母親がアレで、家にいるのが辛かった。

 細かい話は省略するが、オレが自殺したとしても、まず世間体について考えるような母親である。

 父については恨みはないが、そういう母と離婚してくれていないことを理由に好きになれない。


 それがローラは、出会って間もないオレをこんなにも心配してくれている。

 ジンとくるのは、仕方ない。

 なんて風に、思っていると――。



「アンタが死んだら、誰がアタシを養うのよおぉ~~~~~~~~~~!!!」



「そういうことかい!」


 オレの感動とシリアスを返して!

 だがしかし、ここまでストレートだと逆に清々しい。

 オレは戦利品の片方を、駄女神に差しだした。


「ほら」

「いいの……?」

「情報提供料ってことで」

「ケーマあぁ~~~~~~~~~~~!!」


 駄女神は、オレに抱きついて感動を示した。

 そこでオレは気づく。


(コイツの胸……でかい)


 召喚された直後はあまり冷静に見ていなかったが、密着されるとよくわかる。

 EとかFでは効かないぐらいの、至高のロリ巨乳をしている。

 そんな胸が密着し、ぐにゅぐにゅむにゅっと潰れてる。

 けど駄女神は、アホの子なので気づかない。

 半泣きで叫んでる。


「ありがとね! ありがとねえぇ~~~~~~~~~~~~~~~!!」


「わかったから離れろ!」

「うん!!」


 オレはローラを引き離し、服の袖で戦利品を拭いた。

 柿みたいな形をしたそれは、テカテカと光る。

 煩悩が消えて、食欲が沸いてくる。


「それでは……」

「ではでは……」

「「いただきますっ!!」」


 いっしょに食べた。

 果肉はオレの歯をぐにゅりと受け入れ、よく熟れた柿のような甘みが、口いっぱいに広がった。

 さらに口に入った果肉は、噛めば噛むほど汁をだした。


「うまいっ!」

「このために生きてるわあぁ!」


 オレとローラは、アホの子みたいにはしゃいで食べた。

 その時だった。



 てれれ、てってってー。



 レベルアップの音が響いた。

 なにを言っているんだと言われそうだが、実際に響いたのだから仕方ない。


「あっ、あれっ、ケーマ?」

「ん?」

「レベル……あがってない?」

「やっぱりそうなのか」

「これ」


 駄女神ローラは、オレの首筋に触れた。

 ステータスのウインドウが開き、オレの前に現れる。


 名前 コサカイ=ケーマ

 種族 人間


 レベル  2→7

 HP   56/56(↑40)

 MP   28/28(↑20)

 筋力   52(↑39)

 耐久   48(↑36)

 敏捷   58(↑42)

 魔力   44(↑32)


「こんなの見れるのか」

「ケーマのおかげで、アタシのゴッドポイントも溜まったからね!

 今のアタシは鑑定と、感覚共有のスキルが使えるわ!」


「いつの間に?」

「アタシに木の実くれたじゃない!」

「誠意とか崇拝で溜まるんじゃなかったっけ?」


「誠意とは、気持ちではなくモノ!」


「イヤな言い方すんなよ!!」

「だけど真理よ! いくら感謝されたって、アタシのおなかはふくれないもん!!」


 まぁ、真実ではある。


「しかしどうして、オレのレベルまであがってるんだろうな」

「それはたぶん、これの力ね」


 ローラは言った。


「スキルウインドウ!」


 スキルのウインドウが現れる。


 スキル

 生タマゴ右手一本割りLV6 80/3000

 タマゴ料理LV2 130/150


 エクストラスキル

 魔吸収LV3 0/300


 ◆スキル解説・魔吸収

 極一部の転生者やモンスターが、低確率で取得しているスキル。

 食した相手のスキルを、吸収することができる。

 相手にスキルがない場合、ただの経験値になる。



 説明を見ただけでもわかる、チートスペックなスキルだ。


「レベルの横にあるのはなんだ? 熟練度か?」

「その通りね。マックスになると、レベルアップするわ」

「なるほど……」


 ふたつのスキルを見つめたオレは、しみじみとつぶやいた。


「タマゴを片手で割るのがスキルってのは、とんだミスリードだったわけか……」

「当たり前でしょ?! 当然でしょ?! あんなゴミスキル!! 

 っていうかレベル6って、どんだけ鍛えまくってるのよ!!」


「そんなすごいのか?」

「1で初級、2で中級。3もあったらその道で食べていくことができて、4や5で達人!

 そこから先は、どれだけ人外なのかを競うレベルよ!

 つまりアンタのタマゴ割りは、人外の領域に入る芸術レベルってこと!!

 っていうかホント、どうしてこんなに鍛えてるのよ!

 ゴミスキルなのに!!」


「ゴミとはなんだよ! オレがタマゴを片手で割れるようになるまで、いったいどれだけの時間がかかったと思ってるんだ!」

「どれくらい……かかったの?」

「軽く見ても、八年は経っている」


「バカなのっ?!」


「最初は軽い気持ちだったんだけど、うまく割れるようになると気持ちよくって……」

「バカでしょ?!」

「オマエには言われたくねぇよ!」


 オレは駄女神のほっぺたをつねった。

 

「みいぃ~~~~~~~~~~~~~!」


 たっぷり喘いだ駄女神は、頬をさすって涙目で叫んだ。


「なにするのよ! いじわる!

 アタシがせっかく、ゴッド感謝してあげようと思ったのに!!」


「なんだよ、ゴッド感謝って……」

「これよ!」


 オレは呆れてしまったが、ローラは意気揚々とウインドウを開いた。



 信者ナンバー、001 コサカイ=ケーマ

 信者ポイント 5

 累計ポイント 5

 

 信者レベル1(なりたて信者)



「この信者ポイントを使えば、信者スキルを獲得できるわね」

「ハアッ?!」

「べべべっ、別に変なことなくない?!

 っていうか最初に説明したでしょ?!」

「最初に……?」


 オレはローラと初めて会った時のことを思い返した。

 確かにコイツは言っていた。

 なにかいいことがあるのか? と尋ねたオレに、胸に手を当てキッパリと。


『アタシに感謝されたりするわっ!!』


 でもしかし。

 だがしかし。


「あんなんでわかるかあぁ!!」

「みいぃ~~~~~~~~~~~~~~~!!!」


 オレが両手でほっぺをつねり伸ばすと、駄女神は喘いだ。

 まぁいいや。

 スキルをもらえるって言うんなら、それに越したことはない。


「でも具体的には、どんなのもらえるんだ?」

「カタログウインドウ!」


 ローラは、新しく開いた。

 そこには、こんな感じで並んでた。



 信者レベル1で習得できる、戦闘用スキル


 剣術LV1(消費20) 体術LV1(消費20) 槍術LV1(消費20)

 弓術LV1(消費20) 棒術LV1(消費20) 斧術LV1(消費5)

 (以下略)



「なんか斧だけ消費低くない?!」

「だって斧だし……」


 なんという理不尽。


「でもどうするの?

 斧術だったら、5ポイントしかない今の状態でも取れるわよ?」

「いや…………いいや」


 だって斧だし。


 当たり前のように斧がdisされつつも、カタログは続く。

 武器のレベル1は斧以外20だったが、魔法になるとレベル1でも300ぐらい必要になった。

 この世界でも、魔法はすごいものであるらしい。


「戦闘用以外だと、どんなスキルがある?」

「こんな感じね」



 信者レベル1で習得できるスキル

 暗闇耐性LV1(消費5) 麻痺耐性LV1(消費5) 混乱耐性LV1(消費5)

 毒物耐性LV1(消費5) 恐怖耐性LV1(消費5) 即死耐性LV1(消費50)

 浄化魔法LV1(消費20)

 (以下略)


「即死耐性だけやたら高いな」

「だって死んだらおしまいだもん」

「なるほどな」


 オレはうなずき、ローラに尋ねる。


「浄化魔法ってのは、体を綺麗にしたりする魔法か?」

「その通りね」

「レベル1だと、どのくらいだ?」

「自分の体や着ている服は綺麗にできても、汚れた部屋や人の体はどうしようもないっていう感じね」


 充分だな。

 今は5ポイントしかないからアレだけど、そのうちほしい。

 でも今は……。


「毒物耐性LV1をもらえるか?」

「えっ?!」

「そんな意外か?」

「だってレベル1よ?

 ちょっとおなか壊すぐらいの、最弱級の毒しか無効化できないわよ?」

「それでいいんだよ、それで」

「???」


 ローラは、いまだ理解できないようであった。

 オレは細かく言ってやる。


「この付近には、いるだろ。

 腹を壊す程度の、微妙な毒だけど持っているニワトリが」

「あっ……!」


 女神は、ようやく気がついた。


「ケーマ……、天才っ……?!」

「これで天才になっちゃうって、いろいろと終わってないっ?!」

「えっ、でもっ、すごくない?!

 そんな発想、アタシは思いつかなかったわよ?!」


 さすがは駄女神。アホの子だ。


「ニワトリの前に、水も確保したいしな。

 その水を飲む時だって、腹が頑丈なほうがいい。

 火を通したからと言って、毒物が全部消えるとは限らないんだから」


「アンタ前世じゃ、知の英雄とか賢者とか言われてなかった?!」

「オマエはどんだけ頭悪いのっ?!」

「わわわっ、悪くないわよ!

 これでもそこらの人間からは、知の女神って言われてた時期もあるんだからね!!

 知の泉にアクセスできる女神って、相当レアよ!!」


 確かに、ライオンの生態には詳しかった。

 そういう意味では、辞書のようなものなんだろうな。

 知ってることはとても多いが、知らないことはまったく知らない。

 そして知識はとても多いが、知恵のほうはまったくない。


 そういうアンバランスで、かわいそうな生き物なんだろう、コイツは。

 まぁいいや。


「とにかくそういうわけだから、水があるところに案内してくれ」

「わっ……わかったわよ」

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