食べるだけでレベルアップ!~駄女神といっしょに異世界無双~

kt60

プロローグ

「しょ、召喚、成功ね…………」


 艶やかな黒髪を、ツインテールに結った女が言った。

 なにを言われているんだか、わからないと思われるかもしれない。


 安心してくれ。

 オレもわからん。


 なんとなく散歩していて、腹が減ったので帰ろうと思った。

 すると10円を拾い、ボロい社を見つけた。

 ボロいのが逆に神秘的というか、曰くのありそうな感じであった。


 その10円は汚れていたし、オレは賽銭を入れてみた。

 願いごとを口にする。


「異世界とか行きたい」


 そしたら社が白く光って、オレは召喚されていた。


 あたりを見回してみる。

 薄暗い洞窟の中である。


 白く光る魔法陣の上に、オレが立ってる。

 年のころは召喚前と同じ、二十代の前半ぐらいだ。

 オレを召喚したらしき、黒髪ツインテ女が言った。


「アタシの名前はローラ=ギネ=アマラ!

 あなたをこの世界に呼んだ、国士無双に偉大なる知の女神さまよ!!」


「そりゃどうも」

「そしてこの世界に召喚されたあなたは、国士無双に偉大なるスキルを所持しているはずよっ!」


「そうなのか?」

「召喚された人は、ゲートをくぐる際になにかひとつはもらえるはずだからねっ!」


 そうらしいのであった。


「この偉大なるアタシに、そのスキルを見せなさいっ!」

「オレが持っているスキルか…………」



 まったく身に覚えがないな。



(ステータス!)


 と念じて見たが、ステータスウインドウが出てきたりはしてくれないし。

 ああ、でも、あったか。


「だけどスキルを見せるには、生のタマゴが必要だな」

「タマゴ……?」

「ああ、タマゴだ」


「それがあれば、この偉大なるアタシに見せるのねっ?!」

「そうだ」

「ちょっ……ちょっと待ってなさい!!」


 三十分後。


「ただいまあぁ!」


 ローラが戻ってきた。

 綺麗な髪がボサボサになって、整った顔立ちが泥で汚れている。


「コケーッ! ケッケッケッケッ、コケーッ!!」


 さらに野生と思われるニワトリに、蹴りをビシビシ食らってる。


「ちょっ、いたっ。痛いっ、痛いぃ!」

「オマエ……鳥の巣から持ってきたのかよ」

「持ってこいと言ったのは、アンタじゃ…………あいたたたっ、いたいっ、いたいぃ~~~~~~~~!!」



 自称・偉大なる存在さんは、ニワトリに負けて泣いていた。



 しかしこのタマゴを使えって言うのは、なかなかに無茶である。

 迂闊にタマゴを受け取ると、オレがターゲットにされそうだからだ。


 仕方ない。

 オレは洞窟の外にでた。


 軽く地面を掘ってみる。

 ミミズを見つけた。

 捕まえて、ニワトリのほうに差しだす。


「こいつと引き換えでどうだ?」

「コケッ……」


 ニワトリは、攻撃をやめた。

 地面におりて、ミミズをチクパクついばんだ。

 オレは一匹一匹地面において、洞窟の外に誘導する。


 食べまくったニワトリは、それで満足してくれたのか、または鳥頭で忘れたのたか。

 羽を広げて飛んで行った。

 オレはローラのほうを見る。


「ひぐっ、ぐうぅ……」


 神を自称するローラは、めそめそ泣きじゃくっていた。

 出会って一時間と経ってないのに、オレは思った。


(帰りてぇ……)


 元の世界に、帰りたい。

 異世界に行きたいとは思っていたが、こんな駄女神は望んでいない。

 話を聞いた限りだと、こいつがオレにすごい力をくれるってお話もなさそうだし。


「こっ……今度は、あなたの番よ!」


 しかしオレが離れるより早く、駄女神のローラは叫んだ。


「知の女神たるアタシが命を賭けて取ってきたタマゴで、国士無双を見せる番よ!!」

「命かかってたのかよ!!」


「アタシの命を支える女神ポイントは残り20!

 それが今回ので、残り4!

 ハッキリ言って、ギリギリなのよぉ!」


 よくわからない単位だが、少ないらしいことはわかった。

 つーかタマゴ一個で死にかけるとか、どんだけ安い命なんだ。

 スーパーで売っている10個入りのパックでも、150円で買えるのに。


 まぁいいや。

 持ってきたって言うんなら、オレのスキルを見せてやろう。


「なにか器を持ってきてくれ」

「わっ……わかったわ」


 ローラは、コップを持ってきた。

 カツン、カツン、カツン。

 オレはコップの端っこに、タマゴを三回ほど当てた。


 ほどよくヒビを入れたのち、パカリ。

 卵は無事に、コップに入った。


「以上が、オレの持っている特別なスキルだ」

「どういうこと…………?」



「タマゴを片手で割ることができる」



「みゃあぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 ローラの悲鳴が木霊した。


「いったい、なにを言ってるの?!」

「そのままだよ。オレが知っている限り、思い当たるのはこれだけだ」


「すごい魔法や怪力はっ?!」

「あったらだしてる」

「みゃあぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 本日二度目の絶叫が響いた。


「ありえないっ! ありえないわぁ!

 アタシは偉大なる知の女神だけど、偉大なる崖っぷち女神でもあるのよっ?!

 プライドを捨てた土下座の末に恵んでもらった、ランダム使い魔召喚チケットで起死回生を計るつもりだったのよっ?!

 それがこんなゴミスキルって、どういうことっ?!

 どういうことおぉ?!?!」


 偉大なる崖っぷち女神って、いったいどういう語彙なんだろう。

 天才的なバカ、のような、プラスにマイナスをかけてマイナスにしている感じしかしない。

 つーかコイツで知の女神って、いったいどういうことだってばよ。


「それと話がわけわかんないから、もっと最初から説明してくれ」

「アタシたち女神には、人を助けて育てて導くっていう役割があるわ!」

「ほぅ」

「そして生きていくには、人から誠意や崇拝を受けることで溜まる、ゴッドポイントが必要になるの!」

「それでサボるのを防ぐわけだな」


「だけどアタシはサボってた!

 一回いっぱい溜めたあと、ずうぅ~~~~~っと宮殿おうちでゴロゴロしてた!

 おかげで、ゴッドポイントも激減!

 宮殿おうちからも追いだされた上、へき地にも飛ばされて、命の維持も危うい事態に!!」


 なんという自業自得だ。


「だから今後は真面目になるって、女神の会合で頼んだの!

 異界などから使い魔を召喚できる、使い魔召喚チケットを恵んでもらったの!」


「なのに現れたのが、タマゴを片手で割れるだけのオレ……ってことか」

「そういうことよおぉ……!」

「ちなみにオマエを助けると、なんかいいことあったりするか?」


 落ち込んでいたローラは、胸に手を当て元気よく言った。


「アタシに感謝されたりするわっ!!」

「えっ……?」


 唖然とするオレに、ローラは意気揚々と続ける。


「アタシは神! そして偉大!!

 そのアタシによる感謝と言えば、グランド・ゴッド感謝!

 ただの人間が受けるにしては、大きすぎる恩恵だと思わないっ?!」


「思わねぇよ!!!」


 この女神、今すぐ川に放したい!

 川に放して、『もうくるんじゃないぞ』と言ってやりたい!!

 ノーキャッチ! そしてリリース!


「アンタ今、失礼なこと考えてなかったっ?!」

「そんなことは、考えてないよ?」


 失礼っていうか、ただの本音だ!


「それなら、いいわ……」


 ローラは、あっさり引きさがった。

 そしてアホな会話をしてると、オレの腹がきゅうぅっと鳴った。

 そう言えば、腹が減ったから家に帰ろうって思ってたところだった。


「なぁ、ローラ」

「なっ、なによ」

「オマエって、メシとか出せる?」


「アタシは女神よっ!

 食事は貢がせるものであって、自分で出すものじゃないわっ!」


「カネは……?」

「アタシは女神よっ!

 金銭は貢がせるものであって、自分で出すものじゃないわっ!」



 使えねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!



 愕然としたオレは、ローラに頼るのをやめた。


「そんならせめて、近くの街の場所だけでいいから教えてくれよ」

「知らないわ!」


「は……?」

「だってアタシは、ここに飛ばされてまだ一ヶ月ぐらいしか経っていないもの!」


 レベル1の村人だって、近くにどんな街があるかぐらいは知っているのに!!

 レベル1の村人にも劣る偉大なる神とか、いったいどんな存在だよっ!!


 つーか。

 待って。


 これちょっと、シャレになってないんじゃないの? 


 チートはなくてサポーターは駄女神で、洞窟をでればただの森。

 近くの村や街がどこにあるのかもわからない。


 これほんと、詰んでるんじゃないのっ?!


 そう思ったら、にわかに不安が湧いてきた。

 しかし不安がってても、状況が改善するわけではない。


 ヘイ、me。冷静になっちゃえyo! と自分自身に言い聞かせ、不安をなかったことにする。

 なかったことにしておけば、不安を感じることもない。

 パーフェクトだ、オレ。


「オマエが使えないのはよくわかった。

 だからそれはそれとして、水と食べ物が取れる場所でいいから教えろ」


「どうしても……。必要……?」

「当たり前だろ?!」

「ふみゅうぅ……」


 駄女神ローラは、うなだれながら外にでた。


「アタシが知っている範囲で一番確率が高いのは、あの木になっているトマの実ね」


 ローラが藪から顔をだし、小高い丘の上にある木を示した。


「なるほど……」


 オレは一応、うなずいた。

 木になっている木の実は、柿のような形をしている。

 水分も、そこそこに取れそうだ。


 が――。


(木のところで寝そべっているアイツはなんだ?)

(見てわからない?

 キメラライオンよ。ライオンの体と頭に、ヘビの尻尾が特徴のモンスターね)

(わかるから聞いてるんだよっ!!)


 オレは小さな声で叫んだ。


(ししっ、仕方ないじゃない!

 アタシが知っている範囲で一番マシな食糧調達の方法って言えば、あの木しかないんだから!)


(ニワトリがいるのにっ?!)

(毒持ってるのよ。アイツら……)

(そうなのか……)

(毒の種類としては最弱に近いんだけど、おなかは普通に壊しちゃうから…………)


 女神のクセに、最弱の毒で腹壊すんかい……とは思ったが、言わないでおいた。

 レベル1の村人よりもひどいコイツに、期待したってどうしようもない。


(でもあのライオン、相当強そうだぞ)

(実際、ステータスで言えば、レベル2869で、HPは35000ぐらいあったわ)

(ハアッ?!)


(かけだしの冒険者で20。一人前の兵士で30。ベテランになると80ぐらいで、200もあったら達人ね)

(2869って、バケモノじゃねーか!!)


 でも待てよ。

 オレは一応、異世界からやってきている。

 となるとお約束として……。


(オレはそれより、強かったり……?)

(アンタは2か3ぐらいだと思う)


 チクショー!!


(つかオレの数字は、推測なんだな)

(ゴッドポイントが溜まれば、見れるんだけど……)


(そのポイントが溜まると、奇跡やスキルが使えるようになるってわけか)

(もちろんよ! アタシは女神。即ちゴッドなんだから!!)


 女神はゴッデスのような気もするが、あえて突っ込まないでおいた。


(で……そんなに強いライオンがいるのに、どうやって木の実を取るんだ?)

(あれよ)


 ローラは、尻尾を指差した。


(アイツの尻尾、ぴこ……、ぴこ……って動いてるでしょ?)

(ああ)

(アイツはああして、尻尾で空気を感じているの。

 眠っているように見えるけど、本当は起きているわけ)


(寝てると思って油断したら、ガブリ……ってなるわけか)

(そういうことね)


 ローラは、静かにうなずいた。


(それに気づかない獲物や、痺れを切らして飛びだした獲物が食べられている隙を狙えば、簡単に木の実を拾えるってわけ)

(そう聞くと、簡単そうだな)

(あっちからしても、あんまり獲物を皆殺しにしていたら、誰も寄りつかなくなっちゃうしね)

(なるほどな)

(だからこそ、狙い目ってわけ)


 語るローラは、シリアス顔だ。

 つい先刻までの、駄女神要素は微塵もない。

 オレはちょっぴり見直した。

 が――。



「はっくちゅんっ!!!」



 大きなくしゃみをしやがった。



「GURUuu…………?」


 ライオンさんも、うっすらと目をあけた。

 このクソ駄女神があぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!


(ああああ、あああ…………!)


 駄女神ローラは、瞳に涙を溜めてうめいた。

 だがしかし、ライオンさんのお目覚め具合は『うっすら』で止まってる。

 このまま息を殺していれば、やりすごせる公算も高い。


 なのに――。


「どどどっ、どうしよおぉ~~~。ケーマ、ケーマ、どうしよおぉ~~~~~~~~~~!!!」


 駄女神はパニクった。

 オレの胸倉にすがりついて泣き



 ライオンさんは、バッチリ目覚めた。



「とにかく逃げろっ! オレは軽く時間を稼ぐ!!」

「うっ、ううっ…………」

「早くしろっ!!」

「絶対無理しないでよおぉ~~~~~~~~~~~~~!!!」


 ローラはダッシュで逃げだした。

 オレはふうっと息を吐く。


 速いと言っても相手はケモノ。

 動きは直線的だと思う。


 というか活路は、そこにしかない。

 だからケモノと結論づけて、その一点に絞り切る。

 突進の速度から、ライオンが飛びかかってくる速度を計算し――。



 横っ飛び!!



 かろうじて、ライオンの初撃を回避する。

 巨大な影が、オレの上を通ってく。

 同時にオレは、土を掴んだ。


「食らええっ!」


 土をかけて怯ませる。

 ついでに落ちてた木の実を拾い、一直線に逃げだした。


 このライオンは、あの木の周りにナワバリを張っている。

 そして野生の生き物は、基本的にナワバリからでない。

 勝手がわからず、どこから奇襲を受けるかわからないナワバリの外は、地雷原にも等しい危険があるからだ。


 この世界の生き物も、そうであるとは限らない。

 しかしこのライオンは、木の周りをナワバリとしていた。

 普段は寝た振りをしていて、奇襲をかけると言っていた。

 それは即ち、こう言えるのではないか?


 このライオンは、めんどくさがり。


 それなら初撃を回避さえすれば、逃げれる可能性は十分にある!!

 まさにギャンブルでしかなかったが、その賭けはうまくいった。

 オレは無事に逃げれた上に、トマの実も獲得できた。

 それもふたつだ。


―――コミカライズのご報告―――

この作品のコミカライズが始まりました。

とてもかわいい感じですので、読んでくださるとうれしいです

http://futabasha.pluginfree.com/weblish/futabawebact/Taberu_001/index.shtml?rep=1

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