女神のリベンジ vsニワトリ

「コケーケッケッケッケッ、コケー!」

「コケッ、コケッ、コケー!」

「ドゥドゥドゥ、コケー!」


 お馴染みの藪の中。

 オレたちは、遠巻きにニワトリを見やる。


「アレがニワトリよ」

「確かに、ニワトリなんだけど……」


 そのニワトリたちは、今までのやつらに比べれば、一番まともな姿をしていた。

 ただし、住んでいる場所がおかしい。

 木の枝に巣を作り、コケコケバサバサ飛び交っている。

 ナワバリ争いでもしてるのか、お互いに蹴りあってもいた。


「今はナワバリ争いの途中だし、四天王も出払ってるわ。

 チャンスと言えばチャンスね」

「四天王?」


「暴風の異名の持ちし神速の神獣・白虎。

 灰色のトサカを持つと言われる賢獣・玄武。

 その羽ばたきは雲にも届くと称される、襲撃の青竜。

 それぞれ恐ろしいモンスターよ」


「だけどニワトリなんだよな……?」


 オレはぽつりとつぶやくが、ローラのテンションは止まらない。

 シリアス顔でつぶやいた。


「そして四天王の中で、もっとも恐ろしいと言われているのが……」

「のが……?」



「うんこを踏んだ足で蹴りを入れてくるニワトリ・朱雀よ」



 恐ろしい!!


「とにかく四天王にさえ出会わなければ、わりとなんとかなってくれる相手よ」


 ローラは、オレの首筋に触れた。

 ニワトリたちのステータスが現れる。

 やはり個体差はあるが、真ん中ぐらいのはこんな感じだ。



 名前 なし

 種族 ニワトリ


 レベル  5

 HP   30/30

 MP    0/0

 筋力   20

 耐久   18

 敏捷   15

 魔力    0



 まぁ、弱い。

 毒を持っていることを除けば、なんの変哲もない雑魚だ。

 敏捷の値もクリオネ以下だし、普通に逃げることもできるだろう。

 オレは小声で、ローラに言った。


(よし、帰れ)

(えっ?!)

(オマエがいると、めんどうなことになるような気がしてならん。

 道案内と特徴の説明は終わったし、洞窟に帰ってのんびりしてろ)


(その言い方はあんまりじゃないっ!

 アタシがいったいなにしたって言うのよっ?!)


(くしゃみを二回もやっただろうがっ!)

(でもだからこそ、チャンスを与えるべきだって思わないっ?!

 失敗の記憶をいつまでも引きずってたら、委縮した女神になっちゃうわよっ?!)

(そんなことが言える時点で、意識が肥大化ライジングだわ!!)


「とにかく、アタシは活躍するのよおぉ!!!」


 叫んだアホは、藪の中から飛びだした。


「ゴッドオーラ!!」


 呪文を唱えて、説明を入れる。


「ゴッドオーラとは、女神のすごいオーラで相手を威圧する魔法!

 相手は平れ伏す!!」


「……」←ニワトリA

「………」←ニワトリB

「…………」←ニワトリC


「あれ……?」


 見ていたオレは、頭の中で思った。


 しかし、ゴッドポイントが足りない!


「「「コケーーーーーーーーーーーッ!!!」」」

「いやあぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 駄女神ローラは、襲われ始めた。


「助けてえぇ! ケーマぁ! 助けてえぇ!!」


 どうしよう。

 オレは今、あいつをすっげぇ見捨てたい。


 一回目や二回目の時は、と助けてしまった。

 でも今は、心の底から見捨てたい。


 とは言うものの、アイツが死んだら新しい女神スキルを習得することもできない。

 オレが死ぬんじゃ元も子もないが、死なない範囲では助けてやろう。

 駄女神ローラと、ニワトリに向かって手をかざす。


「アイスニードル!!」


「コケッ?!」

「コケッ!!」

「コケーーーーーッ!」


 あるニワトリは戸惑い、あるニワトリは回避して、あるニワトリは食らった。

 しかしほとんどのニワトリは、ローラから離れた。

 オレはローラに駆け寄った。


「早く立て! 駄女神!」

「いいいっ、今っ、かすったあぁ。ほっぺたに、ほっぺたにかすったあぁ」

「当たってないならそれでいいだろ!」

「ふえぇ~~~~~~~~んっ」

「コケエェーーーーーー!!」


 現れたオレに、ニワトリたちは威嚇をかける。

 肝心の攻撃は、これといってしてこない。


(アイスニードル食らったやつを拾って退散するか……?)

 

 と、オレが思ったその直後。

 五体並んだニワトリの口に、紅い光りが溜まり始めた。


「せせせっ、成長したニワトリには、火を吐くっていう性質が……」

「先に言ええぇーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 叫んだけれども、遅かった。

 ニワトリは、口から炎を吐いてきた。


 間に合わない。

 回避はゼッタイ、間に合わない。


 仕方ない!

 オレはローラの、襟首を掴んだ。


「ゴッデスバリアー!!」


 ゴッデスバリアーとは、ダメな女神を盾にして、自分だけは助かる奥技!

 女神は死ぬ!!


「きゃあああああああああああああああああっ!!!」


 女神の悲鳴が響き渡るが、オレはまったく痛くなかった。

 アイスニードルで死んでいたニワトリを拾い、ニワトリの巣をあとにする。


   ◆


「ふえぇ~~~~~~~~~~~~~ん。

 痛いよおぉ~~~~~~~~~~~~~~。

 顔とか頭が、ヒリヒリするよおぉ~~~~~~。

 ふえぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」


 洞窟の前。

 女神がふえふえ泣きじゃくる。

 オレが放ったバリアーは、完全な技じゃなかった。

 おかげで女神は死ぬこともなく、ただ泣きじゃくっていた。


 一方のオレは、女神なんてどうでもよかった。

 こんだけ泣きじゃくれるなら元気だろ。としか思えなかった。

 たき火の準備を作ってから、ニワトリの肉を生でかじる。


 ……まずい。

 調理もなにもしていない、生の肉なのだから当然だ。

 けど――。


 てれれ、てってってっー。


 食べたおかげで、レベルはあがった。

 予定では、火炎放射が使えるはずだ。


「ファイア!」


 炎は、手からでてきてくれた。

 口とか尻とかじゃなくて安心である。


 そしてニワトリを焼く。

 羽をむしられたニワトリは、すでにおいしそうである。


 それが炎であぶられていくと、ほどよい焼き目と匂いがでてくる。

 脂がとろりとしたたり落ちた。

 たき火の中にぽたりと落ちて、ジュウッと音を立ててくる。


 見ているだけで唾液がでてきた。

 足の部分を手に取った。


 湯気と肉をしっかり見つめて、足を裂く。

 焦げ目のついた肉が裂け、白い肉が現れた。

 見ているだけで腹が減る。


 かじった。

 うまい。

 チキンの味が、そこにはあった。


 今までの苦労がすべて報われるかのごとき、最高の美味だった。

 幸せを分かち合いたい気分になったオレは、駄女神に言った。


「オマエも食うか?」

「うん……」


 駄女神ローラは、チキンをかぷっと口に含んだ。


「うまいか?」

(……こく)


 ローラは、もこもこと噛んでから飲み込んだ。


「おいしいぃ……!」


 一秒、二秒、三秒と、うまみをひしっと噛みしめる。


「こんがりと焼けた皮がパリパリしていて、焦げ目には独特の香ばしさ。

 それにかけられた塩っ気が、絶妙に国士無双だわ……!」


 もぐもぐもぐ。ごくん。

 女神は静かに食事を続け――。


 叫んだ。


「あぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

「どどどっ、どうしたっ?!」

「なに当たり前に食べさせてるのよっ!

 なに当たり前に食べさせてるのよおぉ!!」


「えっえっ…………ああっ!」

「このニワトリは、毒持ってんのよっ?!

 それをなに当たり前に、アタシに食べさせてるのよおぉ!!」


「あまりに美味くて…………つい」

「あっあっあっ、おなか、いたいっ、いたいっ、いたいぃ~~~~~~~~~~!!」


 早速利いてきたらしい。

 ローラは腹部を押さえてうめいた。


「トイレとかはあんの?」


「ケーマのばかっ! ばかっ! ばかあぁ!!

 お願いだから、どっか行っててえぇ~~~~~~~~~~!!!」

「あっ、ああっ」


 オレは素直に去ってやった。

 ちなみにレベルは、こんな感じであった。



 名前 コサカイ=ケーマ

 種族 人間


 レベル  13→16

 HP   85/136(↑25)

 MP   62/90(↑22)

 筋力    117(↑22)

 耐久    111(↑23)

 敏捷    129(↑23)

 魔力    100(↑20)


 習得スキル

 火炎放射LV1 2/50

 毒体質LV1  1/50


 上昇スキル

 なし



 火炎放射はともかく毒体質って大丈夫なんかな。

 人間やめてる系の人が習得するスキルのような気が、しないでもないんだけど。

 しかし、ニワトリは美味かった。

 それを考えると…………。



 どうでもいいね!!

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