第三十二話:大教会の地下には
――フニルグニルが至近を通過。
完璧な闇に包まれた場所で、システムの電子音声が響いた。
セーフモードになっていた意識が浮上する。
同時に、更新音に反応したのか、無数の何かが蠢く。
一切の光が届かない空間の中で、彼女はその動きを完全に視認していた。
『作業の進捗は』
虚空に問いかける。システムが彼女の言葉を受け、状況の確認を実行する。
暫くの静寂。特に何を思うでもなく待っていると、男性型の電子音声が美声を聞かせてくる。
――ほぼ完了と判断。
『あいまいな表現ね?』
――残り作業は七万六百八十四項目。その百パーセントが別個体での実測による比較および検討作業。システム・ラナヴェルは当該個体での作業を完了したと判断する。
『分かったわ』
彼女は久しぶりに体を動かした。
不気味に鳴動する『当該個体』が、怯えるように殺到する。
『無駄だというのに、まだ足掻く……いえ、それも生物の本能か』
呼気を出す機能はないが、まるで溜息をつくような呟き。
『上に連絡を。王機兵計画の第一段階を終了します。現時点で稼働している王機兵を呼び寄せるように、と』
――了解、お疲れ様でした。
システムの愛想のかけらもない労いには答えず。
体に纏わりつく『当該個体』に両手をかざせば、ほどなく締め付ける力を失った部位がずるりと剥がれていった。
『さて。あなたは目覚めているのかしらね、アル?』
奪王機ラナヴェルのAIであるラナは、そんなことを呟いて闇の中を歩き出した。
王機兵招聘令が出された時、それぞれの国にはまず困惑が生じたと言って良い。
天魔大教会の発令として、今までに前例のないものだったからだ。
まず混乱から脱却したのは、王機兵を擁さない国だった。特にトラヴィートなどは帝国との戦の爪痕も癒えない間の内乱と大襲来であったから、それどころではないといった方が正しいか。
一方で、エネスレイクではアルと流狼がディナス達に呼ばれて王宮内のサロンに出向いていた。
ことがことだからか、サロンに居る人数は少ない。ディナスとエイジ、ルナルドーレとフィリアの四人しかいない。何というか、こういう場にオルギオが居ないのは珍しい。
「さて、このような発令があった訳だが」
「何か知っているのか? アル」
『知っているよ。この世界で唯一、王機兵とその乗り手に対して強制力を持つ命令だからね』
流狼の問いに、アルが答える。知っていると言う割には、妙に歯切れが悪い。
『悪いんだけど、マスター。一緒に行ってもらえるかな』
「ああ、それは構わないが」
『ありがとうマスター。そういう訳で、ディナス』
「ええ、私たちもそれは大丈夫なのですが。アル殿、一体この発令がどういう事情なのか」
「ああ、それは俺も知りたい」
何やら触れられたくない部分だったようで、アルが珍しく沈黙する。流狼が知りたいと言えば、どんなことでも分かる範囲ですぐに答える彼にしては珍しい態度だ。
ディナス、エイジ、流狼、ルナルドーレ、フィリアと視線を巡らせたアルは、意を決したようにようやく声を上げた。
『初代の王機兵のマスターたちは、二つの懸念を持っていてね』
「懸念ですか」
『この世界に最初に現れた神兵は召喚陣を使って仲間を呼んだ。その時に一体どれだけの神兵がこちらの世界に現れたのか、はっきりとした数を掴んでいる者はいないんだ』
「つまり、生き残っている者がいるかもしれない、と?」
「それにしても三千年は昔の話ですよ。たとえ生き残っていたとしても、子孫を残せないのでは絶えてしまっているのでは」
『残念ながら、それはないよ。まだ最低でも一体は生き残っている。しかも、三千年前に呼び出された個体が』
「それを何故アル殿がご存知なのです? 少し前まで休眠状態だったと仰っていたではないですか」
『そりゃ知っているさ。天魔大教会の地下では、一体の王機兵と神兵が今も争っているんだからね』
リーングリーン・ザイン四領連合では、ナフティオルト達に事情を説明しているフニルの横でルースが何やら微妙な表情を見せていた。
「ふむ、事情は分かったよ。で、ルースは何故そのような変な顔をしているんだ?」
最初にその件について聞いたのは、ルースの義兄に当たるバスタロットだ。
穏やかな口調で問いかける姿は、戦場で怒号を上げつつ最前線に立つ名将のそれとは重ならない。
「いや、そのだな。次に会うのは戦場かもしれない、などと義弟と話したすぐ後なのでな……」
「ああ」
随分嬉々として妹を嫁がせるに足る男が居た、などと騒いでいたと思えば。別れ際に恰好をつけた手前、どういう顔で会えばいいか分からない、とでも思っているのだろう。
苦笑を漏らしながら、バスタロットはルースの悩みを一言で切って捨てた。
「お前らしく勢いで押し切ってしまえばいいじゃないか」
「お前もそれを言うのか」
が、ルースは彼にしては珍しく拗ねた様子でそう返してきた。バスタロットだけでなく、ナフティオルトやルースの妻たちも珍しいものを見たと驚いた顔をする。
「なるほど、それほど入れ込んでいるのか。少し嫉妬してしまうな」
バスタロットの言葉の意味が分かったのは、妹のリスロッテだけだったろう。
同じ意見だったのか、少しだけ頬を膨らませて、しかし直情型の彼女にしては珍しく声を上げることはなかった。
「うるさいな、バス。俺だってたまには拗ねるさ」
自分と対等な相手と認めると、その人物に関することについてだけは途端に子供っぽくなる。ルースのそんな性格を知っているのは、彼を幼少期から知る自分たちだけだろう。
彼の理想に共鳴し、旗揚げから苦楽を共にしてきたバスタロット。彼とリスロッテにだけは、今のように拗ねたり子供のように甘えたりするルースが、自分の知らないところでそういう相手を見つけてきた。
「それほどの男なのかい、リズ?」
「ルースほどではないけどね。中々雰囲気のあるやつだったと思うわ」
ルースと兄以外については極めて辛辣なはずの妹でさえこれだ。バスタロットはこの時点で、会ったことのないルースの『義弟』についてひとつの認識を持った。
「とはいえ、エネスレイクは敵方じゃからなぁ。帝国とうまく縁切りしてくれれば良いが」
ナフティオルトも同じ見解を持ったようだ。
王機兵の乗り手仲間だけではなく、ルースはエネスレイクという国と人とに随分と心惹かれて帰ってきた。これは間違いない。
王機兵の乗り手を害することは極めて難しい。これは、ルースとフニルという例を見続けてきた彼ら共通の理解だ。エネスレイクの王機兵についても同様のことが言えると考えている。
「王機兵の乗り手は敵にするよりは味方にする方がとても簡単ですからね。上手くすれば、東西の挟撃も不可能ではありませんし」
「して、フニル殿。あちらの王機兵はどれくらいの戦力になるんじゃな?」
『あまり戦力としては数えない方がいいな』
話の腰が完璧に折れてしまったことを理解したのか、フニルも意外と素直に問いに応じる。
それにはうむ、とルースも頷いた。
「特に武装もないようだったしな。拳による打撃だけで大型魔獣と対等に渡り合った実力は、どちらかと言えば義弟の腕前の高さによるのだろう」
『いや、そういう話ではないぞルース。アルカシードとて王機兵なのだ』
「じゃあなんだというんだ」
『乗り手のルロウ殿は若いが理知的で思慮深く、安易に力を行使することを良しとしない人物だ。ルースのような荒くれが乗っていたらどうしようかと危惧したところだが、そのあたりはアルが全幅の信頼を寄せているだけのことはある』
「お前な……」
むう、と唸るルースを気にせず、フニルは続ける。
『王機兵は神兵と戦うために作られた、特別な機兵だ。本来は人間同士の争いに運用すべき機体ではない。それは以前にも話したと思うが』
「聞いたとも。だが、この混迷する今を打開するためには必要だと俺は言ったぞ」
『ああ。お前はそれでいい』
「……フニル殿、それはどういう?」
『結局のところ、王機兵はマスターの意志を受けて動く道具だということさ。アルカシードのマスターは、おそらく王機兵を人間同士の争いに使うつもりがないのだと思う。まあ、現状帝国の同盟国に居るんだ、人間相手に使う機会など当面はないだろうがね』
「ううむ」
バスタロットはフニルの言葉を受けて考える。
「ルース。もしも帝国がエネスレイクに圧力をかけて王機兵を戦線に担ぎ出したらどうする?」
「義弟と戦うつもりはないな。帝国が戦線に投入させようとするなら、フニルグニルで引っさらってくるさ」
「ふむ。それならばいい」
周囲を見回せば、特に異論はないらしい。
エネスレイクと、その王機兵に対しての方針はこれで決まったようなものだ。
ひとつ頷いて、バスタロットはルースに笑いかけた。
「ではルース、出来るだけ悪い印象を与えないように。お前を理由にエネスレイクの王機兵が戦線に出てくることになったりしたら張り倒すぞ」
「そんなことになるわけがないだろう!」
「フニル殿、くれぐれも頼みます。どうせこいつは調子づいたら忘れるので」
『確かに承ったぞ、バス殿』
「お前らぁっ!」
いつも通り、言動にはいまいち信頼のないルースが抗議の声を上げるが、それをフォローする者はいなかった。
「王機兵招聘令、か。そのような命令がな」
呟く皇帝リンコルド。
昼食の席には彼のほかに、息子たち――イージエルド、アルズベック、サンドリウスが座っていた。
「四領連合の王機兵は獣のような姿だったぞ。とにかく速いやつだが、攻性魔術の斉射でもびくともしない頑強さもあった。気を付けてな」
「大教会がどういう意図かは分からないが、今は連中の決めた停戦期間中だよ兄上。戦うことにはならないと思う」
「む、それもそうか」
イージエルドが思い出したように苦笑する。
どうやら停戦条約の締結の際にひと悶着あったらしく、イージエルドから王機兵を超越した機体は自分に必ず最初に譲るようにとの依頼があったほどだ。
「あの二機も持ち出すか、アルズベック?」
「ええ。示威には都合が良いでしょう。戦わないにしても、帝国が動かせる王機兵を三機抱えていると見せれば圧力になるかと」
「そうだな。エネスレイクの王機兵はともかく、グロウィリアと四領連合の王機兵に数の有利を突きつけておくのは大事なことだ」
リンコルドの前向きな言葉は許可と同義である。
食堂の片隅に直立して聞き耳を立てていた宰相が、慌てつつも彼らに聞こえないほどの小声で兵士に指示を出す。
慌てて歩き去る兵士たちには気を向けることなく、皇族たちは優雅な食事を続ける。
「それで、兄上。義姉上をお連れすると伺いましたが」
「ああ、ヒヨに頼まれている。そうだ、サンドリウス。お前とミシエル師には礼を言わなくてはならないな。ヒヨの勉強に付き合ってくれていると聞いた。ずいぶん助かっていると喜んでいた。ありがとう」
「いえ、お役に立てているならそれで。……それで兄上、義姉上には危ないのではないですか?」
招聘令は発令されたものの、その背景や理由については連絡が一切ない。常識的に考えれば、陽与を連れて行ってもこれといった危険はないはずだが。
レオス帝国の皇族は、自分たちの拡大政策を間違っているとは思っていないが、他国からは狙われる対象であると十分に理解している。戦場ではないからこそ、より命の危険があることも。
「その懸念は私にもあるのだが。ヒヨはエネスレイクの王機兵の乗り手とは旧知なのだ。会える機会にあって説得したいと言うからな。その意思を無下にすることはできん」
「それは良い心がけだな。アルズベック、良い妃を得たものだ」
「ええ。父上と母上がたのような連れ合いになりたいものです」
「ふ。イージエルド、お前もそろそろ身を固めねばな」
アルズベックの惚気に頬を緩めたリンコルドが、優しい視線を今度はイージエルドに向ける。
「そう仰ると思ってはおりましたが。せめてタウラント大鉱床を押さえるまでは、私が前線を退くわけにはいかんでしょう。王機兵研究で成果を上げているアルズベックと違い、私はこの数年停滞しておりますから」
「それも道理か。では、タウラントの攻略をもってお前の任を解き、婚儀と帝位継承を発表するとしようか」
「父上、それは……」
驚く三兄弟に、だがリンコルドは首を横に振った。
「グロウィリアがエネスレイクと水面下で結んだことは間違いない。我らは一度、足を止めるべきではないかと思っているのだ」
「しばらく戦争を止めて国力を高めるのですな?」
「そうだ。帝国という共通の敵がなければ、四領連合は遠からず瓦解するだろう。あそこの領主どもは累代そういう性質の持ち主だ。戦を止めている間に研究を進めて、次に動く時には王機兵すら手の打ちようがない軍にする」
その為には帝位の継承は大きな理由になる。
帝国もその歴史を全て戦争に充ててきたわけではない。帝都ダイナの狙撃事件の前にも、攻略した領土の統治のために何度となく足を止めてはいるのだ。
そして今回、目の前にある脅威は今までのどの脅威とも違う。稼働状態の王機兵が敵なのだ。その打倒のために準備を重ねることは帝室にとって不自然ではなかった。
「拡大政策は父上が独断で推し進めたことにしろ、と仰るのですね」
「そうだ。飛行型機兵の研究と開発が進めば、帝国は必ず勝つ。まずはタウラント攻略を早々に片づけてしまうのが肝要だ」
「ならば、飛行型機兵を投入しますか。空中からならば罠や待ち伏せを気にすることなく、安全に連中を叩き潰すことができるでしょう」
「おお、それも手であるな。将兵の損耗も馬鹿にはできん。アルズベック、タウラントを蹂躙できるだけの飛行型機兵を用立てるのだ。イージエルド、タウラント攻略までの間、四領連合軍をしっかりと抑えてみせよ。それを以て東方戦線の成果とする」
「御意」
「わかりました、父上」
イージエルドと二人、父に頭を下げて応じる。食事も終わったので、研究室に向かうことにする。
王機兵を運用し、その実力をつぶさに判断しているアルズベックにしてみれば、父の言葉は弱気に過ぎると感じられるものだった。
しかし、旧帝都ダイナを狙撃したという王機兵の力は恐るべきものであるし、帝国の擁する王機兵はそれほどの力を発揮できるものはない。
何かが足りないのではないか、というひそかな不安は彼の胸に燻っている。
エネスレイクをはじめとした他国の王機兵と会うことで、その不安にひとつの解答が得られるのではないか、と。
アルズベックは期待を胸に準備を始めるのだった。
「メノー。父上からのご命令だ。停戦期間が明けるまでにタウラントを攻略できるだけの飛行型機兵を用意する。出来るな?」
「承りました、殿下。三体の準備は終わっております。いつでもご出立いただける状況ですので、準備が出来ましたらお声がけください」
「ああ、任せた」
「奪王機ラナヴェルと、神兵ですか。それが天魔大教会の地下に」
『うん。神兵は離れた場所の個体と、有意な情報を共有しあうという生態を持っているとされた。ボクたちの
「生態の研究のために、三千年も?」
『そうだね。戦闘を継続しながらということだから、ずいぶんと時間がかかったと思うけれど』
「なぜそうまでして、研究をされたのです?」
口々に質問をぶつけるのはエイジ。
アルもまた、聞いているのが流狼ではないにも関わらず、珍しく饒舌にその問いに答えていた。
『神兵がどこまで情報を共有しているのかが分からなかったからさ。召喚されるという経験が向こうの世界の神兵たちに共有されていたら。そのデータをもとに召喚の魔術が研究されたとしたら』
「突然、神兵が大挙して現れるかもしれない、と?」
『そうだね。事実、最初の神兵は召喚陣を行使したわけだから』
「ならば、神兵の生態研究とは」
『神兵と互いの生存を賭けた争いが起きて、連中を根絶しなくてはならないような。そんな日が来るかもしれない。その時のための準備さ、これはね』
アルの言葉に考え込むディナス達。
いやにスケールの大きい話なので、咀嚼するのに時間がかかるのは無理もない。
「それは。未来の私たちのために、そこまでしていただけるとは」
『君たちが感謝することじゃないよ。彼らは結局この世界で家庭を持った。子孫もいる。それに、神兵がもしも現れてこの世界を蹂躙した場合、次に狙うとしたら召喚陣で繋がったことのある世界である可能性が高い。元の世界に対しての自衛の側面もあるんだ』
「それでも、感謝しなくてよい理由にはなりませんよ」
『そう』
どことなく嬉しそうな様子のアルだが、とりあえず流狼は話を戻すことにした。
自分たちが呼ばれた理由を確認するのが最初の話だ。
「で、今回俺たちはなぜ呼ばれたんだろうな」
『研究が終わったんだと思う。中からは開くことができない空間だし、開くには王機兵が必要でね』
「開くためだけに、王機兵が要るのか?」
『ラナヴェルは決して高い破壊力を持っているわけではないから。解析と情報収集はともかく、神兵を仕留めきれなかった時に王機兵が稼働していないと大惨事になりかねない』
「なるほど、よく分かりました」
ディナスが納得したように頷く。
エネスレイクという国に所属しているものの、行動の自由についてはほぼ無制限に認められている流狼とアルだ。エイジも含めて、特に異を唱える者はいない。
と、そんな中でフィリアが口を開いた。
「それでだな、ロウ。私も行くのでそのつもりでいてくれ」
「フィリアさんが?」
「ああ。不満か?」
「いや、そんなことはないけど」
神兵が絡んでいる以上、王機兵がいるとはいえ完璧な安全は保障できない。
だが、意外にもディナスは肯定的だった。
「任せたよ、フィリア。ルウ殿、何かとご迷惑をかけるかもしれないが、フィリアを連れていくことで助けになることもあるだろう」
「これは私たちにも益のあることなんだよ、ルウ殿。王機兵招聘令を受けた以上、帝国からも王機兵が来るんだ。帝国で稼働している王機兵の乗り手のひとりは、ルウ殿たちを召喚したアルズベック皇子だからね」
「……ッ!」
エイジの言葉に、息を飲む。
こちらを冷徹に見下す、蒼い髪の男の記憶がよみがえる。
「そういうことだ、ロウ。私が行く以上、ロウに無用な手出しや口出しをさせないつもりだ。奴は冷徹で計算高い。弱みを見せれば付け込まれるからな」
フィリアの言には言外に苦衷が滲んでいた。
流狼たちを召喚したのは、トラヴィート絡みで帝国からの圧力を受けたとはいえエネスレイク王国であるのは変わらない。
流狼が辛い別れを経験したのも、平穏な日常から切り離されたのも、エネスレイクにも大きな責任がある。
許しを得たとしても、割り切れるはずもない。
『そうだね。ボクも休眠期間が長かったから現在の国家事情とかにはそこまで明るくない。不用意にベルフォースやフニルグニルの前に立たされるような言質を取られても困ってしまうから』
アルまでが認めたことで、フィリアの同行は決定的となった。
覆すことはできないだろうと察した流狼は、せめてこれだけは言っておかないわけにはいかなかった。
「わかりました。アル、フィリアさんの無事を守ることについてだけは、全力を傾けてくれ。今回の件においてだけは、俺より優先すること」
『マスターより⁉ それは……』
「それを受け入れられないならば、俺は招聘令を無視することにするが」
『えぇ、それも困るよ! うぅん、分かった。天魔大教会領でのフィリアの安全については全力を尽くす。それでいいかい?』
「ああ」
何やらしばらくの葛藤の後、アルは流狼の言葉を受け入れたのだった。
その言葉に、ディナスが頭を下げてきた。エイジも、ルナルドーレも同様に頭を下げてきた。
「ルウ殿、アル殿。ありがとう」
「頭を上げてください。当然のことですよ」
ともあれ、流狼とフィリアが天魔大教会に赴くことはこれで決定事項となった。
「それにしても、現在動いている王機兵が一堂に会するのか。オッさんが聞いたら羨ましがりそうだな」
「あっ」
「ええと」
後ほど、それを聞いたオルギオが羨ましさのあまり拗ねに拗ねたのは、また別の話である。
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