エピソード22「超人達の会合」

「ハルトマン、ここにいたのか?」

やってきたのはプロイセンの軍服を着た人物だ。

「ルーデル大佐、艦爆隊の演習は終わったのですか?」

その言葉にドーマエとフルサワは驚きを隠せなかった。

「ル、ルーデル大佐!?」

なにしろルーデル大佐といえば伝説の艦爆乗りである。普ソ戦争で何度も撃墜されながら生き残り、大公であるヨシフ・ポローリンに「最大の敵」と言われてその首に懸賞金が掛けられていたのだ。更に艦爆を駆って九機の敵を撃墜した異色のエースパイロットでもあり、失うのを恐れたビスラーから直々に飛行禁止命令が出たとかいうパイロットだった。

「ハルトマン大尉、この人達は?」

「はっ!大日本皇国の宇宙軍士官殿であります。」

「ほう、ヤパンのか。」

ドーマエはルーデルに近づくとプロイセン語で話しかけた。

「ルーデル大佐、はじめまして、私は大日本皇国宇宙軍のドーマエ大佐です。戦艦ムツの艦長をしております。」

ルーデルはドーマエが差し出した手を取った。

「プロイセン軍大佐のルーデルです。Ju187爆撃機に乗っております。」

「ルーデル大佐の活躍は聞いております。ああ、こちらはフルサワ大尉です。」

フルサワは日本語で話始めた。

「こんにちはルーデル大佐、私は大日本皇国宇宙軍大尉のフルサワです。零戦の搭乗員です。」

ルーデルが首をかしげたのでドーマエがそれを通訳した。

「フルサワ大尉、貴方は零戦、あの素晴らしい戦闘機に乗っておられるのですか。」

ルーデルが感心したように呟いた。それをドーマエが和訳してフルサワに伝える。

「フルサワ大尉、ドーマエ大佐、宇宙軍について語り合おうではないか。うちのハルトマンがコーヒーをご馳走になったようだから夕飯は私が奢ります。」

ルーデルが去るとフルサワとドーマエ、ハルトマンは紙コップを捨てて席を立ち、食堂を後にした。

夜六時、隊舎の食堂に集まった部隊員にはステーキを始めとしたご馳走が振舞われた。

「いただきます。」

食事に手をつけ始めた。ハルトマン大尉が会話の口火を切った。

「今後の宇宙軍は航空機の武装可能重量が増え、航空母艦と航空機を中心にした戦力が戦争の中心になるでしょう。」

ドーマエもそれに乗る。

「たしかにト号作戦では多数の航空機により私の乗艦である航空戦艦イセも撃沈されましたし、航空機の有効さは良く分かります。」

ルーデルはまさにその通りだと頷いた。

「ああ、我国は艦隊の主力戦艦が38cm砲搭載のビスマルク級だ、H級戦艦の開発も進められているが日英米等の大国に比べれば主力艦では劣る、そこでグデーリアン上級大将は大量の駆逐艦と空母、上陸用艦による電撃戦で防衛線を突破しようと考えた。まず潜宙艦による偵察で敵の手薄な地点を見つけると空母艦載機の空爆とロボット兵の上陸を行って制圧、そこに基地を施設して敵への橋頭堡とする、というのを繰り返すわけだ。普ソ戦争ではその戦法により防衛線に穴を開けてソビエトを翻弄した。その電撃戦を支えるために我軍は重爆のJu880にも特別弾搭載機能をつけたり奪った基地を守るために小型の潜宙艦も量産しておる。」

ルーデルが述べた事にドーマエも返す。

「我皇国では常に対潜哨戒機や偵察機を飛ばし、敵艦隊の動向を調べます。後はナガト級戦艦や空母艦載機で敵艦隊を殲滅します。質も数も世界で一級ですから。まあ、戦法の常道ですね。敵艦隊を艦載機で削り、更に数に差のできた状態で主力艦同士の砲撃、そして駆逐艦が総崩れになった敵艦隊に肉薄し、雷撃で止めをさします。潜宙艦は偵察や敵の補給線寸断等に使います。特に惑星が少なく恒星や衛星が多い広大な太平大宙域は我国と米国が争う際の戦場となることが予想されますので。その際に敵の補給線を断つことは重要です。そのため今我国は機動部隊及び潜宙艦に重きを置いていますし。」

ハルトマンが発言した。

「たしかに、我国プロイセンも同様に広大な宙域でソビエトと国境を接していますから。 けれども我国はヤパンと違って主力艦が少ないので先程ルーデル大佐が述べたような小型艦が頼みの戦法に限られるわけだ。だが我々はグデーリアン将軍の電撃戦でその不利を補っている。」

フルサワが口を挟んだ。

「まあ、ハルトマン大尉もこの間の戦争で352機の撃墜記録持ってますからね。宇宙一ですよ、その撃墜記録は。」

「いえ、撃墜したソビエトのパイロットは殆どひよっこでしたから。フルサワ大尉こそすごいですよ、エースパイロットを何人も撃墜しているのですから。本当に尊敬してます。」

ハルトマンが照れながら否定した。

「それはどうも、でも本当に凄いのは艦爆で9機を撃墜してエースパイロットに名を連ねたルーデル大佐でしょう。艦爆は戦闘機に比べて鈍重ですから撃墜するのは困難でしょうに。」

「いやまあ、イワンの奴等もひよっこが多くてな、後は自衛用の対空誘導弾が命中したケースが多いからな。」

ルーデルの説明の後にハルトマンが口を開いた。

「ドーマエ大佐こそ、その武勇は遠くプロイセンまで響いております。駆逐艦一隻で戦艦を撃沈したとか匠な指揮で千を超える敵機と戦い、撃沈されるも相当な出血を強いたとか。」

四人は食事をしながら話をしていたがその談笑は一人の兵士によって突然終了した。

「失礼します。ドーマエ大佐でありますか?」

若い兵士はドーマエを呼んだ。

「いかにも、私がドーマエだが。」

ドーマエが席を立った。

「ドーマエ大佐を至急通信室に呼べという命令が届いておりまして。」

「なに?俺を?」

「はっ!詳細は不明でありますが、とにかく呼べとのことであります。」

「わかった、すぐ行く。」

そう言うとドーマエはルーデルに食事のお礼を告げ、フルサワとハルトマンに挨拶するとカスミガウラ飛行場の通信室に向かった。

通信兵が白い受話器を渡す。保留になっていたそれを通話状態に戻した。

「はい、ドーマエ大佐です。」

電話の相手はイノウエ元帥の個人秘書のキジマであった。

「ああ、ドーマエ大佐ですか。キジマです。至急クレ星に戻るように、とのことです。イノウエ元帥は相当急いでおられます。」

かなり慌てた口ぶりからかなりの事態であることは推測できた。

「何事だ?」

ドーマエはキジマに何が起きているのか訪ねた。電話の後ろではガヤガヤとなにやら騒がしい。

「いいですから、とにかく来てください。」

キジマの返答の後ドーマエはすぐに聞いた。

「民間便か?それとも軍用機をチャーターしてくれるのか?」

イノウエの声が聞こえた。キジマは電話を変わったらしい。

「ああ、俺だ。」

「イノウエ元帥!」

「着任すぐに呼び戻して悪いが早急にクレ星に戻って欲しい。八八式人員輸送機が一機クレ星に向けて約三時間後に出発する。軍属技術者のクレ星付近への移動のための飛行だが空いている席にお前をぶち込んだ。帰還の理由は決して教えるな、お前は身一つで帰ってくればよろしい。」

「了解しました。失礼いたします。」

ドーマエは居並ぶ各国航空機を見ながらカスミガウラを離れた。

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