エピソード19「各国代表」
エピソード19「各国代表」
会議の開催場はプロイセン総統ビスラーの総統官邸である。各国の全権の顔ぶれは以下の通りである。
皇国、アサオ副首相
アメリカ、ハル国務大臣
ソビエト、モロトフスキー外相
中国、朱副主席
オスマン、ムスタファ前大統領、現外相
ブリデン、第141代ヒューム伯爵、外相
カナダ、ピアソン外相
そして仲介がプロイセンのノイラート外相だ。講和会議は昼は会議、夜は宴会というサイクルである。初日の昼は各国代表の顔合わせでありそのまま夜の宴会に入った。豪華な料理が振舞われた。ドーマエはフルサワとオーツカとワインを飲んでプロイセンの名産であるソーセージを皿に取っていた。
「おい、ドーマエ。」
流暢なプロイセン語が聞こえてくる。ドーマエが振り向くと金髪碧眼の将校が立っていた。黒い軍服の腰からサーベルを下げた将校にドーマエは見覚えがあった。
「おお!リストか。」
ドーマエとリストは握手した。
「ああ、今は宇宙武装親衛隊の少佐だ。お前の活躍は言われんでも知ってる。」
宇宙武装親衛隊、ビスラー直属の軍隊でプロイセン国防軍とは異なる指揮系統を持つ。優秀な人材のみが集められており高い連度を誇る。略称はプロイセン語ではUWSS(Universum Waffen-SS)で通常の親衛隊と区別される。
「なるほどな。宇宙武装親衛隊とはかなりのエリート部隊だ。今はUWSSで何やっているんだ?」
リストは素直に答えた。
「ああ、UWSS本部付参謀をやっている。旧友に会いたくなってきた。」
「そうか。」
リストはドーマエに質問を投げかけた。
「ところでドーマエ、おたくから講和会議を申し込んできたそうではないか。もしかして皇国宇宙軍はもく崩壊したのかい?」
リストはさりげなく皇国の内情を探ってくる。
「さあね、ずっと現場で艦長やってる一佐官には理解が難しい、少なくとも私の乗る戦艦は無事だ。」
無難な答えを返した。
「そうか、で、ぶっちゃけた話皇国はこの講和をお流れにしてまだ戦争続ける気満々なのか?」
「さあね、それは明日からの会議聞いて自分で探るのがいいんじゃなのかリスト親衛隊少佐。」
「ドーマエ、俺とお前の仲だろ。」
ドーマエはリストに言った。
「俺が友情と言う言葉で情報を漏洩するやつだとでも思ったのか?」
機嫌を損ねたドーマエに非礼を詫びたリストは宴会のど真ん中へと戻っていった。ドーマエはグラスに入っているワインを飲み干した。
翌朝から会議が始まった。議長をするノイラート外相が始める。
「まずは各国の講和案を伺いましょう。大日本皇国のアサオ全権、お願いできますかな?」
「はい、まずはこちらをご覧下さい。」
各国代表団の机にあるホログラムに各国の言葉で書かれた甲案が投影された。ノイラート外相がそれを読み上げようとする
「読み上げます。
前文、我国は対日大同盟に大打撃を加えた。そしてここに大同盟諸国に伝える。我国の宇宙軍及び陸軍は貴殿らの国を攻める体勢を整えつつある。貴殿らの未来は韓国の末路を見れば明らかであろう。戦争の発端も韓国による竹星雲の不法占領である。今貴国には決断の時が来ている。貴国らが道理の道を歩むか否かの決断である。
これより以下の諸条項を提示する。貴国がそれに従うことを希望する。
主文
大日本皇国政府が貴国に課す諸条項は以下の通り一、ソウル星から脱出したキム・ソグォン率いる亡命韓国艦隊を宇宙テロリストとして逮捕することに協力する。
二、占領地の韓国等を独立させる。
三、戦利艦としてソビエト宇宙軍にかつて皇国が輸出した28cm砲級の小型戦艦ペレスヴェート級二隻と各国の小型艦艇計百二十隻を皇国に譲渡する。譲渡希望艦は今後の交渉で決定する。
三賠償金。各国に課す賠償金は以下の通り
ソビエト、十七兆八千万円
アメリカ、十二兆五千万円
中国、十三兆九千万円
カナダ九兆千五百万円
計五十三兆七千五百万円
四、ソビエトトルコ戦争でオスマントルコが失ったセヴァストポリ宇宙要塞及びその付近の宙域のトルコへの返還、韓国が中国に中韓条約で管理を依頼した旅順要塞も韓国に返還する。
五、カナダは日本を中心とした新しい経済システムに入る。
末文
各国が破滅への道を避け正しい選択をすることを熱望する。
天皇ムツヒロ
首相シンゾー・ヤベ」
日本の国家予算はおよそ十六兆円なので請求賠償額はそれをはるかに上回る。円の価値は皇国の宇宙技術力が世界一になってからうなぎ上りで今では皇紀2670年代に比べて十倍の価値を持っていた。勿論こんな賠償金額はいつぞやのGDP二十年分課せられた国には及ばないがそれでも相当な額である。皇国政府の甲案を読み上げた。全員がポーカーフェイスを崩さないでいる。この条件はブリデンやオスマンの承認も得ている。ノイラート外相は続いてソビエト代表のモロトフスキー外相に講和案を出すように促した。
「では、提示します。」
先程と同じようにノイラート外相が読み上げる。
「前文
我同盟は日本と戦争を続けているが我々の予備艦隊を投入すれば日本の滅亡も近いだろう。我々はここにソビエト政府より日本及びその同盟諸国に案を提示する。なおこの条項は我国新大公であるヨシフ・ポローリン書記長と中国の毛主席帝国議長の連名により提示する。貴国が正しい選択をできることを祈っている。
主文
一、同盟国艦隊及び日本並びにその同盟諸国の艦隊は戦前の国境まで後退し、国境の宙域から一光週間地点は軍備禁止宙域とする。
二、今後の世界経済への影響も考えて互いに賠償金を請求しない。
三、竹星雲は韓国領であることを認め、日本及びその同盟諸国は我同盟各国に戦争開始の責任を取り謝罪をする。
四、日本政府高官のうち我同盟が指名する戦争開始の責任があるものを我同盟による裁判にかける。
五、日本は全ての国との同盟を解消する。
末文
これ以上戦火が拡大することを望まない
ソビエト大公ヨシフ・ポローリン書記長」
ノイラート外相が読み終える。ドーマエはなんでアメリカやカナダと連名でないのかが気になった。
「続いてアメリカの講和案も読み上げます。」
ノイラートが読み上げたアメリカからの講和条件はソビエトの条件に追加で国境付近にある各国要塞の取り壊しを要求したものだった。更に英土両国がそれぞれの賠償金を請求し、各国が講和案を提示したところで本格的な最初の会議は終了した。皇国交渉団はこの会議を受けて更に対策を練った。各国の外交通信は暗号化されていたがそれを傍受し、解析中であった。誤算だったのは各国が今回の会議のためだけに新暗号を用いている事だ。皇国は今までどおりの暗号を使用している。暗号解読にやや時間がかかっているが傍受しているだけで成果は得られている。取り敢えず暫くは強硬的な姿勢で戦争継続も辞さない構えを見せることにした。宴では飲み食いしながら各自の補佐官は交渉団メンバーが酒の勢いで変な発言をしないか見張っている。宴が終わるとホテルに戻り外出しないように見張られる。閨の睦事程恐ろしいものはない。ハニートラップに警戒するためだ。翌朝目覚めると早くも身支度をして会議に出席である。
今回ハル国務大臣はなぜか交渉に乗り気ではなく本国に確認という言葉でのらりくらりと会議を引き延ばした。だがアメリカの通信中継衛星には全く動きがない。つまり本国に確認などしていない。ハルに与えられた任務はなるべくこの和平交渉を引き延ばすことであった。それを掴んだ皇国は素早く次の手を打った。各国を巻き込んで戦争は懲り懲りで早く平和にしたいという空気を議場に作り上げハルの遅滞戦法を封じようとした。更にはこの今後の宇宙情勢を定める会議を報道するメディアにアメリカが一々本国に確認するという手段で時間稼ぎすることを会見で話し、アメリカは自国の全権に決定権すらもたせてない。即ちこの講和会議をさほど重要視しておらず平和を望んでいないとアピール、国際世論にアメリカを叩かせた。アメリカとしてもこうなったら普通に交渉のテーブルにつかざるをえない。ここまでアメリカを引きずり込むのに実に二週間も要した。アメリカ政府はハル全権に決定権を移行した旨を記者会見で発表した。なんとか会議が動き始めた。
ただし交渉が始まっても延々と議論は平行線であった。理由は互いに譲る気がないからである。皇国交渉団は20日目の会合で賭けに出た。勿論本国からはすべての権限が委任されている為である。それはその日の会議の冒頭のこのアサオの一言で始まった。
「ええ、この会議が始まってもう20日になりますが何一つ進んでいません。我国交渉団は今日会議が動き始めなければ全員帰国した上で96時間後に戦争を再開する用意があるということをお伝えしておきます。我国は平和を望んでいますが貴方方がそれに協調できないなら仕方ありません。非常に辛い決断ではありますが我々にも時間の限界というのがあるのですから。さあ話し合いましょう。」
議場は一瞬凍りついた。勿論この賭けを提案したのはドーマエだ。皇国はやや主張を下げた。小型艦艇要求を旧式化した戦列艇八十隻に下げた。対日大同盟諸国もその要求を基本飲むことを突きつけられた。皇国はこれ以上の条件緩和は基本無いことを通告。対日大同盟諸国は条項の緩和を検討しているが果たしてこの交渉の行方は。
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