エピソード18「出国」

エピソード18「出国」

ホテルで会議内容をオーツカとフルサワに伝えたドーマエは翌日にパスポート申請所に来ていた。勿論三人で来ている。宇宙軍から三人の戸籍のコピーが渡された。身分証明できるものとして軍人手帳に入った写真付き身分証明書と国民保険証を持ってきていた。申請所にある写真機で写真を取り書類を書いて窓口へ向かう。

「こんにちは、パスポートの申請は初めてですか?」

ドーマエはプロイセンに留学していた際にパスポートを取得していた。

「いえ、取得していましたが有効期間が切れたので捨ててしまいました。」

事務員は書類に目を通しながら話を続けた。

「そうですか、ですがこの過去にパスポートを取得した事があるという欄が空欄ですが。」

「ああ、そこは覚えてないんですよ。」

ドーマエがそう言うと事務員は目の前のキーボードを叩き始めた。

「わかりました。こちらでデータを確認するのでこちらの番号札540番を持ってそちらのソファーで待っていて下さい。」

そう言うと事務員は奥に引っ込んだ。ドーマエは座ると端末をいじっていた。

「番号540番でお待ちのお客様、七番カウンターまでお願いいたしします。」

ドーマエは七番カウンターに向かった。そこで先程の事務官がボールペンを持って書類の欠けていたところを埋めていく。

「パスポートのデータは確認いたしました。では、身分証明できるものを確認させていただきます。」

ドーマエは宇宙軍身分証明書と国民保険証を事務官に渡した。

「戸籍もよろしいでしょうか。」

ドーマエは戸籍を渡した。

「はい、身分は確認が取れました。写真を貼りますので写真を。」

写真を渡すとレーザー切断機で写真を4×3.5cmに切り取って書類に貼った。

「この署名欄は貴方が書いたもので間違いないですね。」

「はい、間違いありません。」

「確認させていただきます。国内緊急連絡先はクレ星の連合艦隊司令部。出国先はプロイセン、出国予定日は、あれここ空欄ですよ、出国予定日は大体これくらいという形でいいので埋めてください。」

ドーマエは事務官に耳打ちする。

「すまないが軍の極秘なんだ、適当に設定してくれ。」

事務官は軽く頷くとボールペンを走らせて出国予定日欄に十日後の日付を書いた。

「で、過去犯罪履歴は無し、出国期間予定は三ヶ月以内ですね。間違いあったらお願いいたします。」

ドーマエは間違いないことを伝えた。

「では、こちらの引換書を持って一週間後に又お願いいたします。パスポートは本人以外の方が受け取ることはできませんので御注意下さい。」

「わかりました。有難うございます。」

ドーマエは待合室の椅子に腰掛けて二人を待った。二人はそれから五分くらいで戻ってきた。

「よし、では又一週間後に来るか。」

ドーマエは申請所をあとにした。

一週間の間で会議を重ねて具体的な賠償額も定めた交渉団は余裕を持って現地入りをするために交渉開始二週間前に出国することが決定した。プロイセンにもその旨伝えており政府専用機も手配した。ドーマエ達は出国五日前にパスポートを受けとった。

出国当日、夜明け前の軍用飛行場の格納庫に一機の五発機が止まっていた。皇国政府専用機「旭」である。低翼機で中央と各翼二基の計五基のエンジンが積まれている。通信施設等も充実している。操縦士は皇国政府お抱えの飛行士である。

「集まったな。」

ギャングスタイルと称される渋い格好のアサオ全権がつぶやいた。既に交渉団メンバーは揃っており全権のアサオ副首相を待っていたのだ。

「てめえら、行くぞ。」

交渉団メンバーが旭に乗り込む。ドーマエは白い軍服に身をつつみ腰には軍刀を下げている。戦場には軍刀は持ち込まないが儀礼として正式に外国に派遣される場合は将校は軍刀を携帯することになっている。ドーマエは中の会議室にて決められた席につく。

「旭、発進します。」

エンジンをふかして旭がゆっくりと地面を離れた。

「当機は約30時間の飛行を行いプロイセンのベルリン星に着陸する予定であります。」

ドーマエがふと外に目を遣ると旭を守らんとするシンデンが八機、更に離れて零式艦戦が四機、計十二機が旭と同速で飛んでいた。万一旭が撃墜されれば皇国は相当数の人材を失うことになる、それを防ぐための直掩戦闘機隊はプロイセンに入国を許可されていた。

「では、各自ベルリン星標準時に合わせて睡眠をとるように、以上。」

会議室を離れてそれぞれの部屋へと別れていく。ドーマエも部屋に入り睡眠カプセルの蓋を開けた。睡眠カプセルは各地の標準時刻に合わせて起こしてくれる外交官必須のカプセルである。ドーマエがその中に入り暖かい毛布にくるまるとタイマーが始動した。

「大日本皇国政府専用機の旭ですね、入国許可がおりてます。ベルリン星へどうぞ。」

プロイセンの国境宇宙警備隊が入国許可を確認して旭を中に通した。旭はゆっくりとベルリン星ゲーリング国際空港に降りた。約二十分前に起きて快適な寝起きのドーマエはタラップを降りて車に乗った。ホテルは厳重な警備が行われていたが改めて盗聴器チェックを行い安全を確保した。

その頃ベルリン星からほど近い各国通信中継用衛星の近くに青い塗装の艦が第二空間から第一空間に現れた。

「よし、義烈特務隊、出撃せよ!」

防護服に身を包んだ兵士がハッチから宇宙空間に飛び出す。義烈特務隊の役割は通信傍受装置を中継機に設置する事だ。今はほぼ全ての国の通信中継衛星は無人衛星だが皇国のそれは有人であり手動爆破装置も設置してある。皇国は利便性より機密保持を重視しているからだ。今回義烈特務隊は潜宙艦から出撃した。

「左手、アメリカの通信中継衛星。」

背中の飛行装置で隊員が衛星に向かって飛ぶ。惑星からの光で発電する発電パネルをくぐり抜けて中心のコンピューターに近付くと両手に収まるサイズの箱型通信傍受装置を取り出す。隊員は素早く小型の万能作業具のレーザー切断モードで回路を切断すると素早く傍受装置のコードを切り口にレーザー溶接装置で繋げると動作確認を行いその場を離れる。実にその時間2分である。義烈特務隊は民間用にも使われている各国の通信中継衛星の構造を学んでおり傍受装置の取り付け訓練も行っていた。プロイセン政府が設置した通信中継衛星設置許可宙域を飛び回り各国の中継衛星に傍受装置を仕掛けた義烈特務隊は潜宙艦に回収されて帰投した。もちろん各国は通信が皇国に筒抜けである事など知る由もなかった。こうして皇国が一枚有利なカードを有している状況で講和交渉が始まった。

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