エピソード8「新技術」
翌日オサダ第一試射場ではドーマエの同期生の技術士官、レンヤ・ヤマグチがいた。
「ようレンヤ。」
ドーマエは声をかけて驚いた。ヤマグチの階級章は大佐のそれだったのだ。
「おう、ドーマエ。今日来てもらったのは他でもない対空戦闘に関してだ。」
「おう。」
ドーマエが頷いた。
「まず今までの主砲弾では対空戦闘が出来なかったのは知ってるな。」
それくらいは艦長なのだから当然知っていた。
「ああ。」
レンヤはそこで説明を続けた。
「それは従来の砲弾は弾芯と外郭を圧力で500%にした陽電子と中は300%圧迫の陽電子を持つ。これで装甲を突き破った後に中の陽電子が拡散することによってダメージを与える。これのため対空射撃を行えなかった。そこでだ。弾芯を無くし外郭を250%にして弾頭に陰電子を含ませる。これによって発射後に外郭と陰電子が反応して外郭が崩れて陽電子が拡散、対空戦闘が可能となるがもちろん対空砲には劣る。試しに撃つぞ。」
先にあるのは戦艦の三六糎陽電子砲だった。
「対空射撃用意!」
「圧縮よし!」
砲塔の中から無線で声が響いた。
「目標ドローン!撃ち方はじめ!」
光ったと思ったらドローンは消えていた。
「これが拡散することに成功した主砲による対空砲撃です。どうですか?」
どうですかもなにもドーマエは呆気に取られていた。
「嘘だろ。こんな技術革新が起こるなんて。これで皇国は楽に戦闘が行えるようになる。」
「お気に召してなによです。この新型圧縮機を主砲塔に搭載するために今順次軍艦がドック入りしてますがおそらくイブキが初搭載艦ですね。」
階級は上でも技術士官のため戦闘士官にくらべややしたに見られる傾向があるのかここでも敬語をつかつヤマグチ大佐である。
「そうか、ありがとうなヤマグチ。」
ドーマエは射撃場から出ていった。
「新兵含めて主砲塔要員及び砲術長は総員艦橋会議室に集合せよ。」
イブキに戻ると艦内放送を流した。すぐに要員が揃った。
「皆、急な呼び出しで悪いな。今回は技術発展で主砲に新たな機能が追加されることになった。」
要員の目が輝いてくる。一体何が来るのだろうかという期待の目だ。
「新しい機能は、皆が待ち望んていた。」
とここで一旦言葉を切った。皆固唾をのんで続きを待った。
「対空用の主砲陽電子弾が開発された。」
「おぉー!」
歓喜の声が上がった。
「でだ。当然皆はこれに慣れてない。ので主砲塔換装が終わったら訓練するがその前に新しいバーチャル訓練機がドックの前にある。明日から砲塔ごとに訓練をするように。以上。」
要員が会議室から出ていくと砲術長と二人になった。
「砲術長、この新型圧縮機による対空射撃だが俺が見た感じでは主砲軸線上への敵の攻撃を防ぐことにしか使えないだろう。艦隊防空では使い物になるだろうが主砲の旋回速度だと個艦防空では使い物にならんというのが正直な感想だ。」
「艦長、まあ主砲軸線上は対空防御の穴でしたからね今までは。それに比べたらまだマシじゃないですかね。」
「そうだな。」
翌日からはじめられた高射訓練では古株の隊員は概ね満足できる成績だったが新隊員はまだまだの成績である。圧縮装置の換装は三週間で終わった。もともと修理だけで二週間で終わる予定だったのだが色々増設したためである。それでも三週間で終わるのはやはり皇国の技術力と工業力の高さの象徴であった。だが大韓王国の首都星であるソウル星進攻作戦、ソ号作戦は既に開始されていた。韓国軍の予想される兵力は戦艦一、空母五を基幹として総計四〇隻あまりと残存航空兵力が新旧合わせて約二万機である。対して皇軍は先のインチョン要塞攻防戦で空母ハクリュウの中破をはじめとし空母部隊がやや欠けていた。空母は搭載機の消耗も含めると参加できるのは四隻と航空戦艦二隻で搭載機総数は四百機余りしかない。実際韓国軍も旧式機や練習機に無理やり武装させたという程度の物が多いらしいがそれでも第一線級機は少なくとも約六千機はあるそうだ。航空劣勢を補うために行った作戦は全空母及び航空戦艦をオールファイターズキャリアにすることで艦隊上空の制空権のみを握りつつ制空権下艦隊決戦を臨もうというのだ。一度砲戦になれば戦艦の数に勝る皇軍は必勝である。というわけだがソ号作戦に間に合わなかったイブキはクレ星でお留守番である。空母と駆逐艦合わせて数隻だけが留守番仲間である。そうこうしていたら緊急出動命令が下った。発信元は空母アカギである。
「クレ星ニテ待機中ノ全艦ハインチョン宇宙要塞ニテ味方艦隊ノ支援ヲ行エ」
ソ号作戦参加艦隊にいったい何があったのだろうか。ドーマエはその思いを抱えたまま機関始動を命じた。
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