エピソード6「要塞戦前編」
「機関始動!」
青白い火がエンジンにともる。
「出港!」
ドーマエ艦長の指示で陣形に入った。しばらくは何事もなかった。皇国軍は空母から偵察機を飛ばして索敵していたが先に敵に発見された。
「レーダーに感あり!単機です!」
「発見されたか。念のため全艦に通達しろ。」
「通達します。」
通信手がマイクに向かって喋る。
「直掩戦闘機発艦中!」
空母からシンデンが飛び立った。
「偵察機からの通信を受信!」
「読め。」
「我敵艦隊発見ス、空母四、巡洋艦二、駆逐艦二四です。」
「発信位置から敵編隊来襲までの時間を探れ。」
「了解!」
そういった時早くもレーダーが探知した。
「どうやら、要塞の基地航空隊を先に送り込んできたか。対空戦闘用意!」
「対空戦闘用意!」
復唱されて部下が配置についた。
「敵編隊ロック!撃ち方はじめ!」
対空砲が幾筋もの光を空に放ち、機関砲は火箭を散らした。
「各艦、艦隊崩すな!被弾するまで持ち場を守れ。」
司令の通信がスピーカーから響く。ふとあたりを見回すと物凄い光景だった。艦隊が球となり物凄い防空火力が敵機を捉える。一機、また一機と皇軍の光の網に捉えられた機体が宇宙空間で散華した。しかし敵空母艦載機もやってきて攻撃を開始した。艦隊の周囲には千を超える機体が舞っていた。
「敵機七!向かってきます!」
外縁のうち一番脅威となる巡洋艦を沈めようとしたらしい。
「よし、対空誘導弾を発射せよ!回避運動!」
誘導弾を未だに発射していなかったイブキから対空誘導弾がでて敵を叩き落とした。敵から放たれた誘導弾をチャフと回避運動で回避する。
「死んでも空母を守れ!」
艦橋でドーマエはそう怒鳴った。やがて引潮のごとく宙域から敵が消え去った。続いてはこちらの攻撃ターンである。空母航空隊が発進したら編隊を組んで敵空母艦隊に向かった。直掩戦闘機すら残っていない状態で敵が飛んできた。八機の戦闘機だけで機体は今では旧式だといわれてるソビエト大公国のyak-28宇宙戦闘機だった。
「戦闘機だけ?航法でも過ったのか?まあいい、撃墜しろ。」
他の船は油断しているのか高射砲が火を吹かない。更に戦隊司令から
「鹵獲するため攻撃しないように。」
と言われていたので対空火器を射撃停止した。やがて着艦姿勢にはいった敵の一番機はそのまま脚を出さずにハクリュウに体当たりした。慌てて空母を囲む駆逐艦の対空砲火が敵を狙う。そのままハクリュウに体当たり攻撃を計三機が成功させハクリュウは火を吹き始めた。
「くそ!やつら特攻してきやがった。」
「ハクリュウの損害は?」
「甲板がやられました。格納庫で動いていた整備兵もやられたようです。機関及び兵装には異常がないと信号が来てましたが。」
「そうか。」
艦橋を暗い空気が覆った。その三十分後、通信室で歓声が上がった。
「艦長、報告します。敵空母艦隊は壊滅いたしました。残存兵力は駆逐艦四及び空母一のみです。」
「ならよい。通信兵、旗艦である空母アカギと巡洋艦タカオに信号!「意見具申、我等巡洋戦隊ハ敵艦隊ニ接近シ、砲撃ヲ敢行、コレヲ撃滅セントス」以上。」
素早く通信が行われた。そしてイノウエの決断も早かった。
「アカギから返信あり!「第七巡洋戦隊ノ敵空母部隊ヘノ突撃ヲ命ズ」以上です。」
その直後別の通信兵も声をあげた。
「タカオより第七巡洋戦隊全艦へ通信「コレヨリ単縦陣ヘト陣形変更シ、敵空母部隊残存ヲ撃滅スベク突撃スル。イブキハ先頭二タチ後続艦ヲ誘導セヨ」以上です。」
「よろしい。速力24ノットに増速。オートコントロールで目標敵空母部隊。」
「速力24ノット。オートコントロールよし。」
操舵手がエンジンパワーを全開にして舵をコンピューターにまかせる。
「総員対艦戦闘用意!」
全員が配置についたのを確認するとコンピューターを見た。しばらく宇宙空間を進撃するがレーダーに反応はない。
「オートコントロールはまだか?」
「まだです。いや、オートコントロールだとそろそろレーダー圏内ですがね。」
ドーマエはやはりといった顔をした。
「まあ留まってる艦隊などないだろ。選択肢は二つ。追撃を予想して要塞とは別方向に退避した、もしくは要塞に保護を求めてインチョンに向かったか。皆どう思う。」
ドーマエが艦の首脳メンバーに確認する。
「私は後者だと思います。インチョン宇宙要塞は首都のソウル星を守る最後の砦ですから難攻不落だと思っているでしょう。それにもし要塞を素通りすれば遊撃戦に転じることも可能です。」
副長である。
「そうか?私は前者だと考えます。なぜなら要塞から離れることによって見つかった場合は囮として、見つからなかったら艦隊の温存につながるからです。」
こっちは砲術長の意見だ。
「なるほど、たしかに両名の意見はわかった。だが今回は空母を逃がしてでも要塞の攻略を優先すべきだ。要塞攻略の支援も兼ねて要塞に向かうぞ。オートコントロール切れ、取り舵三十!」
「はっ!」
艦は左に転舵した。各艦も続いた。機関が傷ついていたのか敵艦の発見は容易であった。
「敵艦隊発見、艦隊正面です。上下角+二十五度、距離360宇宙里、敵艦隊速力4ノット。」
10宇宙里は1ノットで一時間で進める距離である。現在彼我の速力差20ノット差である。30分で追いつける距離であった。
「前部主砲戦用意!」
素早く砲に陽電子がチャージされた。
「敵艦隊航空母艦をロック!」
砲術長席の前にあるホログラムに敵空母が投影された。
「パルト級空母キョンギドです。ロック完了!」
「ようし、前部主砲斉射!」
五本の光の矢が逸れた。
「修整せよ。周囲の駆逐艦をロック、対艦誘導弾発射!」
誘導弾が飛んでいく。駆逐艦がチャフを放ち回避行動をとったため外れてしまった。
「主砲修整完了。」
「よし、第二斉射!」
今度は捉えた。斜め下から敵の機関を、そして船体を貫いた。空母は爆発を起した。気がつくとホログラムには敵駆逐艦が映っていない。
「空母キョンギドの撃沈を確認。残りの駆逐艦はほかの巡洋艦が仕留めたようです。」
「よし、タカオへ通信「コレヨリ要塞攻略ヲ支援スベクインチョン宇宙要塞ヘ針路ヲトリタイ」以上。」
素早く通信が行われる。そしてすぐに返信がきた。
「タカオより通信!「許可スル、単縦陣ニテ要塞二突入せヨ」以上です。」
「よろしい。オートコントロール、インチョン宇宙要塞の座標を入れろ。」
「オートコントロール、よし!」
コンピューターが舵を制御するため操舵手はジョイスティックから手を離した。
「要塞砲の方が有効射程が長い。要塞近くでオートコントロールを切って手動航法だ。」
「了解。」
第十宇宙空間の五大要塞に入るインチョン宇宙要塞へと接近する乗組員は誰もが緊張していた。
「レーダー圏内に入りました!」
「手動に切り替え、取り舵いっぱい!下げ角二十。」
「下げ角二十、取り舵いっぱーい。」
操舵手が復唱して要塞の下側に潜り込む。その時敵の対空砲が火を吹き始めた。
「最大戦速!主砲撃ち方用意!」
第七巡洋戦隊は要塞に肉薄していった。
「陰電子シールドはまだもっているか?」
イブキ級は従来の艦の装甲からやや離れたところにシールドを展開する二重郭防御から装甲表面に陰電子を流す単郭防御に切り替えた。これで防御力が上がった。従来だと砲の射線はシールドの展開を中止しなければならないがこの方式だと砲口以外の全てを覆える。
「まだ、貫通はありませんがシールド耐久性は半分近くに落ちました。」
12cm高角砲はシールドによって跳ね返されたていた。だが繰り返し受けるうちにシールドも弱ってくる。陰電子は絶えず流動しているが発生装置が傷ついてくるのだ。
「そこの宇宙飛行場を狙え、主砲斉射!」
滑走路を破壊された人工衛星の上の飛行場は機能を停止したのが遠目にも確認できた。その時であった。艦が思い切り揺さぶられてドーマエは壁に頭を打ちつけてしまった。
「被弾!敵の要塞砲です!」
「損害報告!」
ドーマエの怒鳴り声に兵士が反応する。
「右舷居住区に被弾。機関に以上はありません。船体破裂の可能性もなし。右舷ケースメイト式高射砲は一気に真空となりましたから生存者はいないかと。主砲には異常なし。ただシールド展開装置が全壊、シールド展開不可能です。」
「副長はダメージコントロールを指揮しろ。」
「了解!」
「主砲、あの要塞砲をぶっ潰せ!」
「了解!」
砲術長が引鉄を引く。こちらを撃った三十センチ砲が吹き飛んだ。だが陰電子のシールドを展開できない軍艦は高射砲ですら脅威となり得た。その時二発目の貫通弾が上甲板最後尾の三連装砲塔に命中した。ふたたび艦が大きく揺さぶられる。
「被弾!四番主砲塔。」
「被害報告!」
ドーマエに対して兵士ではなく機関長が応える。
「エネルギー暴走の可能性あり、機関停止を求めます。このままでは機関が圧力に耐えきれなくなり爆発します。」
「機関停止!エネルギー供給装置は残った主砲塔にのみ割り振れ。艦橋、砲塔の両要員以外上甲板ハッチから退艦せよ。これより本艦は浮き砲台として奮戦する。退艦開始!」
脱出用ハッチの前には全乗員分の宇宙服が用意されていた。ここから減圧室を通り宇宙空間に脱出するのだ。
「通信兵!タカオに通信「本艦ハ機関ヲ停止、要員ヲ除キ退艦スル。乗員ノ救助ヲ求ム」以上。」
ドーマエは死ぬ覚悟をかためた。
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