エピソード5「宇宙要塞」

将校輸送機によってフソウ星へと向かったフルサワとドーマエは皇居であるエド城で陛下への謁見を許された。陛下が持ってきた木箱は六つあった。ドーマエは渡される勲章を事前にイノウエに聞いて知っていた。勲章は二等菊花章、一等菊花章、武士菊花章の三種である。フルサワは武士菊花章の代わりに戦功桐紋章を賜るはずである。等級菊花章及び戦功桐紋章は胸につける勲章で武士菊花章は襟につける勲章であった。本来ならドーマエは武士菊花章だけでいいはずなのだが菊花章には飛び級制度が無いため武士菊花章より下位の等級菊花章を二つ受章することになっていた。

「ドーマエ少佐、前へ。」

ドーマエが前に出る。ドーマエが目を合わせると陛下がゆっくりと最初の木箱を開けた。中には銅で作られた菊花章がある。中央に漢数字で二と彫られたそれを左胸のボタンホールにリボンを通して着用させてもらった。続いて同じ形だが真ん中に二ではなく一と彫られた一等菊花章を同じくつけて頂いた。最後に銀で作られた菊花章をリボンを通して首にかけて三つを受章された。

「ユーキ・ドーマエ少佐は今回の竹星雲攻撃に置いて士官学校卒業直後の初陣であったにも関わらず自艦である駆逐艦ソラナミを率いて敵戦艦ソウルと巡洋艦ペトュクサンを撃沈し、皇国の勝利に貢献した。よってこれらの武勲を讃えてここに二等菊花章、一等菊花章、武士菊花章を授与する。又ドーマエ少佐をここに朕の権限を持って中佐へ昇進させる。ドーマエ中佐、これからも皇国のために軍務に努めてくれ。皇紀五一〇〇年六月七日、大日本皇国天皇ムツヒロ。」

陛下が口を閉じると割れんばかりの拍手が周りの高級軍人や文官から送られた。ドーマエは最敬礼をしてフルサワの隣に戻った。

「続いてフルサワ大尉。」

フルサワが前へ出た。同じように勲章を頂くと陛下の話が始まった。

「ナオヤ・フルサワ大尉は二回目の出撃、初実戦であるにも関わらず七機の敵機を撃墜し、輸送艦一隻も誘導弾で撃墜し、たった一回の実戦にてエースパイロットとなった。この功績を讃えて二等菊花章、一等菊花章、戦功桐紋章を授与する。これからも皇国の為に頑張ってくれ。皇紀五一〇〇年六月七日天皇ムツヒロ。」

再び会場が拍手の嵐に包まれるとフルサワがドーマエの隣に並んだ。

「以上両名に勲章を授与する。フルサワ大尉は勤務地へ、ドーマエ中佐はフソウ星にて一泊し、皇国標準時明朝九時にオサダ造船所の第二ドックへ来てくれ。」

陛下が二人に言葉をかけた。

「はっ!」

フルサワとドーマエは揃って敬礼した。フルサワがクレ星へと戻るのを見送った後、ドーマエは泊まったこともないような超高級ホテルに来ていた。普通ならば一中佐ごときが泊まれるようなホテルではないが政府が手配したらしい。ベットに横になると直ぐにドーマエは寝息を立てた。翌朝朝食を済ませたドーマエは隊さしまわしの高級車に乗ってドックへと向かった。車は音速を出すことができ水陸空のいずれでも大気圏内であれば動くことが可能である。簡単なレーダーで事故がおきないようになっているため安心して乗れる機械で日本車は世界一とまで言われていた。乗り心地がとても良い高級車に乗っけてもらうこと一時間、オサダ造船所についた。陛下は居なかったが国防議長のサイゴウ元帥がいた。そしてサイゴウの後ろには青い塗装の艦が三連装主砲とその後ろに背負い式でついている連装主砲が天を仰いでいた。

「議長、お久しぶりです。」

ドーマエの実家はサイゴウ議長の母方の祖父母の家の向かいでありドーマエは幼い頃よくサイゴウに可愛がってもらっていた。

「おう、ドーマエ。元気にしてたか。」

がっちりと握手を交わす。

「はい、お陰様で。」

「まあ、そうだろうな。活躍の噂はかねがね聞こえてきておる。今回は陛下自身が名付けた新鋭巡洋艦イブキの艦長となってもらいたくお前を呼んだ。」

「巡洋艦ですか?私はまだ士官学校を卒業して1ヶ月もたっていませんが。」

ドーマエが聞き返す。

「だからこそだろう。若手なのにあの活躍だからな。陛下が期待するのもわかる。というわけでドーマエ中佐をここに国防議長である私の名で宇宙巡洋艦イブキの艦長に任命する。」

ドーマエは敬礼をして次のように言った。

「ドーマエ中佐、拝命します!」

サイゴウが答礼するとドーマエはサイゴウの後ろにある青い塗装の巡洋艦に近づいて行く。

「イブキは最新鋭の巡洋艦だ。武装は二〇cm主砲が三連装二基、連装四基の計十四門からなる主砲、各舷四門ずつ計八門の両用砲、機関砲四十門だ。機関砲は上部甲板に集中配備されているため下部がやや弱い。そして誘導弾は六四連装垂直発射管が二基の一二八門、特別弾発射管は艦首に八門だ。これまでの巡洋艦と違うとろは主砲が二門増えた。一番と四番の主砲塔を連装から三連装にしたからな。そして防御方式だ。お前がこれまで乗ってたソラナミとかは複郭防御方式だったが今回イブキは単郭防御方式に切り替えた。これにより砲口以外の全てに陰電子装甲が施せるようになった。速力は24ノットが限界だがな。米戦艦隊と互角にわたり合うために開発されたと言ってもいい。二〇cm主砲も従来の七八式陽電子砲から去年開発された九九式陽電子砲に変わった。圧縮速度と命中精度を向上させて戦艦隊との砲戦も数的優位を保てば可能になるだろう。更に九九式陽電子砲はゆとりを持った設計だから今後の改良も行いやすい。そしてなにより米国宇宙軍が議会に求めたアース級戦艦一隻の建造予算でイブキ型なら3隻建造できるということが肝心だ。話が長くなってしまったがまあ良い軍艦だよ。では、頑張ってくれ。私は会議があるので失礼するよ。ユー君、達者でな。」

幼い頃の呼び方をされてドーマエは照れた顔をしたがすぐに真顔になり大声で返事をした。その後タラップでイブキの上部甲板に登った。

「ドーマエ艦長に敬礼!」

作業中の全員が挙手注目礼をする。ドーマエは答礼すると号令を掛けた士官から話しかけられた。三十過ぎたあたりで年上だ。

「本艦の副長のタカイシ少佐です。」

「ドーマエだ。若くて至らないところもあるがよろしく頼む。」

ドーマエが差し出した手をタカイシはがっしりと握った。

「いえ、中佐の噂はかねがね聞いております。ドーマエ中佐の下で働けて光栄です。」

タカイシがそう話す。

「うん。で、イブキの乗員の練度はいかほどか?」

手を離してドーマエが問うとタカイシが答えた。

「熟練揃いですよ。艦にも皆慣れました。皇軍で現在一番強い巡洋艦だと思います。」

その顔からは誇りが感じ取れる。

「そうか。なら良い、この艦の艦長となれて私は幸せものだ。」

タカイシはそれを聞いて笑った。

「ドーマエ中佐にそう言っていただけると士気も上がりましょう。」

悪い人ではない。ドーマエは心の中でタカイシをそう判断した。

「こんな所でお喋りしても時間の無駄だ。副長、艦内を案内してくれ。」

タカイシは自らドーマエを艦首から艦尾まで案内した後艦橋へと向かった。艦橋の指揮所へつながる自動ドアが開くとそこにはイブキの脳を司る面々が揃っていた。

「これよりクレ星へ向かう。機関始動。」

オサダ電子の反応が始まり機関が唸りをあげる。

「ドック減圧、扉開け。」

ドックの整備士が全員退出したのを確認してからドックの扉を開けてイブキは出発した。イブキが第四ゲートに進むと現在クレ星は韓国宇宙軍の攻撃を受けている為回廊の使用が不可能だそうだ。暫くしてようやく回廊の通過許可が降りたためクレ星へと向かった。クレ星空襲はドック等の施設に攻撃を集中してきたらしい。大型艦用ドックや自走ドックの殆どが破壊されていた。

「レーダーに敵機影は映っているか。」

「いえ、映っていません。」

「そうか。クレ星司令部へと向かうぞ。」

ドックが破壊されているので大気圏内の臨時発着場に降りる。

「イノウエ元帥、これはいったい。」

出迎えにきたイノウエと話しをする。

「ああ、奴等がインチョン宇宙要塞から航空攻撃を仕掛けてきやがった。既にインチョンへの攻撃命令は下っている。貴様は第七巡洋戦隊だ。巡洋戦隊司令と話をしたらすぐに出発だ。作戦計画は端末に送るからな。」

イノウエと話をした後第七巡洋戦隊司令と話し合い作戦の確認をしてドーマエは補給命令を下した。作戦は機動部隊による攻撃をメインに組み立てられておりドーマエ達第七巡洋戦隊は空母を中心として球形に陣を組む球形陣の前方上方という最激戦の配置だった。そしてインチョン攻略作戦が開始された。

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