エピソード2「初航海」

軍人として初めての航海に望むドーマエは赴任先であるクレ星に向かっていた。

「フソウ星大気圏外に脱出ししだい第四回廊ゲートに向かえ。」

「了解!」

「大気圏外に出ました。」

「ようし、二七ノットに増速せよ。」

「了解!速度二七ノット!」

駆逐艦の最高速力である。この速度だとゲートなぞ直ぐに到着した。

「こちら駆逐艦ソラナミ、命令により第二方面艦隊へと行く。回廊通行の許可を求める。どうぞ。」

「こちら本星第四ゲート警備隊である。通行証の提示を要求する。どうぞ。」

「通信を確認されたし。第二方面艦隊より連絡がいっているはずである。どうぞ。」

「通信を確認した。新造艦艇一隻、艦種は駆逐艦、艦名は「ソラナミ」間違いないか。」

「間違いなし。」

「よろしい、通行許可を出す。」

「了解、通信終了。」

「総員、これより回廊を通過する。衝撃に備えよ。」

回廊のゲートをくぐると一瞬で次の空間へと飛んだ。

「艦長!通信です。巡洋艦フルタカからです。」

「よし、繋げ。」

ホログラムにフルタカ艦長のヨシイ中佐が映された。ドーマエの先輩で幼い頃から慕っていた。

「こちら巡洋艦フルタカである。ソラナミを誘導する。本艦の後に続け。どうぞ。」

「こちら駆逐艦ソラナミ、承った。どうぞ。」

「よろしい、通信終了。」

無線が切れるとドーマエは部下に指示した。

「フルタカの後ろにつけ。」

「フルタカ後方につきます。」

フルタカはアオバ型巡洋艦である。アオバ型は皇国の主力巡洋艦で二〇糎陽電子砲連装七基と127mm両用砲を単装八基、艦首に特別弾発射管八門、誘導弾垂直発射管六四連装一基、二十ミリ陽電子機関砲四連装八基を備える。第二方面艦隊本部基地はクレ星だった。わずか半日でクレ星についてしまった。クレ星の周りには空母や戦艦もいた。クレ星大気圏外の宇宙ドックから小型の宇宙艇でクレ星にある本部基地に向かう。ヨシイ中佐と同行した。

「ドーマエ、よく来たな。知っているかもしれんが我国は韓国と竹星雲の支配権を巡る争いをしているがこれを解決する。」

「戦争ですか。」

きょとんとした顔をしたドーマエの様子をヨシイは察した。

「その通りだ。もしや、知らなかったか。」

「全く存じませんでした。」

「そうか、まあ、今回はその作戦会議だ。いくぞ。」

宇宙艇から将校輸送機に乗り換えて地上に着く。地下二十五階に設けられた会議室は士官で埋まっていた。

「これより、第二方面艦隊の作戦会議を開始する。」

前の巨大なホログラムに二次元地図が表示される。

「皇国首脳は今回竹星雲を韓国の実行支配から奪還せよと命令を下した。ついて我々はまず竹星雲の艦隊を無力化する。ゲンダ航空参謀、説明を。」

ゲンダ中将が説明を始める。

「我第二方面艦隊は六隻の空母を持つ。これを使い二次元図でいうと右上の方向から竹星雲に空爆をしかける。上空直掩もいらない、全ての機体で攻撃する。航空攻撃で艦隊は無力化できる。そうしたら陸軍と協力して上陸する。これがプランだ。」

「待ってください。」

ドーマエは手を挙げた。周りの視線が集まる。

「第二方面艦隊の強大な艦艇を使った方がより確実です。例えば回廊施設艦によりここから竹星雲へと回廊をつくります。そこから艦隊を突入させて奇襲攻撃とします。空母部隊は右上から牽制と陽動、索敵を任務とし、戦闘艦で攻撃した方がいいと思います。敵も航空機は警戒してるでしょうから。それに艦隊を航空機でやっつけられるならそれに対抗する航空隊の援護も必要ですから。」

発言した作戦は確かに確実であったが。ゲンダは反論した。

「いかに備えていようとも奇襲には対抗できまい。」

「それは艦隊の方も同じことが言えますし、それにいきなり目の前に大艦隊が飛び込んできた方が敵としても驚くでしょう。」

「では、ソウル級戦艦はどうする。艦艇に被害は出したくない。」

「潜宙艦と駆逐艦から誘導弾と特別弾で仕留めます。航空機だとレーダーで接近を予測されて機関が始動してしまったら特別弾は当たりにくいですが奇襲で大量の実弾を目の前で撃ち込まれたらソウル級も撃沈確実でしょう。」

「だがアウトレンジからの航空攻撃の場合艦艇損失は0で抑えられるが。」

「もし、竹星雲近くに機動艦隊がいた場合には大損害を被ることになりますがどうお考えですか。私は回廊施設艦二隻を使い、艦隊と航空隊を別方向から同時侵入させるのがベストであると考えます。」

「それなら良いだろう。」

ゲンダ中将も納得してくれたようだ。ゲンダ中将は航空主兵主義だが今の航空機では大型艦の撃沈は確実ではなかった。

「作戦としては施設艦を機動部隊と主力艦隊にそれぞれ配置して回廊を施設、同時に艦隊と航空隊が襲いかかる。作戦開始は皇国標準時刻で一週間後の午前二時に回廊を接続する。いいな。皇国標準時明朝0900には指揮系統割り振りを配布する。機動部隊は1200に出発する。では解散。」

クレ星から近くのソラナミに戻る。クレ星は帝国標準時と星の時刻が被っていたため翌朝の九時に電子メッセージで編成が送られてきた。ソラナミは第四水雷戦隊第二駆逐隊に所属した。第四水雷戦隊旗艦は巡洋艦フルタカで三個駆逐隊、15隻の駆逐艦を率いていた。突入部隊の所属である。

「おい、タカギさん、これを見てくれ。」

タカギは操舵長の少尉で兵卒からの叩き上げだった。

「なんですか艦長。」

「いや、なんで空母が二隻増えているんだ。」

「え?あ、本当ですね。」

届いた資料には新たに空母ハクリュウとコクリュウの二隻が追加されていた。

「詳細確認しましょう。」

といってホログラムでさっさとハクリュウとコクリュウを表示する。

「アカギ級の準同型でショウカク級の三番艦と四番艦ですね。どちらも1ヶ月前にフソウ星のオサダ造船所で就役しています。今こちらにはまだ着いていませんが。」

「主要幹部を確認しておきたい。」

「はい、ハクリュウですが艦長はカク准将、飛行隊長兼攻撃機隊長はエグサ中佐、戦闘機隊長はフルサワ大尉…」

「まて、戦闘機隊長がだれだって?」

「フルサワ大尉ですが。」

「まさか、フルサワ大尉のプロフィールは出せるか。」

「はい、本名ナオヤ・フルサワ、先日フソウ星士官学校卒業。」

「あいつか。」

「艦長、知り合いですか?」

「ああ、戦闘機の化け物みたいなやつだよ。戦闘機課に所属して八年間、といっても戦闘機課で模擬空戦やってたのは三年間だがその間で負けたのは一度だけ、しかも皇国の五彗星に入ると言われているイワモトさんを相手にした時だけだ。」

「それは相当ですね。」

「ああ、それでもうすぐ着くだろうな。一言挨拶しておこう。」

「友達ですか?」

「そうだ。」

その会話を聞いていたかのように第四水雷戦隊長のフルタ少将から連絡が入った。

「ドーマエ少佐、空母ハクリュウとコクリュウがこの宙域に現れる。迎えにいけ。誘導先は第六大型艦ドック。」

「了解!機関始動ゲート後方につけ。」

「機関始動!」

ゆっくりとドッグから離れてゲート後方につく。

「停止!」

やがて警報が届いて二隻の空母が出てくる。一枚甲板で右舷にある艦橋の前後にはそれぞれ垂直発射管が二十五連装一基ずつ装備されていた。

「こちら、駆逐艦ソラナミである。貴殿らをドックまで誘導する。ついてこられよ。どうぞ。」

「こちらハクリュウ、了解した。」

「8ノット、目標第六大型艦ドック。」

「了解!」

大型艦ドックに近づくと空母から離れた。

「誘導感謝する。通信終了。」

「よし、目標第四水雷戦隊ドック。」

ドックに着くとドーマエはハッチを開けた。

「誘導弾を搭載しておけ。」

「どの割合にしますか。」

対空誘導弾と対艦誘導弾の割合はそれぞれの艦長により違う。

「前部甲板には全て対艦誘導弾、後部甲板は5本を迎撃誘導弾そして残り全て対空誘導弾にしておけ。」

「了解!」

「内火艇だせ。フルサワに会ってくる。」

「その必要は無いと思いますよ。」

「なに?」

「内火艇一が接近中ですから。」

「なんだと?」

「内火艇から信号、駆逐艦ソラナミ訪問希望。」

「よろしい、艦長たる私が出よう。」

ハッチを開けると機械で空気を満たした空間に飛行服姿の人影が一つ立っていた。

「フルサワ。」

呼びかけるとその人影はゆっくりと振り向いた。

「ドーマエ、二日ぶりだな。」

「そうだな。まさかフルと同じ任務に就くとはな。」

「だよな。相手の飛行機は全部たたき落としてやる。」

無邪気な笑顔だ。

「頼むぜフル。」

「おう!そろそろ俺はハクリュウに戻らなあかんから。じゃあな。」

「じゃあな。」

間もなく空母八隻と護衛艦隊が出発した。施設艦は一隻しかなかった為主力艦隊に配属された。ゲンダ自らが指揮官として機動部隊旗艦のヒリュウに乗艦して指揮を執った。そこから艦隊行動訓練や会議を重ねて光のように一週間が過ぎ去った。

「よし、これより前進する。目標竹星雲!全艦前進せよ!」

イノウエの命令によってドーマエの初陣となる戦闘が始まった。

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