◆第七章

*神の力

 遠い遠い昔──地上に落ちてきた神は、大きな傷を負ってしまった。

 どんな神であったのか詳細はわからない。ただ、とても赤い髪は長かったと伝えられている。

 男の神で、特に容姿には触れられていないことから、人間とあまり変わらない見た目だったのだろうと考えられる。

 大陸の人々は落ちてきた神を献身的に治療し、神はその礼にと自分の力をいくつか授けると言った。

 世話をした者や臣下たちは自分の望む力を授かり、統率者にはさらに強い多くの力を与えた。

 そうして手厚い看護を受けて傷の癒えた神は人々に感謝して天に帰って行った。

 ──大陸は統率者が民を統治し、代々その一族の中から性別を問わず一人が統率者を受け継いでいた。

 一族と家族は統率者が民をより良く統治するために全力で補助し、それに応えるために統率者も持てる力をふるった。

 そんな統率者の下には、彼らの一族を護る臣下たち一族がいくつか存在する。その一つが、アレウスの一族だ。

「大陸は、平和だったという」

 神から授けられた力を統率者や臣下たちは民のために使い、幸福でより良い統治のために励んだ。

 しかし、そんな平和も長くは続かなかった──数百年後、統率者に従わない者が現れた。

「我こそが統率者にふさわしい!」

 統率者を護る、いくつかの一族が統治に相応しいのは我であると主張を始める。

 長く続いていた統率者の血筋に疑問を持ち、その下にい続ける事に不満を募らせた結果だ。

 力が彼らの心を変えてしまったのかもしれない。

 優しい心を持っていたからこそ授かった力のはずが、与えられた力はいつしか優しさを消し去ってしまった。

 民のためにと使っていた力は、いつしか戦うために使われ、多くの血が流されていった。民はそれぞれ支持する者に集まり、大陸は分断されて反乱が巻き起こる。

「もちろん。俺の一族のように、統率者の血筋を護り続けた一族もいくつかいた」

 争い、裏切り、蹴落とし──統率者は臣下たちや民のそんな姿に、どれほど嘆いたことだろうか。

 自分がその地位を降りたとしても、争いが治まる事はないだろう。せめて、家族だけは守り抜きたいと、どうにか争いを治めるべく努め続けた。

 そうして続く反乱のさなか、

「統率者が──大陸が沈むと預言よげんした」

 アレウスの瞳が険しくなり、ベリルはそれに眉を寄せた。

「統率者たる意味は本来、そこにあったんだ」

 災害を予見し、未来を見通す力を有している者が統率者となっていた。

 しかし、多くの者が様々な力を得たことで事故など小さな災害は難なく回避される事が増え、大きな災害も起こってはいなかった。

 それにより、民たちは次第に統率者を必要としなくなっていた。統率者である本来の意味を、民の誰もが忘れ去っていた。

「半数の民が統率者に従わず、大陸に残ったという」

 力を持ったが故に、我らは滅びたんだ。

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