第10話 悪食の蛇

 白銀の世界で漆黒の刃が舞い踊り、悠馬の前に立ちはだかる小竜は次々と倒れる。

 狙いは巨竜の首。

 首を落して動きを封じ、雫を助けたら体内の『竜核』を破壊する。そうすれば、いかに竜であろうとも死ぬ。

 だが、小太刀の危険性をその身で知る竜は、悠馬を近づけないよう魔力弾で弾幕を張る。悠馬は近づこうとするが近寄れず、魔力弾で発生した小竜に行動を阻害され、巨竜に接近できずにいる。

「おいおいそのままじゃ俺の首を取るどころか、敵が増える一方だぞ? 街にも被害が出るかもなぁ?」

 竜は愉快に笑い、悠馬は焦る。

 悠馬は小竜を倒して瘴気に変えるが、他の小竜が瘴気を吸収して防御力と生命力を強化している。本来なら瘴気を回収する魔導具を使うのだが、白い瘴気は魔力を消滅させるのでこのステージでは使えない。

 仕方なく核を潰さず首をはねるが首無しの小竜は障害物となって積み重なり、悠馬の行動を制限。盾に利用すれば大口径の閃光が襲いかかる。

 圧倒的な物量作戦。

 このまま時間が経てば経つほど、竜の力は増して小竜てきの数も増えるが、魔力を生成できない悠馬は不利になっていく。

「……ッ」

 最悪の状況を打破するべく、悠馬は小竜を無視して一直線に駆けた。

「馬鹿がッ!」

 竜は口から魔力弾を連発する。

 サッカーボールサイズの光球が多数飛来。

 悠馬は最小限の動きで避けつつ、避けられないものは小太刀で斬り裂き、立ちふさがる小竜は障害になるものだけを斬って捨てる。

 小竜は追いつけない。しかし、それでもすれ違いざまに爪を伸ばして、かすり傷を与えてくる。傷はすぐに治るが、その度に魔力が減少し悠馬の足を鈍らせる。

(……残り十分が限界か)

 そう自己判断しながら小龍の首を落して巨竜との距離を詰めるが、巨竜に近づくにつれて弾幕は濃くなり体への直撃を許してしまう。

 そして、何度目かの直撃でピシリッと奇妙な音が響いた。

(……限界か)

 おそらく『浄化の殻』の限界。

 消滅の魔力は『殻』本体にダメージを与え、その蓄積が限界に達しつつあるのだ。このままブレスを受け続ければ『殻』を失うだろう。

 しかし、悠馬は迷うことなく突き進んだ。

 いま撤退したら『浄化の殻』は破壊されずにすむだろう。しかし『殻』が回復する頃には巨龍は手がつけられなくなり、小竜も無数に現れる。そうなれば、たとえレアや千影でも戦況が覆せなくなり、雫は長い間あの巨竜の腹から出られなくなる。

(倒すなら今しかない!)

 悠馬は飛びかかってきた小竜の首を落し、巨竜の目と鼻の先まで近づいた。

 しかし竜は動かない。ただ、ジッと悠馬を見つめている。

(……どういうつもりだ?)

 悠馬は眉をひそめるが、迷いは捨てる。

 竜の眼前で悠馬はゆらりと横に流れ、遠心力を加えた二刀を一閃。無防備な竜の首に叩き込んだ。

 しかし――

「……それがお前の本気か?」

 漆黒の刃は硬質な音と共に巨竜の装甲にはじかれた。

 驚く暇もなく小竜が殺到。

 悠馬は小さく呻くと包囲の穴を抜けて離脱。巨竜はそれを黙って見逃し、ワラワラと集まった小竜を鬱陶しそうに踏みつぶした。

 彼我の距離は十メートル。

 小竜の無数の残骸の中で、悠馬は大きく息を吐いた。

「……終わりだな」

 竜は笑いもせず悠馬をジッと見つめる。

 傷はすぐに治るが服の傷までは治らない。上着は無数の穴が開き、袴も裾がボロボロになっている。

「お前はよくやったよ。ザコとはいえこいつ等を数十体も倒しながら、俺の相手までしたんだからな。だが、お前は俺の魔力と瘴気に触れすぎた。刀の魔力は薄れ、『殻』も限界――お前の負けだよ」

 そう言って、竜は近くの小竜を再び潰す。

 小竜は蜘蛛の子を散らすように巨竜を離れ、悠馬には目もくれず外を目指して走り去る。

「見ての通りだ。そいつ等に相手にされないってことは、お前には魔力が存在しないってこだ。戦闘できるのはあと数分ってところか?」

「……」

「図星だろう。対して俺は魔力十分。装甲は十分強化したからお前が万全の状態でもダメージはくらわねぇし、特大のブレスも三発撃てる程度には魔力が溜まっている。今のお前じゃ負ける気がしねぇよ」

 巨竜の言っていることはハッタリではない。今ならレアと戦っても互角以上だろう。

 対する自分には倒せるだけの武器と、全力で動けるだけの魔力がない。

 勝敗は決したのだ。

「俺が普通の竜だったら……あるいはお前が魔力を生成できれば違う結果になったかもな」

「どうだろうな。少なくとも良い勝負はできただろうが勝てない気がする」

「クハハ、煽てても見逃してやらねぇぞ」

 そう言いながらも竜は嬉しげに笑う。

 それを見ていた悠馬は、不意に過去の記憶を思い出して頬をゆるめた。

「何がおかしい?」

「いやなに、両親のことを思いだしてな」

 悠馬は肩を脱力させて、遠い目で宙を見上げる。

「俺は山奥に両親と三人で暮らしていたんだが、そこへ全長100メートル以上の巨大な蛇――『魔獣』が現れたことがあったんだ」

 唐突で場違いな過去の話。

 恐怖で正気を失ったのかと疑いそうになる状況だが、竜は黙って耳をかたむける。

「両親は普通の人間だったが、大事に保管していた日本刀と薙刀を出して、その巨大蛇と戦ったんだ。――あの時の両親と今の俺は同じ気分だったのだろうか、と思ったらつい笑ってしまった」

 魔力切れガスけつを起こした悠馬の体はフラフラと揺れるが、小太刀だけは強く握りしめた。

 静かに聞いていた竜は、呆れたように鼻で笑う。

「馬鹿な奴等だ。普通は逃げるだろ」

「普通はそうだな。だが、俺の両親は逃げなかった。俺はそんな二人を今でも尊敬している」

 もはや立つことだけで精一杯。それでも悠馬は小太刀を手放さず竜に相対する。

「……お前も馬鹿だよ」

 巨竜は顎を開く。

 膨大な光が竜の喉に溜まる。

 余波から身を守ろうと『浄化の殻』は光を散らすが、その光はあまりにも儚い。

「じゃあな」

 もはや避ける力もなくなった悠馬を、閃光が襲った。

『浄化の殻』は健気にも悠馬を守ろうとするが、薄氷が割れる音と共にが砕けた。

 次の瞬間、温かな暖炉の前から、吹雪の世界に放り出された感覚に陥る。

 体は魔力を奪われて身動きが取れなくなり、嵐の轟音が聴覚を狂わせ、閃光は視界を白く染め上げる。

 全ての感覚が失われて悠馬の意識は暗転した。



 悠馬が倒れるのと時を同じくして、閃光は外の壁役の獣人達に直撃した。

 エルの予想通り、壁の獣人達は閃光を受け止めても即座に倒れることはなかったが、それでもほとんどの獣人がダウンした。

 そしてダウンした者の中にはミノスの姿もあった。

「クソ……体に力が入らねぇぇ」

 運悪く射線上にいたミノスは片膝をつくが、その間も小竜との戦いは続いている。

 津波のように押しよせた小竜は、大半が閃光に飲み込まれて消えていったが、それでも数はまだ多い。しかも、個体の能力が上がり続け、簡単に倒せなくなりつつある。

「ミノス、これを」

 エルに非常食を渡されたミノスは、それをガシガシと食べて無理矢理にでも体を起こすと戦斧を一閃。エルの背後から襲いかかろうとしていた小竜を両断する。

「……旦那の様子はどうだ?」

「倒れている! 今すぐ助けにいかねえと!」

 コルンは必死の形相で穴に飛び込もうとするが、それを桔梗が止めた。

「いまコルンに抜けられたら『魔獣』の突破を許してしまうニャ。行くのは駄目ニャ」

 桔梗は迫り来る小竜を次々に蹴り飛ばしてトサカにパス。トサカは弧を描いて飛んでくる小竜の核を次々に槍で突き壊し、発生した瘴気は豚吉が吸収している。

 コルンは歯をギリリと鳴らす。

「テメェは旦那が死んでも良いのか!?」

「じゃあ、街のみんなは死んでも良いのかニャ?」

「~~~~~~クソッ!!」

 コルンは小竜を爪で切り裂き、街に向かおうとする小竜を蹴り飛ばして穴に戻す。

「安心するニャ。ご主人様は強いから負けないニャ」

 桔梗はトサカにパスを続けながら言った。

 それは憶測や願望ではない。絶対の自信に裏打ちされた言葉だ。 

「……お前、何を知っている?」

 コルンは不審の目を桔梗に向ける。

「そう言えば、お前は旦那の魔力を吸収して殺しかけたな。あの時からお前は変わった。旦那の魔力に何を見た?」

「でっかくて黒い蛇ニャ」

「……蛇だと?」

「そうニャ。これはご主人様を一皮剥くための儀式ニャ。だから邪魔しちゃ駄目ニャ」

 真剣に答える桔梗に、コルンは薄ら寒いモノを感じた。

「…………やっぱ俺、お前のこと嫌いだわ。何を企んでいるのか知らねぇが、旦那の側には置いておきたくねぇ」

「私も邪魔者のコルンは嫌いニャ」

 少なくとも死ぬことはない。

 そう理解したコルンは不機嫌そうにしながらも敵の撃退に集中した。


 

 深い深い闇は、原点の記憶を掘り起こした。

 小高い丘の日本屋敷。

 開けた森。

 絶命した巨大蛇と折れた刀。

 父は血まみれで倒れ伏し、母は蛇の牙で腹に大穴を開けている。

 それでも生きていた母は、震える手で幼い悠馬を抱きしめて言ったのだ。

「父さんと母さんは……いつでも見守っているわ。だから、強く生きるのよ」

 母はそう言って絶命した。

 悠馬は泣かなかった。

 ただ呆然と両親の生き様を反芻し続けた。

「強く、生きる……」



 悠馬の意識が覚醒する。

 活力を失った肉体が急速に周囲の瘴気を吸収。悠馬の体が徐々に黒く染まり、髪の色が奪われていく。

「……なるほど、そういうわけか」

 何かを察した竜はつぶやいた。

「魔人なのに魔力がないのはおかしいと思っていたが、まさかこんな怪物を体内に飼っていたとはな。魔力が足らなくなるのも当然だ」

 小竜の残骸は瘴気となって、次々に悠馬に吸い込まれていく。

「魔力を補うために『魔獣』を喰っていたのに、力まで取り込んで燃費が悪くなり続けたんだろう。その結果が、コレか」

 悠馬はのそりと立ち上がった。

 肌は漆黒に染まり髪は白い。破れた上着を脱ぎ捨て、袴のみになった悠馬は紫の瞳で竜を見つめる。

「まるで『魔獣』だな。殻を破って産まれた気分はどうだ?」

「問題ない」

「なら、第二ラウンドといくか」

「ああ」

 悠馬は竜に向かって駆ける。

 対する竜は瘴気を吐き出した。現れた小竜の数は十や二十ではない。十分に魔力を含んだ瘴気は、一度に五十近くの小竜を発生させる。

 行く手を阻む小竜に対し、悠馬は小太刀を構える。すると、悠馬の刀身に悠馬の魔力が流れ込み、紫色のラインが現れる。

 悠馬は飛びかかってきた二体の小竜を左右に切り伏せ、返す刀で腹に噛みつこうとしていた小竜を屠る。

 斬り捨てた小竜は薄紫色の光となって体内に吸収され、さらなる活力へと変わる。

 敵を倒せば倒すほど魔力を手に入れる悠馬は徐々にその速度を増して小竜を倒し続ける。

「クハハ、スゲェな」

 竜は魔力弾を放つが、悠馬は魔力弾をことごとく浄化して前進する。

(見える……!)

 悠馬は自分の身体が軽くなるのを感じていた。

 まるで重りを外されたように生き生きと動く肉体に感動すら覚える。

「雫を返してもらうぞ」

「調子に乗るな!」

 竜は接近する悠馬を左前足で迎撃するが、悠馬は右にゆらりと進路を変えた。

 それは一度目の戦いの再演。強化を重ねた竜の足には、深々とした十字傷が刻まれ、傷口から薄紫の光が舞い散る。

「クソ……またかッ!」

 竜は打ち払おうとするが悠馬は上空に飛び回避。そのまま竜の首めがけて刃を振り下ろすが、装甲を一枚切断しただけで弾かれしまう。

「硬いな……」

 悠馬はいったん距離を置くと呼吸を整えた。

「痛てぇ痛てぇ。かなり強化したのにこんなに易々と斬られるとはな……。しかも傷が治らねぇ」

 竜は自らの左前足に目を向ける。

 十字傷は薄紫の光を漏らしたまま治る気配がない。

「毒か。正確には俺の力を上回るほど強力な浄化の力のようだが……まったく、恐ろしいったりゃありゃしねぇ」

「なら、降参するか?」

「嫌だね。俺はまだ負けてねぇ」

「……なぜそこまでして戦おうとする?」

「それが俺だからさ。俺を止めたければ俺を殺すことだ」

 竜はイタズラ小僧のように笑う。

「それにお前は強くなったが、燃費は改善するどころか悪化している。今ならブレスが一発でも当たれば行動不能にできるぞ」

 竜の言うことは正鵠を射ていた。

 手に入れた魔力のほとんどが攻撃と戦闘機動で消費されている。防御にまわすほどの余裕はない。

「かもしれん。だが、今の俺ならお前を行動不能にすることが可能だ」

「ならやってみろ。お前が勝ったら好きにすればいいさ」

「……その言葉、忘れるな」

「忘れねえよ。だが、俺が勝ったら俺の好きにさせてもらう」

 竜の口から閃光が漏れる。

 悠馬は小太刀を構えると竜に向かって駆け、立ちふさがる小竜を全て切り伏せて攻撃力に転化する。

 竜のチャージは終わらない。明らかに今までとは桁違いの魔力が喉に集中し始めている。

 悠馬は竜に隣接すると再び右に移動、傷口を狙う。

「三度もやらせるかよ!」

 悠馬が傷口を狙った瞬間、重装甲の尾で防御。

 しかし、防御にかまず最大限の魔力を込めて剣を振り下ろす。漆黒の剣が紫色に輝き、ざっくりと竜の尾を切り落とした。

「ぐぁあぁあああ!!」

 切断された尾は桜吹雪となって舞い散り、悠馬に吸収される。

 竜の首に有効打を与えられるだけの魔力を手に入れた悠馬は、首に向かって飛ぼうとするが――

「なめるな!!」

 振り向いた竜が散弾のブレスを吐いた。

 魔力弾の粒が悠馬の全身に浴びせられ、そのほとんどが体に命中。折角手に入れた魔力のほとんどを奪い去る。

「クッ……往生際が悪い……!」

「それはお前もだろうが!!」

 竜は再び散弾ブレスを飛ばすが悠馬は首めがけて跳躍することで避ける。

「馬鹿が、それも二度目だ!」

 竜の口が悠馬を向く。

 散弾とは違う、全力のブレスが悠馬に襲いかかった。

 悠馬の姿が閃光にかき消される。

 勝利を確信した竜は閃光を放ちながら笑みを浮かべたときだった――

「――ぉぉぉぉおおおおおお!!」

 閃光の中から腕をクロスにした悠馬が桜吹雪を纏って突き破って現れた。

「――なっ!?」

 渾身の一閃。

 膨大な魔力で伸長された刃が振り下ろされ、重厚な竜の首を切断。

 驚愕に歪む竜の頭が重々しい音と共に地面に落ちた。

 悠馬は着地すると、片膝をついた。


「クッ……ハハ。まさか、負けるとはな」

 竜は首を落されながらも言葉をつむいだ。

「約束通り、雫は返してもらうぞ」

「……勝者は好きにする約束だ。好きにしろ」

 悠馬は首を失った胴体に近づくと手を触れた。

 すると竜の体は光の粒となって悠馬に吸収され、あとには雫だけが残された。

「雫、大丈夫か?」

「……悠馬、さん?」

 雫はボンヤリとしているが無事だ。

 悠馬が胸をなで下ろすと竜に声をかけた。

「わざと負けたのか?」

 それは吸収した魔力の断片的な記憶。負けたというのに怒りや悔しさはなく、それどころか歓喜しているように感じた。

 彼は死を望んでいた、そう思えるような記憶が垣間見えた。

 悠馬の問いに竜は力なく笑った。

「クハハ……俺は魔力が嫌いだ。それは俺自身も例外ではない」

 魔力を消滅させる『魔獣』。

 その矛盾は彼に死を求めさせた。

「勘違いしないように言っておくが、俺は本気でお前を倒すつもりだった。ただ、負けてもいい、そう思っただけだよ。俺のプレゼントは受け取ってくれたか?」

「『竜核』のことなら、いただいた」

 竜の体を吸収することによって悠馬の中には『竜核』が取り込まれた。今のところ問題なく魔力を生成しており、燃費の悪さが軽減されている。

「おかげで戦闘しなければ餓死することもなさそうだ」

「妖精の心臓だってのに……なんつー燃費の悪さだよ」

 竜は苦笑すると、気分が悪そうに頭を揺らした。

「さぁ、そろそろ殺してくれ。魔獣に堕ちるのは絶対に嫌だからな」

 竜は静かに目を閉じた。

「……悠馬さん」

 悠馬が思案していると、雫が悠馬の袴を引っ張った。

 振り返ると、何か懇願するような視線でこちらを見ていた。

「その竜さんを……殺さないでください」

「おいおい、お前は俺から死まで取り上げる気か?」

「でも……」

「言っただろう? 俺はお前だが、俺は俺だ。お前が気に病むことはなにもない」

「そうかも、しれませんが……」

 雫は悲しそうな表情で竜を見つめる。

 それを見ていた悠馬は、思案していた問題に答えを出した。

「勝者は好きにしていい約束だったな」

「確かに言ったが……まさか俺をこのまま置いていく気か?」

 竜はさすがに嫌そうな表情を浮かべるが、悠馬は首を横に振って否定した。

「お前に雫の護衛を頼みたい」

「……護衛だと?」

「雫は今後も敵に狙われ続けるだろうから、その護衛だ。それにお前が雫の魔力を消費すれば過剰に溜まる問題も無くなり、雫は魔力の制御がしやすくなる。一石二鳥だ」

「……俺に生き続けろと言うのか?」

「そうだ」

 竜は恨みがましい視線を悠馬に向けるが、悠馬がジッと答えを待っていると、降参するようにため息をついた。

「わかったよ。護衛の仕事、引き受けよう。勝者の命令だしな」

 雫は目を見開いて喜び、悠馬も口元をゆるめた。

「ただし、次の決闘で勝ったら俺は死なせてもらう」

「いいだろう。そのかわり決闘を受けるのは雫が卒業してからだ。いいな?」

「わかったよ。ったく……悪魔みたいな野郎だ」

 竜はぼやきながらも護衛を断ることはなかった。

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