挿話 もしくは 幕あいに押し込まれる猫


「わ……わんつー、にゃんこ! わんつぅー……にゃんこぉぉ!」


 きれいな朝焼け。

 灰色で染まる都心の風景が、高くから一望できる場所で。

 えい、えい! と、シャドーボクシングさながら、左右のこぶしを交互に突き出しつつ、バカみたいにさけぶわたし。

 ここは、わたしが涙目で見上げていた研究棟の屋上──


 ではなく、とある高層マンション、最上階のバルコニー。

 急な場面転換ではあるけれど、陰鬱な自分語りを長く続けたくはないのだ。


 にゃん子から 元気をとったら ただのガキ


 高校のとき、わたしをロリ扱いしてた友達から頂いた、ありがたいお言葉。

 いや、正直むかつくけど、何も言い返せないほどには適切で的確なわけで。

 英語の先生に怒られて、猫の声のした研究棟の屋上に何となくのぼって。

 

「わんつー……わ、わんつー、にゃ、にゃ……にゃんこぉぉぉっ!」


 そこで──とある女性と出会ったあの日から、すでに1週間ちょっと経っている。

 その間も、色々と落ち込むこともあったけれど、私は元気です。

 さて、まあ、それでは、朝っぱらから遠くまで聞こえそうな声で元気よく叫ぶわたしの元気な姿を想像してもらいながら、元気よく元の場面に戻ることにしよう。


「わんつー……にゃんこおお……」


 いや……つーか、死ぬほどハズいんだけど……

 なんでこんな罰ゲームみたいなことをやらされる羽目になったんだっけ……?

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