第5話
翔治は成基の方を見てそう言うとポケットから小さな玉を取り出して戦っている敵に投げつけた。
すると暗闇に染まった空が明るくなり、成基と敵の目を眩ませた。何を投げるか判っていた翔治と美紗は元より目を瞑っていたために無害で済んでいる。
閃光弾のせいで視界が真っ白に染まり、何も見えなくなった成基は慌てふためいたがすぐ側から、
「落ち着け。俺の指示通りにすればいい」
と聞こえ、何とか冷静さを取り戻すことに成功した。
「目を瞑って武器をイメージしろ。強く鮮明にだ」
翔治の指示通りに成基は脳内に強く武器をイメージする。
「そのまま右手を前に出して軽く握れ」
言われるがままに右手を出し、
「神より遣いし我が名において宣告す。汝は
力強い祝詞と共に翔治は右手を成基の胸に当て、何か光る物を移入させる。
すると成基の手の甲に黄色い魔方陣が浮かび上がった。
「何だこれ?」
「それはセルヴァーの証拠。セルヴァー以外には見えないから安心しろ」
やがて光の移動が止まると成基の視界が元通りになっていた。それに何か力が湧いてくるような不思議な何かを感じた。そしてその直後前に出して軽く握った状態の右の掌の中に、ずしり、と来る重みのあるものが収まった。
視線を右手の方に向けるとそこにあったのは二メートル二十センチも及ぼうかという大きさの弓だった。
「弓…………だと?」
目を見開いて驚愕する翔治だが、何のことだか解らない成基はその場で立ち尽くすしかなかった。
「何でこんな奴が……」
「何のことだ?」
「セルヴァーの中に弓はいない。みんな剣か刀」
すぐとなりにいた美紗が解説してくれた。
「えっ? それってどういう……?」
「説明は後。とにかく攻撃して」
「あ、あぁ」
確かにその方がいい。そう判断した成基は弓を構えた。
不思議とこの弓の使い方が何のレクチャーも無しに判った。というよりは、体が覚えているようだった。矢すらも無いのに。そしてなぜか体の中に温かい光があるのを感じた。
その光に浸って心を委ねながら闇のセルヴァーを標的に弓を引く。すると、矢がなく、ただ弓を押して弦を引いているだけなのに、そこに光が矢を形成して放たれるその瞬間を待つ。
目がやられて動けない闇のセルヴァーとの距離は約四十メートル。中学の三年間の部活を弓道に捧げてきた成基ならこの距離なら外す心配はない。
ターゲットを捉え、狙いを定めて矢を放つ。
放たれた光の矢は閃光の如く闇夜を貫き闇のセルヴァーの心臓を射抜く…………はずだった。しかし成基が矢を射る直前に視野が元に戻った闇のセルヴァーが再び動いて狙いがずれ、光の矢は闇のセルヴァーの肩を掠めた。
「なっ!?」
いきなりどこからか飛来した何かによって肩から血が流れ闇のセルヴァーが驚愕する。
「外した!?」
一方の成基も確実に狙ったいたはずの心臓を外したことによって目を見開いた。
絶対に当てる!
その強い意地でその後も何本もの矢を放つがさすがの素早い動きで躱され当たらない。
「くそっ!」
矢を放ち続けるにつれ、成基の息が上がってきた。闇のセルヴァーにあれから掠り傷一つつけられない。
空中を華麗に舞って矢を躱し、矢の飛来が終わったと判断すると、止まって、
「新たな弓使いか。珍しい奴が誕生したものだ。これじゃあ迂闊に近付けねぇ。今日のところは引き上げて報告するか 」
と言って飛んで帰っていった。
姿が見えなくなると、弓を連射した疲労と闇のセルヴァーに当てれなかった悔恨、そして危険が去ったという安堵が混ざって脱力し、成基はその場に座り込んだ。
「思いの外やるじゃねぇか」
汗だくになって肩で息をしている成基に翔治がお褒めの言葉ととれる感想を述べた。
美紗からは手が差し伸べられ、それを受け取って立ち上がる。
「素直に受け取っとくよ」
翔治の表情が綻ぶと自然と成基にも笑みが溢れた。
だがすぐにこの二人が学校では無口で無愛想で謎めいている二人だということを思い出し、どうしても訊かずにはいられなかった。
「何でお前ら学校では話さないんだ?」
「………………」
急に黙り込んだ二人は何かを言いにくそうにしている。それが何かを隠しているということは明白だった。
そして無言のままこの場を去ろうと歩き出した。
「………………何でそんなこと今日セルヴァーになったばかりのやつに言わなきゃなんねぇんだ……」
すれ違いざまに耳元で呟いた翔治に、成基はちょっと翔治を見直し始めたところで急に変わった態度にさすがに憤怒した。
「神前っ!」
「俺達はセルヴァーを探すためだけに転校してきた。成基
おまえ
がセルヴァーになった今、もう他のやつと関わる必要はない」
「そんな言い方っ! クラスにはいいやつもいる!」
「それを判断するのは俺だ。落ち着けよ。そんなこと言ってもどうにもならない」
「そんなことっ」
「色々と説明するのは三日後の休みの日だ。今日はもう帰れ。明日のこの時間にここに来そこでセルヴァーについてレクチャーする」
掌から血が出そうなほど拳を強く握り憤慨した成基を尻目に、身を翻して公園から出ていった。
強い眼差しを翔治に向けているとふと隣に気配を感じた。
「どうしたんだよ北条」
「………………」
無言で見詰めてくる美紗を成基は不思議そうに見詰め返すと、しばらくそのまま沈黙していたがやがて無言を貫いたまま翔治の後を追いかけるように小走りで公園から出ていった。
「何なんだよあいつら!」
吐き捨てるように言った成基の言葉は誰の耳に入ることもなく暗闇の中に消え去った。
そして憤りを抑えきれないまま自宅に向かった。
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