第五章「空へ」
空中戦
アメリカ南西部。カリフォルニア州。エドワーズ空軍基地――。
乾湖のほとりに滑走路を伸ばす空軍基地には、スクランブル警報が鳴り響いていた。
野球のスタジアムをすっぽりと収められるほの巨大な格納庫の中に、航空機とは明らかに違う、異質な機体が収められていた。
機体の形は平たく潰れた円盤状で、その大きさは通常の航空機よりもやや大きい程度であった。
そのフォルムは非常に生物的で、もっとも近い形状を持つ物体を挙げるなら、無脊椎動物のカブトガニか三葉虫となるだろう。
生物的な雰囲気の示すとおり、その機体には、金属がほとんど使われていなかった。
航空機というものは、普通、ジュラルミンやチタンといった金属や、カーボンファイバーなどで構成される。
しかしその特別な機体には、そういった通常の材質は、後付けされた外装パーツを除いて、まったく用いられていなかった。
機体表面を覆う材質は、甲殻類のキチン質に似た分子構造を持っていた。
しかし生物のそれよりも遙かに強靱で、数千度に達する耐熱温度は大気圏突入にも耐えうるものである。
翼下で緊急発進の準備が進められていたが、通常の機体のようにクルーが行う作業はほとんどない。モニター用の計器の指示値を確認するだけである。
パイロットらしき人影が、二つ並んで歩いてくる。
一人は巨漢の白人男性。もう一人は少女であった。
白人男性のほうはスーツの胸元を大きく開き、毛深い胸元を露出させていた。
体をぴったりと覆うスーツがいかにも窮屈そうである。
世界有数の大国が所有する極秘機体のパイロットというよりは、国道でトレーラーでもぶっ飛ばしていたほうが似合いそうな好漢である。
毛むくじゃらの胸元を掻きながら歩いてくる男に比べて、少女のほうは一分の隙もなかった。
細身の身体に薄い素材のスーツがぴったりと張りついている。
まだ十代とおぼしき身体の線が必要以上に浮きあがっている。
基地の隊員は男性がほとんどで、その遠慮のない視線にさらされていても、冷め切った目には何の色も浮かばない。
目線も、そして表情も、氷のような冷たい美貌の少女であった。
二人が近づいてくると、整備班の人間は一列に揃って敬礼を行う。
「オーラシップのバイタル・サインは良好であります。――閣下」
「よせやい。閣下は」
最上級の敬称に苦笑いして、整備員の胸を軽く叩く。
本人は軽く叩いたつもりが、相手のほうは大きくよろけてしまう。
「おっとと。悪ぃな」
腕を掴んで引き寄せると、よろけていた相手の体は勢い余って反対側へと引き抜かれる。
成人男性の体がヌイグルミかなにかのように振り回される。
「わりぃ、わりぃ」
ふらふらになった整備員をまっすぐに立たせ、男はそっと手を離した。
にかっと歯を剥きだして笑う。
肉食獣が笑うような凄みがあったが、同時に不思議な魅力もあった。
「任務」
少女の声がした。
丸く開いた搭乗孔へと、タラップが伸びている。
そこに片足を掛けたところで、少女が振り返っていた。
切り揃えられた銀色の髪が、顎先で揺れる。
「出撃」
ふたたび短くそう言って、暗い搭乗孔の奥を指ししめす。
最低限の単語しか口にしてこない。
「ロシアとEUにも動きがあります。おそらくオーラシップの出撃があるものと……」
「うむ。黒虫どもよりも先に確保せんとな」
搭乗孔の奥に消えた少女を追って、男もタラップを歪ませて昇っていった。
搭乗の直前に振り返る。
「では行ってくる。諸君。――地球のために」
男たちは整列して、合衆国の擁する
◇
《なんか近づいてくるみたいー》
《またかよ? 面倒っちいなぁ》
ひなたぼっこの気分で、ぼんやりと空の青さを愉しんでいた夏生は、真琴の声にそう返事を返した。
またどこかの国の戦闘機がスクランブル発進してきたらしい。
まったくの無駄であるわけだが。
スサノオは太平洋上にぷかぷかと浮かび、食事の真っ最中であった。
腹に開けた十メートルもの大きな穴から、海水を大量に取り込んでいる。
それを脇腹に列を作る小孔から、どばどばと盛大に排出してゆく。
秋津の説明によれば、海水中には地球に存在する元素のうち、ほとんどすべての種類が微量ながら溶けこんでいるという。
ただしものすごく希薄であるために、大量の海水から濾し取ってくる必要があるらしい。
まあ食事には違いない。
食事を途中で中断されたことが不満なのか、スサノオは、みゃうぅ、とか鳴いてきた。
《ほら。飛ぶぞ》
横腹を叩いてやるつもりで、合図を出す。
目覚めたばかりの星船は子犬のような状態で、従順なものだった。
星船に乗りこみ、空へと上がってから、夏生たちはこのスサノオとずっと一体化したままでいた。
疲れを感じることもなし、空腹も感じない。
いや、スサノオの食欲は感じていて、だからこそ、いまこうして食事をしていたわけだが――。
体が海面から離れて宙に浮かびはじめる。
排水されてゆく大量の海水が、白い滝となって長々とつづく。
《すこし太った?》
空中に持ちあがった体は、一回り大きくなっている気がする。
《まわり視てろよ。そろそろ来るんじゃないのか?》
《まだまだぜんぜんだよ。だってさっきあんなところに――ええっ!?》
真琴が声を張りあげた。
《うそ!? もうこんな近くに!?》
問いただすよりも先に、夏生は真琴の視界に飛びこんでいった。
水平線の向こう――地球の丸みの向こう側までを見通すことのできる広大なレーダー的視界のなかで、明らかに動いているとわかる速度で移動してくる物体があった。
《なんだこいつ――速い!?》
探知圏内の外側にあったものが、もう半分ほどに距離を詰めている。
半径数百キロはある探知圏内を、十数秒で横断してしまうほどの速度が出ている。
《大気圏の外にいる。秒速にして五〇キロほどか。マッハなら軽く一四〇。月まで日帰りができてしまえる速度だな》
空から海に飛びこんでくるように、大気の上からやってきた物体は、浅い進入角で、濃密な大気の中に飛びこんできた。
衝撃波がはしる。
空の色が変わるほどだった。
針の鋭さで大気圏に突き立ってきた物体に、周囲の雲が同心円状にかき消されてゆく。
一気に増えた大気圧によって海面がへこんだ。
《こっちにくるぞ!》
大気圏内に飛びこんできた物体は、水平飛行に移っていた。
速度はだいぶ落ちていて、マッハ二、三〇程度の常識的な速度となっている。
加速の途中にあったスサノオは、物体と交差する進路にあった。
海を割りながらぶっ飛んでくる物体が、左手に視認できる。
――が、肉眼による光景はすぐに意味を成さなくなった。
あらゆる色の混じり合った灰色の嵐に取り込まれて、なにも見えなくなる。
超高速で飛翔する物体が巻き起こす衝撃波のなかに、もろに巻きこまれてしまった。
《うお》
大鉄が船の構成物質に働きかけて衝撃を和らげる。
その慣性制御の超能力をもってさえ、スサノオは嵐に巻きこまれた木の葉のように、大揺れに揺れた。
向こうはべつに攻撃してきたわけではない。
音よりも何十倍も速く飛ぶということは、つまりは、こういうことなのだった。
空気をかき乱して後ろに嵐を作りながら飛ぶということだ。
長いこと揉みくちゃにされて振り回されていたが、やがて上下の区別が生まれるようになる。
巻き上げられていた海水が、臨時の大雨となって海面に戻ってゆくなか――スサノオは背中を空に、腹を海面へと向けて、ようやく水平を得て飛行していた。
滝のように降り注ぐ海水に背中を打たれ続ける。
謎の物体に対して充分に警戒しつつ、こちらも速度を上げてゆく。
一度交差した後、相手のほうは大きな弧を描いて旋回していた。
大気圏外から吹っ飛んできたときの猛烈な速度をだいぶ失ったとはいえ、それでもまだマッハ二〇近い速度が残っている。
時速なら二万キロ。一秒ごとに六キロずつ進むという、途方もない速度である。
一秒ごとに六キロずつ進む物体は、すぐには回ってこれない。
ぐるりと旋回してきて、ふたたび顔を合わせるまでに、数百キロもの無駄な距離を浪費することになる。
いくら星船といえども、一瞬の急停止や直角のターンは行えない。
船の力で何百万倍にも増幅された
差し引きすると、それほど非常識なパワーウエイトレシオにはなっていない。
せいぜい一〇〇対一とか、そんな程度だ。
マッハ二〇で飛行するということは、ちょうど高速道路で自動車の最高速に挑戦するような感覚であった。
メーターを振り切る速度で飛ばしている車は、すぐには止まれない、すぐには曲がれない。
《あれも……、星船なのか?》
それ以外に考えられはしなかったが、夏生は言わずにいられなかった。
《〝J〟の話ぶりでは、地球は何隻かの星船を保有しているようだった。正確な数までは聞きそびれたがね》
《なんか先っちょのほうに、すっ裸の女の子のイラストが描かれてるんですけどー》
《ノーズアートと呼ばれるものだな》
《なんだよアメリカ製かよ。あの星船》
《いやべつにそう決まったわけでもー》
《あのう……、いちおう、話してみてもいいでしょうか? 争わないで済むなら、そのほうがいいですし……》
《うん。そうだな。がんばれ》
思いっきり気のない返事を、夏生は返した。
志津には悪いが、話してどうなるとも思っていない。
《あうー……》
と、言わないでおいたことまで通じてしまい、志津は試みる前から半べそ状態だ。
《あれ? だけど、どうすれば……?》
志津が言う。
向こうの船と話をつける手段がないということに、夏生も気がついた。
生体宇宙船というやつは、なにしろすべて生身であるのだ。電話のひとつもついてやしない。
《テレパシーで話しかけてみてくれ。それで通じるはずだ。向こうにも能力者が搭乗しているわけだからな》
《なんでわかるんだ? 空軍のエリートパイロットかもしんないぞ》
《能力者が乗らなければ、星船は飛ばない。飛ぶはずもない》
《……飛ばない?》
《星船がもともと備えている機能は、搭乗者の生命維持のほかは、超能力の増幅だけだ。我々が搭乗することで、星船は初めて宇宙船として機能するようになる》
《おれたちが必要だって?》
《夏生――君は推進器、つまりエンジンだ。春日――君はレーダーだな。そして私は放射線を防護する磁気シールドであり、大鉄――君は衝撃吸収装置というわけだ。すべて必要な機能だよ。宇宙船にとってはね。つまり我々は星船という名の宇宙船に搭載された部品であるわけだ》
《あの、わたしって……?》
名前を呼ばれていなかった志津が、おずおずと聞きに行く。
《冬野。君はもちろん通信機だろう》
《あ。そうですね。そうですよね。よかった》
《ボクはー?》
《まだ不明だ。しかし推測することはできる。おそらくは――》
《また来るよ!》
秋津の話を遮って、真琴が叫ぶ。
ぐるりと日本列島くらいの距離を大回りしてきた相手が、ふたたび追いついてきたのだった。
こんどはすれ違いの軌道ではなく、ぴったりと後ろにつかれる。
《通信――通信っ、通信機っ!》
《あっ――はいっ!》
志津がテレパシーを飛ばす。
《戦いたくありません。誰か応答お願いします。こちらに争う意思はありません。誰か応答を――》
送信しているのは日本語の思考だが、言葉以外の概念も同時に送り届けられるテレパシーの特性上、だいたいの意味は通じるはずだ。
『任務』
短いつぶやきのような思念が返ってくる。
《お? いまの女の子か?》
《夏生君――! 割りこまないでください!》
志津にものすごく怒られる。
『捕獲』
またつぶやきが聞こえた。
無口ではあるが、やはり女の子のようである。
きっと可愛いにちがいない。
任務なので捕獲する、と、そう言いたいらしい。
あるいは――捕獲されてくれれば戦わないで済む、だろうか。
いずれにしても聞けない相談であった。
夏生たちは逃げなければならない。捕まるわけにはいかない。
捕まってしまったら、アリシアは――。
《――アリシア?》
スサノオに乗りこんでから、彼女の声を一度も聞いていなかったことに、夏生は気がついた。
不吉な予感が胸を締めつける。
《だいじょうぶ――》
そんな声が聞こえた気がした。
背中から抱きしめられる感覚が、不意に蘇る。
自分自身の肉体感覚は消え去って久しいが、アリシアの体が背中にあって、そのたおやかな腕が首筋に回されてくる感覚を、夏生はたしかに感じた。
安心する。同時に守ってやりたいと、そうも思う。
《小鉄》
夏生は心を決めた。小鉄に命じる。
《やれ》
《あっかんべー! おしーり! ぺんぺーん! つかまえてごらーん! おーほほほ!》
小学生のみが可能とする下品なイメージが叩きつけられると同時に、夏生は脱兎のごとく逃げだした。
全力で
スサノオに乗りこんでから、まだ一度も全力は出していない。
最高速度に挑戦するつもりで、まったく加減のない全力を振り絞った。
広域視野のマップの中で、地球の地形がゆっくりと動きはじめる。
地球の丸みに沿って飛ぶためには、意識してカーブを描かねばならないほどの速度となっていた。
大気が壁となって立ち塞がる。
ねっとりとした分厚い壁を、槍のように貫いてゆく。
そのイメージのせいか、それとも効率を追求してのことか、体の形が変化しつつあった。
細長い槍のような形で、超音速域に適した体型を得る。
向こうの船も、それは同じことのようだった。
やはり槍のような形状に変化してゆく。
同じ星船同士、アドバンテージはないということだ。
速度の差もほとんどなかった。
大気が邪魔をする。
ほんのすこし速度があがるだけで、負荷がドカンと増大する。
多少のパワーの差は吸収されてしまうのだ。
こちらはすでに全力だったが、その速度に追従してくる向こう側には、まだ余力が残されていないとも限らない。
《やめてください――。こちらには争うつもりは――》
《無駄だ》
志津まだテレパシー送信を続けている。
事実を言っただけだが、傷つけてしまったらしい。
押し黙る気配が感じられる。
謝ることよりも、いまは飛ぶことに専念する。
スサノオを飛ばせるのは自分だけだ。
自分がやるしかないのだ。
――と。
背中を抱きしめられる気配が、また覆いかぶさってくる。アリシアだろう。あいかわらず無言だが、励ましてくれていることは伝わってきた。
心象世界にいるせいか、彼女の雰囲気はずいぶんと大人びて感じられた。
肩に掛かってくる腕の高さが、夏生よりも高い背丈を予感させる。
抱きしめられている関係上、肩胛骨のあたりに柔らかなものが押しあてられてきているわけだが、その二つの感触にも、成熟した大人の女性を思わせるボリュームが備わっている。
まるで別人に思える落ちついた心が、夏生に染みこんでくる。
自分がパニックに陥りかけていたことを、自分で気づいた。
悲壮感に浸っているときではない。
闇雲に逃げ回るのは戦術とはいわない。
冷静さが戻ってきていた。
背中にあたる感触を味わう心の余裕も取り戻す。
アリシアの変化は気になったものの、いまそのことは後回しだった。
《秋津――上にでたほうがいいと思うか?》
思いつきを秋津に話してみる。
いま現在は大気圏内で追いかけっこをしているわけだが、星船というものは、もともと宇宙船なのだ。
つまり宇宙を飛ぶためのものであって、大気の中を飛ぶためのものではない。
だがやはり、それは向こうもおなじことであり――。
この場合には、宇宙に昇ったからといって、有利になるとは限らない。
障害物が存在しない宇宙空間では、性能勝負ということになる。こちらのほうが速いなら絶対に逃げ切れるが、向こうのほうが速いのであれば、逆に、絶対に逃げ切れないということが確定してしまう。
その性能に自信が持てない。相手も同じ星船なのだ。
《私もそれを考えていた。状況が許すうちは、惑星上にいたほうがいいだろう》
《その状況が――許してくれないみたい》
真琴が言ってくる。
《前方、二時と十時の方向――っていっても、まだ地球の丸みの先の先だけど。別方面から一機ずつ、新たに二機。たぶんこの二つも星船だよ》
《くそっ。三対一かよ》
《もしくはドッグレースのウサギ役か。三隻がそれぞれ別個の勢力でないとも限らない》
《だとしても、三対一ってことにかわりはねーわな》
捕獲されたら酷い未来が待っているという意味では同じだろう。
三隻の星船が別個の勢力であるということを証明するかのように、後ろに付けていたアメリカ産の一隻が、焦りをみせつつ仕掛けてきた。
背後にぴったりと付けていたところから、軽く上昇をかけて、斜め上のポジションを取ってくる。
その位置取りがなんのためかということは、すぐに身をもって知ることになった。
敵船から切り離された小型の飛翔物体が、いくつも連なって飛んでくる。
《この速度域でも運用可能なミサイルが存在するとは》
正確に追尾してきたミサイルは、命中すると小爆発を起こした。
爆発それ自体はまるで利きはしないのだが、姿勢が乱される。
わずかな姿勢変化でもこの速度では大きく空力に影響してきて、一発食らうたびに、がくりと速度を落とされてしまう。
夏生はすでに全力を振り絞っていて、ミサイルの防御に力を避くことはできない。
秋津の力は接近しないと働かず、大鉄の力でも姿勢が乱れることは避けられない。
《くそっ》
そうするうちに、なにかのビーム攻撃が加えられるようになってきた。
さらに大口径の砲弾までもが飛んでくる。
《粒子ビームにレールガンか。公開されている軍事技術の五十年は先に行っているな》
《くそっ! ずるくねえか! こっちはなんにも付いてねーっつーのに!》
向こうの星船には、外付けの武装が山盛りだった。
ビームは秋津の能力で湾曲させられた。
砲弾は直撃を受けても大鉄の能力によって被害をゼロにすることはできた。
だが他の者がパワーを使うことで、夏生の使えるパワーが減ってしまうらしい。
そのぶん加速は鈍った。
また姿勢が乱れることで、やはり速度が落ちてしまう。
敵のほうは外部兵装を使っているだけだから、なんのパワーも使っていない。
すべてのパワーを速度に回すことができるのだ。
だんだんと追いつめられてゆく。
手詰まりを感じていた。
《夏生。ひとつ気づいたことがある》
《なんだ》
《向こうの機体からレーダー波が出ている》
《だから?》
《レーダーに頼っているということは、向こうには、春日のような透視能力者が乗っていないのではないか?》
《じゃあステルスにしてくれよ――いますぐに》
《超音速で飛んでいては、本体は隠せても軌跡のほうがレーダーに映ってしまう》
《レーダーに移らない場所……、映らない場所……。どこだ――!?》
夏生は考えた。
《そこってどう?》
真琴が言ってくる。
《このあたりの海って、深いよ――何千メートルもある。海のなかまでレーダーって届いたりしちゃう?》
《そこだ!》
進路を鋭角に曲げて、海中に飛びこんでゆく。
膨大な水が噴きあがって大瀑布のカーテンを作りあげる。
UFOのような途方もない速度から、ほぼ一瞬にして、速度がゼロにまで落ちてゆく。
消えていたはずの肉体感覚が一瞬だけ戻る。吐き気と目まいとが襲いかかってくる。
《むおお……》
大鉄が能力全開で衝撃を消しにかかっていた。
肉体感覚はまた遠ざかっていった。
危なかった。
本来なら減速Gでぺしゃんこになってしまっているところだが、すべてのパワーを衝撃吸収に回すことで、かろうじて耐えきった。
スサノオはレーダーから逃れて海中を進みはじめた。
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