第4章「星船へ」

ランナウエィ

「しかし、どうしてバレたんだろうな? 通信とかは、ぜんぶ遮断してあったんだよな? お前の――その、電波を扱う能力で」


 夜の国道を流れる景色は代わり映えがなく、街灯が定期的に通り過ぎてゆくだけで、眠気を誘うものだった。


 車の助手席に座る夏生は、ハンドルを握る秋津に対して話しかけていた。


 小鉄など、隣の志津にもたれかかって寝息を立てている。


 志津の大きな胸に顔がはまりこんでいて、本当に居心地がよさそうだ。

 その志津も横の真琴とほっぺたを合わせている。ふたりとも眠っているようだ。


 冴えわたった目の姫は、シートの上でぺたんと座りこんで窓に貼りついていた。

 外の景色を、飽きもせずに眺めている。電車の窓の外を見る子供のようだ。


 八人乗りの車なので、大鉄が二人分を占領していても席はぴったりと足りている。


 秋津が都合つけてきたミニバンは、学校の教師の一人の個人所有物だった。

 学校の駐車場に置きっぱなしになっていたものをという名目で借用してきたのだった。

 鍵はどうしたのかと訊いてみると、「最近の車はみんな電子錠だからな」という答えが返ってきた。

 なぜそれで答えになるのかわからないのは悔しいので、それ以上は訊いていない。


「通信を遮断していたのに応援が駆けつけてきたのは、通信遮断、それ自体がサインになっていたのだろうな。あらかじめどこへ向かうか連絡をしておいて、定期連絡がなければ異常事態に遭遇したとみなすという、そんな方法を取ることで可能だ」

「腹、減ったな――」


 夏生がぽつりと口にした途端。


 後ろの席で、姫が反応した。

 しっぽでも振りかねない勢いで、シート越しに夏生の首に飛びついてくる。


「秋津。姫が人生二度目のお食事をご所望だ。――お。デニーズあるじゃん」


 ちょうどいいことに、黄色い看板が近づいてくる。


「いや――。そうもいかないようだ」


 秋津がバックミラーに視線をやっている。


「追っ手か?」


 夏生はヘッドレスト越しに振り向いてみた。


 国道を高速道路みたいな速度で吹っ飛ばして、一台の車が後方から接近しつつある。

 闇のなかにヘッドライトがぎらついてよく見えないが、黒塗りの車であることは確かなようだった。

 黒い車というだけで、やつらである確率がぐぐっと跳ねあがる。


「飯食う暇もないのかよ」


 車はすぐに追いついてきた。

 十数メートルほど後方に、ぴたりとつけてくる。

 フロントガラスにはスモークが入っていて、運転している人間は見えない。


「おい――、起きろ」

「なぁにぃ。ごはんぅ」

「寝ぼけてんじゃない」


 後ろの席に手を伸ばして、真琴の頭を、ぽかりとやった。


「うあ?」

「後ろの車。視てくれ。やつらか?」

「あ。うん。三つ子で」


 後ろも見ないで真琴は答えた。

 まだ寝ぼけているのではないかとやや心配だったが、その言葉を信用しておく。

 色々あったおかげで、能力の使い方が、皆、格段に進歩してきている。


「あとねぇ、そこと、そこにも、一台ずつ」


 真琴の指先が、前方――道の両脇を指し示す。


 林に隠れていて、まったくの死角だった。

 左右両方の脇道から、車がそれぞれ一台ずつ飛びだして来ようとしていた。ヘッドライトもつけずに、ぶつける勢いで左右から同時に迫ってくる


 秋津がアクセルを底まで踏みこむ。だが間に合わない。


 直接ぶつけてくるか、あるいは二台が正面衝突することでバリケードを作って、道をふさいでくる気だ。


 夏生は自分たちの乗っている車に対して、PKサイコキネシスを使った、車体を引っつかんで、前方へと押し出す。


 だが車体はひどく重たかった。

 あたりまえだった。人間一人の重さと比べたら、車のほうが何十倍も重いのだ。一人の力でどうこうなるものではない。


 PKサイコキネシスを振り絞っていた夏生は、車が急に軽くなるのを感じた。


 誰かが手を貸してくれたわけではなく、車体の重量、それ自体が、すっと軽くなるような気がしたのだ。


 車は瞬間的に加速した。


 左右から迫ってきていた二台の車の鼻面をかすめて、通り過ぎることに成功する。


 通過していった直後に、二台の車が正面衝突する音が、真後ろから聞こえてきた。


「……あぶねえ。後ろの一台に気を取らせておいて、ぶつけてくる作戦かよ。誰だか知らねえが、手伝ってくれて――助かった」

「よくわからんが……、あれでよかったのか?」


 寝ているとばかり思っていた大鉄が、腕組みをしたまま言ってきた。


「おまえか? 大鉄」

「うむ。だが、ぶつかっても――たぶん、平気だったぞ」

「平気なもんか」


 正面衝突した二台は、追跡続行不可能でリタイアとなっただろう。

 はじめから追ってきていた一台は無事だったようだが、ヘッドライトの光が見えなくなるほどに距離が開いていた。


 ほっとできたのも、束の間のことだった。


 国道と併走している側道に、別の黒塗りの車が現れてきた。

 やがて側道は本線と合流してくる。また後ろにつかれてしまう。


 交差点をひとつ過ぎるたびに、黒塗りの車は一台ずつ増えていった。しまいには数台という規模になり、後方に延々と連なるようになる。


「そこ右な」


 夏生は秋津に指示を出した。


 国道から外れて片側一車線ずつの道路となる。

 この先は丘を縫うように走る、ちょっとしたワインディング・ロードになっているのだ。


「飛ばせ。飛ばせ。めいっぱい飛ばせ」


 メーターの針が百キロを越えても、さらにアクセルを踏ませる。


 夏生はバックミラーの角度を変えて、後ろを見えるようにした。


 秋津は気にせず前だけを見ている。


 なにひとつ説明してないのに、質問一つ挟むことなく、言われるままアクセルを踏みこんでいる。

 その度胸もしくは全幅の信頼が、頼もしいやら重たいやら。


 まっすぐだった道が、やがて緩やかに右に流れてゆく。


 ここは地元民の知る道のなかでも、最もイヤらしいポイントだった。


 ひとつ、ふたつとコーナーの数をこなしてゆくにつれ、Rがどんどん厳しくなってゆく。


 はじめのコーナーは百キロ以上でも余裕で曲がれる緩さなのだが、四連の最後ともなると、コーナーというより直角の路地で、知らずに飛ばしていってガードレールにクラッシュする輩が後を絶たない。


 夏生はそんな道に相手を誘い込んでいた。


 しかしこちらのほうも、おばあちゃんから孫まで、家族二世帯が乗りこむような車高の高いミニバンだ。

 しかも定員いっぱいまで乗車していて、後ろについてくる乗用車よりも分が悪いといえる。


「大鉄――。合図したら車をしろ」

「む?」

「とりあえず四百キロに。だいたい五分の一くらいだ」


 話しているうちに二つめのコーナーが迫ってくる。

 まったく減速しないまま突っこんでいったので、七人乗りの車はタイヤを派手に鳴らした。――が、なんとか二つめは乗り切った。


 そしてすぐに三つ目が――これまで最も急なカーブが迫ってくる。


「よしいまだ!」

「む」


 大鉄が車体の窓枠に手をかける。


 能力が発動する。青白い輝きが大鉄の目に宿り、フレームを通じて車体を覆った瞬間、鈍重なファミリーカーが、まったく別種の乗り物へと生まれ変わった。


 車体重量というものは、車の性能に大きく関係している。


 車の加速性能を示すパワーウエイトレシオという言葉がある。

 車の馬力を車体重量で割った比率のことだ。

 エンジンをパワーアップさせることと、車体を軽くすることとは、まったくの同義である。

 おなじようにコーナーリング性能というものも、タイヤの発生する摩擦力と、車体重量との比率によって決定する。


 つまり独身高校教師の給料で買えるマイカーであっても、ただ単に車体重量が数分の一に減るだけで、F1のレーシングカーをも越えるコーナーリング性能を持つようになるのだ。


 夏生たちの乗る車は、三つ目のコーナーを難なく抜けていった。

 タイヤさえ鳴らさない。


 だが後続の黒い車たちは、曲がりきれずに次々とスピンアウトしていった。

 一台目がガードレールを突き破り、二台三台と、連なって畑の中に飛びこんでゆく。


 一台だけは、ドライバーの腕が良かったのか、コースアウトせずについてきていた。

 だが四つ目の――魔の直角コーナーが待ち受ける。

 速度はいまだ八十キロをキープしている。


 車体が軽くなったことでコーナーリング性能は上がっているが、この速度のまま抜けることは、さすがに物理的に無理だった。


「大鉄――ゼロにできるか!」

「こうか」


 車体がさらに軽くなる――重量が限りなくゼロに近づく。さらに夏生がPKサイコキネシスで車を上から押さえつけ、タイヤの接地力を稼ぎだす。


 物理法則さえ無視して、車はほぼ直角に曲がっていった。


 もちろんついてこれるはずがない。

 後ろの車はガードレールに飛びこんでいった。鈍い衝撃音とともに、フロントのひしゃげた車が宙を舞う光景が、バックミラー越しに見えていた。


「これで……、とりあえず全部かな?」


 夏生は後ろを見ていた。ヘッドライトの明かりは、もう見えない。


「秋津君って……、運転、うまいんですねー」


 なにが起きたのかよくわかっていない志津が、がくりと力の抜けることを言ってきた。

 物理法則さえ無視する恐るべきコーナーリングがいままさに行われたところで――まあいいか。


 車内の空気が和らいだが、それも一瞬のことだった。


「あー……、次のが来た」


 真琴が言ってくる。


「どこだどこだ?」


 バックミラーにはなにも映っていない。前方にも、横にもいない。


「上。上」


 真琴は上を指差した。

 天井のさらに上だ。


 サンルーフをスライドさせてフルオープンにさせる。


 は濃紺の空のなかに完全に溶けこんでいたが、そこにある、と指し示されたなら、ようやく見えてくるようなものだった。


 夜の闇よりもわずかに暗く――漆黒の影が、空のただなかに浮かんでいる。


「ヘリコプターかよっ!」


 車自体の音にまぎれて気づかなかったが、バラバラというローター音もたしかに聞こえている。

 ワインディング・ロードが終わりを告げ、車はふたたび国道へと出る。


「このまままっすぐ行くと、じきに高速のインターなんだが――、ヘリってどのくらい出せる?」

「タイプと機種によるが、まあ時速三百キロは出ると考えるべきだな」

「この車じゃだめだな」


 最高速度はコーナーリング性能とは違い、空気抵抗との押し合いとなるから、車体を軽くできてもこの場合には意味がない。

 夏生のPKサイコキネシスで押したとしても、時速三百キロというのはさすがに無理だ。


 ワインディング・ロードを抜けて国道に出たが、右に左に緩いカーブがまだ続いている。

 空を追ってくるヘリは、その手の蛇行する動きが苦手なようで、一定以上に距離は縮まらない。


 だがもうしばらく行くと、道はまっすぐになってしまう。


「よし」


 夏生はシートベルトを外した。

 全開にしてあるサンルーフの縁に手を掛ける。


 車の屋根の上に上体を出すと、すごい風だった。


 百キロを越える速度で走っているのだ。風速にすれば三〇メートル弱――超大型の台風並みの強風で、屋根の飛ぶ家も出るほどの風圧だ。


 そんな風圧の中、夏生は屋根の上によじ登っていった。

 普通なら吹き飛ばされているところだが、PKサイコキネシスを使いこなして体を安定させる。


《連絡係、よろしくな――志津》


 叫んでも声は届かないだろうから、心の中で声を出す。

 こうすることで、たぶん志津には伝わっているはずだ。


 深夜の国道は車がほとんどなかったが、たまに遭遇する車は、対向車線に大きくはみだして追い抜かす。

 法定速度を守って走っている車との速度差は、相手が止まって見えるほどだ。


 屋根の上に人間が立っているのを見て、ドライバーが目を丸くしていた。


 ヘリが頭上から降りてきた。


 横のドアがスライドして、アサルトライフルの銃口がこちらに向けられる。

 射撃手が自動小銃の狙いを付ける。


 マズルフラッシュの閃光が赤々と輝いた。


 飛びだした直後から、夏生は銃弾を捕捉していた。

 止めるなどという無茶はもうやらない。前に覚えたやりかたで、軌道をすこしだけ逸らすことにした。


 距離があるので、楽なものだった。

 あと射撃手の腕が良く、狙いをまったく外さないので、こちらの手間も最小限で済んだ。


 銃弾は正確に、タイヤだけを狙っていた。


 その銃弾の起動を数十センチほど逸らしてやると、路肩のアスファルトが一列に縫われていった。


 無駄を悟ると、ヘリは車を追い越して、いったん前方に移っていった。


 横向きに腹を見せて飛びながら、機内に設置されたゴツい機銃をこちらに向けてきた。


「わ。わ。わ。――マジかよっ!」


 拳銃弾やライフル弾などとは、重量も速度も桁違いの弾頭が、これまたマシンガンなどとは桁違いの毎秒数十発という速度で発射されてくる。


《ブレーキっ!》


 心の声で叫んだ瞬間、寸刻も遅れることなく、がつんとブレーキが掛かる。


 射撃音はもはや個別には聞こえなかった。

 ひとつらなりの唸りとして聞こえた。


 ホースで水を浴びせられるように繋がって伸びる弾丸の列が、地面に溝を刻んでゆく。

 ブレーキを掛けるのが一瞬でも遅れていたら、車のフロントを削られていた。


 タイヤが狙えないとみて、エンジン狙いに切り替えてきたわけだ。


 ヘリが機体を安定させて、再び射撃体勢に入ってゆく。

 ブレーキで避けられたのは一度きり。こんどはその手は利かないだろう。


 入念に狙いを定めてから、何本も束ねられた銃口が回転を始める。弾が飛びだしてくるまで、およそ一秒ほど――。

 夏生は最大パワーでPKサイコキネシス放射をした。


 もはや弾頭を一個一個識別することなどできない。

 弾頭のに対して力をかけて強引にねじ曲げる。

 ――が、毎秒ごとに数十発の弾丸をすべてPKサイコキネシスで逸らせ続けるためには、途方もない精神力を必要とした。


 ものすごい勢いで精神力が削られてゆく。


 PKサイコキネシスがついに途切れた。弾丸の流れをねじ曲げていた力が消え失せる。


 ボンネットで火花が上がる。乗用車のぺらぺらの鉄板が、装甲車に穴を開ける威力の弾丸を弾き返していた。


 たぶん大鉄の能力だろう。

 自分の肉体以外も軽くできるなら、同様に、自分の肉体以外も頑丈にすることができるはずだ。


 だがそれにも限度があるらしい。

 ボンネットには徐々に凹みができてゆく。


 いまの夏生には、ただ見ているだけしかできない。

 PKサイコキネシスが切れた夏生は、振り落とされないように掴まっているだけで精一杯だ。


「手伝おう」


 ――と。

 秋津の声が横から聞こえて、夏生はぎょっと顔を向けた。


 サンルーフをくぐり抜けて、秋津が屋根の上にこようとしている。


「お――おまっ、運転はっ!?」

「彼女に交代してもらった」

「彼女って誰だよ、どっちだよ!」

「それはいまは問題ではない」


 射撃は一時的に止まっていた。

 オーバーヒートを防止するためか、数秒の射撃が続くと、数秒のインターバルが空く。


「力の回復に励みたまえ。――次はわたしがなんとかする」


 秋津はボンネットの上に立ち上がった。

 靴の裏が磁石にでもなっているかのような安定ぶりだ。


「なんとかって――うわっ」


 射撃が再開された。


 秋津は空中に手をかざしていた。

 光の帯となって迫る弾丸の列は、夏生のPKサイコキネシスのときよりもはっきりと大きく曲がって、道路の外に流れてゆく。


「これは……、かなり、こたえるな」


 数秒間ほどを耐えきってみせて、秋津は夏生にそう言ってきた。


「おまえもPKサイコキネシスが使えるのか?」

「いいや。金属製の弾頭でよかった。金属でなければ私の力は使えないからな」


 色々な応用技を見せられてはいるが、こいつの能力が、いまひとつ掴めない。


「ところで夏生。力はどうだ?」

「すこしなら」

「私は金属が対象であれば、PKサイコキネシスのようなこともできる。君と私。二人のパワーを合わせれば、かなりのことができると思うが?」

「そうか――」


 夏生は笑った。


「ヘリは、金属だったな?」

「無論だ」


 二人で屋根の上に立つ。

 次の射撃が始まろうとしていた。ふと気づいて、こちらに向けられている銃口を、ぐいっと捻った。


 それだけで、発射された弾丸はあらぬ方向に向かっていった。

 夜空に長々とオレンジ色の放物線が描きだされる。


 始めからこうすればよかった。


「ようやく気づいてくれたか。君はパワーは凄いが、使い方が真正直すぎる」

「うるせ」


 口元で笑う。

 秋津と二人でヘリに掌を向ける。


 夏生はPKサイコキネシスを、秋津は正体不明のなんか変な金属を操る力を――ともにヘリに放出する。


「うおおおお!」


 全力を絞りだした。


 ヘリを引きずり下ろしにかかる。

 夏生一人では不可能なことでも、秋津のパワーも合わせれば可能に思えた。

 こいつと二人で、いつだって、不可能と思えることをやり遂げてきたのだ。


 ヘリは高度をがくんと下げた。


 いちど地面に接触しそうになるが、なんとか持ち直して、地表すれすれの低空飛行にはいる。

 エンジン音にも異音が混じりはじめる。


 夏生はなおも容赦なく、下向きの力を与えつづけた。


 そうするうちにヘリは速度を落としはじめた。

 墜落を免れるために不時着を試みる。道路脇の畑の中央に着陸したようだった。


「さて。次の乗り物が手に入ったな」


 完全に停止したヘリを眺めつつ、秋津がそう言った。


    ◇


 はじめに闇だけがあった。


改良人間チューンドマンの一セットを消費したという話だが」


 闇の中に、声だけが響く。


 ぼうっと燐光につつまれるテーブルが、闇の中に浮かび上がる。


 テーブルは巨大な十字の形をしていた。

 十字に四つあるそれぞれの頂点には、ひとつずつ席が設けられている。

 そのうちの二つに老人の姿が唐突に出現する。もう一つには青年が――。そして最後の一つは空席のままだった。


 テーブルの上には薔薇が置かれている。

 四つの席も装飾もすべてが薔薇であった。


 薔薇と十字――それがこの組織のシンボルであった。

 彼らが身に纏うローブの胸元には、組織における最高の階位を示す賢者の紋様が記されている。


「聞いている。十一年ぶりの誕生は確定だな。新たな星船の収穫だ」

「東アジアの州は、彼奴きやつの統治領であったはずだが……」


 賢者のひとりが忌々しげな目を向けるのは、空席となった席だった。

 その席に座るはずの者は、四賢者会議に欠席を決めこんでいる。


「補充を要請する」

「了解した。二セットほどを送る」


 賢者の一人が言い、べつの一人が応じる。


「それまでは現地の軍隊に対応をあたらせることになるが」

「彼の国の軍隊は、不殺生を旨とする軍隊だったな。有事にどれほどの役に立つのやら」

「いずれにせよ……」


 口々に話していた賢者たちの表情が、ここで揃う。


「星への道は、すべて我々が手にしなければならない」


 三人の賢者は、声を揃えて同じことを言った。

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