5-9
「……ヴァイスインペリアル? ヴァイスインペリアルだと!」
俺とマリーさんの名乗りを聞いた、悪の組織ブラックライトニング
「まさか貴様らの方から、のこのこやって来てくれるとはな! しかも総統だと? 飛んで火にいる夏の虫とは、このことだ!」
白スーツの男は、
確かに、季節はもうすぐ夏だけども。
なんだか向こうの首領は、随分とテンション高いなぁ……。
人の振り見て我が振り直せ。実は内心、さっきまでの破壊活動で、ちょっと興奮してしまっていたのだが、少し落ち着いてきた。
「ひょっひょっひょっ、まさかと思えば、本当にヴァイスインペリアルの新米総統がやってくるとは、これはついてますなぁ」
確か……、
「ふん! これこそまさに、我に覇を握れという天啓であろう! まさか未熟者の方から、こうして自ら敗北しに来てくれるとは!」
あっさりと本拠地を壊滅状態にされたというのに、稲光は妙に自信満々な態度を、まったく崩さない。
「ひょひょひょひょひょ! あの御方のご助力といい、確かに、運は我らに味方しておりますな!」
間外博士も同じ様に、稲光と並んで、こちらを見ながらゲラゲラと笑っている。
正直、かなり不愉快だったが、それよりも、気になることもあった。
「おい、あの御方って……」
「間抜けなシュバルカイザーよ! 貴様を倒し、貴様の組織丸ごと、我がブラックライトニングの下僕としてやるぞ! ハーハッハッハ!」
「ひょーひょっひょ!」
俺を無視して、ブラックライトニングの二人は大盛り上がりだ。
しかもどうやら、俺を倒せばヴァイスインペリアルそのものが手に入ると思ってるらしい。
倒した相手をそのまま手下にできる……、みたいな単純な話なら、悪の組織同士の抗争なんて、もっと手早く収まっていそうなものだが。
「あのヴァイスインペリアルのクソジジイが、自ら
「ひょーひょっひょっひょっ!
どうやら、あの二人は、俺の祖父のことを知っているようだ。
というか、なるほど、そうか。
俺を……、組織のトップを人質にすることで、それを交渉の材料として、俺たちの組織を乗っ取るつもりなのか。
つまり。
俺は、あいつらに、思い切り、舐められている。
「なんだかムカつく~」
ジーニアが口を尖らせ、目の前の敵を睨む。
その顔を見ていると、大分救われたような気分だ。
「ひょっひょっひょっー! 喰らえ、あの御方に授けて頂いた英知の結晶を!」
まるで俺たちの不意を
そして迷うことなく、全員が、その引き金を引いた。
と思った瞬間、その銃から、レーザー光線が放たれる。
「よっと」
「ほ~い」
俺とジーニアは、あっさりとそのレーザーを避ける。
レーザーと言っても、先ほどジーニアが使った砲門に比べれば、小さすぎる。
あの大破壊を見た後に、このパスタくらいの細さしかないあいつらのレーザーは、なんともしょぼくれて見えた。
「バカな! レーザーを避けたじゃと!」
どうやら勝利を確信していたらしい間外博士が、驚愕する。
レーザーのスピード自体は変わらない……、というか光の速さなのだから、躱されたことを驚くのは、まぁ、分からないでもない。
だが、あんなに殺気というか、撃つ気がだだ漏れでは、レーザーが撃たれる前に、その射線から自分の身体をどかしておくくらいは、十分に可能だった。
カイザースーツのサポートに加え、超感覚もある俺には特に難しいことではない。
ジーニアの方も、どうやら、あの眼鏡に映る情報から射線を割り出したようだ。クレイジーブレイン君の巨体を背負いながらも、見事に避けている。
一応、連射に備えて相手の銃口に注意は向けているが、どうやらあのレーザーは、一度撃ったらクールダウンが必要なようで、次の攻撃は、なかなかこない。
つくづく、ジーニアの物と比べるとしょっぱいな、あのレーザー銃。
「なんだか~、がっかりね~」
ジーニアが
「あぁ! あの御方の英知が!」
「なにが英知よ~、ただの玩具じゃない、これ~」
ジーニアが、奪い取ったレーザー銃を、その眼鏡を使って解析している。
「エネルギー源がショボすぎな上に、制御できずに即熱暴走、クールダウンも満足にできず、光線の収束率もお粗末で、射程距離も短いって、ポンコツすぎ~」
ジーニアが不敵に笑った瞬間、奪い取ったレーザー銃は突然、全てバラバラに分解された。
「なっ!」
間外博士は驚いたようだが、俺は超感覚と、カイザースーツの機能により、今の瞬間、なにが起きたのか、はっきりと見えていた。
クレイジーブレイン君の一部が、ナノマシンのサイズで切り離され、レーザー銃の内部に侵入すると、即座に解体してしまったのだ。
「よっと~」
そして次の瞬間、ナノマシンサイズのクレイジーブレイン君がレーザー銃の破片を取り込み、再構築した上で、自らに組み込んでしまう。
「しかも~、これだけ露骨な欠陥品なのに~、改修の一つもしないとか~、考えらえないんですけど~」
ジーニアの手によって作り変えられたレーザー銃、その全てから、超高密度のレーザーが、高速で連射される。
レーザーはブラックライトニングの構成員には当てず、そのまま洞窟の入り口の向こうへと吸い込まれるように消えた。
次の瞬間、洞窟の奥から凄まじい爆発音が響く。
「せめて~、これくらいはしてくれないとね~」
「なっ、なっ、なっ……!」
完全に動揺してる間外博士だが、ジーニアの
「よ~いしょっと~」
クレイジーブレイン君から伸びた機械の触手が、呆然としているブラックライトニングの面子を
そして、洞窟内に残る様々な兵器を、機械を、メカを、金属を絡め取ると、無理矢理引っ張り出した。
「くっ!」
首領である稲光を筆頭に、洞窟の入り口に立っていた戦闘員や怪人が、慌ててその場から飛び退いた。
「うっわ~、どれもこれも残念な出来栄えね~、機械が可哀想~」
そして、触手に絡め取られた物全てが、先程のレーザー銃と同じ様に分解され、ジーニアが操るナノマシンにより再構成、再構築され、クレイジーブレイン君へと、まるで吸収されるように組み込まれていく。
相手の武器を、兵器を、機械を、全て我が物として、その姿をより大きく、巨大に変えていくクレイジーブレイン君。
全てが終わった時、その姿は、大きく変貌していた。
まるで蜘蛛の足が生えた物置のようだったその姿は大きく膨らみ、まるで神が背負う後光のように、荘厳な威圧感を発しながら展開される。
その中央では、まるで機械の十字架に磔にされたような、どこか神々しさすら感じるジーニアが、不敵に笑っていた。
ジーニアを中心とした、機械の神。
それこそが、クレイジーブレイン君の、真の姿だった。
「それじゃ~、その他大勢の相手はワタシが適当にするから~、総統は~、あのムカつくリーダーをコテンパンにしちゃって~」
「――分かった!」
ニヤリ、と笑うジーニアに頷き、俺もカイザースーツの中で笑う。
「俺をコンテンパンにだと? 矮小なお飾り総統が、なにを」
「うるさい」
俺は、全身に命気を漲らせると、勢いに任せ、なにやら不快なことを口走っている稲光に向けて飛び出し、そのまま思い切り、正拳を相手の鳩尾に打ち込む。
「ぐはっ!」
俺の一撃をモロに喰らったブラックライトニング首領が、周囲の木々をなぎ倒しながら吹っ飛んでいく。
「それでは、ここは任せたぞ、ジーニア」
「あいあいさ~」
悪の総統として振る舞う俺に、ジーニアはいつもと同じ、悪戯を考えてる子供のような笑顔を向けてくれる。
そして、蹂躙が始まった。
「くっ! ……貴様ァ!」
吹き飛んでいった稲光を追いかけた俺に、その張本人から怒声が浴びせられる。
どうやら、まだまだ元気なようだ。地面に倒れたままだが。
おそらく、白いタキシードの下に、なんらかの防御手段を用意していたのだろう。殴った感触からも、それは分かっていた。
「どうした? 俺を人質にするんじゃなかったのか?」
「クソが! 調子に乗るなぁ!」
俺に見下ろされるのが、我慢ならないのか、稲光は跳ねるよに飛び起きると、怒りに満ちた目で、こちらを睨む。
「どうやら、力で叩き潰してやらんと、分からんようだな!」
稲光が叫ぶと同時に、彼を中心として、周囲に放電現象が起きる。
夜の暗さに、雷の明滅が瞬く。
「神の雷!」
稲光が俺を指差すと、その指先から雷光が発せられ、まさしく雷と呼べるだろう電気の塊が、俺に向かって放たれる。
「よっ」
だが、俺はその神の雷とやらを、あっさりと避ける。
要領は、完全に先程のレーザー避けと一緒だ。
超感覚が感じ取った攻撃の気配を、事前に避けているだけにすぎない。
魔素の動きは、無かった。
あの雷は魔術ではない。魔術以外の、なんらかの原因により発生した超常現象だ。
なるほど。これが、超常者か。
「神の裁きを受けよ!」
稲光が俺に向かって、その指から連続で雷を撃ち出しながら、俺から少しづつ距離を取り始めた。なるほど。近接戦闘は、あまり得意ではないらしい。
雷は指から放たれるばかりで、一向に空から落ちてくる様子はない。
どうやら、天候を操作する類の能力ではなく。体内で自家発電した電気を操る能力のようだ。
「つまり、電気ウナギか」
「誰がウナギか!」
一際大きな雷が放たれるが、俺はそれを避けながら、思考を巡らせる。
ここは森の中だ。
避けた雷が、俺の後ろの木に命中し、その太い幹を裂き割り、倒壊させている。
生木が多いのか、着火こそまだしていないが、かなり焦げ臭い。
このまま稲光に、好き放題させるのも、まずいか。
「ほい」
俺は前方に防御用の魔方陣を展開し、稲光の雷を打ち消す。
「貴様! 一体何をした!」
カイザースーツの機能により解析した結果を元にした、対電撃用の防御陣だ。
絶対の自信を持つ、必殺だったはずの攻撃を防がれた稲光が、
「ええい! 面妖な!」
どうやら稲光には、俺の魔方陣が見えないようだ。
やはり超常能力を使えるからと言って、魔素の才能があるわけでないらしい。
というわけで、俺は稲光の背後に魔方陣を展開すると、そこから魔弾を放つ。
「ぐあ!」
あっさりと俺の攻撃を喰らった稲光が態勢を崩し、致命的なまでの隙が生まれた。
「はっ!」
命気の力を引き出した俺は、スーツの助力も得て、一瞬で稲光に肉薄する。
「舐めるな!」
稲光が気迫と共に、自らの身体に電気を纏う。
次の瞬間、まるで瞬間移動したかのように、その身体を上空へと躍らせた。かなりの高度だ。
どうやら、自分の身体に無理矢理電気を流すことで、人間の限界を超えた動きを可能にしたようである。
「――グハッ! ……ハハハハ! どうだ! この俺の、神の如き動きは!」
空中で稲光が勝ち誇るが、その神の如き動きとやらで、空中に飛んでしまったために、次の動きに移ることができず、完全に自由落下してしまっている。
どうやら、空中を移動する手段は、特に持っていないようだった。
ついでに、なにやら全身がチリチリと焦げて、煙なんか出しているので、身体の方にも相当の負担がかかったようだ。
「よっ!」
俺は空から落ちてくる稲光の落下速度に合わせて、攻撃用の魔方陣を奴の周囲を囲むように、複数展開する。
稲光はそれに気づかず、こちらを不敵な顔で見下ろしていた。
「ふははは! シュバルカイザー! 貴様はそうやって地を
「はっ!」
なにやら口走っている稲光は無視して、俺は展開した魔方陣を爆発させる。
そしてそれと同時に、自らも空中の稲光に向かって、跳躍した。
「なっ、なんだぁ!」
突然の爆発に巻き込まれ、困惑している稲光の頭上に、更に足場用の魔方陣を展開した俺は、それを使って空中で方向を変えると、そのままその白タキシードの男に飛び蹴りを放つ。
「――喰らえ!」
「ぐはぁ!」
俺のキックが直撃した稲光は、そのまま凄まじい速度で地面に激突すると、潰れたカエルのような恰好で、そのまま地面に這い蹲る。
俺は空中で姿勢を整え、地面にめり込んでいる稲光の近くに着地した。
「……ぐぎぎぎぎぎ!」
地面にうつ伏せで倒れたままの稲光から、呻くような声が聞こえた。
どうやらまだ息がある……、いや、意識があるようだった。
「この俺が……! 神に選ばれし至高の存在である、この俺が……! こんな矮小な奴なんぞに……!」
なにやら呪詛のような言葉を吐き出しながら、稲光がゆっくりと身体を起こす。
ダメージは大きいようだが、まだ戦闘不能にはなっていないようだ。
超常者は普通の人間に比べて、単純に耐久力も高いのだろうか?
俺は少し困ってしまう。加減が難しいなぁ。
殺す気でやるなら、この目の前の男の首でもねじ切ってやれば、即座に終わるのだろうが、その選択肢は、俺の中には存在しない。
相手を殺すということは、そいつを殺したという事実を、それから一生背負って生きていくということだ。
ただの小市民の俺としては、そんな重荷をわざわざ背負い込みながら生きていくのは、まっぴら御免だ。しかも、こんなしょうもないのが相手なら、特に。
「……っ! 間外! 聞こえているか、間外!」
ふらつきながらも身体を起こした稲光が、自らの配下を呼んでいる。
洞窟の入り口から、結構離れたここからでも、相手に聞こえるのだろうかと心配してしまうが、まぁ、通信機くらいは、どこかに仕込んでいるのだろう。
『総統~、そっちはどんな感じ~?』
稲光が必死に配下を呼び出している、丁度その時、俺の方には、ジーニアからの通信が入った。向こうも、随分と余裕そうな様子だ。
「あぁ、もうすぐ終わりそうだけど、そっちは?」
『こっちも殆ど終わり~、歯ごたえなくて、つまんな~い』
カイザースーツに映る情報を確認すと、どうやら、ブラックライトニングの戦闘員たちも、複数いたはずの怪人たちも、すでに全員倒してしまったようだ。
まるで子供のように膨れて見せるジーニアに、俺は思わず苦笑いだ。
まったく、癒されるなぁ。
『なんだか~、こっちにいる、あのショボい博士が~、慌てて通信に出ようとしてるんだけど~、そっちで呼び出しとかしてる~?』
「あぁ、してるしてる。なんか、怒りながらしてる」
『ふ~ん。……そうだ~! いいこと思い付いちゃった~』
ジーニアはニコニコと笑顔になると、こちらとの通信を切った。
次の瞬間、夜空にデカデカと、ボロボロになった洞窟前の様子が投影される。
おそらく、というかまず確実に、ジーニアの仕業だろう。
「なっ!」
繋がらない通信機と悪戦苦闘していた稲光が、突如映し出された自らの組織の壊滅状況に、愕然としている。
『やっほ~! 総統、見えてる~?』
「あぁ、見えてるよ」
巨大な夜空のスクリーンから、こちらに話しかけてくるジーニアに、俺はスーツの通信機能を使って答えた。
『それじゃ~、始めちゃうわね~』
『ひょっ! なっ、なにをする!』
スクリーンからジーニアが退いたと思ったら、代わりに機械の触手によってグルグルに締め上げられた、間外博士が映された。
「間外! おい! アレを使うぞ! 間外!」
余程追い込まれているのか、目的の相手を見つけた稲光は、かなり危機的状況な部下の様子には一切構わず、一方的に自分の要件を告げた。
『稲光様! まさか、それほど苦戦されておられるのですか!』
どうやらジーニアが、間外博士の持っていた通信機を分解して取り込み、博士を締め上げている機械の触手に、その機能を持たせたようだ。
稲光と間外は、夜空に浮かぶスクリーン越しに、問題なく会話していた。
「まさかここまで追い込まれるとは思わなかったが、あの最終兵器を使えば、こんな奴らなぞ、一瞬で
『おぉ! 確かにこの状況は想定外ですが、あの御方より
自分達たちの状況も忘れたかのように盛り上がる、ブラックライトニングの二人。
なんというか、懲りないなぁ。
『またあの御方~? 自分で作った物は~、なにもないの~?』
空に浮かぶ巨大モニター枠外にいるジーニアが、つまらなそうに不満を漏らしたのが聞こえる。まぁ、俺も大体、同じような気分だった。
『黙れ! これを見ても、果たしてそんなこと言ってられるかな? 最終機動兵器、ブラックサンダー起動!』
「うおおお! 来い! ブラックサンダー!」
簀巻きにされたままの間外博士が叫ぶと同時に、稲光がナニかを呼んだ。
次の瞬間、近くの森が割れ、格納庫のようなものが出てきたかと思ったら、大型トラック程の大きさメカが、こちらに向かって飛んできた。
というか、大型トラックだ、あれ。
「とう!」
身体中に電気を纏った稲光が、その物体に向かってジャンプすると、空中でそのまま乗り込んだ。おぉ、今のはちょっと凄いぞ。
「
稲光が乗り込んだメカ……、ブラックサンダーの内部から、稲妻が
『見たか! これぞ我らが最終兵器! 首領の生み出す無限の電力でしか起動できない超兵器! その名も、ブラックサンダーよ!』
上空のモニターから、間外博士が勝ち誇る。
相変わらず簀巻き状態なのに、自らの状況も忘れたかのように興奮している。
「ハハハハハ! これで終わりだ! シュバルカイザー!」
稲光の乗り込んだブラックサンダーから、大量のミサイルが俺に向けて放たれた。
ミサイルが森に着弾するのは、色々とまずいと判断した俺は、それを上空に誘導するようにして、飛んで避ける。
「無駄な足掻きを! 喰らえ! ビッグサンダー!」
空にジャンプした俺に向けて、ブラックサンダーから特大の雷が放たれた。
空中に展開した魔方陣を足場にして。それも事前に避けておく。
「フハハハハハ! 無様に逃げることしかできないか!」
ブラックサンダーの中から、稲光の不遜な笑い声が聞こえる。
さて、どうするか。
確かに、最終兵器ブラックサンダーによって、稲光は劇的にパワーアップしたようだが、それでもまだまだ、今の俺でも、どうにでも対処可能な範囲の話だった。
このままでもジワジワと押し切って勝てそうだが、それでは時間がかかる。
ここは、マギアかベスティエで一気に……。
なんて、俺が考えていた、その時だった。
『よ~し こっちも行くわよ~!』
「えっ?」
ビーッ! ビーッ! ビーッ!
ジーニアの号令と共に、カイザースーツが警報を鳴らす。
それと同時にスーツ内部のモニターに、緊急時特例最終手段の文字が浮かんだ。
「ちょっと! なんで!」
俺が、なにかをしたわけではない。
もちろん、突然状況が急変し、ピンチになったわけでもない。
当然、カイザースーツが故障したわけではない。
ジーニアがスーツに干渉して、強制的に、この機能を発動したのだ。
『だって~、デモニカちゃんやレオリアちゃんの時には~、格好良く新しい力に目覚めてたのに~、ワタシの時は、なにもナシじゃ寂しいし~、折角~、新兵器も開発したことだし~』
どうやらジーニアは、最初からこれがやりたかったようだ。
わざわざ既に捕まえた敵を引っ張り出したのも、このためか……。
「あぁ! もう! しょうがないな!」
すでに緊急時特例最終手段は、発動してしまっている。
こうなってしまっては、やることは一つしかない。
『うわ~い! ワタシと総統の愛の力、見せつけちゃって~!』
「分かったよ!」
嬉しそうなジーニアの顔を見ているだけで、俺の心も楽しくなってしまう。
俺の心に、輝くような閃きが宿る。
子供のように喜ぶジーニアの声に後押しされつつ、俺は、カイザースーツの導きに従って、叫ぶ!
「
俺の叫びに応えて、カイザースーツの周囲の空間が裂け、そこから様々な追加武装が出現し、一瞬でスーツに装着される。
両腕に、巨大な蟹のハサミのようなアームが取り付けられる。
両足は、姿勢制御のためのスラスターとなり、前面にぶ厚い装甲が追加された。
背面には、巨大なブースターが、幾つも取り付けられる。
最期に、カイザースーツのヘルメット部分の上から更に重なるように、巨大なバイザーが装着されて、全ての強化は終了する。
俺は、俺の閃きが囁くままに、叫ぶ!
「シュバルカイザー・マシーネ!」
全体的にボリュームアップした結果、小型トラックくらいの大きさになったカイザースーツを操り、俺はジーニアに見せるために、それらしくポーズを決める。
『きゃあ~! 格好良い~! 総統、素敵~!』
夜空の巨大なモニター一杯に映る、ジーニアの黄色い声援を受けながら、この作戦も遂に、最終局面に突入したのだった。
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