5-8
「というわけで~、今回は~、二人で出撃しま~す」
あの後、俺とマリーさんはボロボロになったバディさんをその場に放置して、地下本部のワープルームにやって来ていた。
一応、バディさんをなんとかするべきか、具体的には埋めるべきか、とか俺は考えていたのだが、マリーさん
まぁ、酷い扱いは、バディさんも望むところだろう。
ワープルームではすでに、今回の目的地へのワープの準備が整っていた。
大きな門の内側に、不思議な色を蓄えた光が渦巻いている。これに足を踏み入れれば、転送先として設定したアンカーの元に送られる、という寸法だ。
「とりあえず~、変身してから行きましょうか~」
「そうですね、その方が安全でしょうし」
敵地にむざむざ生身で
俺は素直に、悪の組織の総統としての姿に、変わることにした。
「
マリーさんが、のんびりと声を上げ、両手をパタパタと振ると、その腕の軌道に合わせて、空間が裂ける。
そして、その空間の裂け目から、ズルズルと銀色の機械の群れが這い出てくると、マリーさんの背後で、物置くらいの大きさをした機械の塊となった。
一つ一つのパーツが、ナノマシンレベルの小さな機械の集合体。
それらが更に集まった、まさしく機械の、英知の塊。
マリーさんにしか扱えない、マリーさんのための専用装備、
最後に、マリーさんは、クレイジーブレイン君に背後から飲み込まれるように、まるで
「無限博士~、ジーニア~!」
マリーさん……、いや無限博士ジーニアの身体を持ち上げるように、彼女と一体化したクレイジーブレイン君が、その機械のボディから生やした、蜘蛛のような脚部で立ち上がると、大量の蒸気を吹きだした。
「
ジーニアに続いて、俺も右手を掲げ、素早くカイザースーツを装着する。
スーツの修復は、確かに終わっているようだ。
というか、前よりも更に、俺の身体の一部のような一体感を感じる。
これもジーニアによる調整のおかげなのだろうか。
これなら、なんとかなるかもしれない。そう思えるだけの手応えがあった。
「それじゃ、行きましょうか~」
「そうだな」
クレイジーブレイン君の多脚をガシャガシャと鳴らしながら、ジーニアが俺を先導するように前を歩く。
俺はできるだけ、総統らしく振舞うように心がけながら、彼女の後ろに続いた。
そして、二人一緒に、眩しく輝くゲートを抜けると、目的地へ向けて、空間を超えてワープする。
「は~い、到着~」
特になんの問題もなく、あっさりとワープは成功し、俺たちは無事に、今回の目的地へとたどり着いた。
どうやら、ここは森の中らしい。辺りには
太陽は、既に落ちかけていた。その暗さが、この場所の不気味さを増している。
少し小高い丘の上で、周囲を見渡せば、大きな洞窟の入り口が、ここから近くにあるのを確認できた。
「あれが?」
「そうよ~、敵対組織、ブラックライトニングの本拠地入口~」
マリーさんが、地面に設置されたアンカーを回収しながら答えてくれる。
回収されたアンカーはそのまま、クレイジーブレイン君の一部として組み込まれてしまう。なるほど、これなら簡単に持ち歩ける、というわけか。
「しかし、どうやって攻める?」
洞窟の入り口は、よく見れば、なにやら分厚いシャッターで閉じられている。
あそこが悪の組織の本拠地だというなら、そう簡単に侵入できるような造りはしていないだろうし、もし入ることができたとしても、内部には、面倒そうな罠が溢れているのは、簡単に想像できる。
相手の規模にもよるが、たった二人で対応するのは、色々と大変そうだ。
「んー?
「……ゴリ押しって」
正面からシャッターをぶち破って、そのまま突入でもするつもりなのだろうか?
なんて俺の考えは、正直甘かった。甘すぎた。
「クレイジーブレイン君、広域レーザー
「……レーザー?」
ジーニアの号令を受けて、背後のクレイジーブレイン君から幾つかの、大き目のパーツが切り離される。
分離したパーツは、まるで砲門のような形に変形しながら、そのまま空を飛んで、洞窟の上空で待機した。
「入り口からワラワラ出てくると思うから~、撃ち漏らさないようにしてね~」
「撃ち漏らす?」
「それじゃ~、収束レーザー砲、一斉掃射~!」
ジーニアの眼鏡が、キラリと輝いた。
そう思った次の瞬間、洞窟上空の砲門からそれぞれ、極太のレーザーが照射され、洞窟を無残に貫いた。
「……えっ?」
レーザーは地表をあっさりと焼き切り、無慈悲にも、洞窟を完全に貫通した。
内部から破滅的な爆発音と、なにやら悲鳴のようなものが聞こえてくる。
「そろそろかしら~?」
ジーニアがタクトを振るように指を動かすと、上空の砲門がレーザーを撃ちだしながらクルクルと回転し、洞窟の破壊を、より致命的なものにする。
と、呆気にとられる俺の目の前で、洞窟のシャッターが開き始めた。
「それじゃ、そっちはお願いね~」
「えっ、あっ、はい」
俺は呆然としたまま、言われるがままに、周囲の魔素を操り、魔方陣を展開する。
そしてシャッターが開いたその瞬間、その隙間を埋めるように、大量の魔素による弾丸……、魔弾を撃ち込んでいく。
シャッターが開いたことにより、洞窟内の様子がチラリと見え、そして物音がより大きく、こちらに聞こえるようになったのだが、それはまさに地獄絵図だった。
怒号、悲鳴、爆発音、焦げたような匂い、熱、阿鼻叫喚。
「うわぁ」
魔方陣で攻撃をしている俺自身が、思わずドン引きしてしまう。
「そろそろいいかしら~」
ジーニアが指を少し大きく振ると、上空を旋回していたパーツが全て、背後のクレイジーブレイン君の元へと戻り、再び一つになる。
俺も魔弾による攻撃を止め、ジーニアと二人並んで、一瞬前まで、自分たちが破壊の限りを尽くしていた洞窟の入口の前に立つ。
「し、死人とか出てないかな?」
「大丈夫よ~、ちゃんと致命傷は避けたから~」
洞窟の入り口と、レーザーによって開けられた穴からは、もうもうと黒煙が立ち上っている。
どうやらジーニアは、死人が出ないように、ちゃんとレーザーを調整していたようだし、俺も俺で、相手を殺してしまわないように、魔弾の威力を調整していたのだ。
「死人まで出ちゃうと~、面倒事も増えちゃうしね~。国家守護庁からの危険認定も上がっちゃうし~、復讐とか考えられても~、しんどいし~」
どうやら、無茶苦茶やってるように見えたジーニアも、色々と考えているらしい。
「なぁんだ、それならよかった」
俺は安心した。
と、次の瞬間だった。
「いいことあるかぁああああああああああ!」
壊滅的な被害を受けた洞窟、悪の組織ブラックライトニング本拠地入口から、知らない男の叫び声が響いてきた。
「なんだ、生存者がいたのか」
「貴様! さっきと言ってることが違うだろうが!」
俺に向かって怒鳴り声を上げたのは、白いタキシード姿の、長身の男だった。
洞窟の入り口で仁王立ちになって、こちらを睨んでいる。
あれだけスタボロに破壊された洞窟から出てきたというのに、その真っ白いタキシードには、焦げ跡どころか、ホコリ一つ付いていない。
「貴様ら! ここが悪の組織、ブラックライトニングの本拠地と知っての
「ひょっひょっひょっ。
稲光と呼ばれた白スーツの男の後ろから、いかにもマッドサイエンティストですといった風貌の老人が歩み出てきた。
顔の半分が機械の仮面で覆われているが、もしかしてサイボーグなのだろうか。
「
どうやら、この科学者風の老人は間外と言う名前らしい。
「基地なら、また新しく建てればよろしい。それよりも、今はこやつらの正体こそ、重要ですぞ」
間外がそう言うと同時に、洞窟の中からゾロゾロと、全身黄色いタイツ姿の戦闘員たちと、電球のような姿をした怪人体らしき人影が、何体も出てきた。
どうやら、あれだけやっても、まだまだ相手の戦力は残っていたらしい。
「確かに! 名も知らぬ奴らにやられたままでは、組織としての面子が立たんな!」
おそらく、この白スーツの男がブラックライトニングの首領なのだろう。
背後にその配下を従えながら、稲光と呼ばれた男は、俺とマリーさんに向かって、声を張り上げる。
「貴様ら! 一体何者だ!」
そんな正面から聞かれたら、流石に答えないわけにはいかない。
しかし、つまりそれは、俺が一体何者なのか、俺自身の口で、ハッキリと言わなくちゃいけないってことで……、それはまだちょっと、抵抗あるなぁ……。
なんて考えていたら、ジーニアが、というか、クレイジーブレイン君の足が、俺を小突いた。
そうだよなぁ、ここは一応でも、総統の俺が、なにか言うべき場面だよなぁ……。
俺は、覚悟を決める。
「――我こそは、悪の組織ヴァイスインペリアル総統! シュバルカイザー! 無謀にも我らに立てついた貴様らに、裁きの鉄槌を下してやろう!」
「ワタシは~、ヴァイスインペリアル最高幹部が一人! 無限博士ジーニアよ~! ワタシと総統の愛の力、見せてあげるんだから~!」
俺とジーニアは並んで、それらしくポーズを決めた。
愛の力ってなにさ。
なんて思いながら、俺とジーニアによる、敵対組織ブラックライトニング殲滅作戦は、いよいよ本番へと突入するのだった。
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