1-1
祖父が亡くなった。
突然,、こんな個人的な話で申し訳ないが、少しだけ付き合って頂きたい。
俺の名前は
早くに妻を亡くした祖父は、豪邸と言っても差し
一人息子である俺の父親とは折り合いが悪く、同居はしていなかった。
一緒に暮らしてこそいなかったが、家が近所だったこともあり、俺は赤ん坊の時から、両親が忙しい時などは、よく祖父の家に預けられていた。
そのせいか、俺にとって祖父の家は、大変居心地が良く、物心ついてからも、自分からよく祖父の家には、遊びに行ったものだ。
綺麗に整えられた大きな庭は、子供にとって格好の遊び場だったし、大きな和室が無数にあると錯覚してしまうほどの広い家も、俺にとって最高の遊園地だった。
祖父は、どうやら相当の好事家だったらしく、自分の家に珍しい品を色々と集めていたのも、また俺を楽しませてくれた。
純和風の邸宅に似合わない、不思議な洋風の民芸品や調度品。
本物の虎の敷物や、鹿の頭などといった動物のはく製。
最新の電化製品や玩具まで、無秩序かつ大量に。
祖父と共にそれらで遊ぶのが、子供の俺には、なによりの楽しみだった。
祖父は、いかにも頑固ジジイといった風貌で、実際その通りだったが、孫の俺には甘く、それこそ毎日毎日、日が暮れるまで祖父と遊んだことは、俺にとって、幼少期の楽しい思い出の大部分を占めている。
御多分に
両親が共働きで忙しかったということもあるが、俺の楽しかった思い出の大半は、祖父とのものだ。認めてしまうのは、なんだか恥ずかしいけれど、俺は相当の、それも筋金入りの、おじいちゃん子なのだと思う。
そんな祖父が、突然亡くなった。
死因は、心不全。
自宅近くの路上で倒れているのを、近所の人に偶然発見された。
俺はそれを、家で
一言で言ってしまえば、ショックだった。
世界が突然、グルグルと渦を巻き、脳ミソの芯が冷え、腹の奥に黒いヘドロが絡みつき、思考が鈍り、耳が遠のき、視界が歪んだ。
記憶が
葬儀が始まった。
意識が白濁とし、目の前の景色から現実感が薄れる。
棺が出棺され、火葬場へと向かう。
時間の感覚すら曖昧になり、一秒が一時間のようにも、一時間が一秒のようにも感じる。涙すら流れない。自分がまるで人間ではなくなってしまったような、気味の悪い吐き気が、腹の底にズンズンと溜まっていくのが分かった。
火葬が終わり、小さな骨壺に詰められた遺骨を、先祖代々の墓へと収める。
人はいつか死ぬ。なんてことは知っていた。
そう、俺はそれを知っていただけで、まるで分かっていなかった。
少なくとも、自分の知ってる人間が死んでしまうなんてことは考えもせず、永遠にこのまま、楽しい時間が続くのだと、本気で信じ切っていた。
人は死ぬ。
そして死んでしまった人間とは、もう二度と会えない。
そんな単純なことを、俺はまるで、まるでなにも、分かってはいなかった。
祖父が亡くなってから、もう一か月が経とうとしている。
慕っていた祖父の死は、俺に大きなショックを与えた。
こうして学校帰りに一人で、祖父の入った墓の前に立ってしまうくらいの感傷を。
夕焼けの中で、祖父の墓前に立てば、過去の思い出ばかり振り返ってしまう。
だから仕方ないのだ。
背後から迫る不穏な影に、俺が気付かなくても。
「じいちゃん……」
だから仕方ないのだ。
すぐそこにまで迫った影が、高く、高く振り上げた腕に、俺が気付かなくても。
「……ぶべら!」
だから仕方ないのだ。
背後から突然振り下ろされた、その一撃に、俺が思いっきりぶっ飛ばされて、ご先祖様が眠る墓に、遠慮もクソもなく、顔面から思いっきり激突しても。
俺の意識は、そこで途切れた。
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