12-10
「女の子に、クリスマスプレゼント? ふふふ、
「ちゃかすなよ、母さん。これでも、結構真剣に相談してるんだから」
マリーさんとの撮影会……、じゃない、報告会も終わり、悪の組織として、俺たちが再び地下本部を使用するようになってから、しばらく経って、クリスマスイブ当日までは、もう残り数日に迫っていた。
ここに至るまで、俺は正義の味方たちと見事に協力して、クリスマスパーティの準備自体は、至極順調……、ほぼ完璧だと言ってもいい。
残る問題は、あくまでも個人的なものである。
「いや、折角のクリスマスだしさ、みんなでプレゼント交換をしよう! って話になったのはいいんだけど、その肝心のプレゼントに、なにを用意しようか、正直、迷っちゃって……」
「なんだ。随分と、優柔不断だな」
うるさいよ、親父。
家族団欒である夕食の場で、いきなりこんな相談持ち掛けた俺が悪いのかもしれないけれど、そんなバッチリと痛いところを、突かないでくれ。
単純に全員分のプレゼントを用意するとなると、実は、これほど悩まなかったのかもしれない。みんなそれぞれに、似合うと思ったものを、ただ選べばいいのだから、話は簡単だ。
だがしかし、予算的な意味で、悪の総統として小金をそこそこ稼いでいる俺としては、それでも構わないのだけれど、流石にパーティ参加者全員が、全員の分のプレゼントを用意するとなると、色んな意味で大変だということで、こうしてプレゼント交換の形を取ることになったのだ。
これなら、用意するプレゼントは、一つでいい。
いや、俺は正義の味方の懐事情なんかは、全然分からないのだけれども、少なくとも約一名……、というか、まぁ、ひかりのことなのだが、あいつの財布の中身を考えると、やはり、その方がいいだろう、ということに、話し合いの末なったのだった。
というわけで、俺はこうして頭を悩ませ、クリスマスらしい、かつプレゼント交換という方法に相応しい、誰が手にしても喜ばれる贈り物を考えているのだが……。
「いや、優柔不断とか、そういう話じゃなくてさ。単純に、そういうパーティで、一体なにを用意したら、相手が喜んでくれるのか、イマイチ良い考えが思いつかないから、こうして恥を忍んで、助言を求めているわけでね?」
「そうねぇ、しかも、統斗の他には女の子しかいないんだから、それは確かに、悩むわよね?」
クリスマスイブの夜に家を空けるということで、俺はすでに両親に対して、ちゃんと桃花たちとパーティを行うということを、事前に説明している。
もしかしたら、俺が言わなくても両親は、自分の部下であるマジカルセイヴァーから、既にその話を聞いていたのかもしれないが、それは、俺には分からない。
まぁ、特定の日に、正義の味方全員が休みたいと言い出したのだから、その理由を上司に報告するくらいはしたんじゃないかと、勝手に思っているのだけれど。
「……つまり、不特定多数の女子に対して、角が立たないように、プレゼントを贈りたいって話なんだろ? やっぱり、優柔不断だろう、それは」
うるさいよ、親父。
それは自分でも重々分かってるから、あんたはもう黙って、そのソース塗れというか、ソースで溺れているコロッケでも
角が立たないというより、俺のプレゼントが誰の手に渡っても、相手に喜んでもらいたい、っていう方が、本音と言えば、本音なわけだし。
「一応、クリスマスっぽいお菓子とかにしようかな、と思ってるんだけど……」
俺は親父を無視して、自分のプランを母に相談する。
ぶっちゃけた話をしてしまうと、今回パーティに参加するみんな以外に、俺に同年代の女子の知り合いはいないし、そもそも他の女の子へのプレゼントの相談を、また別の女子にするというのは、なんだか酷くデリカシーに欠ける気がするので、
そういう意味では、こういう微妙な問題を気兼ねなく相談できるのは、精々、母親くらいということになってしまうのだった。
まぁ、唯一の欠点は、肉親にそんな相談するのは、えらく恥ずかしいということだけなのだが、それは俺が我慢すればいいだけなので、問題ない。
「お菓子ねえ……、悪くないとは思うけど、ちょっと普通すぎるかしら? 折角のクリスマスなんだし、もうちょっと、特別感が欲しいかな?」
どうやら俺のプランは、可もなく不可もなくといった感じで、イマイチ面白みに欠けていたようだ。母から容赦なく却下されてしまった。
でも確かに、クリスマスらしいお菓子なんて、もうパーティの時点で沢山用意しているのだから、それを考えたら、それほど魅力的とは言い難いかもしれないな……。
「うーん……、特別感か……。だったら、アロマキャンドルとか、マッサージオイルにバスソープとか、スキンケア用品とか?」
「統斗……、あなた、なんだか考え方が所帯じみてない? というか、どうして消耗品にこだわるの?」
俺の捻り出した次の案も、どうやら却下のようだった。
「いや、消耗品とかじゃないと、なんか贈り物として、重いかなって……」
あぁ、でも、スキンケア用品とかは、やっぱりまずいか?
そろそろ、お肌の手入れもちゃんとしろよ? とか言ってるみたいになっちゃう可能性もあるか。みんな、まだ若いのに。
「あのね、統斗。クリスマスイブなのよ? 一年に一度の、特別な日なのよ? そんな特別な日に、わざわざパーティを開いて、そこにわざわざ、あなたを呼んだんだから、みんな、特別な出来事を求めてるに、決まってるでしょう?」
どうやら。俺の提案が却下されたのは、肌年齢がどうこうとか、そういう問題ではなかったようだ。
でも、そうか、そうだな……。
折角のクリスマスなんだし、もう少し形に残るものを送って、それを見る度に、楽しいクリスマスを思い出す……、みたいなのが、良いのかもしれない、
「えっ、えーっと、じゃあ、なにかアクセサリーとか?」
「うん。それくらい冒険しても、全然大丈夫だと思うわよ。このお母さんが、保証してあげる!」
アクセサリー……、となると、指輪とかだろうか?
でも、それだと、みんな指のサイズが違うから、プレゼント交換には向かないか。
だとすると、ネックレスとかの方が、良いのかな?
母さんが、一体なにを根拠に保証してくれたのかは不明だが、確かに、どうせなら貰った人の思い出に残るような、思い切ったプレゼントがいいのかもしれない。
折角、恥を忍んで、母親に相談した末に辿り着いた考えなのだから、もう少し深く、真剣に検討した方が、良さそうだ。
「ふふふっ、それにしても、クリスマスにプレゼントなんて、思い出すわ~」
「うん? なにを?」
最早目前に迫ったクリスマスパーティのために、俺が一思案も二思案もしながら、豆腐の味噌汁をすすっていると、母が口元を手で隠しながら、小さく笑っていた。
こういう時の母は、自分の話を他人に聞かせたがっている時なので、俺は素直にその誘いに乗ることにする。相談に乗ってくれたお礼ではないが、こちらの話だけして相手の話は聞かないというのは、流石に家族といえども、失礼だろう。
「実はね、私もお父さんに、クリスマスプレゼント、貰ったことあるのよ」
「ぶっ」
飲んでいた味噌汁を噴き出したのは、当然だが、俺ではない。
今まさに、愛する妻によって、自分の過去をバラされた張本人。
いつも仏頂面で無口な、俺の親父である。
「しかも……、ジャーン! その時に、プロポーズまでされちゃったのでした~!」
「ゴハッ! ガハッ!」
満面の笑みの母さんに追い込まれるように、噴き出した味噌汁を片付ける暇すら無く、激しく咳き込む親父に、微妙に同情してしまう俺である。
いつも不愛想な親父も、ああいう風に、動揺とかするんだなぁ……。
そう考えると、なんだか感慨深いような気さえするから、不思議だ。
「これから一生、君のことを守らせてくれ……! なーんて言われちゃったの!」
「か、母さん……、もう、もういいだろう……」
盛り上がってしまった母さんを止めようと、親父がなんとか声を上げるが、どうにも力が弱いというか、覇気が無い。こんなに弱っている父親を見るのは、息子としては、いささか微妙な気分である。
「ふふっ、だから統斗も頑張って、みんなに最高のクリスマスをプレゼントしてあげなさい? こういう大切な思い出は、一生、心に残るんだからね?」
その大切な思い出をプレゼントした張本人らしい親父様は、今まさに、その思い出に叩き潰されているような気がするが、まぁ、母さんの言うことは分かる。
クリスマスは一年に一度だが、今年こうして、みんなで準備から始めて、みんなで作り上げたパーティは、一生に一度のものなのだ。
また来年、再来年と、もしかしたら、こういう機会は有るのかもしれないが、今年のクリスマスは、今年だけなのだから。
「……分かった。頑張るよ」
だったら、いや、だからこそ、俺はここで、手を抜くようなことは、できない。
今度のクリスマスパーティを楽しみにしているのは、俺だけではない。
「うん。頑張りなさい」
「……まぁ、頑張れよ」
笑顔の母親と、疲れた顔した親父に励まされながら、俺は決意を新たにする。
今年のクリスマスは、みんなと一緒に、絶対に、絶対に、決して忘れられないクリスマスにしよう、と。
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