10-9
「…………」
「ヌハハハハハ! どうした! 驚きの余り、声も出ないか!」
確かに、突然の乱入者に驚いて、俺は声も出せないし、戦闘員たちとマジカルセイヴァーは、戦いを中断してしまった。草木も殆ど生えていない山肌に、一瞬、不気味な静寂が訪れる。
デモニカだけは、素早く魔方陣を展開し、いつでもその乱入者を撃ち落とせるように目を光らせていた。本当なら、即座に迎撃も可能だったのだろうが、どうやら、俺からの命令を待っているらしい。
デモニカの信頼に応えるべく、俺は混乱しかけた脳内を、無理矢理再起動させ、
まぁ、見極めるも何も、その姿を見れば一目瞭然、自身の発明品を使って、空中をブンブンと蠅のように飛び回っているのは、
そう、松戸
ワールドイーターに協力している、マッドサイエンティスト。
つまり、俺たちの敵である。
その瞬間、俺の脳内でニューロンが瞬き、急造のロジックを構築する。
――これだ! なんてナイスなタイミング!
「ふっ! 違うな! 罠にかかったのは、貴様の方だ! 松戸剛!」
俺は、もやは
「な、なんだと!」
「貴様を
驚きの声を上げる松戸博士に、俺は、今考えたばかりの出鱈目なハッタリを、自信満々にぶつけてみせる。完全にただの演技なのだが、これは、文化祭の経験が活きたと言えるだろう。
「こうして戦闘が長引けば、その反応を探知した貴様が、ノコノコとやってくることは読めていた! どうやら大分、俺たちに恨みがあるようだったからな!」
「ぐぬぬぬ!」
まぁ、本当は、なんにも読めてなんかいないのだが、こういうのは大抵、言ったもん勝ちである。
後は勢いで、誤魔化そう!
「そんな……! まさか!」
「ふふん、悪いなマジカルセイヴァー、貴様らを利用させてもらったぞ!」
驚愕の表情を浮かべているマジカルピンクに向かって、俺はできるだけ尊大に、最初から全部計画してましたとばかりに、胸を張って笑ってみせる。
これでマジカルセイヴァーのみんなが、今回の戦闘は最初から松戸を引っ張り出すことが目的で、デモニカが凄まじい攻撃をしたのも、その後も戦闘を継続して無駄に長引かせていたのも、全てはそのためだったと思ってくれれば、御の字だ。
即興で無理矢理でっち上げたにしては、我ながら、そこそこ筋が通った理由づけになったと思うので、このまま押し切ってしまおう。
「さあ、松戸博士! 覚悟はいいか? 貴様とのくだらぬお遊びも、これで終わりににしてやろう!」
「……ヌ、ヌハ、ヌハハハ! ヌハハハハ! あぁ、終わりにしよう! 終わりにしてやるとも! 貴様らの死をもってな! ――さっさと、こっちに寄越さんか!」
俺の挑発を受けて、激昂したらしい松戸博士が、なにやら叫ぶと同時に、周囲の空間が歪んだことを、カイザースーツのセンサーが感知した。
反応は小さいが複数……、いや多数だ。どうやら、なにか出てくるらしい。
「見るがいい……、これぞ究極のリサイクル兵器!
「な、なにこれー! 気持ち悪ーい!」
突然辺りに出現した人型の物体を見て、マジカルイエローが嫌悪感丸出しの悲鳴を上げているが、俺も大体、同意見だ。
それは一言で表すなら……、ゾンビとでも言えばいいのだろうか?
その全身は、まるで生気を吸い取られたように干からびている。目は落ちくぼみ、頭髪は全て抜け落ち、全身の肉は薄く、酷くひび割れた皮が、不気味に骨に張り付いているだけだ。
ゾンビ……、いや、再羅か。再羅は、なにも身に着けていない。裸だ。裸だとは思うのだが、すでにそれを見ても、生物的な感情は、なにも沸いてこない。再理は、もはや一見して、男か女かも分からないほど、異形に成り果ててしまっている。
そう、成り果ててしまっている、だ。
俺の嫌悪感をなによりも強くしているのは、この眼前で蠢いている、不気味な物体たちが、元は生物……、いや、より正確に言ってしまえば、元人間である、という事実だった。
それが、元は死体なのか、それとも、もっと別の手段を使って造り出されたのかまでは分からないが、再羅の原材料が人間であるということだけは、俺のカイザースーツが正確に見抜いた……、見抜いてしまったのだ。
そんな存在が数十体、ゆらゆらと風に揺れるように、生気無く直立し、乱立している様子は、不気味を通り越して、
「――松戸!」
「ヌハハハハハ! さぁ始めるぞ! 貴様らも、せいぜい役に立ってくれよな!」
腹の奥から出た俺の怒鳴り声は無視して、松戸は空中を飛び回りながら、嬉々とした表情でこちらを見下ろしている。なんとも、不愉快な光景だった。
「再羅よ! 最後の仕事だ! 存分に暴れるがいい!」
松戸の号令を受けて、再羅と呼ばれる人だったモノが、まるでその無念を晴らそうとするかのように、俺たちに向けて、攻撃を開始する。
――速い!
その見た目からは想像できない、機敏な動きで襲い掛かってくる再羅を
再羅の動きは予想より素早く、それに力も強そうだ。現に、俺が躱した再羅の一撃で、この荒涼とした山肌に露出している堅そうな岩が、無残に抉れてしまっている。
だが、それだけ。ただ、それだけだ。
確かに再羅の数は多いが、決して
この程度なら俺は問題ないし、当然デモニカも大丈夫。むしろ、余裕だろう。
マジカルセイヴァーの方も、すでに体勢は、十分に立て直している。それに、今は五人が一つに固まっているから、連携も完璧だ。この程度の相手なら、余裕で対処できるはずだ。
となると、懸念は一つしかない。
「――戦闘員は、連携して事に当たれ! 決して一人になるなよ!」
「ジーク・ヴァイス!」
俺の命令を聞くまでもなく、すでにうちの戦闘員たちは、一か所に集まり、マジカルセイヴァーと同じように、互いに協力し合って、再羅の群れに立ち向かっている。
確かに戦闘員一人一人の能力は、マジカルセイヴァーはもちろん、そのマジカルセイヴァーに手も足も出ない怪人にすら、大きく劣るが、きちんと連携さえ取れれば、この再羅レベルの相手なら、同時に複数相手でも、十分にしのぎ切れるはずだ。
戦闘員よりは多少手強いが、怪人と比べれば、若干弱い。
それが、俺の再羅に対する、現時点での評価だった。
この程度の相手だったら、幾ら数がいようと、デモニカの手にかかれば一瞬で全員消し炭にしてしまうことも可能だ。しかし、今の彼女は、適当に再羅をあしらうだけで、致命的な大規模魔術は、使用しないでくれている。
ここで一瞬で戦況を決めてしまっては、どさくさに紛れて、ペンションを程よく破壊するという、今作戦最大の目的を達成するのが、非常に難しくなってしまう。その心遣い……、実にありがたい。
再羅の総数は、かなりのものだが、その連携は、なんともお粗末だ。単純に、この場の中で数が多く、一つの場所に集まっている、マジカルセイヴァーや戦闘員たちに無作為に群がり、単独でいる俺やデモニカには、散発的にしか襲ってこない。
「ふっ!」
とりあえず様子見というか、相手のことを詳しく調べる必要がある。俺は、こちらに殴りかかってきた再羅を思い切り殴り飛ばし、地面に叩きつけた。
先程からカイザースーツのセンサーを使って、詳しく探っているが、この再羅という兵器は、すでに一切の生命活動が停止されている。
確かな手応えはあったが、俺が殴った再羅は、地面から勢いよく飛び起き、再び俺に襲い掛かってきた。
耐久力が高い……、というよりは、耐久力を気にする必要がないのだろう。俺の拳で首が二回転したのに、平気で動いているところを見るに。
「よいよい! その調子、その調子だ!」
笑いながら空を飛び回り、こちらの様子を伺っている松戸博士は、なんだかご満悦な様子だ。
手元でコンソールらしき投影映像を操作しているようなので、この戦闘のデータでも集めているのだろうけど、しかし、やっぱりその様子は、不愉快だ。
胃の辺りが、ムカムカする。
「――はっ!」
「オオオ!」
俺は魔方陣を展開し、再羅に
魔素に対する耐性でも持たせているのだろうか? だが現状、科学による魔素への対策は、不可能なはずだ。うちの組織でさえ魔素に関することは、全てデモニカに頼らなければ、なにもできない。
つまり、あの再羅の作成には、魔術を使える者が関わってると考えられる。
当然、あの下衆な松戸博士が、今までの概念を打ち破り、魔素への科学的なアプローチに成功したという可能性はあるが……。
「ヌハハハ! ほらほら! 貴様ら、キリキリ働けい!」
……あのクソ野郎が、うちのマリーさん、無限博士ジーニアですら不可能な技術を開発できたとは、どうしても思いたくない。
ここは、俺の精神を安定させるためにも、ワールドイーターにも魔術を使える者がいると考えた方が、幾らかマシだろう。
まぁ、つまり、それこそがゴードン・
「オオオォォォオオォオ……!」
「――チッ!」
魔弾を受けて吹き飛んだはずの再羅が、その干からびた喉から、怨念じみた声を絞り出し、再び俺に向かって、襲いかかってくる。
推測は、推測でしかない。今の状況では、確証を得るのは難しいだろうし、ここは意識を切り替えて、戦闘に集中するべきだ。
「こっちは、どうだ!」
俺は再び魔方陣を展開、今度は魔素を直接ぶつけるのではなく、魔素を使って、炎の竜巻を生み出し、再羅にぶつける。
「オ、オ、オォォ……」
荒れ狂う炎が、一瞬で収まった後には、黒こげになった再羅が、その場に棒立ちで
「オ……ォ……」
魔術の炎を受けた再羅が、パリンと乾いた音を立て、細かい粒子のようになって、崩れ去る。
対象を消し炭にする程の炎を浴びせたわけでない。どうやら耐久限界に達すると、完全に消滅してしまうように、最初から設計られていたようだ。
それは、技術的な問題なのかもしれないが、なんだか証拠隠滅のような陰湿さを感じて、俺はまた、イライラとしてしまう。
「あぁ! クソ!」
俺は、胸の奥のモヤモヤを吐き出して、目の前の再羅数体を、爆発の魔術で吹き飛ばし、戦闘員たちを援護するために、新たな魔方陣を展開する。
再羅がどれくらいの攻撃で倒せるのか、大体の感覚は掴めた。俺は敵の群れに向けて、凝縮した炎の矢を、無数に放つ。無駄に密集していた再羅たちは、戦闘員を襲うのに夢中で、こちらの攻撃には、露ほどの警戒もしていない。
俺の炎を無防備に受けて、また数体の再羅が、塵に帰った。
「ヌハハハ! なるほどな! いやはや、お見事! お見事よ!」
自分の手駒があっさり倒されたというのに、松戸博士は、余裕を崩さない。
再羅の撃破に成功しているのは、当然だが、俺だけではない。デモニカやマジカルセイヴァーはもちろん、連携している戦闘員たちにすら、倒されている。
確かに相手の数は多いが、これなら、そう時間はかからずに、再羅の殲滅は完了するだろう。
だがしかし、松戸は笑っている。実に気分が良さそうに。
まったく、実に不愉快だ。
「データも十分集まった! さぁ、それでは! 本番と行こうか!」
「……本番? 茶番の間違いじゃないのか?」
「貴様の余裕もそこまでだ! シュバルカイザー!」
再羅の相手にうんざりというか、げんなりしてしまった俺の態度に、過剰反応した松戸博士が、金切り声を上げながら、なにやらコンソールを弄り出す。
さっさと止めて、この戦闘も終わりにするべきかと思ったのだが、俺の予想よりもずっと早く、周囲の再羅に、変化が起こり始めていた。
どうやら松戸が言うところの、本番が始まってしまうようだ。
「って、なんだこれ!」
その急激な変化に、俺が驚いている内に、再羅の変貌が、次々と完了していく。
「オ……オ、オオオォォォォオオオ!」
再羅の、その干からびた皮が、肉が、身体が震え、不気味な叫び声と共に膨張し、体内でグチャグチャと、気色の悪い音を響かせながら、肉体を再構成する。
その変質の果てに、変わり果てた姿は……、一つではない。
牛のような姿だったり、鼠のようだったり、まさに千差万別。中には、同じモチーフの個体も複数存在しているが、非常に無秩序だ。
だが、その全てが、なんらかの生物と、あるいは、無生物と融合した人間の姿だということだけは、共通している。
その姿は、まさしく怪人……、いや、動く怪人の死体だった。
「さあ、再羅よ! その最後の煌めきを、吾輩に見せるがいい!」
「オオオオオオオオ!」
松戸博士の号令を受けて、怪人となった再羅は、雄叫びと共に戦闘を再開する。
まるで、嵐のように。
「――っ! デモニカ!」
「御意」
俺の声を聴いただけで、その意図を汲んでくれたデモニカが、素早く戦闘員たちと合流してくれた。とりあえずこれで、戦闘員のみんなは、大丈夫だろう。
その身を変質させた再羅は、確実に強化されている。
そのパワーも、そのスピードも、その凶暴性も、全てが段違いだ。
「きゃあ!」
「グリーン! そんな!」
展開していたバリアが破られ、マジカルグリーンが、片膝をついてしまう。
とっさにグリーンを支えたピンクを庇うように、レッドとブルーが前に出る。
「くそ! こいつら!」
「レッド! くっ! ウォーターアロー!」
「オオオォォォオオ!」
ブルーの放った水の矢を物ともせず、強引に接近した象のような再羅が、レッドに襲い掛かる。その象型再羅を、正面から殴って止めたはいいが、辺りは、まだ多数の再羅で溢れている。
他の再羅が、動きを止めたレッドを圧殺しようと、無秩序に群がった。
「マ、マジカル! イエローフラッシュ!」
「レッド! ブルー! 一度下がって! マジカル! コーラルガトリング!」
イエローの放った閃光で、一瞬動きを止めた大量の再羅に向けて、ピンクがガトリング砲から魔弾を撃ち出して牽制しつつ、体制を立て直す。
デモニカから受けたダメージもあるが、マジカルセイヴァーは、かなりギリギリの状況のようだ。大丈夫だろうか?
……なんて、他人の心配ばかりしていられない。
「オオオオオオオオ!」
「クソ! 邪魔だ!」
こちらに向かって殴りかかってきた、牛型の再羅を蹴り飛ばしたところで、両手がバーナーのように変わった再羅が、俺に向けて、巨大な火炎球を放ってきた。
俺は魔方陣を使い、防壁を構成したことで難を逃れたが、俺の近くにいた牛型再羅は、その火炎球の余波に巻き込まれた……のだが、それに構わず、バーナー型再羅は火炎球を放ち続ける。牛型再羅の方は、身体中を燃やしながらも、俺に激しい攻撃を繰り出す。
それだけではない。俺の周りは、すでに火の海だが、それに構わず、周囲の再羅たちが次々と炎に飛び込み、俺への攻撃を敢行する。
もう、滅茶苦茶だった。
自らのダメージを気にしない……、どころの話ではない。すでに、俺がなにもしなくても、数体の再羅は自壊してしまっている。それでも、再羅は俺に群がり、俺に
その姿は、まるで、なにかの救いを求めるようですらあり、ただただ、俺は憐れに感じてしまう。
……限界だ。もう色々と。
「――魔素
俺の叫びに応え、一瞬でカイザースーツに魔素が満ち、その姿を変える。
スーツの表面に、金色の紋様が現れ、頭部の角が雄々しく伸びて、関節パーツに、魔素を濃縮した宝玉が現れた。
「シュバルカイザー・マギア!」
最後に、背中のマントの上に、三つの巨大な金色のリングを形成して、カイザースーツは、自らのリミッターを解除する。
制限時間は五分。時間は、有効に使わなければならない。
「――はっ!」
俺は、背後の金色の輪をチャクラムのように飛ばし、周囲の再羅にぶつける。
凄まじい速度で回転すると同時に、魔素でコーティングされたリングは、実に簡単に、敵の群れを切り裂き、バラバラに分割してしまう。
相手は、すでに死んでいる。加減する必要も、躊躇する必要もない。俺には精々、速やかにその活動を止めてやることしかできない。
……それしか、できない。
「オオ……オ……オォ……」
金色のリングに切り裂かれ、その勢いで吹き飛ばされた再羅たちが、次々と空中で霧散していく。
周辺の炎と共に、全ての再羅が消えた瞬間、バーナー型の再羅が俺に向かって、再び火球を飛ばそうとしているのが見えたので、俺はそいつも、リングで切り裂く。
俺の攻撃を受けて体勢を崩したバーナー型再羅が、消滅しながらも、火球をあらぬ方向に発射するのが、見えた。
その火球は、大きく放物線を描いて、森の方へと飛んで行ったが、あの速度と射角なら、森へと到達する前に、その手前の岩肌に落ちるだろうから特に問題ないと、俺は判断した。
……そう俺は、だ。
俺は、すっかり見落としていた。
「あっ、あっ、あぁ!」
その火球が飛んで行った方角に、あのペンションがあるということを。
俺はマジカルグリーンの……、
「よくも……、よくも!」
マジカルグリーンは突然、まるで地獄の窯が開いたかのような呻き声を上げる。
その声を聴いた瞬間、俺の超感覚が、激しく警鐘を鳴らす。
「――デモニカ!」
「了解しました」
俺の悲鳴のような叫びを聞いて、デモニカが素早く動き、魔術による防御壁を何重にも展開して、戦闘員たちを守ってくれる。俺もそれを確認しながら、自分の周囲を全方位囲むように、可能な限り、強固な防御壁を準備する。
それだけの危険が、もうすぐそこまで迫っていた。
「マジカル! クロム・グリーンフォレスト!」
マジカルグリーンがそう叫んだ瞬間、この草木も生えていない荒涼とした山肌が突然、森に包まれた。そう、森……、暗い森だ。
岩石や土塊が剥き出しの地面から、暗く輝く緑のエネルギーが、まるで大木のように無数に乱立し、まさしく森のように、一瞬で辺りを覆ってしまった。
一瞬の静寂、山風が木々を揺らした気がした、次の瞬間……。
森が、
「うおおおお!」
全体が緑に輝いている樹木の幹から、枝から、葉の全てから、無数の鋭い棘がツタとして伸び、まるで鞭のように、無差別に暴れ狂う。俺の悲鳴は、嵐のように
暗い森そのものが意思を持ち、その内部の存在全てをすり潰すかの如く、棘の鞭は荒れ狂い、隙間すら見えない密度でうねりを上げて荒れ狂っている。
その一撃一撃が、異様に重く、鋭い。俺の展開した防御壁も、ガリガリと削られてしまうため、身の安全のためには、常に補強を繰り返さなければならなかった。まるでミキサーか攪拌機にでも突っ込まれたような惨状に、冷や汗が止まらない。
暗い森がその動きを止め、煙のように立ち消えるまで、僅か数秒。たったそれだけの時間が、俺には数分にも、数時間にも感じられた。……樹里先輩、恐いです。
「……はぁ! はぁ!」
全てが終わった中心では、マジカルグリーンが、荒い息を吐いていた。
あれほど大量にいた再羅の姿は……、無い。皆無だ。
どうやら、あの暗い森に全て、飲み込まれてしまったらしい。
咄嗟にデモニカと、戦闘員たちの安否を確認したが、どうやら、あちらは大丈夫なようだ。涼しい顔をしたデモニカの側で、戦闘員たちが小さく震えていたが、怪我とかはしていないようなので、俺はひとまず、安心する。
それにしても、まったく、恐ろしい攻撃だった……。
「ヌハ! ヌハ! ヌハハハハ! なかなかやるではないか! だが、まだまだ勝負は終わっていない!」
手持ちの再羅が全滅したというのに、グリーンの攻撃から難を逃れた松戸博士は、余裕の表情だ。
同時に、再び周囲の空間が歪むのを、スーツのセンサーが感知した。
どうやら、援軍でも呼ぶつもりらしい。
「もっとだ! さぁ、もっと寄越せ! 貴様らが死ぬまで戦いは……」
「デモニカ」
「お任せください」
なにやら絶好調で調子に乗ってる松戸博士には悪いが、これ以上、戦いを長引かせる気はない。……もう、沢山だ。
俺の言葉のトーンから、微妙なニュアンスを正確に読み取ったデモニカが、空中に巨大な魔方陣を展開する。
そして、次の瞬間、空間を超えて、再び出現した再羅……、その全てに向けて、無慈悲な致死の雷が、落とされる。
新たに現れた再羅の数は数十……、いや、今度は百を軽く超えていたが、デモニカの魔術によって、その全ては、実にあっさりと崩壊した。塵と消えた再羅は、風に吹かれて、どこかへと飛んでいく。
「終らな……、んな!」
「――そろそろ黙れ」
調子よく空中を飛び回っている松戸に向かって、俺は大量に展開した魔方陣から、大小様々な大きさの、魔素の砲弾を
その内の何発かが被弾して、松戸は空中でクルクルと、まるでピンボールのように魔弾に弾かれ、無様に地面へと落下した。
「ぐえ! がはっ! ……て、撤退! 撤退するぞ、
そのまま捕らえようと思ったのだが、意外と判断が早い。
松戸博士が、なにやら喚くと同時に、その姿がこの場から掻き消えた。どうやら、空間を飛び越えたらしい。
松戸を逃がしてしまったのは失敗だったが、まぁいい。目的は果たした。
俺はデモニカと戦闘員たちに目配せすると、今回の戦闘、最後の行動に出る。
「……逃がしたか。まぁいい。では、さらばだ、マジカルセイヴァー!」
そう叫ぶと同時に、俺は地面に魔方陣を展開して、即座に起動、巨大な爆炎を巻き上げる。その煙に合わせて、デモニカと戦闘員たちは、一斉にワープ装置を起動し、本部へと無事帰還した。
それに合わせて、俺は素早くこの場から離れるために、マギナモードの四肢に埋め込まれた宝玉を起動、全身に魔素を漲らせ、最高速度で、目的地へと向かう。
先ほど松戸博士を攻撃すると同時に、当初の作戦通り、微妙な加減で攻撃することに成功した、俺が閉じ込められていることになっている、あのペンションへと。
「ま、待ちなさい、ヴァイスインペリアル!」
ピンクが俺たちを探す声を後ろに聞きながら、俺はマジカルセイヴァーに見つからないよう、細心の注意を払い、ただひたすらに、駆ける。
どうやら、彼女たちに気付かれることなく、あの場から離脱することには、なんとか成功したようだが、急いだ方がいい。
「あ、あ、あぁ、あぁぁあああ……!」
悲痛な声を上げながら、呆然としているマジカルグリーン……、樹里先輩が、俺の無事を確認するために、急いでペンションへと向かうのに、それほど時間は、かからないだろう。
さぁ、作戦は、ここからが本番だ。
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