03
レンってなんか、保父さんとか似合いそうだなぁ。いや、勝手な印象なんだけどね。食事を与えてくれるわ(あ、予想外に美味しかったです。調味料も香辛料も豊富に使ってあるタイプ。文明の発展度は大したことなさそうだったから意外だった)、寝床の用意はしてくれるわ、しかも甲斐甲斐しい。夜は疲れたのでさっさと寝て、朝、眩しいなと思いながら目を開けると真剣な顔をして鍋に向かっていた。
むしろお母さんか!と言いたくなる。もぞもぞと起き上がるとにっこりと笑顔でこちらを見た。
「おはようございます、ノーチェ様」
「レン」
おはよう、という言葉は教えてもらっていないから言わないほうが良いんだろうけど、あいさつされたのを無視するのは私の主義信条に反する。昨日の夜いっぱいかけて、レンとヴィーは私にノーチェが自分だと納得させようとしていたので、ノーチェを自分の名前にすることにした。……ノーチェってスペイン語で夜、って意味があったと思うんだけど。この世界にスペインがあったりするのかな。まさかねぇ。
朝ご飯は何だろう、昨日のようなス-プだろうかと思ってレンを見るとなんかうっとりしていた。え。
顔が少し赤いし、目はうるんでるし、口元も緩んでる。何がどうなってそうなった、男のうっとりした顔なんて見ても全く楽しくないんだが。何とも言えない空気のままレンを見ていると、ヴィーが近づいてくる。
「起きたのか、ノーチェ。水汲んできたから顔洗っておくと良い」
言いながら未使用の鍋に水をあけて、端切れのような布を浸す。濡らした布を持って近づいてきたので、目を見てヴィー、と名前を口に出す。驚いたように目が見開かれ、そのあと視線がさまよった。少し気まり悪そうだったヴィーは、なぜかありがとうと言いながら布でおおざっぱに私の顔を拭いてきた。痛くはないが乱雑だな。そして異様なまでに過保護だ。
消化に良さそうだが腹には溜まりそうにない食事の後、ヴィーは後片付けを始めた。レンは、と言うと私の手を取って何をするのやらと思ったら歩く練習らしい。
「ノーチェ様、転んでもあまり痛くないはずなんです、愛し子ですから。あまり怖がらずに歩く練習しましょう!体はきちんとできてますからね!」
「馬で移動する合間に練習すれば二日あるし歩けるようになるんじゃないか?」
「そうですね。無理はさせたくありませんが……」
「そこまで心配しなくても良いだろうよ。なぁ、ノーチェ」
ふらふら歩いている私の頭をいきなり撫でるな!バランス崩すだろうが!
「ヴィヴァルディ!もう少し丁寧に!」
「はいはい」
「はいは一回!」
まぁ、体を持て余してただけで歩き方はもともと知っているわけだし。自分の一歩の大きさが予想外に大きいこと、身長が高いから低い枝にはいつもより気をつけなきゃいけない事。それだけ認識してあとはバランスをとることに専念していたら走るのはともかく、歩くのはある程度大丈夫そうだった。
ついでに言えば、いつも無反応ってのは演技にしても難しい。徐々にではあるが好奇心を出す感じでいこう。音がしたら振り返るし、大きな音だったらびっくりするし。表情はもともと意識して作らないとあまり出ないほうだったからな。折角こんな体になったんだ、帰り方と体の戻し方は絶対に探し当てて見せるけど、ちょっとは女の子口説いたりしたい。良い感じの笑顔作る練習は早急に必要。美形のいやみにならない笑顔って良いよね!
レンの馬……馬、だな。異世界っぽいところだけどこれは馬だ。ところどころ私の知識にあるものがあるとちょっと混乱する。そう、レンの馬に相乗りさせてもらって二日、物の名前を教えてもらいつつ王都、と彼らが呼ぶ街に着いた。森が開けて、草原になる。ところどころに畑と、多分家があって、徐々に建物が密集していく。中心部には背の高い石造りの堅牢かつ豪奢な建物があって、あれが王宮だと言われた時はあまりのテンプレに笑いそうになってしまった。ちょっと意外なのは塀に囲まれていないことだろうか。防衛云々がどうなっているのかは……機会があれば聞いてみよう。
そうそう。ちょっとした懸念事項だった言葉だが、意識して日本語で話そうとしない限りはこちらの言葉が口を衝いて出ているようだった。言葉を覚えなくても良いのは嬉しい限りだが、寝言には気をつけないと、と思ったけど。別にいつまでもこの二人と暮らすわけじゃないし。というかこれからどうするんだろうな?
「団長に言われた任務で見つけたんだからとりあえず団長に報告するか」
「そうですね。ノーチェは……」
「俺とお前がついてたら普通に団舎には入れるだろう。そのあとは、まぁ上に報告が行けば勝手に決まるだろうさ」
「それもそうですね。ノーチェ、人が多いですが気をつけて……あぁ、髪ぐらいは隠したほうが良いでしょうか?」
「髪隠す?」
最近は簡単な質問してるんだよ!どれくらいの速さで言葉を覚えた振りをすればいいかわかんないから適当に早めで!別に疑われてもないしなー。
「えーと、愛し子……どう説明したものでしょうか」
「簡単だろ、レン。お前が考えすぎなんだよ。ノーチェ、髪と目の色が同じ人間は珍しいんだ。凄い見られたり、いきなり話しかけられたりするかもしれないが、どうする?髪を隠すか?」
「隠す、どうやって?」
「あー、この布でも頭に巻くか……?」
この場所の風習はわからないが遠目に見た限りではそんなことをしている人はいない。ただの不審者だろう。首を横に振っておいた。
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