07
「本当に頂いてよろしいのですか!?」
やけにウキウキ……感動なのかな?はい、と手渡した栞を捧げ持つようにしてレンが聞いてくる。丁寧に冷静で穏やかな彼にしては珍しい反応だと思う。
「お土産。レンが来てくれる時も、お菓子とか花とかくれてたから。お返し」
「ありがとうございますノーチェ様!大切に飾らせていただきますね!」
「使わないの?」
「そんな勿体ない!」
「使ってくれないの?」
「つ、使います!使います!丁寧に大切に使いますよ!」
すったもんだの末にちゃんとお土産を渡すことができた。多分使ってくれるだろう。多分。で、今日は教えてもらいたいことがあったんだ。
「レン、お願いがあるんだ」
「なんですかノーチェ。改まって」
「うん、魔法、教えて欲しい。団長さんはレンなら良い魔法の先生になるだろうと」
「団長がそうおっしゃったのですか。光栄ですね」
「教えてくれる?」
「……大役ですね、頑張ってみますよ。ヴィヴァルディから聞きましたが時魔法はすでに?」
「時魔法?」
魔法に関係する書物はまったく読んでいないんだけどなぁ。しかもなんですでに習得したことになっているんだろう?
「復元に関する魔法ですね。使い手は少なくないですが面倒な……確かノーチェ、バイオリンを直したと」
「……あれは、魔法?」
「意識して使ったわけではないのですか?」
「壊れてしまった。直ればよいと思って撫でたら直った」
「……。団長は、魔法を教えてくれないのですか?」
「少し、忙しいと。あと魔法そのものはあまり得意でないと言っていた。もしレンが教えられないなら、神殿のカルサーという人が教えてくれるから連れて行ってもらえ、とも言っていた」
「カルサー様!?」
「そう。話は通っているらしい。レンが教えてくれる?それとも神殿に連れて行ってくれる?」
「……まずは庭に出てちょっと頑張ってみましょうか」
レンは今日お休みの日らしく、長ズボンを履いているが襟が大きく開いたシャツを着ている。ちょっとぶかぶかで、袖もまくっているから涼しそうでうらやましい。俺はなんでか知らないけどいつも長そで長ズボンに詰襟窮屈な服装だからな。首元とか緩めようとするとえらい勢いで止められるし。暑いのに、とじっと見てもうろたえるだけで結局許可くれないしさ。
庭に出ると色の強い花がたくさん咲いている。淡い香りが漂うが、それよりも太陽と草の、夏らしい香りが広がるのだ。ついつい定位置で寝ころびたくなるが我慢。魔法って浪漫だよな、使えるもんなら使ってみたい。
「ノーチェ、魔法というのは世界にお願いすることです」
「お願い?」
「ええ。水を出してください、火を出してください、植物を生やしてください、そう言ったお願いです」
「お願いすれば、叶う?」
「それが魔法ですから。世界を作った女神にお願いして、聞き入れてもらえれば魔法として世界に通常起きない現象が」
「なんでも聞いてくれるわけじゃ、ないんだよね?」
「そうですね。女神が好む言葉や音、図を差し出す必要がありますし、女神に願いを届けるために力が必要です。……私も詳しくは知りませんが、願いを届けるための力、は愛し子様ならば強くあるとか」
「……」
「っ!」
なるほど?納得でいるかできないかはおいとくとして。っていうか女神って本当にいるのか……?ちょっと試してみようかな。今は暑いし……手を体の前に出して、手のひらを上に向ける。流石に手袋はしていないから、手相が良く見える。あ、手相占いってあるのかな……関係ないか。変なことは考えずに。氷があればいいのに、氷をください、とお願い。……。冷たっ!
氷に触れるのは本当に久しぶりで、多分こちらに来てから初めてだ。ついびくっとして手を引っ込めてしまったので、綺麗に透明な氷のかけらは芝の上に落ちた。
「……ノーチェ?」
「冷たかった」
「いえいえ、そうではなくて。その、え?氷はどうしたのです」
「暑いから、冷たい、本で読んだ氷」
「があればいいなと本気で思った、とか?」
「そう」
「……ノーチェ」
「はい?」
「カルサー様のところに行きましょうか」
「……はーい」
レンが鈴を鳴らしてアルドを呼ぶ。レンは少し、他の人に比べてアルドに対して遠慮しがちだ。気になってアルドに聞いてみたら、客だから使用人のアルドを使うのが当然だが、身分的には平民で変わらないから気おくれされるのでしょう、慎み深い方です、との返事が返ってきた。騎士団は広く門戸が開かれているとはいえエリート集団だ。それを鼻にかける人間もいないわけじゃないらしいから、うん。レンはいい人なんだろう。俺は幸せ者だな、良い人に拾われて。
さて、アルド曰く神殿なら付き人や使用人は必要ないとのことなので。
用意してくれた馬車に、雇われの馬飼人を御者に仕立ててもらって、俺とレンの二人で神殿に行くことになった。あ、カルサーさんってのは副神殿長で、愛し子なんだってさ!
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