晴:10年前

 十年前のある日の夜。私の両親が死んだ。原因は絞殺。誰かに殺されたのだ。そして、その事件の容疑者は私だった。私はその前日にホームセンターでヒモを買っていた。前かごに入らない荷物をくくり付けるために買ったものだったが、凶器にそれが使われていたからだ。自分が何かの罪に問われただけならまだしも、それが親を殺した罪だったショックで、学校に行く気力すらわかなかった。昔から私のことを知っている人達は同情してくれて、いつもより優しく接してくれた人も多かった。

 身江子──私の親友も、その一人で、特に優しく慰めて、励ましてくれた。ただ、それも次の事件が起きるまでだった。今度は、身江子の両親が絞殺されかけてしまったのだ。しかも、私の両親が殺されたのと同じヒモで。この時は、たまたま身江子の家に来客があったおかげで二人とも命を取り留めたが、しばらく意識が戻らなかった。凶器のヒモは警察に回収されているし、私はひも状のものを見るだけでも吐き気を催していたほどだったので容疑者から外れていたが、この事件があってから、私に関わった人は絞殺されるという噂が広まって、近所の人からも段々と冷ややかな扱いをされるようになっていった。中にはそれでも優しくしてくれる人はいたが、その人も家族や他の人に説得されて、離れていってしまった。ごめんなさい、ごめんなさいと泣きながら謝られて近寄らない宣言をされた時の絶望感はいまだに忘れられない。

 親を殺されかけた身江子は当然、私に辛く当たってきた。私はどちらかというと強気なほうだったので、悪口を言い返したりして、出会うたびに喧嘩になっていた。最終的には絶交して、私が引きこもって身江子と会わないようにした。

 そんな中でも、新米の警察官だった、今の上司だけは私に優しかった。私の話を真剣に聞いてくれて、学校に行かなくなった私の社会復帰のサポートまでしてくれた。時間のある時は柔道を教えたりしてくれた。たぶん、夢も何も持っていなかった私が今警察官になれているのは、彼のおかげだと思っている。

 彼は捜査でも大活躍して、犯人を捕まえた。犯人は私が通っていた高校の教師で、幸せな家庭が壊れて行くのを見たかったという最低な理由だった。上司はそれに激しく憤っていた私を抑えてくれた。仲直りをする計画に尽力してくれたおかげで身江子とも無事に関係をやり直すことができたが、私に両親が戻ることは永遠になかった。上司が私の生活を支援するなんてことも言い始めていたが、さすがにそれは断った。自分でバイトを始め、必死に公務員試験の勉強をして、今は警察官をしている。身江子とは仲直りしたものの、どうしても気まずさも生まれてしまって、疎遠になってしまっていた。

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