晴:友達
電話の相手は延子さんの入院している病院で働いている元親友——身江子からだった。
「もしもし。晴です」
「晴、久しぶりだね。延子の病室で騒いでる2人組がいるんだけど、こういう時って警察を呼んでいいんだよね?」
「うん、久しぶり。えっと……もしかして、高校生の男女だったりする?」
「当たり。その男の子が延子さんと喧嘩してて、女の子が泣いてるみたいで」
「ああ……」
とうとう恐れていた事態が起こってしまった。今のサヤカちゃんはただでさえ周りからの痛い視線を浴びせられているのに、その精神状態で親友に近しい関係の延子さんが激しくサヤカちゃんを憎んでいることを知ってしまうと、確実にマズい事態が起きると思っていた。だから、あえてサヤカちゃんには病院について教えていなかったのだ。そこに悠佑くんまで入ってくるのは予想外だった。その場にいた上司も、私の落胆した顔に気付いたようだ。
「何だって?」
「サヤカちゃん、延子さんの病室に行っちゃったみたいです」
「ああ? サヤカちゃんには病院名教えてないだろ? どうやって知ったんだ?」
「その場に悠佑くんもいるみたいなんで、おそらく悠佑くんが教えたんだと思います」
「またあのガキか」
「嫌いなんですか? 悠佑くんのこと」
「嫌いだ」
「何でですか? まさか嫉妬とか?」
「ピンチの時に都合よく現れるところだよ。サヤカは俺が守ってやる、みたいな感じがしていけ好かん」
「そうですか? 私は好きなんですけどね。彼」
「物好きだな」
「時代が変わったんですよきっと。とりあえず、見てきます」
「おう。俺は聞き込みとかがあるからこれでオサラバだろうな。忘れてそうだから言っておくが、今日の夜中のパトロールはナシ。しっかり寝て頭を休ませとけ。あと、帰ってからの戸締りは気を付けろよ。昨夜の奴が誰だか知らんが、用心に越したことはないからな」
「わかりました。行ってきます」
病院に来てみれば、数十分前に言われた通りの状況が続いていた。
「ドッペルゲンガーって、延子が言い出したことだろ!」
「そんなもん面白がって言ってたに決まってるじゃん!」
なるほど。かなりヤバい状況だ。サヤカちゃんは床に屈んで肩を震わせているし、この言い争いもずっと続いてて観客もぞろぞろと見たり離れたりしている。この喧嘩は、3人ともを無理やり引きはがすしかないな。深呼吸をして、この喧嘩を終結させる。
「そこの2人! 一旦外に出てもらうよ!」
その後、身江子に、ありがたいけど大きな声出さないで、と言われたのは内緒の話だ。
「はあ……全く。サヤカちゃんの潔白を伝えたかったのはわかるけど、熱くなりすぎだよ」
「すいません。自分でもヒートアップしていったら抑えが効かなくなっていって」
号泣していたサヤカちゃんも少し落ち着いてきて泣き止んだようだ。目の周りは真っ赤に腫れて、その瞳もやや虚ろだ。やはり相当のショックを受けているようだ。
「悠佑くんが連れてきたんだよね?」
「そうです。サヤカが行きたいって言いだして、僕もまだお見舞いに行ってなかったんで僕も同行したんですけど。まさか延子がこんな事を言い出すとは思っていなくて……」
「そっか……」
「また今度、謝りに行きます。病院にも、延子にも」
やっぱり悠佑くんは私が見込んだ通りの良い男だ。私にもこんな人と巡り合える機会があればなあ……と関係ないことを考えてしまった。
「延子さんもあんな状態だし、悠佑くんがサヤカちゃんの心の支えになってあげてね」
「任せてください」
相当自信があるのか、彼は満足気な顔をする。サヤカちゃんはまだ呼吸は荒いものの、目にも少しずつ光が現れだした。
「悠佑……ありがとう」
「どういたしまして」
「サヤカちゃん」
私はサヤカちゃんに近寄る。
「真犯人は、私が絶対に見つけるから、そんなに気に病まないで。見つかったら、きっと延子さんも合わせて3人で、またやり直せるって」
サヤカちゃんは頷いた。その瞬間、何か物凄く恐ろしい悪寒がした。何かの視線を感じたのだろうか。周囲を見回すが、病人ばかりで、特に怪しい人物はいない。こんなことに考える時間を使っていてもしょうがないので、改めて絶対に事件を解決するという決意の武者震いということにした。
とりあえず、サヤカちゃんは悠佑くんが付き添うそうなので、家に帰した後は朝平さんの部屋の玄関のチャイムを鳴らし、電話を鳴らした後は私の家に帰った。しばらく待っても彼は出てくることはなかった。夜は出かけているのだろうか。時差もあって大変なんだろうが、早く新しい情報が欲しいのでモヤモヤした気分になる。
寝る前に今日の情報の整理をしておこう。
まず、何者かが夜な夜なサヤカちゃんの部屋に侵入していた可能性があること。これはサヤカちゃんにも戸締りを確認させるよう言っておいたから、もしその読みが当たりだった場合、今日以降はそういった被害は出ないはずだとは思う。
次、凶器に付いていた指紋、血液はそれぞれサヤカちゃん、延子さんのもので間違いなさそうだ。問題は、それがサヤカちゃんが出したと思われるゴミ袋から出てきたということだ。そうなると、サヤカちゃんが怪しく見えるのは当然だが、ここはサヤカちゃんが犯人でないという前提で進めていく。
サヤカちゃんはゴミ袋に延子さんの血が付いた凶器を自ら入れたとは考えにくい。やはり、サヤカちゃんの家に誰かが侵入している可能性は高い。サヤカちゃんがいつ逮捕されるかは結局意見が割れてなあなあになっているらしい。この間に勝負に出なければ一巻の終わりだ。延子さんと会ってしまった彼女は深く傷ついている。悠佑くんが支えになってくれるはずだが、私の方でも彼女が危ない行動に出ないか見守っておく必要があるだろう。
あと気になるのは、サヤカちゃんの隣の部屋の朝平さんの消息・私の家の前で待機していた不審人物・病院の外で感じた悪寒だ。朝平さんの方は手紙をポストへ入れておいて、携帯に留守番電話も入れておこう。私の家の前にいた人物に関してはあまり出過ぎた行動は控えるように言われているし、戸締りを何回か確認するだけで余計なことはしないようにしている。悪寒については意味不明だ。こんな話を上司に言おうものならまたグチグチオカルトが~と言い始めるだろう。確かに震えを感じたんだけどなあ……。これに関しては考えてもしょうがないことだ。
疲れているのかもしれないし、戸締りの確認をして、さっさと寝て明日に備えよう。
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