晴:不審者

 サヤカちゃんへの電話もし終わった。どうやら、悠佑くんと一緒にいるらしい。彼ならサヤカちゃんを支えてくれるだろう。自らを傷つけているような様子もなさそうだったのでとりあえずは一安心といったところだ。これで安心して夜も眠れると思ったが、寝ようとしてベッドに倒れこむと、昼間にきていたらしい軽トラはなんだったのだろうという疑問がわいてきた。その答えを思いつく前に視界は真っ暗になった。


 夜中のパトロール。昼夜両方働くこの生活にもだんだん慣れてきた。ただ、日々の眠気もだんだんと増してきている。1日4時間も寝ていないと思う。ショートスリーパーな人はそのくらいでもいいらしいが、基本的に1日7時間睡眠を心掛けている身としてはたまったものではない。明日はサヤカちゃんと話をすることになったし、パトロールしながら何について聞くか考えておくか。

 扉を開けると、黒い人影が私の家の門のところに立っていた。上から下まで真っ黒の服を着て、マスク、帽子、サングラス、と怪しさ全開の人影は、私がドアを開けると、飛び跳ねるように驚くリアクションを見せて、ヨロヨロと逃げて行った。さすがの私も家の前で不審人物が待機しているとは思わなかったし、門の扉も閉まっていたので、追いかけずに体力を温存しておいた。

(本当に、引っ越さないといけなくなったかな……?)

どう考えても、ここ最近、私の後をつけている人物がいるのは間違いなかった。それがどうも、私の家の特定までされてしまったらしい。どういう目的かは知らないが、そろそろ放火をされてもおかしくないところまで来ている。この状況で外を1人で出歩くのは間違いなく危険なのは言うまでもなかった。こんな夜中に申し訳ないが、上司に相談するべきだろう。電話をかけてみたら、以外にも繋がった。寝てなさいよ。

「そうか。明日からは俺も同行するから今日は行かなくていい。家じゅうの窓に鍵をかけて、ガラスも割れないようにシートを貼っておけ。なかったらテープでもいい。とにかく、絶対に無防備な状態でそいつを家に侵入させるな」

 とりあえず、私が上司のところへ行くのも上司が私のところへ行くのも危険ということで、今日のパトロールはナシになった。そのかわりに家の防犯対策に追われた。玄関や窓にカギをかけて、窓にテープを貼って、割られないようにした。一応、これで侵入されるといったことはその人影が小さな虫とかに変身しない限りなさそうだ。とは言っても、不意打ちを食らわないだけで、危険な状態の解決には至ってないので、どうにかして状況を打破しなければ。明日のサヤカちゃんと会う約束、私の家に呼ばずにサヤカちゃんの家に上がる方向にしておいて正解だった。迷惑だったかもしれないが、私の家に来る方が間違いなく危険だからだ。

 誘拐犯のことも気が気ではないが、とにかく今は目の前の事に集中しよう。明日に備えて、サヤカちゃんの生活で、そういったトラブルに巻き込まれる原因になりそうなものをリストアップしておこう。肩にカーディガンを引っ掛け、ペンとノートを持って机に座った。土曜日から日曜日にかけて仕事のようなものをするのは久しぶりだ。

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