サヤカ:友達
『私は一人では何もできない』
数日前、カメラで私の寝ている姿を録画できなかった時の夢で、私の顔をしたもう一人の自分が私の耳元で囁いた言葉。今思いだしても身の毛がよだつ。確かに、私は一人では何もできない、弱いちっぽけな人間だ。もし悠佑がいなければ、私はもう自ら命を絶って、この世からいなくなっていたかもしれない。病院で休んでいる延子にこれ以上迷惑はかけられない。となると、今頼れるのは悠佑と晴さんだけだ。
「玄関、ひどいことになってるけど……大丈夫?」
「大丈夫ではないね。…… 自分こそ、クラスであんなことやって、大丈夫だったの?」
「見てたんだ。悪いのはあいつらだし、戦うよ」
「私のことは放っといて、普通に暮らしてくれて良かったのに」
「いや、そういうわけにはいかないよ。サヤカが困っているのに見ているだけなんてできないよ」
「悠佑、ありがとう……」
「……ねえ、サヤカ……」
「? どうしたの?」
悠佑が口を開いた瞬間くらいに、私のスマートフォンが鳴る。嫌がらせかなと思ったが警察の晴さんからだった。悠佑が話すところだったのでちらっと顔を見てみたら、不満そうに、どうぞ、と言った。
「もしもし?」
「あ、サヤカちゃん? なんか、学校、早退したって聞いたけど、大丈夫?」
「はい。友達が来てくれたんで」
「悠佑って子でしょ?」
「悠佑のこと、知ってるんですか?」
「担任の先生に聞いたよ。いい友達持ってるじゃん」
「担任に話を聞いたんですか?」
「真犯人を見つけようと思ったら、皆の周りで何か起きてなかったか調べないといけないからね」
「あんまり担任と個人的な話はしたことないんですけどね」
「そうなのよ。結局、詳しい話をするんだったら本人に直接聞くしかないなって話になって」
「そうですよね」
「ということで、サヤカちゃん、明日は空いてるかな?」
「明日は空いてますよ」
「じゃあ、私の家に来てもらうのは悪いし、私からサヤカちゃんの家に上がらせてもらって良いかな?」
「片付けたら大丈夫です」
「うん。じゃあお願いするよ」
「わかりました」
「学校も、ほとぼりが冷めるまでは行かなくていいと思うよ。先生も対策を急いでるみたいだし」
「そうですね。私は行かないようにしておきます」
「あ、あと、悠佑くんがいるならよろしく言っといてね。一方的に人間性が気に入ったから」
「ああ。今いるんで、言っておきます」
「警察から?」
「そう。警察は警察でも、一人いい人がいてね、その人によくしてもらってるんだ」
「へえ。あの時いた女の人?」
あの時? 私が学校から警察署まで連れていかれた時かな。あの時は気が動転して視界が真っ暗になって、何も覚えていないからなあ。晴さん以外に交番の人とか何人かいたなら違う人かもしれないけど。
「あんまり覚えてないけど、たぶんその人だと思うよ」
「そっか……」
なんか晴さんの話になると笑みが消えていくな。苦手なタイプなんだろうか。さっきの話も電話で妨害されてたし。
「で、さっき、言いかけたことって、何だったの?」
「……いや、また今度でいいや」
「なにそれ。どんな話なの」
「秘密。またいつか教えるよ」
「いや、いつかって……」
「いつか。たぶん近いうちに」
「じゃあ今は聞かないけど、いつか絶対教えてよ」
そう言いながら、自分でも自分が延子に似てきたな、と感じた。
「それで、サヤカとその警察の人は何の話だったの?」
「……なんか、私だけ言うのって不公平じゃない?」
「不公平じゃないね」
「うーん。女子だけの秘密?」
「なんだそれ」
「うそうそ。私と晴さん──警察の人で個人的に仲良くなりたいから女子会を開くって。あと、悠佑にもよろしくって」
「そうなんだ」
テレビをつけると、0時を告げる時報と、私のよく知っている町をリポーターが歩いている映像が流れた。
「……で、いつまでここにいる気なの?」
「……サヤカが満足するまで」
「すごいありがたいんだけどさ。私としては、悠佑は私のことは気にしないで普通に学校に行ったほうが良いと思う」
「いや、サヤカが行けない学校なんか絶対行かない」
なんでそうカッコいいことを。晴さんが言ってたのはこういうところなのだろう。
「その私が良いって言ってるから行けば良いのに」
「……まあ、その内には行こうか」
「適当」
「やっぱり、サヤカへの嫌がらせも止めなきゃ駄目だしね」
「止めるって、どうやって?」
「それを考えなきゃ。俺もいるからさ」
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