サヤカ:一人では何もできない
これは一体どういうことなんだろう。少なくとも、私は昨日も今日も眠っていた以外の記憶はない。私が眠りながら外を歩き回っている姿は想像ができないし、それなら延子にもその警察にも何らかの病気を疑われていてもいいはずだ。それに、いくらなんでも警察官から逃げられるくらい本気で走っているなら私だって目が覚めてもいいはずだ。
気になるのは2日連続で見た変な夢だ。あの夢を見てから色々とおかしなことが起き始めている。しかも、ドッペルゲンガーが出てくる夢だ。もし仮に私がもう一人いるとしたら、この2日間の謎の現象には全て納得がいく。とも思ったが、いくらなんでも非現実的すぎる。でも、そうじゃないなら……。
延子が私の顔を覗き込んでいることに気が付いた。それを見て、延子は私の顔の目の前で手を振った。無邪気か。とりあえず、ドッペルゲンガーを信じている(?)のは今のところ延子だけなので、駄目で元々、この奇妙な相談をしてみることにした。延子はしばらく首をひねりながら腕を組んだ。悩んだ結果出てきた返事は……。
「自分のドッペルゲンガーを見ちゃうと死んじゃうって、よく言われてるよね」
そんな一言のせいで、授業には一切身が入らなかった。まだドッペルゲンガーの存在は確信していないが、自分の知らないところで何か大変なことが起きようとしている予感を第六感のような器官が訴えていた。そんなことなら、寝たまま外へ出て寝言で話をしてしまう病気のほうがまだマシかもしれない。そうだったら病院に行ってみるべきかもしれない。
「じゃあさ、とりあえず、部屋に監視カメラ付けてみようよ」
女子高生の体をした好奇心の塊が突飛もないことを言い出す。授業中に彼女も彼女なりに色々考えていたのかもしれない。どう見ても居眠りをしているようにしか見えなかったが。
「監視カメラって高いんじゃないの? 電気屋さんに売ってるかな?」
「そんなガチガチのやつじゃなくてもさ。スマホで撮ればいいじゃん」
スマートフォンのカメラでも、本格的なカメラに比べると画質に多少の違いが出るものの、1部屋を撮るだけならばそれほど影響もないだろう。駄目だったらいっそベッドだけでも十分だ。
「とにかく、やってみなよ。毎日続けてたら何かわかるって」
謎の恐怖に対する安心を得る一心で延子の案を採用した。部屋に戻ったら早速、隅っこの棚にあった何年前かの教科書をどかして試し撮りをしてみた。ベッドに転がって数秒後にカメラへと近づく紛れもない偽物の私の姿が映っていた。スマートフォンを点ける。
『ちゃんと撮れてたから監視してみるよ。何か映ってたらまた報告するね』
延子にメッセージを送ったら、いつもより早く寝た。恐怖から逃れたい気持ちもあった。気紛らわしに外の風を浴びようとしたがドッペルゲンガーに遭遇してしまいそうだからやめておいた。とにかく、ベッドで眠りに沈んだ後の自分が何をしているのかが早く知りたかった。無意識に起き上がって外へ出る自分が映ったビデオあを想像するとなんとも滑稽な姿だが、ドッペルゲンガーと比べられるとどちらが良かったかは、眠りに落ちるまでには決められなかった。
夜中特有の、真っ暗な部屋。
(あ……また夢だ)
またしても、体は金縛りにあったようにピクリとも動かせない。これもいつも通り、ドッペルゲンガーが同じ部屋にいた。昨日までとは違って、部屋を歩きまわっているわけではなく、ただベッドの傍に立って、私をじっと見ているらしい。
「だ……れ……?」
痺れた体に鞭打って出した声を聞くや否や、その顔が歓喜に歪んだ……気がした。私の顔をしたドッペルゲンガーが私の顔にちょっとずつ近づいてくる。顔がじんわりと暖かくなるのを感じかけたその時、
「私は一人では何もできない」
耳元でぼそり。気持ち悪さに体を震わせながら、意識が遠のいた。
ベルの音が聞こえた3秒後くらいに、つい今さっきまで見ていたような夢を思い出そうとした。
私は一人では何もできない? 意味がわからない。声色も、自分と同じような違うような感じだった。自分の声だと思っている声も録音して聞いてみると全然違う声だったという話はよくある。スマートフォンに録音して、自分の声は夢で聞いた声と同じ声かどうか確かめようとしてスマートフォンを探したところで、寝ている間の様子をビデオ録画していた事を思い出した。
「ああ、そうだ。録画止めなきゃ」
最近のスマートフォンの録画や撮影はカメラの性能が上がっていったおかげでどんどん容量を食っていくことが多い。容量不足は色んな写真を撮ったりアプリをダウンロードする女子高生にとって死活問題である。
「……あれ?」
録画できていない。具体的に言うと、カメラのアプリは起動しているのに、録画ボタンが押されていない状態だった。念のために保存されている画像や動画を確認してみたが、昨日の夜中のビデオは見つからなかった。
『私は一人では何もできない』
ふと昨日のその言葉を思い起こして、全身がゾワゾワした。猫背気味だった背中がまっすぐになる。しばらく動けなかった。何秒かして腕や脚をさすってみると、ブツブツした感触を手のひらに感じた。
3日連続で見た謎の夢を頭に引っ掛けつつ学校へ行くと、またもや先生たちが慌ただしく歩き回っていた。この時点で妙な予感を禁じずにはいられなかった。
「あ、サヤカー。今日は緊急の会議だとかで1限カットだって!」
緊急会議とは珍しい。台風の時期は生徒を帰らせるか帰らせないかで大もめすることがたまにあるが、天気予報は普通に晴れだったからその可能性はないなと考えていると、昨日遅刻してきた私をニヤニヤ見ていた悠佑から嬉しくない情報を頂いた。
「さっき聞いた話によると、校門にパトカーみたいなのが停まってたらしいよ」
パトカー。一昨日は警察に失踪の連絡を入れかけられ、昨日は夜歩きしていたところを補導されそうになって逃げたらしいというのもあって、さすがに不安になってきた。冷や汗が目尻まで落ちてくるのを感じる。というか、悠佑はそれを知っていてわざわざ言ってきたのだろうか。悪質極まりないなという目で悠佑を睨むと、悠佑と目が合った。相変わらずのにやけ顔をだ。
「気になるし、ちょっと見て来ようかな」
「気をつけなよ」
「何にさ」
そう言って彼は教室を出て行った。そりゃあ、1限の授業が無いとは言っても、自習もせず外をフラフラしてるのを先生に見られたらと想像するだけで気をつけたくなる。そうは言いつつ悠佑を見送った後の1時間を延子との雑談に充てている時点で人の事も言えないが。
「そういえば、結局昨日の監視カメラをつけるって話はどうだったの?」
「それが、撮れてなかったみたい」
「ありゃ。残念だなあ」
「内心ほっともしてるよ」
録れていようが録れていまいが、どちらにしろ厄介事にはなるだろうし、昨夜の様子を録画できていなかったのが気がかりだが、話しているうちに自分が操作を誤っていたのではないかという気分にすらなってきていた。
「警察って、誰が何をしでかしたんだろーね」
「さあ? 遅刻したのを失踪したって勘違いされたんじゃない?」
「なんだそりゃ? 何かのドラマの話?」
そもそも、今日は遅刻もせずに学校に来ているから今回は関係ないだろう、だったら何があったのか。誰か刺されたのか、とか思考にふけっていると、悠佑が走って帰ってきた。
「警察じゃなくて、学校の警備会社だった!」
担任が教室に入ってきて、私を昨日のように別室へ連れて行くのも、その何秒か後くらいだった。
「3日連続って。今までで見たことがないな。教頭先生もですか?」
「……」
昨日と同じように溜息が混じった声で担任が話す。昨日と違うのは、もう一人、この学校の教頭がその場に追加されていた事と、話す担任の顔が明らかにイラついているところだ。
「もう、君が何の為にここに呼ばれたかはわかっているよね?」
集会で全校生徒の前に立って落語のように楽しく話をする教頭の顔はそこには無く、ただ真剣そのものだった。
「一昨日の、学校を遅れてきたことですか? 警察に連絡したっていう……それとも、昨日の夜歩きらしい……」
声に出した後に思ったが、ここに呼ばれているのが校門に止まっていたらしい警備会社の車両と関係があるなら悠佑の話からして警察に連絡を入れてしまった件や補導から逃げた件である可能性は低かった。それは当たっていたようで、自分の前に座る2人の先生の顔に怒気が見え始める。
「それは昨日と一昨日ここに呼んでやった。今は今日の話をしている」
担任は下に向けた指で机を叩く。もし、これが昨日と同じような展開で進めば、ここに呼ばれた理由は、きっと……
「君は、今日の深夜1時35分、この学校の門を乗り越え、不法に侵入した。違うかね?」
外れてほしかった予想は当たってしまった。またもや身に覚えのない罪を被せられようとしているようだ。
「昨日と一昨日もあんだけ注意とか警告とかやってきたのに、また問題起こしやがって。しかも今度は不法侵入かよ。いい加減にしないと本気で警察送りになるぞ」
「だから、私は何もやってませんって!」
担任と教頭の無理解が頭に来て、若干以上怒り気味に身の潔白を主張しつつ、担任の主張ももっともだという気持ちはあった。今まで信用していた生徒が、できるだけ甘めの注意と信用をしていることを表していたのに、何回も問題行動を起こしてその信頼と期待を裏切ったとなれば、冷静でいられるのは難しいだろうなとは思った。だからといって、本当に身に覚えのない罪を被ろうとは思わないが。
「だったら、証拠を見せろって! もう信用とか態度とかそういう話じゃなくなってるんだよ!」
証拠。昨日の夜中の映像をちゃんと撮影できてさえいれば、潔白は証明できた。もう一度確認しておけばよかった。ドッペルゲンガーどうこうよりも、映像を録っておけば何もしていないことを証明できたことに対しての後悔を強く感じた。
「……私は本当に……」
「そうだ。第一、監視カメラに君の姿が映ってるんだ! 先生にも確認してもらった! それでもまだやってないって言うつもりか!」
長年教師をやっているだけに、教頭の生徒を黙らせる力は凄かった。その迫力に負けて、反論するのを止めてしまった。それくらいの強制力があった。
「……あの。そのカメラの映像って、私にも確認させてもらうって事は、できないんですか?」
「お前まだ……!」
「いいよ、先生。そういえば、君は昨日もおとといも何もしてないって言い張ったらしいね。そんなに見たいなら、特別に見せてあげるよ」
と言って、教頭は部屋の外へ出た。映像を持って来るらしい。残された私と担任は重苦しい部屋で気まずい時間を過ごしていた。
「今までは普通の良い生徒だったのに、どうしてこんなことになったんだ……」
「本当にやってないんです」
落ちていた担任の首がガバッと起き上がって私を睨みつけたが、返ってきたのは今までで一番大きい溜息だけで、あとは何も言わなかった。
静寂そのものになった部屋に扉が開く音が響いた。
「これだ」
教頭はノートパソコンを持ってきた。その画面には、赤外線かなにかで校門が緑色になっている映像と、右下に01:30:……という文字が映っていた。教頭がパソコンを操作して、1時35分まで映像をスキップした。画面の右下から、一人、カジュアルな服にジーパンを履いた女性が校門に向かって歩き、その近くのフェンスに手をかける。その人がフェンスを登ってまたいだ瞬間、センサーライトが反応したのか、画面全体に色がついた。フェンスにまたがっている私の顔は驚きもせずカメラの方を向いた。ここで教頭が一時停止ボタンを押した。
「どう見ても君そのまんまじゃないか」
ところで、ライトが点く前の時点でスカートではなくジーパンを履いていた人が女性だと確信できた理由がある。私が映っているという先入観もあるかもしれないが、なにより、その服装が、履いていたスニーカーも含めて、全て私が持っているものと同じだったからだ。
「いい加減諦めろって。もう反論できないだろ」
「本当にやってないです」
もう、そう言う以外の方法が思いつかなかった。
クラスに帰ってみると、同情なのか憐れみなのか、クラスメートが私を見る目が変わってきた。変わらないのは延子と悠佑だけだ。だが、その延子のドッペルゲンガー話にもだんだんと冷ややかな反応か出てくるようになった。悠佑は事の大きさがわかってないのか、いつも通りニヤニヤしているだけである。
「事の大きさ、わかってる?」
「まあね。でも、やってないんだったら別にどうこう言う必要もないでしょ?」
この男は人が悩んでる時に限ってサラッとカッコいい事を言って来る。ニクい男だ。小学生からの腐れ縁だし、今更惚れることもないだろうが。
「……まあ、そうだけど」
「延子から聞いたよ。夜中にビデオ録ろうとして失敗したんでしょ? だったら、明日こそは絶対に失敗しないようにしなよ」
半分にやけ笑い半分真剣な顔で言ってきた。帰路を歩きつつ、悠佑の真剣な顔は久しぶりに見たなと思った。珍しい。
こう何日も連続でこういう事があると、大体明日も起きると思っていいだろう。そして、明日も夜中の様子を録るのに失敗して何か起きてしまったら、今度こそ私はただでは済まされない。録画容量と電池を確認する。スマートフォンの最近使ってないアプリケーションを消してメモリの空き容量を増やし、充電も満タンにしておいた。その最中、スマートフォンに1通のメッセージが届いた。延子からだ。
『私やっぱり、サヤカが本当にやってないならドッペルゲンガーを捕まえないといけないと思うんだ。私も協力するし、力になれそうなことがあったら言ってね。私もちょっと聞き込みとかそういうのやってみるね!』
疑っていたわけではないが、延子は本当に私を心配してくれているのだ。このメッセージを見て、目が潤ってきた。画面がぼやけて見える。
『ありがとう。解決したらケーキ食べようね! 奢るから』
延子に最大の感謝をしながら、作業を進めた。持つべきは友達だ。間違いなく。
寝る前に録画ボタンを押して、ボタンを押したことを部屋に散らばってたチラシの裏を使ってメモしておいた。そして、もう一度確認。ちゃんと録画できている。誤入力しないように、スマートフォンをそっと立てて置いた。部屋の様子が見えやすいように電球を点けて寝ることにした。ベッドに転ぶ。数分後にはスマートフォンがちゃんと録れているか心配になってきたが、不安で眠れない気持ちを心労が上回ったようで、そうこう考えている内に眠りに入ってしまった。
意識が戻った瞬間、目を大きく開いてベッドから飛び起きる。カーテンを開くと外は黒色が混じった青色に染まっていた。どうやらアラーム音が鳴る前に起きてしまったようだ。寝起きも良く体調も問題ない。久し振りにぐっすりと眠った。この数日の理解不能な事態に巻き込まれた疲れも回復して、スッキリとした気分だった。早速、この風景を録画しているはずのスマートフォンを、そっと持ち上げて、その画面を、閉じた目をゆっくり開けながら、赤色の四角いボタンを親指でタッチする。映像を保存しています、という文字が出た。
「録れてる」
思わず口に出してしまった。独り言を呟いたようで恥ずかしくなった。どうせいつもより時間はあるので、録画映像を確認してみることにした。
『ガチャガチャガチャ』
スマートフォンをそっと立て置いた時のノイズと共に映像の再生が始まった。紙を一枚取って、ペンで何かを書いている。机に目をやると、『録画 ちゃんと確認』と書かれたメモが置いてあった。言われてみればメモを書いていたんだ。すっかり忘れていた。ペンを机の上に放り投げる音がした数秒後、画面がオレンジ色に反転して、それ以降は夜中に鳴いている虫かなにかの鳴き声が続いた。再生速度を変えてみたり再生時間をスキップしてみたりしたが、何も変わったことは起こらない。ずっと変わらない風景に飽きてきたところで、そういえば今日は夢を見なかったな、と別のことを考えていた。
映像の中のサヤカはベッドから起き上がった。カーテンから外を覗いてカメラへと近付く。
『録れてる』
その言葉を聞いて、再生は終了した。遂にドッペルゲンガーは私の部屋に出て来なかった。やっぱり、あの数日間の夢と奇怪な現象は関係なかったのだろうか。
『今度こそ録れたよ。でも何も映ってなかった』
延子にメッセージを送る。ついでに、悠佑にも送っておく。録画に失敗しないよう念を押してくれたくらいなので、彼も彼なりに私のことは心配してくれていたのかもしれない。感謝しておこう。私を本当に心配してくれていた延子には勝てないが。悠佑にメッセージを送り終えたところでアラームが鳴る。しかし今日は隣人の朝平さんが壁を殴ろうとする前に止めることができただろう。ここ数日の間、彼がイライラしている生活音を聞いていない気がする。ちょうどあの夢を見た朝以降、壁を殴ったり何かの本を床に叩きつけたりする音は聞いていない。それどころじゃない精神状態のせいで気にしていなかったのか、それともイライラしなくなったのか。ストレスを抱えて自殺していないことを祈ろう。
学校へ行く準備が整った。机の上に放り投げていたスマートフォンの着信通知が鳴る。延子ではなく悠佑からだった。延子じゃないのか、と思って、延子にしては返事が遅いなとも思った。女子高生は今やメッセージを素早く返すスキルを身に付けている。ましてやドッペルゲンガーという彼女のマイブームならなおさら食い付きも良いと思うのだが。まだ寝ているのだろうか。
『よかったね。詳細は学校で』
素っ気ない! 朝平さんのイライラが再発しそうなので叫ぶのはやめておいた。そして、
『今日は晴れのち大雨、雷が起きるかもだって。傘持っておきなよ』
相合い傘の機会を潰したな。今日くらいは寄り道してジュース1本ぐらいなら奢ってあげようと思ったのに。そう思っていられるのも、約束の学校に到着するまでだった。
学校に着いてみると、明らかに非常事態になっていることが見てとれた。先生が廊下を歩いていない。ドッペルゲンガーの件の前も後も、たいてい廊下で誰かしらの先生と通りすがっていた。だが、今日は、本当に、誰一人として廊下に出てきた先生がいなかったのだ。自意識過剰なのか、通りすがりの生徒たちがやけに私の方をチラチラ見ている。教室のドアを開けた瞬間、それは確信に変わった。
私がドアを開けると、クラス中のほぼ全ての生徒がゆっくりと私に振り返った。その目は私が数日前に遅刻した時に見せた珍しいものを見るような目ではなく、怒りのような憎しみのような、敵を見る目、完全に別のものになっていた。明らかに異常な事態が起きていて、その対象が私ということは考えなくてもわかった。教室内に延子と悠佑の姿を探したが、見当たらなかった。その空間に怖気づいて、教室に入る一歩を踏み出せないでいると、
「サヤカ!」
悠佑だった。教室の入り口で固まっている私の腕を、有無を言わさず引っ張っていって、屋上へとつながる階段まで駆け上らされた。
「本当にヤバいことになってるよ!」
「それはもうわかったけど、私は今度は何をしたことになってるの!?」
「……」
悠佑は黙った。言い出せないような事が起きてしまったのだろうか。そして、今この場にいて欲しかった、本来だったらいるはずの、もう一人の女子の姿が頭に浮かんだ。私を心配してくれていたのに、朝から姿どころか何の返事も送ってこない女子の姿を。
「殺人未遂だって……」
全てを察するには、それだけで十分だった。足は震えて、全身の力が抜けて、階段から転げ落ちそうになるのを必死にこらえる。
「昨日の夜中、延子が刺されて、その犯人がサヤカって噂になってるらしい」
予報よりも早い雨が降り出して、全校集会を行う旨の校内放送が流れた。悠佑が何か色々と早口で言っていることを左耳から右耳へ流したまま放心していたが、先生ではない、知らない大人たちが階段を上ってきているのは見えた。
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