第三十五話 覚悟

 目の前に広がる光景に、ネスの体はまったく動かなかった。一匹でも対処に困るトカゲモドキが、この場に六匹もいるのだ。しかも、ネス以外の「使える魔導士」はこの場の魔力にあたった状態で全員万全の状態とは言い難い。

 トカゲモドキは、動けないネスをわかっているようにゆっくりと包囲網を縮めてくる。大きく開いた口から覗く大きな牙が、ゆっくりと近づいてくるのが見えた。

 ――う、動かなきゃ……班長達のところへ、行かなきゃ……

 そう思っても、足も手も固まったように動かない。気ばかり焦ってパニックになるネスの前方数メートルの位置に、雷撃が落ちた。トカゲモドキ達の足が止まったのを見て、ネスは背後を振り返る。

 この場であんな雷撃が打てるのは、ドミナード班長を置いて他にいない。果たして、振り返った先にいたのは、青い顔に苦痛の表情を滲ませてこちらに手を向けているドミナード班長だった。

「ネス!」

 ドミナード班長に名前を呼ばれただけで、ネスは弾かれたようにその場から駆け出した。班長達との距離は約二十メートル。班長がトカゲモドキの足止めをしてくれている間に何とかたどり着けるかもしれない。

 背後からはトカゲモドキの咆哮が響いてきた。すぐ背後から聞こえたような気がして、ネスは気が気ではない。

 だからだろうか、岩場を抜ける辺りでほんのわずか地面から突き出ていた小さな石に躓いて、派手に転倒してしまったのだ。

 胸元に抱えていた結晶を投げ出してしまい、しまったと思った時には遅かった。慌てて立ち上がろうとした時、腰の辺りで何やら音がする。

 何かと思って見てみると、ポケットからこぼれたネスの魔力結晶が岩場に落ちていた。それが何か焼けるような音を立てながら白い煙を上げて溶けているのだ。

「え……何これ?」

 結晶化した魔力が空気中に溶ける事はない。ましてや、今のように煙を上げて溶けるなど、あるはずがないのだ。

 魔力の結晶を使える形で吸収するには、ただ触れるだけではなく魔力を込める必要がある。自分の結晶に関しては魔力馴染みがいいので触れるだけで吸収してしまうが、他者の結晶だった場合は触れるだけでは吸収出来ないのだ。

 思わず怖くなって呟いてしまったが、すぐにレガの方を見た。彼の位置からもこちらの様子が見えるようで、眼鏡の奥の目を見開いている。

「レ、レガさん! これ、どうなってるんですか!? 魔力結晶が!」

「ちょ……ちょっと待って。僕にも何が何だか……」

「考えるのは後だ! まだ持っているようならその場にばらまけ!!」

 狼狽えるレガの隣で、やはり青い顔をしたジュンゲル班長から怒鳴られた。いきなりの事で驚いたが、ネスは反射のようにポケットからありったけの結晶を出してその場にばらまく。殆どジュンゲル班長の声が怖くて動いたようなものだ。

 だが、その結果はネスを驚かせるものだった。背後に迫っていたトカゲモドキ達が苦しむようなうめき声を上げているのだ。半数近くはその場に倒れている。

「……何これ」

 再びそう呟いたネスだが、何となく先程ばらまいた魔力結晶のせいだろうと思い当たっていた。彼女の位置からは見えなかったが、最初に結晶がこぼれた時にトカゲモドキの様子がおかしくなったのだろう。それをジュンゲル班長が見逃さなかったという事だ。

「今のうちだよ、ネス。戻っておいで」

 レガの言葉に、呆然と事の成り行きを見ていたネスは正気に戻った。

 ――ああ、そうだ……班長達のところに戻らないと……あ!

 正気に戻ってすぐ、胸元に抱えていたはずの袋がない事に気付く。どうやら、転倒した際に放り出してしまっていたらしい。ネスは見つけた袋を拾い、班長達のもとへと向かった。

 ふと、思い立って振り返ると、トカゲモドキ達は未だにその場に倒れ伏して苦しそうにもがいている。何がどう作用したのかしらないが、トカゲモドキはもうしばらくはこちらに攻撃をしかけてこないらしい。

 ――しばらくは、安全なのかな……

 そう思うと、ネスの足取りも軽くなるというものだ。ここにきて、ようやく転倒した際に膝や手のひらをすりむいていたと気付いた。今頃になってひりひりと痛むのを我慢しつつ、ネスはゆっくりとロンダへ向かう。

 あともう少しで辿り着く、そう思った彼女の目に、木々の向こうから班長達の背後に近づくトカゲモドキの姿が映る。その数四匹。背後で苦しんでいるものも含めれば、この場にトカゲモドキが十匹もいる事になる。

 あまりの事に、ネスはその場で立ち尽くしてしまった。知らずに、足が震える。

「どうし……後ろ!」

 最初に気付いたのは、テロス班長だった。ネスの様子がおかしい事から、周囲を見回した結果静かに近づいてきたトカゲモドキの姿を見つけたらしい。

 すぐにロンダを動かした班長達だったが、こちらが気付いたと知ったトカゲモドキはそれまでの動きとは比べものにならない早さ木々をなぎ倒して近寄ってきた。

 トカゲモドキの大きな口が開き、班長達をその牙にかけようとかみついてくる。班長達はばらばらに動く事で攻撃を回避したようだ。

 その中で、一台だけネスに向かってくるロンダがある。

「手を!」

 ドミナード班長の伸ばす手を、何も考えずに掴んだネスはそのままロンダまで引きずり上げられていた。そのままロンダで広場の中をトカゲモドキからの攻撃を躱して移動し続ける。

「だめだ! こちらからもやってくる!!」

「これは……どうやら閉じ込められたようだよ!」

 トカゲモドキの姿が見えない場所を選んで広場を抜けようと試みたジュンゲル班長とテロス班長は、次々と湧いてくるトカゲモドキの姿に広場から抜け出る事を断念したらしい。

 そんな中、レガは一人ネスの魔力結晶をあちこちにばらまいている。地に落ちた結晶は、先程同様白い煙を上げて溶けていった。その度に、広場に踏み込んだトカゲモドキが苦しんでいく。

「やっぱり……どうやら、トカゲモドキはこの地の湧出魔力を大量に吸収しているらしい。ネスの魔力はこことは異質だから、それが混ざった魔力を吸収して中毒状態になってるんだと思う」

 レガの仮説に、ネスはなるほどと思うのと同時に、自分の魔力が毒のように扱われているのが納得出来ない。複雑な心境だ。

 いや、現在唯一トカゲモドキに対して有効な手立てなのだから、ここは喜ぶべきなのだ。

 ――……あれ? でも、異質っていうのなら、他の人の魔力でもいいのでは?

 疑問に思ったネスは、早速レガに確かめてみた。

「レガさん! 私の魔力が異質っていうのなら、他の人の魔力でも同じ結果が出るんじゃないんですか!?」

 レガのロンダは、ジュンゲル班長と共にネスの乗るドミナード班長のロンダからは離れているので、声を張り上げなくてはならない。その甲斐あってか、レガはこちらの疑問に答えてくれた。

「多分無理! 僕らの魔力じゃ濃度が足りないと思うよ。ざっくりこの場の魔力の濃度を測ってみたんだけど、君の魔力とどっこいどっこいの濃さだったんだ!」

 レガのロンダに積んである機材では、この場所の魔力濃度まで測れるらしい。それにしても、またしても驚きの真実だ。まさかこの場の湧出魔力と自分の魔力の濃度が近いとは。

 ロンダをこちらに近づけて続けたレガの説明には、その濃度も関係があるとの事だ。

「仮説でしかないけど、僕らの魔力だと結晶化させたところで君の魔力程の影響は出せないと思う。残念ながら、ここで実験は出来ないけどね。という事で、はい」

「はい?」

 隣に併走するロンダに乗るレガから、大きな袋を手渡された。よく見ると、苦痛の為か彼の顔はびっしりと汗をかいている。だというのに、口を突いて出てきたのは、軽い言葉だった。

「これ、君の魔力結晶だから。景気よくばらまいて。自然結晶の方は僕が預かるよ」

 そう言って、呆然とするネスの手から自然結晶の入った袋を受け取ると、レガのロンダは再び離れていく。先程自分も大量にばらまいていたはずなのに、まだあるとは。一体どれだけの数の魔力結晶を持ってきていたのだろう。

 ――まあ、それだけの数の結晶を渡した覚えはあるけどさ。

 何せ、結晶を作るのに特別な手段はいらない。制服に取り付けたボタンのような機器が勝手に作ってくれるのだ。ネスはそれを機器から外して袋に詰め替えるだけで良かった。

 ともあれ、レガの仮説が正しいのなら、ネスの魔力結晶は班長達にとっての「多く濃すぎる魔力」と同様の作用がある。

 半信半疑ではあったが、先程の結果が今も広場のあちこちで倒れてのたうち回るトカゲモドキという形で現れているのだ。他に有効な手がない以上、これにかけるより他はない。

「操縦は任せろ。お前はその結晶をばらまく事に集中しておけ」

「はい!」

 今まで口を出さなかったドミナード班長からの言葉に、ネスは背筋を伸ばして答える。

 袋を足下に口を開けたまま置いて両足で支え、左手はロンダの手すりを掴み、右手は袋から結晶を出してばらまき始めた。

 効果は抜群で、後から広場に入ってきたトカゲモドキ達も苦しんで倒れるものが続出だ。本当に、レガの仮説が正しいのなら、このままネスの魔力を与え続けたら、最後はどうなるのだろうか。

 そんな事を思いつつも、ネスはせっせと結晶をばらまく。ドミナード班長は彼女が均等に広場にばらまけるように、考えてロンダを操縦しているようだ。なのでネスは何も考えずに足下にばらまいていくだけでいい。

 結晶をばらまき始めてどのくらい経った頃か、最終的に広場でもんどり打っているトカゲモドキは二十匹を軽く越える数になっていた。巨体の彼等が広場のあちらこちらで倒れているので、そろそろロンダで回るのも難しくなっている。

「……そろそろトカゲモドキが増える事はないみたいですね」

「そうだな……」

 背後から聞こえたドミナード班長の苦痛が滲んだ声に、ネスは驚いて後ろを振り返った。青を通り越して白い顔色の班長を見たネスは、悲鳴を上げるのを寸でで抑え込んだ。

 慌てて周囲を見れば、レガ達の顔色もかなり悪くなっている。やはり、この場に留まり続けた影響か。

「は、班長。早く基地に戻りましょう」

「ああ……」

 ジュンゲル班長やテロス班長も言葉には出さなかったが、ネスの提案に反対する姿勢は見られない。当然だ。レガに至っては既にロンダの手すりにぐったりともたれている程なのだ。ここに居続ける事になったら、全員の命が危ない。

 ――班長達は魔力中毒が心配だし、私の場合はトカゲモドキが復帰したら絶対にやばい。

 ロンダすら制御出来ないネスでは、広場で苦しんでいるトカゲモドキのうち一匹でも復帰されたら一発で死亡が確定するだろう。そうならない為にも、ぜひとも基地に帰り着きたい。

「ここからは、固まって移動するぞ」

「わかった」

「了解」

 ドミナード班長の指示に、ジュンゲル班長とテロス班長が同意する。レガは声が出せないようで、片手を軽く上げて同意を示した。

 先頭はジュンゲル班長が努め、続いてレガ、テロス班長、最後がドミナード班長とネスである。

 今の所、トカゲモドキに有効なのはネスの魔力結晶だけなので、万一広場のトカゲモドキが復帰したり、新たなトカゲモドキが追ってきた時の対策として最後尾に配置されたのだ。

 隊列を組み、レガの指示により基地にまっすぐに向かう経路を確認する。

「こっちの方角だな?」

 ジュンゲル班長の言葉に、レガは緩く頷く。方角を示すのも、重そうに腕を上げる事で済ませた程だ。この面子の中では、彼が一番重症なのかもしれない。

「よし。では、いくぞ」

 ジュンゲル班長の言葉に全員が頷き、隊列を組んだロンダは滑るように移動を開始した。

 先頭のジュンゲル班長がもう少しで広場を出るという時、一番最後尾のネスの耳にトカゲモドキの咆哮が響いた。

 まさか、という思いで振り返った先には、表皮をまだらに染めたトカゲモドキが一匹立ち上がっていた。

「そんな……どうして……」

 立ち上がったトカゲモドキは、まだ足下が覚束ないのかふらついてはいるが、それでもこちらに向かって一歩一歩踏みしめている。森の中を進んでいる間に、追いつかれてしまうのではないか。そんな恐ろしい予測がネスの頭を占めた。

「は、班長!」

「わかっている」

 振り仰いだドミナード班長も、背後のトカゲモドキの動向を確認すると、先頭のジュンゲル班長に指示を飛ばす。

「ヤアル! 先に行け!」

「な! 馬鹿を言え!」

 当然のように、ジュンゲル班長は反発したが、ドミナード班長はそれを軽く封じた。

「いいから、基地に戻って、本部に応援を要請しろ!」

 正直、今の手勢だけで魔の森をどうこうするのは無理だ。ドミナード班長はそう判断したからこそ、本部への救援を決めたのだろう。

 だが、それは同時に班の任務失敗を意味する。

 ――確かに他に手はないけど、でもいいのかな……

 とはいえ、ここで命を張ったところで意味がないのも事実だ。トカゲモドキに有効と思われたネスの魔力結晶も、相手は乗り越えてしまった。表皮がまだらに赤く染まっているのが気になるが、それでも立ち上がるトカゲモドキの数はどんどんと増えているのだ。

 ジュンゲル班長は、一度瞑目すると、意を決したようにテロス班長とレガに号令する。

「基地へ戻るぞ! そこから本部へ緊急連絡を入れる!」

 レガとテロス班長から否やの声はなかった。三台のロンダが広場を抜けていくのを見送るネスの耳に、ロンダを近づけたテロス班長が囁いた。

「僕が教えた事、覚えているよね?」

 彼の言葉に、ネスは目を見開いた。まさか、ここであの術式を使えという事だろうか。

 三人が広場を抜ける間、ドミナード班長はロンダを操って起き上がったトカゲモドキ達の気を引きつけている。本当なら、班長も早く基地に戻って治療をしなくてはならないというのに。

 自分がロンダを操縦出来ないからだという申し訳なさと共に、先程のテロス班長の言葉がネスの頭を駆け巡る。

 ぶっつけ本番で術式を起動させるなど、危険きわまりない。第一、あの術式はレガにもドミナード班長にも止められたではないか。

 ――でも、もう魔力結晶は効かない……

 本部から応援がくれば、トカゲモドキくらい簡単に駆除できるのかもしれない。だが、そのせいでドミナード班が消えてなくなってしまったら。

 ネスは無意識のうちに右手で制服の上から胸元にある制御装置を掴んだ。これを外せるのは、レガと他数人の局員だけだ。ネスが個人で外せないようにしたのは、万が一を防ぐ為だと聞いている。

 術式を覚えてはいても、これがある限りネスは魔力を使う事が出来ず、術式を展開させる事も出来ない。

 やはり、無理なのだろう。そう思った矢先、胸元で軽い音がした。それと同時に、自分の体が膨らむような錯覚に陥る。

「え?」

 目眩を起こしたネスを、ドミナード班長が無言で支えてくれた。いや、違う。彼も声を出せない程弱っているのだ。触れた事で、ドミナード班長の中で渦巻く巨大な魔力に気付いた。

 ――あれ? 私、そんな事出来たっけ?

 不思議に思うが、それでも感覚としてわかるのだ。ならば、とネスはドミナード班長の体内で渦巻く魔力に意識を向ける。接触している今なら、きっと出来る。

 あふれ出そうなそれを、軽く引っ張ってみた。引っ張り寄せられた魔力は、すぐにネスの体に吸収させる。もしかしたら、長いこと外部からの吸収も内部での生産もしていなかったから、体が魔力に飢えているのかもしれない。

 ――ははは、何か、私魔力を吸い取る化け物みたい。

 確か、子供向けの絵本にそんな力を持った化け物が出てくる話があったはずだ。

 体の変化に気付いたドミナード班長が不思議そうな顔をした後、ネスを見てきた。

「……お前か?」

 何が、とは言わなかったが、当然ネスにはわかっている。班長の体内から消えた余分な魔力の事だ。

「えーと……多分……?」

 曖昧な言い方をしたが、間違いなく自分がやった事である。とはいえ、どうやってやったのかと聞かれたら、何となくやったら出来たと答える他はない。そこら辺もあっての曖昧な返答だ。

「……制御装置はどうした?」

「それが……」

 多分、壊れたのではないかと伝えた時のドミナード班長の驚きは、これまで見た事がなかった程のものだった。

「先程の倒れかけた時か!? 大丈夫なのか? 体は? 何ともないのか?」

「大丈夫です。何故か……」

 班長クラスの人達ですら魔力中毒を引き起こす、濃くて大量の魔力の中にあって平然としていられる自身の異常さよ。目眩は起こしたが、あれは一挙に大量の魔力を吸収したかららしく、今は何ともない。ネスは乾いた笑いを漏らすしかなかった。

 二人がやり取りをしている間にも、まだらに染まったトカゲモドキが次々と起き出してきている。もう魔力結晶をばらまいても、効果はないだろう。

 ――こんなに早く耐性をつけるなんて……

 しかも耐性をつけた個体は今も増えている。一定時間で耐性を得るのか、倒れた順に起き上がっているようだ。

 このままここで逃げ回っても、応援が到着するまでもつかどうかわからない。どうせ賭けるなら、もう一つの方に賭けたい。

 ネスは覚悟を決めた。

「班長、私を下ろして森から出てください」

 ネスはあえて後ろを振り返らずに告げる。返答はすぐにきた。

「何を馬鹿な事を! お前一人でどうやってあのトカゲモドキから――」

「テロス班長の術式、使ってみます」

 ドミナード班長の言葉に被せるように、宣言する。万が一の可能性があるのは、テロス班長が開発したばかりの新型術式のみだ。そしてそれを発動させられるのは、ネスだけだという。

 枷でもあった魔力阻害装置は壊れてしまって役に立たない。ある意味、ネスにとって都合のいい展開だった。

 ドミナード班長はすぐに反対するかと思ったが、黙っている。ロンダを器用に操ってトカゲモドキを躱しつつも、何かを考え込んでいるようだ。

 おそらく、ネスの提案を受け入れるか否か。ネスの読みでは、八割の確立で受け入れる側だ。

 ドミナード班長も、このままトカゲモドキを放置しておく事は出来ないとわかっているし、今いる人員だけでトカゲモドキを駆逐出来ない事もわかっている。

 不完全で危険な賭けでも、ネスの提案以外に手の打ちようがないのだ。

 ――最悪、私の魔力が暴走すれば、ここにいるトカゲモドキは排除出来る……はず。

 その場合、高確率で森の保証が出来ないのだが。暴走範囲が広がってしまったら、森が半壊するかもしれないのだ。

 さすがに基地まで被害が及ぶとは思いたくない。この広場は森のほぼ中央に位置しているのだし、森の縁から基地までは十分な距離を取ってある。もしもの場合は、機材等はまだしも人だけ逃げてもらえばいいのだ。

 ネスはすっかり覚悟を決めていた。ドミナード班長からの返答待ちだった彼女が、もう一度判断を促そうと振り返ろうとしたまさにその時、班長からの判断が下りた。

「申し出の半分は却下だ」

「え?」

 まさかの却下だ。では、この場で応援が来るまで延々とトカゲモドキから逃げ続けるのだろうか。

 不安になって振り仰いだネスに、班長は厳しい表情のまま続けた。

「お前をここに一人で置いていく訳にはいかない。だが、新術式は使ってくれ。おそらく、それが最善の方法だ」

 ドミナード班長の言葉に、ネスは驚きで口を開けっ放しにする羽目になった。

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